その三十五 身体能力を上げて魔力をゼロにするポーション
メメ博士の研究室
「うーん‥‥‥」
メメは難しい顔をしながら目の前のPCを操作している。
今回の作戦で柱を強制停止させることに成功し、その結果外部からの情報を一切遮断させる妨害電波が消えて外からの電波を受け取れるようになった。
ネット環境をすでに整えたこの部屋でメメは何度もネットを繋ぐように試みているが、まだ完全には繋がらないのか地図情報を取得できずにいた。
「うーん、設備は前からあった当時の最新の物を使っているのだがやっぱり少し時間がかかるかな」
未来研究所は当時は最先端な機器や設備を投入し実験や研究に勤しんでいた。
だがすでにそれから何年も経った今ではその設備すら古い物となっている。
時代は進む、毎年毎年最新のものが開発され古い物に変わって行く状況では今メメが使っている物でさえ、古い物に変わりつつあった。
「柱が停止されると共に実行する手筈だったんだけど、近くに島がないのが難点だね。何とかネット回線をキャッチして利用したい所だけど、流石に遠すぎるか」
メメはその為に用意していた別の手段を使用する。
PCにネット回線を繋げるためにより繋げやすいやり方を行なう。
柱が停止を確認してから五分が経った時、臨んだ結果が起きた。
PCにWi-Fiが取得されたことを確認した瞬間、メメはすぐにキーボードを弾く。
そして周辺のマップの最新版をデータとしてダウンロードする。
だがWi-Fiは繋がったとしてもそれはまだ弱い。
ダウンロード中でもいつ切れてもおかしくはなかった。
メメはダウンロードが途切れない事を願いながらそれを見守る。
そしてその時はやってきた。
「来た!地図データ取得!これを前もって作成した専用ソフトに入れて‥‥‥実行!!」
すると先程ダウンロードされた地図データを元に絶対かつが戦う所に最適な場所を割り出していく。
その為の計算が完了するまで表示された時間は三時間だった。
「ふう‥‥‥ひとまずはここまで出来たかな。あとは場所を割り出してそしてそのデータを助手たちが作っている装置にダウンロードをして、そうすれば博士たちの役目はひとまず完了かな」
メメはほっと一息ついて椅子に腰かける。
ここまで来るのに大変な労力を費やしてきた。
そしてその問題も後もう少しで片付くことになる。
「ここまで長かったなあ」
感慨深い様子でメメは呟いた。
ロボットは相変わらず忙しなく動いている。
街の人々が避難できる場所の確保は十分に出来ている。
あらゆる準備が整いつつあり決戦の日まで残りわずかとなって来た。
メメは表示されている時刻を確認する。
「今から約二日後か。それが来ても二時間半以上は足止めしなきゃいけない。中々大変なことだね。博士も当日はなるべく助力したいけど、さてとまだやらなきゃいけない事はあるかな」
メメは再び体を上げると作業を開始する。
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「いててて、ちょっとはしゃぎ過ぎたかな」
俺は何とか街まで戻ると城の中に入る腕の治療をする為にクリシナの元を訪ねて来た。
「すまんクリシナ、出来ればカプセルの中に入りたいんだけど研究室に向かわせてくれないか」
クリシナは一足先に戻っていたのだろう。
椅子に腰かけて紅茶を入れたカップを手に取っていた。
そして俺を見るや否や目を丸くさせて慌てた様子でこちらに駆け寄って来る。
「大丈夫!?かなりの傷ね、かつは通信が来るのが遅いと思ってたけどまさかここまでとは思わなかったわ」
「クリシナはそこまで怪我はしてないみたいだな」
「私の方はすでに治療を終えたから。今はカプセルの空きがないみたいなの。だからごめんなさい、回復のポーションで体を治してもらう事になるわ」
「回復のポーション‥‥‥まあ仕方ないか。あそこはむやみに使えば本当に重症の人が来た時に使えなきゃ意味がないよな」
かなり腕は痛むが回復のポーションを飲めば少しはましになるかもしれない。
「それじゃあその回復のポーションをくれないか?」
「私は持ってないの。それを作った人の元には案内できるわ。立っているのも辛いなら私がお姫様抱っこしえたげるわよ」
「いや、それは何だか男としては遠慮しておきたいかな」
「ふふっ男の子って妙な所で頑固ね。分かったわ、それじゃあテレポート」
目の前の景色が一瞬で変わるとすぐに見慣れた研究施設にたどり着いた。
しかもここはリツ達が居た場所だろうな。
まさか回復のポーションがあるのはここなのか。
「大丈夫、私がドアを開けるから」
そう言うとクリシナはドアをゆっくりと開ける。
そこには忙しなく動いている三人とロボットの姿があった。
「ん?何ですかまた私のポーションを貰いに——————絶対さん!?」
マキノは驚いた様子でこちらに駆け寄って来る。
それに続いてリツとマイトも俺の元に来てくれた。
「ぜっちゃん!すごい傷だね~どうしたの~」
「例の作戦の傷かな。それにしてもかなりの激闘だったみたいだね」
「ああ、ちょっとな。思った以上に強くてさ。少し無理しちまった」
するとリツが俺の体をまじまじと見る。
「骨も折れてるよ~これは~カプセルに~入った方がいいんじゃない~」
「いや歩けはするからそこまでは大丈夫だ。とりあえず回復のポーションをくれれば、それで何とかなるだろう」
「大丈夫、かつが完治するまでは私がお世話してあげるから。朝から寝静まるまでずっとそばに居てあげる」
「いや、それはやめてくれ」
「駄目だよ~ぜっちゃんは~ミっちゃんの~恋人なんだから~」
「ふふっ分かってるわ。男女の仲を壊すなんて野暮なことはするつもりはないから」
「というかそんなことよりも早くこれ飲んじゃってください。見てて痛々しいですから」
そう言って取り出したのは液体が入った瓶だった。
ラベルには特性回復のポーションを書かれていた。
普通の物とは違うみたいだな。
「くっ」
「ほら、無理しないで。私が飲ませてあげるから」
俺が腕を上げようとするのをクリシナは止めると回復のポーションを手に取って、ふたを開ける。
そして飲み口をこちらに近づけると、俺は一瞬ためらったがそこに口を付ける。
それからゆっくりと口の中に中身が入って行き、喉を動かしてそれらを飲んでいく。
むせないように気を使って入れてくれている。
すべてのポーションを飲み終えるとその瓶をゆっくりと離す。
「はあ、何だか痛みが引いた気がするな」
「当然です。それは私が作った特製の回復のポーションですから。その傷なら一日安静にしてたら治ると思いますよ」
「そうか、ありがとな」
「絶対に~安静にしてなきゃ~駄目だよ~ぜっちゃんには~これから~大切な役割が~あるんだから~」
「そうだね、かつには元気になってもらわないと。そうだ、魔力もついでに回復すれば。そうすれば回復の早くなるかもしれないよ」
「そうですね、魔石なら」
マキノは魔石を取り出そうとポケットに手を突っ込める。
だがそれを俺は止めた。
「大丈夫だ。本番まで魔力はそこまで要らないんだ。源魔石を使う時身体の魔力を開けて置けば、体が吹き飛ぶ前に打てるだろうし」
するとリツとマキノが複雑そうな顔をする。
そう言えば面と向かってこの話をした事はなかったかな。
でもこの感じは知っては居たのかな。
「俺はもう覚悟は決めたから大丈夫だ。だからそんな顔しないでくれよ」
「分かってますよ、別に心配はしてません。それにしても魔力を開けるですか。それを聞くとある物を思い出しちゃいますね」
「ある物?」
「昔、まだポーションの調合がまだ未熟だった頃に魔力を回復するポーションを作ろうとしてたんですよ。そしたら何をミスったか、身体能力を上げて魔力をゼロにするポーションを作ってしまった。要らない物だったんで調合レシピ事売り飛ばしたんですよね。まさかあんなゴミが売れるとは思いもしませんでしたけど」
なんか聞いた事があるような気がする。
俺はリツの方を見ると、さっと視線をずらした。
ていうか、ちょっと待てよ。
身体能力を上げて魔力をゼロにするポーション、何か引っかかる。
これってもしかして使えるんじゃないか。
「クリシナ、ツキノってまだ目覚めてないのか?」
「ツキノ?あの子はまだカプセルで眠ってると思うけど」
「ツキノの所に行きたい、それとマキノさっき言った身体能力を上げて魔力をゼロにするポーションって作れるのか?」
「え?あれは偶然出来た物って言うか。レシピが無いと再現する事が出来ないんですけど」
「それなら~私が書くよ~」
そう言うとリツは紙とペンを取り出してそれらを書いて行く。
そして書き終えるとリツはその紙をマキノに手渡す。
「あっ確かに子の内容はあの時作った物に似ています。ていうか何で知ってるんですか」
「うーん、何となく~かな~」
「いや、絶対嘘でしょ。もしかして私のレシピを買い取った人って」
「早く~作ろっか~」
「ちょっおさないでください!」
そのままリツはマキノを連れて行ってしまった。
「どうやら何かを掴めたようだね」
「マイト‥‥‥まあそんな所かな。俺なりに色々考えて最善を選ぼうとしてるんだけど、上手くいかなくてさ」
「今回の敵は間違いなく過去最強だからね。この島全体を巻き込んだ、大きな節目ともなる。でも、かつはそこまで考える必要はないと思うよ。かつはかつの為に頑張って来て。それがどんな結果だろうが、僕はかつを信じてるからさ」
そう言うとマイトは優しい笑みを浮かべて僕の肩に手を置く。
「ありがとう、信じてくれ。必ず勝って来るからよ」
「それじゃあ僕は作業に戻るよ」
そう言ってからマイトは元の作業に戻って行った。
「それじゃ私達も行く?」
「ああ、ツキノの元に案内してくれ」
俺はクリシナにそう頼んでその場を後にした。
 




