その五十四 デュラから託された者
ガイスとの決戦最後の会議――――――
「以上が作戦の第一段階だ」
ブライドが作戦の流れを話し終えると、俺達は気難しい顔をする。
ブライドが言っていた内容はこうだ、最初にガイスと対峙しても大丈夫なメンバーブライドとクリシナとデュラはもちろんの事、魔力レベルを低下させる事が出来るガルア。
そして俺が居ると言う事実を誤認させるために、ツキノが呼び出した分身を向かわせる。
それがブライドが初めの段階で行う計画のようだ。
だけどそれは、ブライドたちが最も危険な任務を引き受けると言う事だ。
「それで何か質問はあるか。今の内だぞ。もやもやした状態で本番に行って動きが鈍ったらいけないからな」
「ありまくりだ!俺が戦えないじゃねえか!約束と違うぞ。いたっ!」
猛抗議するガイに対してサラが頭をひっぱたいた。
「このあんぽんたんが、話を聞いてなかったのかい」
「え?何がだよ」
「ちょっとこいつに説明してたら日が暮れるわよ。分かんない奴は置いて行って、さっさと先を進めましょう」
「まあまあ、ピンカも落ち着いて。ここまでブライドも一気に計画を話したから、整理するのもありなんじゃないかな。その第一段階って言うのが、ガイスの魔力を減少させて魔法の威力を落とす意味があるんだよね」
マイトの説明にガイは首をかしげる。
「おいおい、ガイスは無限に魔力を回復できるんだろ。お前らが戦って魔法を使わせたとしても、どうせ振出しに戻っちまうじゃねえか。それなら俺も一緒に戦ってガイスをぶっ飛ばせば」
「だぁかぁらぁ~その前にこいつが魔法でそのオリジナル魔法を封じ込めるんでしょ。ブライドが何回もそう言ってたじゃない」
そう言うとピンカはリドルの方を指差した。
リドルはピンカに指を刺されたことで満面の笑みで答える。
「はい、僕のオリジナル魔法でガイスの魔法を封じ込めて見せます。だからそれが終わればガイさんも戦う事が出来ます」
「何だよ、そう言う事かよ。なら早くそう言えよな。それなら文句はないぜ」
ガイは満足したのか、腕を組んでそのまま椅子に座る。
「さっきからそう言ってんでしょうが」
「あはは‥‥‥でも私もおさらいはありがたかったです。正直緊張で上手く頭が回らなくて」
「大丈夫だ。必ず俺達がお前らに繋ぐ、どんな手段を持ち得ようとな」
どんな手段を持ち得ようとはか。
「ブライドたちの実力は信用してるよ。俺は島に居ないから偉くは言えないけどさ、それでも気を付けてくれよ。相手はオリジナル魔法を多く持ってるんだろ?知らない強力なオリジナル魔法も来るかもしれない。だから」
「そう心配するな。俺達四人が居れば最強だ。誰一人欠けることはねえよ」
そうブライドは力強く答えた。
「そこまで言うなら、信じるよ」
「とにかく第一段階の総決算として最後を飾るのはリドルだ。お前の成功で、次の段階に進めるが。失敗なら俺達の今までの努力が無駄になる。長引けば長引くほど命の危機にさらされる。だが失敗したとしても、お前らは戦いに参加するなよ、足手まといだから」
ブライドははっきりとした声色で俺達を見渡す。
そんなこと言えば噛みついてくる奴がいるだろ。
「おい、それはどういう意味だブライド!」
「私達の事を舐めてるわけ!まだ実力を理解出来てないのなら、身をもって教えてもいいわよ!」
「そうじゃそうじゃ!妾の仲間達を馬鹿にするな!」
「デビさんもその中に入らないでください」
「まあ落ち着け。お前らの実力は認めてる。この短期間での成長は目を見張るものがある。だがまだガイスと戦うには早い」
「でもでも、そんなに沢山戦ってたら疲れちゃうんじゃない?だったらちょっとお手伝いする位は良いと思うけど」
「駄目だ。お前らには万全の状態で第二段階に進んでもらう。なんせ第二段階の主役は次世代の半獣であるお前らなんだからな」
その言葉を言われて皆は身を引き締める。
次世代の半獣、これからの島の運命を決めるその重大な決断は俺達の手に握られている。
「その前にリドルには頑張ってもらわないとねえ」
「はい、頑張ります」
「ちなみに成功率はどれくらいなんだ?ずっとデュラの所で特訓してるんだろ?」
「そうですね。ですがまだ成功はして居なくて、作戦が終わった後に最後の調整をするつもりです。それまでには必ず成功して見せます」
「練習何て所詮は安心させるための要素でしかない。いくら練習で成功しても、本番で成功しなきゃ意味がない」
「はい、もちろんです」
「だが練習が悪いわけでもない。確実に行けると言う所まで頑張れよ。本番に支障が出ない程度にはしとけよ」
それだけ言うと、ブライドは再び皆を見渡す。
「それじゃあ次は第二段階の話をしようか」
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デュラが自らの体を犠牲にしてガイスのオリジナル魔法を防いだころ。
「デュラさん‥‥‥」
やはりこうなってしまいましたか。
ガイスとの戦いに置いて誰も死なないのは希望的観測、ガイス程の実力差を前にして何も犠牲も無しに勝利できるとは思っていない。
そう覚悟はしていたつもりでしたが、現実を目の前にすると背けたくなりますね。
「ですがこのチャンスを逃すわけにはいきません」
ガイスは今、自然に回復する魔力を覗けば持っていた魔力がほとんどない状態。
そしてすぐさまあのオリジナル魔法を使うでしょう。
永久魔力機関、あれを使えばデュラさんの犠牲が無駄になる。
デュラさんが作ってくれたチャンスをものに出来るかどうか、僕にかかってる。
「はあ、落ち着いて」
震える手を抑えて呼吸をする。
物陰からじっとガイスの動きを観察していた。
他の人も同様にすぐに飛び出せる位置で見守っていた。
デュラさんが命を懸けると決めた時もただじっと我慢をしていた。
だからこそ失敗は許されない、もう一度ブライドさんとクリシナさんが戦わなければいけなくなってしまう。
だけど、結局あの後練習はしたものの完全に成功させる事は出来なかった。
ほとんどぶっつけ本番、だけどそれを言い訳にするわけにはいかない。
「何が何でも成功して見せる」
ガイスの話し声からしてそろそろオリジナル魔法を発動しようとしている。
絶対に成功させる、絶対に絶対に絶対に!
集中しろ、ガイスの動き一つ一つの動きを見逃すな。
魔力の微かな揺らめき、特定の魔法を使う時のあの一瞬を。
絶対に外せないんだ、外したらすべてが終わるんだ。
僕のせいですべてが終わってしまうんだ、絶対に失敗するわけにはいかない!
「っ!?」
その時、頭に何かがぶつかった。
攻撃された!?
すぐに後ろを振り返ると敵はおらず少し離れた所に、同じくを隠しているメイがいた。
よく見の周りを見て見ると小石が落ちていた。
もしかしてこれを僕に当てた?
どういうことなのか理解出来てないでいると、メイさんはこちらに手招きをしてくる。
僕がそれに気が付くと、人差し指を突き立てた後僕の方に指をさす。
それから指をバッテンさせると、今度はメイさん自身に指を突き立ててピースをすると小指通しを絡める。
それから満面の笑みをこちらに見せて来た。
えーっとどういう事何でしょうか?
全く意味が理解出来ないんですが。
メイさんの指の動きの意味を考えていると、近くに居たぺプロさんが気付いてメイさんが怒られている。
するとメイさんは申し訳なさそうに笑うと、今度はこっちを見て口を動かす。
その内容を僕は読み取る。
『気楽に行こう、みんないるから』
メイさんは僕にそう伝えてくれた。
気楽に行こうか、確かに今の僕は肩に力が入っていたのかもしれません。
そう言えばあの時も言われましたね。
デュラさんとの練習で僕が最後の練習を終えても、成功できなかった時。
『すみません、期待に応えることが出来ませんでした。僕には才能がないのでしょうか』
『才能があるとかないとかは関係ない。出来るかどうかが重要だ』
『ですが練習の時に出来ずに本番でも出来るのでしょうか。ブライドさんはああは言っていましたが。僕は努力と実力は比例すると思っています』
『確かに努力は報われるべきだ。だが大切なのはそれだけじゃないだろ?』
『そうですけど、でも僕がやらなければみんな死んでしまうんです。だから』
『才能がないのなら、お前に後何がある?持っていない物ばかりを気にしても意味はないだろ。それに会議の時に言っていたブライドの言葉は気にするな。そんなに背負う必要はない』
『え?』
『才能に頼るのではなく、もっと身の回りの者を頼ってみろ。お前には心内を明かせる人物がいるだろ』
デュラさんはそう言うと優しく僕に笑いかけてくれた。
僕は気負い過ぎていたのかもしれない。
僕がやらなければみんなが死んでしまうと、僕の責任だと。
でもそうではないのかもしれない、これは皆の戦いだ。
互いに一人で背負っている訳じゃない、皆で背負っているんだ。
だからこれからやる事は僕の為ではなく、皆の為に成功して見せる。
僕は一人じゃない。
そう思うと不思議と心が落ち着いた。
ガイスだけに覆いつくされた視界は広がり、呼吸も落ち着いてきた。
周りがしんと静まり返り、魔力をいつも以上に感じ取れる。
声が聞こえる、話し声だブライドの声だ。
「あいつの死は無駄にはしない。無駄に何てさせない。それを俺達が証明して見せる。そうだろ、リドル」
もちろん、そのつもりで僕はここに立っているんですから。
あの人から教えてもらった事を一つも無駄にするわけにはいきませんから!
「何を言っている。そろそろ終わらせようか」
魔力が膨れ上がっている。
でもこれは魔法を使う前の前兆、まだこれじゃない。
もう少し、その魔力が一時的に減少しそして一気に膨れ上がった時が永久魔力機関を使用した時、そしてそのふくらみが起きる前に認識し発動させる。
まだだ、まだ、まだ‥‥‥
「っ!スコープ!」
僕はその瞬間、ガイスに向かって魔法を発動させた。
成功体験はない、失敗した経験しか積みあがっていない。
だけどそれども、これは間違いなく言えます。
「任務完了です」




