その六十 執着
「みなさん‥‥‥」
「おい、おまえら大丈夫か!」
「今のは狙ったわね」
見ると先程の位置から少し移動している。
マイトさんのコピーが僕を守ってくれたようですね。
そうなると今の一瞬で正確に魔法を当てた?
でもあの状態ではそんな物は不可能です。
当てることも偽物かどうか判別するかどうかもだって。
「困惑しているな。当たるはずのない魔法が当たったのだから。簡単に説明しよう、俺のこの目は魔力を識別する事が出来る」
「し、きべつ‥‥‥!」
体が痺れてしまっているのかナズミさんは喋りにくそうに、声を震わす。
「その通り、魔力解析それが複数あるオリジナル魔法の内の一つだ。俺はこの魔法を最初から発動していた。時間をかければかける程対象の魔力を分析する。そしてそれが終わると相手の魔力の量、魔力レベル、その魔力の特色をこの目で確認する事が出来る。さすがにこの人数の解析は少々時間がかかったが上手く時間稼ぎが出来て良かった」
「魔力の分析、まさかそれで誰が本体かを正確に知る事が出来たんですか」
「ああ、これでもう小細工は必要はないな」
そう言ってガイスは倒れている皆さんを一瞥する。
「残りは三人か」
くそ、ようやくガイスの魔法のからくりが分かったのに。
ツキノさんが動けるのなら僕のコピーを作ってもらえたけど今は無理そうだ。
とにかくこの状況を乗り越えないと。
「リドル、時間は稼ぐ。その間、お前はガイスから目を離すなよ」
「分かってます。それをしてしまえばすべてが終わりますから」
とりあえず皆さんが起き上がるまでは何とか持ちこたえないと。
「そろそろ子守も疲れただろう」
「未来を育てるのが私達の役目だからね」
「そっちも余裕ぶってはいられねえんじゃねえのか。魔力の即時回復を封じられた上にそのオリジナル魔法も使ってた。基礎魔法の魔力が低いとは言え、魔力の量はそこまで多くないはずだ。いくら魔力レベルが高ろうが」
その時ニヤリと笑みを浮かべて魔法陣を展開させる。
「何発も当たれば話は違って来るんじゃねえのか」
「行くわよ、ブライド」
その瞬間、二人は強力な魔法陣を発動させる。
ガイスはそれらに対して基礎魔法で対抗しようとするがそれは飲み込まれそのまま直撃する。
その一撃により体が吹き飛んで行く。
「マイトさん、追いますよ」
僕はコピーのマイトさんにそう伝えると風の魔法でそこに追いついて行く。
「ディザスタ―コールド!」
「ディザスタ―ロックバン!」
猛烈な吹雪と巨大な熱を込めた岩がガイスの元に迫る。
「ワープ」
巨大な魔法陣がその魔法の後ろに出現する。
魔法でそれを回避したか。
「逃がさねえよ!百発百中!」
だがその魔法は急旋回するとガイスの元へと向かって行く。
そして直撃すると思った時、そのまま魔法は横を通り過ぎていく。
「ちっやっぱりそろそろ限界か」
「ほうっどうやら万能な魔法じゃなさそうだな。おそらく同一対象に対して複数の魔法を使うと当たる確率が減少していくようだな」
ガイスはまるで知っているかのように語る。
ブライドさんのオリジナル魔法の効果については語られていないはずだ。
「どうやらその目は想像以上に厄介みたいだな」
「なっその目で知ったと言う事ですか」
「いけない目ね。他人のプライバシーまで覗いて来るなんて」
「王に対して隠し事は不可能という事だ。そしてお前らの現存している魔力量を見れば終焉も近いな」
すると別の場所に巨大な魔法陣が展開される。
あれは皆さんに向けて!
「皆!」
「エイムサンダー」
すると複数に分かれた雷が皆さんの方へと降り注ぐ。
皆さんはまだ体が動けるような状態ではない、あのままではまた喰らってしまう。
「くっ永久の——————」
「ワープ」
もう一度ワープ!?
しかもあの行き先は。
「クリシナさん逃げて!」
「えっ!!?」
「ディザスタ―サンダーショック!」
ガイスがクリシナさんの元に現れた瞬間、ブライドさんが魔法を放った。
だがそこには直撃したことでその場に立ち尽くしているガイスの姿しか見えなかった。
クリシナさんは何処に行ったんだ。
視線を彷徨わせると少し先に崩れた建物のすぐ横で倒れているクリシナさんの姿があった。
「くりし——————」
「クリシナ!!」
ブライドさんは慌てた様子で倒れているクリシナさんの元へと駆け寄る。
今の一瞬、マイトさんと似たような事をされた気がする。
「クリシナ、大丈夫か!」
「大丈夫よ、大袈裟ねブライド。ちょっと突き飛ばされただけうぐっ!」
その時、クリシナさんの右腕は紫色に膨れ上がっていた。
「殴られたんだな、折れてるな。お前はもう戦線を離脱しろ。メメの所に行って回復に専念しろ」
「何言ってるの。私達がここを逃げ出すわけにはいかないでしょ」
「クリシナお前」
「見上げた根性だ。片腕を犠牲にあいつらを守ったか」
そう言うガイスの視線の先には数個の宝石が転がっている。
あれは先程の雷の魔法を封じた宝石、どうやらクリシナさんは魔法を発動していたようだ。
「なら今度は何を犠牲に守るんだ?」
その瞬間、十個の魔法陣が同時に展開される。
そのどれもが巨大で周りを取り囲んでいた。
「くっ!」
「ちっ!ゲス野郎め!」
「守りたいんだろ。なら守ってみろ」
そう言うとガイスは一斉に魔法を放つ。
様々な魔法が交差する中そのどれもが周りの建物を破壊しさらに倒れている皆の元に向かって行く。
そして一部の魔法もこちらに向かって来ていた。
「リドル!」
「こっちは大丈夫です!マイトさんと共に逃げます」
マイトさんのコピーが居るから何とか避けられる。
それにこの魔法、多分普通に放っている。
だから威力自体は大したことはない、それでも周りを無差別に破壊しているからそれにより地面の凸凹と建物崩落の方がきついですね。
「っまずい!皆さんの方に瓦礫が!」
建物が崩れたことでその一部が倒れている仲間たちに降り注ぐ。
「逃げてください!!」
「にげってえけど」
「体が、まだ動けないんだよ」
「当然だ。本来ならショック死する所を魔力抵抗と基礎魔法の威力の低さでギリギリ生きながらえてるんだ。だが息絶えるのも時間の問題だな」
ガイスは上空をちらりと見ると落ちてくる瓦礫がそこにはあった。
「ディザスタ―‥‥‥」
「カウンター」
だがブライドが魔法を放とうとした先にカウンターが展開される。
「邪魔するな!」
「邪魔するだろう」
「魔法陣が一つだけしか展開できると思ってねえだろうな!」
その時、ブライドさんは一気に五つの魔法陣を展開させて落ちてくる瓦礫を対処する。
そして向かってくる魔法に対してもそれをぶつけた。
「余り飛ばし過ぎない方がいいんじゃないのか。魔力の消費が激しそうだぞ」
「心配いらない。お前のカスみたいな魔法じゃロクな魔力を消費しないからな」
「やせ我慢は意味ないぞ。俺の目にはすべて見えているからな」
魔法が入り乱れているからあまり近くには行けない。
でもこの距離感は常に保っておかないと、くそツキノさんが起きてくれればすぐにでもガイスにオリジナル魔法を使うのに。
「瓦礫の対処も結構だがお仲間の方も気を配った方がいいぞ」
すると倒れている皆さんに向かって魔法が放たれる。
「永久の白宝!」
クリシナさんはオリジナル魔法を使って向かってくる魔法を宝石に変えていく。
そして落ちている宝石を手に入れてブライドさんの方へと投げ飛ばす。
「使って!」
「サンキュー!」
ブライドさんはそれを手に入れるとガイスの方へと投げ飛ばす。
三つほどの宝石がガイスの方へとまっすぐ飛んで行く。
「解放!」
その瞬間、内包されていた魔法が一気に解き放たれる。
雷の魔法と炎の魔法が混ざり合い超爆発が起きる。
ガイス自身が放った魔法だ、さらに三つの魔法が組み合わさった事で威力は増している。
直撃しているならダメージは相当なはずだ。
その時、煙がかすかに揺れた気がした。
「クリシナさん!そっちに行きました!」
僕もそれと同時に移動を開始する。
その時、僕の足元に巨大な魔法陣が展開される。
「ウォーターガッチメント」
水の拘束魔法、僕を引きはがそうとするつもりか。
その時マイトさんのコピーが僕を掴んですぐにその場を離れる。
だがその先に突然五つの巨大な魔法陣が展開された。
誘われた!
「くっリドル!」
「瓦礫はまだまだ飛んでくるぞ!余所見をして良いのか」
「リドルは私に任せて!永久の白宝!」
魔法が放たれる時、クリシナさんがそれらの魔法を一気に閉じ込めてくれた。
「はあ、はあ‥‥‥」
「クリシナ、飛ばし過ぎた!少し落ち着け!」
「そう言う場合ではないだろう」
その時、いつの間にかクリシナさんの真横にガイスが現れる。
しまった、ワープしていたのか。
こっちの方に意識を向けていて、魔法陣に気が付かなかった。
「次は左腕を貰うぞ」
「くっ解放!」
咄嗟に宝石を投げ飛ばすとそこから雷の魔法が解放される。
それは見事にガイスに直撃した。
だが僕はガイスの方へと向かう時に、目撃してしまう。
クリシナさんを狙った拳程大きさの岩が。
「ロックガン」
その瞬間、巨大な魔法陣から放たれたその岩は折れているクリシナさんの腕に直撃した。
「ぐっあああああああああああ!!」
クリシナさんはあまりの痛さに悶絶し片腕を抑えながらうずくまる。
「クリシナさん!!」
「クリシナ!くそっ!!」
「すまなかった、間違えて右腕を攻撃してしまったか。だが安心しろ、今度こそ左腕を狙ってやる」
「ぐっうあああ!」
クリシナさんは顔を上げると魔法陣を展開しようとして空中に微かに魔法陣が出現するが、それはすぐに搔き消えてしまった。
「魔法は集中力が居るだろう。高レベルの魔法、特にオリジナル魔法何かはな」
「クリシナから離れろ!」
ブライドさんは遠くから魔法を放とうとする。
だがその前にブライドさんの行く手を阻むようにして複数の魔法陣が展開される。
「ウォーターガッチメント、アイスドーム、ウィンドウォール」
ブライドさんは水の檻に閉じ込められた後、氷で覆われその周りを風が取り囲む。
完全に動きを封じられた。
だけどブライドさんレベルの魔法使いなら数秒程度の足止めにしかならないはずです。
それでもクリシナさんを殺すには十分な時間。
そしてガイスは視線を地面に倒れているクリシナさんの方へと戻す。
「さてと、そろそろ終わらせるか」
その瞬間、巨大な魔法陣が展開される。
「クリシナさん!!」
「駄目よ、リドル!!」
僕がクリシナさんの元へと向かおうとした瞬間、クリシナさんが声を荒げて制止させる。
どうして、クリシナさん。
するとクリシナさんは優しい目つきで笑みを浮かべる。
「リドルはリドルのすべきことに集中しなさい。私は私達のすべきことをするから」
「それは、一体――――――っ!」
その時、閉じ込められたブライドさんの方から物凄い轟音が聞こえて来る。
どうやら中で脱出を試みている様ですね。
ですが、このままでは間に合いません。
「最後に言い残したい言葉はあるか」
魔法陣が輝きだす、それは目の前に居る者の命を終わらせる光。
そんな光に照らされながら、クリシナさんは自信満々にガイスを見ながら答える。
「私達は負けない。だって宝石のような輝きを放ち皆が居るんだもの、ねっそうでしょ」
そしてほんの一瞬クリシナさんはこちらをちらりと見た。
「ウォーターガン」
「クリシナさん——————!」
その瞬間、鋭い水の貫通弾がクリシナさんの頭に直撃し大きくのけ反った。




