その六十二 回復手段
二人が戦線から離脱したことでガイスは舌打ちをする。
どうやら逃げ出したことを悔しく思っているようだ。
「残念ですけど、これ以上僕達の仲間を傷つけることはさせませんよ」
「動けなかった分はしっかりと働くつもりです。これ以上は好き勝手にはさせません」
「このまま‥‥‥倒す‥‥‥」
「最大限まで弱体化したって話だったよね。ならこっちから一方的に攻められるかもしれない」
ガイスはそれらの言葉に応えることはなく静観する。
現状のガイスは大幅に戦力が削られた状態です。
強力な魔法を扱う事も出来ず、魔力も即時回復は不可能で基礎魔法はほとんどが劣化版、カウンターも封じられ威力を増すことも跳ね返すことも不可能。
この状態なら確かに一方的にこっちが攻撃をし続ける事も可能です。
でもそれは相手が奥の手を持っていない場合。
ガイスはオリジナル魔法を複数所持している事は事実、まだ誰にも言っていない切り札がある可能性もある。
これほど戦力を削っているのにまだ油断ならない何て本当に恐ろしい人ですね。
「あいつ、ずっと固まったまま動かないな」
「何だかねえ。こっちの出方を伺っているって感じではなさそうだね」
「ビビッて尻込みしてんじゃないの。下手に動いてもぼこされるだけだし、まっ動かなくてもぼこすけど」
「でも本当にそうなのかな」
ガイスが動き出さないのを不思議に思っている時、ニヤリと笑みを浮かべる。
「急速魔力補充」
何かを呟くとガイスの足元に魔法陣が展開された。
あれは見たことがない魔法陣!
「魔剣雷式!雷光迅速!」
雷鳴と共に魔剣を手にしたナズミさんがガイスの元へとまっすぐ突っ込んでいく。
ガイスは微動だにせずにそれを受け入れるような姿勢で居た。
そしてその剣が振り下ろす直前、ガイスが体を傾ける。
「え?」
「悪いが、お前の太刀筋は単純だな」
するとガイスはその足をナズミさんに向けようとする。
「ナズミさん!」
「鏡の中の転移口!」
「アグレッシブフルフルート‥‥‥」
瞬間的に鏡がガイスの近くに展開されると、そこから風の刃が飛んでくる。
そのおかげでガイスの足がそれに直撃し、何とかナズミさんは一撃を免れることが出来た。
「ナズミさん大丈夫ですか!」
「は、はい、イナミさんとツキノさんが助けてくれたので」
「ぼーっとしないでナズミ!死にたいの!!」
そう言いながらピンカはガイスに攻撃を試みる。
ガイスは避けることなく、その一撃をその身に受ける。
続けて他の皆も攻撃を続けるが、ガイスは拳でその魔法を防いだり体を捻って避けたりしているがその場から動こうとしない。
「私は、戦わないと」
「ナズミさん、どうやら今のガイスは回避に全集中している様です。おそらく今のナズミさんの一撃も回避する可能性が高いです。近接攻撃は今の状況ではあまり有効打にはならないと思います」
「私は、戦力外ってことなの?」
「違います。今は力を温存しておいてください。ナズミさんの力は必ず役に立つ時が来ますから。皆さんのサポートをよろしくお願いします」
「‥‥‥うん」
そう言うがナズミさんの表情はまだ完全には納得できていないようだ。
「ナズミ、まだ戦いは終わっていないよ。そんな暗い顔をしてないで、前を向きな。僕達のすべきことをしよう」
「分かりました、私は私の出来ることをします」
ナズミさんは立ち直ったのか剣を握りしめてすぐにその場を離れた。
「マイトさん、ガイスの事どう思いますか?あの魔法陣、カウンター系の魔法には見えません。それでもガイスはその場から動こうとはしません」
「何かを仕掛けているのは確かだよね。それが何かまでは分からないけど、主力の魔法を失った今のガイスが使うオリジナル魔法は嫌な予感はするね」
マイトさんはそう言うと僕の近くに立ち、いつでも退避できるように準備をする。
「おらおら!どうだ、参ったか!」
「てっ何であいつ動かないの。これだけ魔法を当ててるのに」
「よく分からないけど、何かすごく嫌な予感がする」
「ぬるいな。お前らの魔法などいくら喰らった所で効きはしない。所詮は近代の魔法使い、長年魔法を極めて来た俺には勝てないんだよ」
その時、ガイスの足元の魔法陣が消え去った。
「結局お前らは俺をこの魔法陣から引き離すことは出来なかったな。やはり、口だけで実力の伴わない奴らだ」
「だが結局それが一体何の意味になるんだ」
「ハイトの言う通りだぜ。やせ我慢してただけじゃねえのか。まだ戦いは終わってねえぞ」
「終わったよ。俺にこの魔法陣に留まらせた時点で敗北は決まったんだよ」
そう言うとガイスはニヤリと笑みを浮かべる。
それに対して全身に悪寒が走った。
何かとてつもなく嫌な予感がする。
皆もそれを一斉に感じ取ったのか、すぐさま行動に移る。
「ガイスに魔法を撃たせるな!!」
誰かがそんな言葉を叫んだような気がする。
その瞬間、一斉に皆が魔法を発動した時ガイスは悠然とその手を上げる。
「リドル!!」
マイトさんは突如僕の体を突き飛ばした。
その時、地面に巨大な魔法陣が展開される。
この感じ、どこかで見たことがある。
「真王の領域」
何故突き飛ばされたのか状況が理解できずに咄嗟に立ち上がった時、奇妙な光景がそこにはあった。
「マイトさん?」
僕を突き飛ばしたマイトさんの姿がその場で硬直してしまっている。
それは魔法陣の中に入っている皆がそうだった。
「皆さんどうして」
「あの二人を戦場から離脱させたのは間違いだったな」
そう言いながらガイスは悠然とその魔法陣の中へと入って行く。
「待て、ガイス!」
魔法陣の中に入って行くガイスを追いかけようとするが、魔法陣がそこにあるのを気付き思わず足を止めてしまう。
皆の足元にあるこの魔法陣、僕だけが動けているのはそれに触れていないから?
ならマイトさんが助けてくれたこの状況を失うわけにはいかない。
でも今の僕の状態じゃロクな魔法も打てない、それどころかオリジナル魔法も解除されてしまうかもしれません。
「本当は源魔弾でもよかったんだがな。でもお前らならあのゴーレムを盾に防ぐことも出来るだろう。それにこの状況で全ての魔力を消費するのもかなりのリスクがある」
「あなたはどうして、これほどの魔法を放てたんですが。基礎魔法の過剰魔力消費で魔力なんてそこまで残ってないはずですよね」
「言ったはずだ。俺をあの魔法陣から引き剥がさなかった時点で負けは確定してるってな」
てことはあの魔法陣は一時的な魔力を上昇させる事が出来ると考えてよさそうですね。
永久魔力機関を防げば即時回復は無理だろうと踏んでいたんですが、魔力の確保手段がどれだけあるんですか。
でもそれは逆にガイスの放つ魔法がどれも燃費が悪いと言う事、くっそれならそのカウンターではなくその魔法陣を防ぐべきだった?
いや、あれを防がなかったら今頃クリシナさんが殺されていたでしょう。
それじゃあ、この状況はどうやっても防げなかった。
「さあ、次世代の魔法使い。ここからは慎重に言葉を選べよ」
そう言いながらガイスはゆっくりと歩いて行くと、サラさんの元へと立ち止まる。
「絶対かつの居場所を教えろ。さもなければこいつを殺す」
「っ!?」
かつさんの、居場所‥‥‥!
作戦がバレているってわけじゃないでしょう。
最初にかつさんの存在を匂わせたからこそ出て来た質問だ。
それはつまり、かつさんの存在がガイスにとって厄介な物だと言っている様な物。
それならなおさらバレるわけにはいかない。
わざわざ源魔弾で僕らを皆殺しにしなかった理由はゴーレムによって防がれることを危惧したからではなく、魔力を失う事でかつさんとの戦闘を恐れていたから。
「それは、簡単には教えられませんね」
「そうか」
それだけ言うとガイスはサラさんの首を絞め始める。
「っ!やめてください!」
「なら早く質問に答えろ。言ったはずだぞ、言わなければ殺すと」
首を絞められているのにサラさんは声も上げない。
動けないと言うよりもその人物の時間が止まってしまったかのようだ。
皆が自力で脱出する可能性もは諦めた方がよさそうですね。
ここで動きを止めていないメンバーで戦力になりそうなのはミレイさん位でしょう。
ですがミレイさんは作戦の関係上姿を見せるわけにはいかない。
それにあのガイスのオリジナル魔法で魔法の解析も出来る様ですし、バレたら真っ先に殺されてしまう。
「おい、いつまで黙ってる。無駄に考えようとするな。知ってる事を話せばいいだけだ」
素直に教えられる状況ならとっくに教えてやりますよ。
残り時間じゃやり過ごすのは無理だ、このままいうべきなのでしょうか。
それでもかつさんという抑止力が無くなれば遠慮なく最大魔力で僕達を皆殺しにするだろう。
それに位置がバレて遠巻きから島を吹き飛ばされてしまったらかつさんと言えど死んでしまう。
やはり言う訳にはいかないけど、僕自身この状況をどうこうする力もない。
「分かりました。魔法を解除します。それで命を助けてはいただけませんか」
「必要ない。さっき言った質問に答えろ。次はないぞ」
でしょうね、この状況でわざわざ魔力の回復手段が戻った所で力で全員を殺すことは可能でしょうし。
わざわざこの魔法を最初に使わなかったのはブライドさんとクリシナさんが戦線を離脱するのを狙っていたからでしょうね。
あの二人ならオリジナル魔法が発動するよりも早く魔法を撃てたでしょうし。
「はあ、何を考えてるか知らないがいつまで渋っている。今から数字を数える。ゼロになる前に答えろ」
そう言うとガイスはサラさんの首を強く締め始める。
「っサラさん!」
「五、四、三‥‥‥」
「くっかつさんの居場所は‥‥‥」
言う、言わなければいけないのか。
作戦を取るか、仲間の命を取るか。
どうする、かつさんならどうする!?
「二、一、ゼロ‥‥‥残念だな。それじゃあ、先ずは一人目だ」
「やめろ——————」
「ウォーターガッチメント‥‥‥ロックアイス‥‥‥」
「っ!?」
その瞬間、ガイスの体が水に閉じ込めっれると同時に凍り付いた。
「ロックスピア‥‥‥」
そして上空に魔法陣が展開されると、鋭い岩の槍が下に展開されている巨大な魔法陣に向かって突き刺さる。
すると巨大な魔法陣はそのまま砕け散った。
「がほっおえっ!」
「サラさん!大丈夫ですか」
「あれあれ?私達どうしてここでボーっとしてるの?」
どうやら魔法陣が破壊されたことで皆さんが動けるようになったようですね。
それにしても今の魔法は。
「よかった‥‥‥何とかなって‥‥‥」
「ツキノさん、やっぱりあなただったんですね」
「ど、どういうことだい、うえっ何だかあたいの首が妙に痛むんだけど。それにすごい吐き気と息苦しさが一瞬で来たし」
「ガイスがオリジナル魔法を使って皆さんの動きを止めました。その時にサラさんは首を絞められたんです」
「どうりで何か頭の中で時間が飛んだような感覚に陥るわけだぜ。だがこうして動けるようになったってことはそれも攻略したってわけだろ」
「なるほど」
するとガイスを閉じ込めた氷が一瞬にしてはじけ飛んだ。
「複製の魔法使いか、コピーとして現れた魔法使いと本物には流れる魔力に差があるから油断していたが、自身をコピーする場合は差は生まれないのか。となると動きを封じられた方が偽物という事だな」
「そう‥‥‥でも今更関係ない‥‥‥」
「さすがです、ツキノさん。まさかこれを予想していたんですか?」
「夢幻が‥‥‥攻略された時‥‥‥思いついた‥‥‥」
「とにかくこれで本当に終わりね。最後の切り札すら失ったんだから」
「失った?それはどちらかというとお前らの方じゃないか」
何だ、この感じまた何かをしようとしている。
この状況でこの余裕、いつものガイスと言えばそうだけど今回は何かが違う気がしますね。
「つまり、こう言う事だ」
そう言った瞬間、ゴーレムに向かって魔法陣が展開された。
待ってください、あの魔法陣は。
「カウントレスサンダー」
強力な雷がピンカさんのゴーレムに向かって放たれる。
そしてその一撃は頑丈なピンカさんのゴーレムを粉々にして見せた。
「な!?私のゴーレムが」
「いや、それよりもどうしてガイスがあの強力な魔法を使えてる!リドル、あいつの魔力は回復できないはずだろ」
「その通りなんですが」
オリジナル魔法を使ったばかりですぐに回復できるはずがない。
あの魔力の回復を速めるオリジナル魔法を使ったのなら、話は別ですがあの後魔法を使用した形跡も見られない。
「単純な話だ。お前らが動きを封じられていた時、その範囲に入っている奴らの魔力を奪う事が出来る」
「っ!?本当だ、魔法が使えない」
やられた!
そんな強力な副次効果があったんて!
というかどんだけ魔力を確保する魔法があるんですか。
「さあ、そろそろこの戦いも終わらせるとしようか。処刑の時間だ」
 




