その四十六 死ぬ作戦
「複製したかつを向かわせる」
ブライドは会議中にそんな言葉を言いはなった。
「俺の複製を?それって意味があるのか?」
コピーを作り自体は抵抗がない。
だが俺はあの場には居ない事にはなっている。
その状態でわざわざいると言う事を示すのに何かしらのメリットがあるのだろうか。
「もちろんあるわよ。ガイスにとってはかつは脅威だもの。デビが迂闊に動けない状況ならガルアとかつが唯一ダメージを直接与えられる存在だしね」
「でも俺の魔法は当たらねえと思うぞ。王の領域は空中なら効果はあるが地面に居る時はすぐに避けられる。今のガイスは身体が全盛期に戻っている。多分身体能力はかつ以上はあると思うぞ」
「そんなにすごいんですか。かつさんも十分半獣の中では上位に来るほどの身体能力を有してますけどね」
確かに俺は修行を経てかなり身体能力を上げることには成功した。
ダリ師匠が言う通り身体能力を上げることは半獣の強さに直結するのなら、殴りでも叶わない可能性がある。
だけどその為の策はちゃんと考えてある。
「大丈夫だ。俺のオリジナル魔法を用いれば一発は確実に入る。それとかつの件だが出てくるメリットはある。今回の作戦ではかつはここには居ない事にはなってる。だが複製のかつを出させることによって警戒を高め、作戦がバレることを防ぐ」
「俺がここに居なければ確実に何かをしようとしてるってことが気付かれるからな。つまり源魔石が何かしらのトリガーだと思わせないってことか」
「そうだ、あくまで源魔石はあいつに渡したくないって事を思わせればいい」
「ちょっと待ちなさい」
するとピンカが声を上げる。
「かつを居させることで作戦をぼかすのは分かるけど、それで死んじゃったらどうするの。所詮は複製でしょ、オリジナルには叶わない」
そう言いながらもそのオリジナル魔法を使うツキノの方に視線を送る。
「私の‥‥‥オリジナル魔法は‥‥‥デュラが強化してくれたから‥‥‥複製者も‥‥‥オリジナル魔法は使える‥‥‥」
「それって本当なのか。てことはブレイクインパクトを打てたりもするのか?」
「それは‥‥‥出来ない‥‥‥ブレイクインパクトは‥‥‥私の技術じゃ‥‥‥再現できない‥‥‥それをするなら‥‥‥かつの魔力を全て‥‥‥手に入れないと‥‥‥無理‥‥‥」
「つまりかつの魂をその手にすれば完全な絶対かつが生み出せるってことだね」
マイトの言葉にツキノは頷く。
魂を手渡すってそれって死ぬってことだよな。
というかもうその域に行くのなら人体錬成と仮想いう部類なんじゃないか。
「すごいね!それなら沢山かつっちが作れるってことじゃん」
「さすがに‥‥‥一人しか‥‥‥出来ないけど‥‥‥」
「とにかく一つレベルが下がったかつが出て来るってわけでしょ。戦力としてはどうなの?」
「戦力としてはカウントしてない。あくまで牽制を目的としている。とにかくいると言うだけでガイスは警戒せざる負えない。でもすぐにぼろは出るだろうけどな」
「じゃあ殺されてもいいの?」
「なるべく生きてもらった方が心強いがそうなったら別の方向で行く」
「別の方向?」
疑問を口にするとブライドは大きく頷いた。
「もし複製のかつが消えて場合はこういう展開に持っていけ」
―――――――――――――――――――――
「かつ!」
クリシナの目の前でかつの首が吹き飛ばされた。
それによりかつの体が消えていく。
それはツキノの魔法の効果が消えたことを意味した。
「ん?」
『奴の体が消えた?いや、消えたと言うよりかは消滅したが正しいか。これはもしや魔法?』
「どうやらびっくりしてるみたいだな。起きてる状況を理解出来てないみたいだ」
ブライドは悠然とガイスの元へと行く。
ガイスは消失して居なくなったことで空いた手を握りしめると、その手をゆっくりと下ろす。
「魔法による複製か。わざわざ偽物を寄こすと言う事は本人は別の場所で何かを企んでいると言う事か。源魔石と言いかつと言い、それを切り札に使っているみたいだな」
「切り札?お前は何か勘違いしているみたいだな」
「何?」
ガイスはブライドの言葉に反応を示す。
ブライドはガイスが次の言葉を待っていることに気付くと、そのまま言葉を繋いだ。
「切り札は俺達だ。全員でお前を殺す」
「それは立派だな」
『そう言いつつもかつはそちらにとっての切り札であることは変わらないはず。奴がまだどこかで身を潜めて次の機会を伺っているのだとしたら、警戒を怠るわけにはいかない』
ガイスはブライドの言葉に反応を示しながらも周りの警戒を怠る事はしなかった。
かつが偽物だと分かった現状、どこかにかつが潜んでいるかという不安を植え付けることには成功した。
だがかつが偽物だと分かった事でかつがブライドたちにとって重要な存在であり、一瞬でも源魔石と結びつけてしまった。
その考えが頭の片隅に残ってしまったのはブライドたちにとっても痛かった。
「悪いが、本番はこれからだぞ」
『かつがここで終わっちまったのは少し痛いな。だけどかつがまだ生きていると言う事だけでも、ガイスに植え付けられたのは大きい。周りを注意しながら戦う事になれば、大胆には動けなくなるだろう。あとはかつがここに居ないと言う事を悟られてはいけない』
「これで全てのオリジナル魔法が見終わったか」
ガイスがそう言葉を残した時、ブライドたちは言い知れぬ不安を覚えた。
何かがおかしいとそう思った時、ガルアはすぐさま魔法陣を展開させようと動き出す。
「先ずは、お前が邪魔だな」
だがその動きを呼んでいたのか、その視線をガルアの方へと向ける。
「っ王の――――――」
「ヘルファイヤー」
「なっ!?」
魔法陣が展開されたと同時に強烈な炎が出現する。
ガルアは風の魔法で炎の範囲から回避するが、さらにその動きを呼んでいたガイスがその先にも三つの魔法陣を展開させる。
それはどう考えても回避できない一撃だった。
「残念だよ、ガルア。お前は俺の右腕になってくれると思ってたのに」
「お前の右腕になるなら死んだ方がマシだ」
「なら死ね。ナショナルディザスター」
その瞬間、三つの雷、水、岩の魔法がガルアへと降り注ぐ。
ブライドたちはただその様子を見ている事しか出来なかった。
「さてと、まずは一人だ」
「あなた、自分の息子を殺すのに躊躇いがないのね」
「こちらも殺されそうになっているのに躊躇いは必要か。それにあいつは母親も殺してる。俺達はそう言う家族なんだよ」
「そうなの、確かに私には家族と言う物が分からないけどでもこれだけは言えるわ。親が子を殺すのに躊躇いがない時点で親失格って事」
「そうか、それは残念だ。なら俺は王として残りの奴らを殺すとしようか」
ガイスはその瞬間、空中に巨大なオリジナル魔法を展開させる。
それは今まで見た中で段違いの物だった。
「な、なんだありゃ!?」
「あれは、あの魔力は、この島を滅ぼすつもりか‥‥‥!」
「そんな事して済むと思ってるの!源魔石すらも消滅するわよ!」
「生き残るのに必死だな。源魔石、確かにそれは俺の欲する物だ。だが島を吹き飛ばした後にその魔力を辿ればすぐにでも分かる。一番の問題はお前ら半獣が生存していることだ」
その言葉を聞いて戦慄する。
それが虚言の類ではないと言う事が、その一撃は間違いなく島を吹き飛ばすと言う事だ。
「オリジナル魔法、現魔弾。俺の現存している全ての魔力をぶつける」




