その十八 半獣
シアラルス王の間
「やられたか」
ガイスは玉座につきながら自身が作り出したオリジナル魔法が破壊されたことを確認する。
「まあほんの余興の為にセットした物だからな。壊されたところで特に不便なことはないが、あの状況下で思ったよりも早く破壊されたな。まさか‥‥‥いや、ありえないか」
ガイスは何やら考え事をしながらニヤリと笑みを浮かべる。
—————————————————————
「っん‥‥‥はっ!」
俺は咄嗟に起き上がりすぐに周りを見渡す。
するとそこは外ではなく部屋の中だった。
ここは城の部屋だな、いつの間にここに居たんだ。
「かつさん、よかった目覚めたみたいですね」
「リドル、どうなったんだ」
リドルがこうしてゆっくりとしているんだから危機は何とか乗り越えたみたいだな。
「まず最初にあの大量のモンスターですが、かつさんが発生源を処理してくれたおかげでモンスターの進行を食い止めることが出来ました。街から追い出した後はほぼガルア様とブライドさんが残りのモンスターを駆除してくれました。さすがの強さでした」
「そうか、モンスターは全員いなくなったんだな。それはよかった」
問題は解決した、と思うのだが何故かリドルの表情が晴れない。
何か別の問題は残っているのだろうか。
「何か合ったのか?」
「はい、モンスターの危機から街を守る事は成功しました。あれほどの奇襲をされたのに死者も出ませんでしたし、結果から見れば大成功。ですが街には多大なダメージが残ってしまって、しかも今回の件で住民の皆様の不満が爆発してしまい」
「不満が爆発?そう言えば外がやけに騒がしいな」
俺はベッドから立ち上がると閉まっているカーテンを開けた。
そして窓を開けると、城の周りを取り囲むようにして街の人々が一斉に声を上げていた。
「街の安全を保証しろ!」
「私達に自由を!」
「これ以上被害を拡大させるな!」
「お前らのいざこざに俺達を巻き込むな!」
「この島から出さして!」
これはまずい。
今まで街の人々には大丈夫や安心してと具体的な説明をしてこなかった。
不安にさせない為と言う理由でそれらの事をして来たけど、逆に言えば何が起きているのか分からない状況でガイスの来襲、モンスターの侵略、多大なる町の破壊による生活の困窮、いつまで続くのか分からないこの環境の過酷さに普通の人が耐えられるわけがない。
ブライド、俺達は間違えたんだ。
例え不安をあおる事になってしまったとしても、きちんと説明をすべきだったんだ。
そうすればここまでの反発は起きなかった。
ここまで来てしまったらもう遅い、何を言おうと街の人々は納得する事も聞いてくれもしないだろう。
「今、ムラキ様が町の人々を説得しようと試みていますが、この状況は厳しそうですね。ガイスとの決戦前にまさかこのような事態になってしまう何て」
「俺達じゃどうする事も出来ない。街の人々が耳を傾けてくれるような信頼のある人じゃないと、この状況は変えられない」
「皆、話を聞け!ちゃんと説明するから!」
城の屋上からムラキの声が聞こえて来る。
拡声器などを使用しているのだろうか。
この感じからするとムラキでも納得させられてはいない。
「他の王は何処に居るんだ!」
「家に帰らせろ!」
「この島はどうなってしまうの!」
「ちゃんと説明しろ!」
「だから今その説明をしようとしてるだろうが!お前ら一回だま——————」
「ムラキ、代われ」
何だ、ムラキの声が聞こえなくなった。
まさか諦めたのか。
確かにこの状況では諦めたくなる気持ちは分かるけど、それは却って怒りを買うんじゃないのか。
「俺はこの島の王ガルア‥‥‥だった。まず最初に皆に謝らなければいけない。何も説明もせずにこの戦禍に巻き込んでしまい、本当にすまなかったな」
ガルアの声、それにガルアが謝罪をしているのか?
「リドル俺外言ってくる」
「え?ちょっかつさん!」
俺は窓から飛び出すと地面に着地して城の屋上を見上げる。
そこには拡声器をもったガルアが深々と頭を下げて立っていた。
ガルア、確かにこの状況で最も影響力があるのがあいつだ。
でも、本当に出来るのか。
「謝ってもおせえよ!」
「私のお母さんは死んじゃったのよ!」
「奴隷とか意味分かんねえことされてよ!」
「お前のせいでこうなったって聞いたぞ!」
やっぱりみんな怒りを抑えられていない。
この状況で話を聞かせるなんて無理なんじゃ。
「この状況になったのは確かに俺のせいだ。俺のせいでガイスと言う男が蘇った。ガイスはこの島所か世界を支配しようとしている。そして俺はガイスに王の座を譲ってしまった。これが俺が招いた災いだ。自分勝手な理由でこうなる事を理解しながらも、俺はガイスを呼び起こした。俺には王になる資格はない」
「ガルア‥‥‥」
責任を感じていたのか、ずっと自分のして来たことに後悔をしてたんだな。
「だが責任から逃げるつもりもない。俺達は必ずこの戦争を終わらせて皆に自由に生きれることを約束する。だがその代償としてこの島から魔法が消えるだろう」
「魔法が消える?」
「どういうことだよ。魔法が無くなったら俺達はどうするんだよ」
「ママ‥‥‥」
ガルア、それがお前の選択なんだな。
皆に正直にすべてを話す。
それが王としての責任なんだな。
「ガイスを殺す計画は既に立ててある。だがそれには大量の魔力を使用しなければならない。俺達が自由を勝ち取る代償として、魔法と言う力を失う。そしてこの島は外部から知られることになるだろう。島外からも人がやってくるかもしれない。俺達の力を狙ったやつらや研究者の関係者も来るかもしれない。だがそれにより皆が不自由な生活を強いることがない事をここに約束する」
「嘘つけ!魔法が無くなったらどうやって生きていくんだよ!
「あんなモンスターが居る島で生きていく事なんて出来ない!」
「何が責任を取るだ、所詮は言葉だけだろう」
「すべてが終わったら、俺は島外に出てこの島を正式な有人島として認可させてもらう」
ガルアがその言葉を言った瞬間、周りの人々が静まり返った。
「もちろんそれは困難を極めるだろう。俺達は半獣と言う人間とは異なる部分を持ち合わせている。迫害され、受け入れてもらえない可能性もある。だがそれでも俺は必ず認可を得る。何をしようと、どんな手を使おうともだ」
ガルアの言葉に段々と熱がこもる。
街の人々もガルアの言葉に耳を傾け始めた。
「島を出たい物は出ると言い残りたい物は残ればいい、自分の生きたいように生きていけるように。好きな所で自由に生きられるように、皆が不自由なく居たい人と居たい場所で生きて行けることを約束する」
「でも、俺達もう人間じゃないんだよ‥‥‥」
「こんな姿で島の外何て出られないわ」
「半獣を呪われた姿と思わなくていい。確かに実験によって俺達は姿を変えられた。この姿を戒めだと思う人もいるだろう。だが姿は変わっても中身は変わらないはずだ。確固たる自分を持っていれば、見た目など些細な物だ。外の世界には耳と尻尾が生えてるだけの奴も居れば、頭皮が薄い奴もいる、体がデカい奴も居れば、異様に背がデカい奴もいる。人の姿は十人十色だ、見た目が変わろうと俺達は人間だ」
そうか、ガルアはそう考えてたのか。
半獣と言う物の在り方を、その存在を。
「この姿で生きていくことを恐れるな、胸を張って生きろ!だって俺達は半分獣で半分人間の半獣だ!それが俺達と言う人間だ!」
「――――――――――――――っ!!!」
その瞬間、街の人々が一斉に歓喜の声を上げる。
その声量はすさまじく地面が揺れた様な感覚さえ感じ取れた。
「半獣!半獣!半獣!半獣!」
まさかあの状況からここまで人々を一つにさせる何て。
やっぱりガルアはこの島の王だ。
「はあ、一時期は俺がこの島の王になってやるって思ってたのに、これじゃあこの街の王としての威厳が無くなっちゃったな」
「ムラキ、お前も以前よりも面構えが良くなった。王として恥じる事じゃねえ、それに俺は王ですらねえんだからな」
「何言ってるんだよ。俺でも分かるぞ。ガルア、お前がこの島の王だ。これを見りゃどんな王でも自信を無くしちまう」
「ガルア様!ガルア様!ガルア様!ガルア様!」
「俺は王になってもいいのか?」
「当たり前だろ、皆が求めてる王はガルアだ」
歓声は止むことなく、そのまま夜が明けるまで続いた。
 




