その三十七 転送装置完成
シアラルス近くの森
「今の所、動きはなしだな」
ハイは手元にあるパンを一口含む。
そしてもう片方の手には双眼鏡が握りしめられていた。
そして後方からもう一人の怪盗が姿を現す。
「観察を始めてから三日経ったけど、あのモンスターの大量発生以降動きは見えないっちょ」
おかしな語尾を使いながらローの手には替えの服や追加の飲み物や食べ物が入った袋が握りしめられていた。
「追加の調達ご苦労な。てか、俺達はここでガイスの観察ってちょっと楽な仕事だよな」
「何言ってるっちょ。私達は戦闘はからっきしで役に立てないんだから、こう言う所で活躍するしかないっちょ。まあでもここでただ見張ってるだけで異変が起きれば知らせる何て、確かに簡単な仕事っちょ」
「だよな。でも、観察や記録をするだけでもこっちとしてはいつあいつが出て来るかひやひやしてるけどな。それに前の時みたいにモンスターの大量発生なんてことをされちまったら、こっちでガイスの動きが無くてもやばい状況になるってことだよな」
「でもあの博士が言うには、あれは前もって用意した物であってもう手はないだろうって言ってたっちょ。だから今後動きがあればガイスが直接行くとも言ってたっちょ」
「それで俺達はここでずっと見張りをしてるってわけか。はあ、フカフカのベッドが恋しい」
ハイは残念そうな声を上げながら双眼鏡で城の周りを注意深く観察する。
城からは濃い魔力が漏れ出している。
それはまるでこちらを威嚇しているように、城に一歩でも近づけば一瞬で殺されるほどの殺意のある魔力だった。
それを感じられる時だけはガイスがまだそこに残っている大きな証明にもなる。
「なあ、ローはどう思う」
ハイは不意にそんな質問をする。
ローはその質問の意図が読み取れず首をかしげる。
「何、私が買って来たパンが不満っちょ。なるべく味が選べるものを選んだはずっちょ」
「いや、そこじゃないから。どっちが勝つかだよ。かつ達か、それともガイスか」
ハイは思わずツッコミを入れる為に双眼鏡から目線を外すが、すぐに城の観察に戻る。
ローはその質問に間髪入れずに答えた。
「それは十中八九ガイスっちょ」
「だよなあ、どう考えてもそうだよな。でもさあ、やっぱり何処か期待してる部分があるんだよなあ」
ハイは独り言のように呟く。
だがローはその独り言に答えた。
「それは分かるっちょ。かつなら何とか出来るって思ってしまうっちょ。私達の事を何度も邪魔して、共闘したあの時のようにっちょ」
「ああ、だが一筋縄じゃ行かねえのは確かだろうな。なんせ最強の魔法使いだろうし、というかかつ達が勝てなかったら俺達も死ぬのか?」
「さあ、分からないっちょ。でも勝っても負けてもそれが私達の運命っちょ」
「だな俺達はそれを受け入れる側だしな。抗う役に任せるしかないか」
そう言うとハイは双眼鏡から目を離す。
「目が疲れた、もう眠い。ロー代わってくれ」
「分かったっちょ。ハイはそこでぐっすり眠ればいいっちょ」
「悪いな、ふわああ‥‥‥じゃあおやすみー」
双眼鏡をローに手渡すとそのまま近くに毛布を敷いてそこで横になる。
そしてものの数秒で寝息を立て始めた。
ローは買って来た雨の袋を開けると、そのまま口に含む。
そして口の中で飴を転がしながら双眼鏡の中を覗き込んだ。
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研究室
リツたちはテレポート装置を完成させるための最後の部品を取り付けていた。
そして最後にねじを締めるとリツは額の汗をぬぐう。
「終わった~」
「やったあああああ!疲れたあああああ」
「お疲れ様。といってもほとんどサポートロボットがやってくれたんだけどね」
労働からの解放されたことでマキノは声を出しながらその場で横たわる。
マイトも開発に協力したことで服も汚れ、研究室には労働の臭いが立ち込めていた。
「とにかくお風呂に入りたい。ずっとポーション開発と装置の組み立てしててそんな時間無かったですし」
「確かに今あまり人前には出られないかもしれないね」
「本当にそうだよ~でも、その前に~済ませないと~いけない事が~あるんだよ~」
そう言うとリツは机の上に置いておいたPCへと向かう。
そしてそれを手に取って機械の横に置いた。
「どうやら~終わったみたいだよ~」
「もしかして例の場所が分かったんですか」
「みたいだね」
するとリツは慣れた手つきでPCを操作する。
そしてPCにケーブルを取り付けてその先を機械へと接続する。
そうする事で中に入っていたデータが装置へと転送される。
「ポチっと~」
リツはエンターキーを押すと画面にパーセントが表示されてそれが百バーセントとなると、転送完了と表示される。
「さてと~これで~その装置の~転送先の~設定が~完了されたよ~」
「これでいつでもここからは影響されない場所に飛ばすことが出来るってことだね」
「ちなみにそれって何処なんですか」
「うーん~特に目立った~島じゃないかな~無人島で~周辺には~ただの海って感じかな~」
「へえ、本当につまらない場所なんですね。まあ、人が居る島を避けた結果だから、仕方ないのかもしれませんけど。それでいつ絶対さんを送るんですか?」
「そこの~話し合いは~このあとやると思うよ~だから~その前にお風呂入っちゃお~」
「おー!ようやくこの汗ばんだ服から解放されるんですね。さあ、早く行きましょう、今すぐに!」
そう言いながらマキノはリツの背中を押しながら研究室を後にした。
「さてと、僕もお風呂に入ろうかな。それにしてもここまで来たんだね。だけどこれからが本番なんだ。全てが終わった時、皆と笑い合えたらいいな」
マイトはそんな独り言を零して、お風呂へと向かって行った。
 




