その十六 迫る黒い影
「ウオオオオオオオオオ!!」
凶悪な方向が街中に響き渡る。
街の人々は全員パニック状態となり、逃げ惑う人々は互いを押し合いそれにより地面に倒れる者もいる。
避難を誘導している人はいるけど、人数が足りていない。
すぐにでもこの事態を収めないと。
「うわああん!うわあああああん!ママー!」
「ウオオオオオ!」
「ママー!ママっあっ——————」
巨大な怪物は街の人々に向かってその拳を振り下ろす。
「ブレイクインパクト!!」
その直前、俺はその拳に一瞬触れてそれにより巨大なモンスターの体がはじけ飛んだ。
「大丈夫か?」
「お兄ちゃん‥‥‥」
「もう大丈夫だ、あそこのお姉ちゃんの所に行って、安全な場所まで連れてってくれるから。ママもそこに居るはずだよ」
「本当?お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうするの?」
「俺はこの街を守らなくちゃいけないから。大丈夫、皆は俺が守るから、ほら早く行くんだ」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!!」
そう言って満面の笑みでその子は走って行った。
街を何とかして守らないといけない、ここに居る人々は絶対に傷つけさせない。
後もう少しですべてが終わる、後もう少しで平穏を迎えられる。
だからこそこれ以上誰も傷つけさせない。
「すべてのモンスターはここで倒す」
「ウガアアアアア!」
一番デカいモンスターを倒したけど、まだ数は多い。
すぐにでも倒さないと。
ガイスはこれをすることによって俺達がやろうとしてる事を食い止めようとしているのだろう。
嫌がらせのつもりだろうが、逆効果だ。
「ちょうど戦う前に慣らしておきたかったんだよ。ガイス、利用させてもらうぞ」
「ぎゃははは!人間どもは皆殺しにしてやるぜ!」
「全員殺せばいいんだろ!簡単じゃねえか」
「ぶっ殺せ!ぶっ殺せ!」
流暢に言葉を話すところを見ると知能はかなり高いな。
それに大量の魔力によってパワーアップしてる。
だけど、今の俺の敵ではない。
「ん?テメエ、魔法使いだな!」
「魔法使いはぶっ殺せって指示だ!」
「死ね!死ね!」
空中を飛び回るモンスターは一斉にこちらに向かってくる。
俺はそれを回避すると一体のモンスターの体に触れる。
「ブレイクインパクト!」
「な——————」
「ふぎゃ——————」
「し——————」
その瞬間、連鎖的にモンスターの体がはじけ飛ぶ。
よし、上手く行った。
最初にブレイクインパクトをぶつけた相手が他の人物と体を触れていた場合、連鎖的に攻撃が当たる様に出来た。
修行をしていた時に考えていた技だけどここまでうまく行くなんてな。
理由としては相手の内包魔力が多いおかげで上手く魔力は流れて行ったんだろうな。
これなら通常の魔力消費よりも抑えて攻撃する事が出来る。
「次!」
「テメエの相手は俺だよ!この最強の一撃に沈みやがれ!」
「ワープ!」
鋭い爪が振り下ろされる前にワープで回避して背後にまわる。
そしてそのモンスターの背中を触る。
「ブレイクインパクト!」
「ふぎゃ——————」
そしてそのモンスターも体がはじけ飛ぶ。
その時また後ろから別のモンスターが襲い掛かって来た。
大きく肥大した拳でこちらを殴りつけようとしてくるので、炎の魔法で目くらましをして怯んだ隙にブレイクインパクトをぶつける。
「っ!いった‥‥‥」
流石にこれ以上は体がもたないか。
でも最初よりも格段に使い慣れて来た。
あの時、俺はブレイクインパクトを放とうとして痛みが走り満足に打つことが出来なかった。
それが無かったらあの時点で決着がついていたはずだ。
ガルアもあそこまで傷つくこともなかった。
重要な場面でミスをした俺の責任だ。
だからもうあんなことにならない様にこの魔法を鍛え上げる。
インパクトと同じように、好きに打てて自在に操れるように。
もう間違えない様に。
「まだいけるはずだ。こんなところでやめるわけにはいかない。ガイスと対峙してまた同じような失敗を繰り返さない様に」
壁を破壊して続々とモンスターがこちらへと向かってくる。
俺はそいつらと対峙して右手を突き出す。
「インパクト!!」
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かつ達がモンスターの脅威から街を守っている頃、一体のモンスターが街の内部へと侵入していた。
「けへへへ、楽勝過ぎるぜ。この騒ぎに乗じての潜入、変装が得意の俺様からしたら楽勝だな」
そのモンスターは人間の姿に変装し、ある場所を目指していた。
そこは源魔石が保管されている場所、そして療養している者達が居る場所だ。
そしてそこには非戦闘員が待機している。
モンスターは人の間を縫って行き、感知センサーを用いて人が多くかつ魔力が高い物を選別する。
「ああ、あそこか。見つけたぜ」
モンスターはある場所を見つけるとニヤリと笑みを浮かべた。
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「ミノル‥‥‥」
私は眠っているミノルをガラス越しからじっと見つめる。
自分に出来ることは何だろうか、いや分かってる。
私はただの人間で皆とは違って戦う事は出来ない。
だからこそこうして帰りを待つことしか私に出来ることはない。
不甲斐ないという想いと共に納得はしている。
願うばかりだ、これから先の起きることがすべていい方向に進む様にと。
「ん?何今の音」
誰か来てる?
そう言えばさっき皆が慌ただしくしてたけど、もしかしてそれと関係がある?
念のため、確認した方がいいよね。
私はゆっくりと立ち上がるとそのまま扉へと向かう。
そして扉を開いて顔だけ出して辺りを見渡す。
「誰も居ない?」
さっきの物音は気のせいだったのかな。
部屋から出てきちんと周りを見渡す。
うん、やっぱり誰も居ない。
きっと神経質になって少しの物音も過敏に反応しちゃったんだ。
早く戻ろう、ミノルが起きた時にすぐに状況を説明できるように。
「あれ?お前は」
「ふえっ!?」
後ろから突然声をかけられ思わず変な声が出てしまった。
咄嗟に後ろを振り返るとそこには何故かブライドさんの姿があった。
「ブライドさん!?何でここに居るんですか!」
「何でって、そりゃあ心配になって来たに決まってんだろ。今の状況分かってねえのか」
「心配?私なら大丈夫ですよ。それにここは研究所ですから何か起きることもありませんから」
「ああ、そうだな。研究室なら何か起きても心配だな」
「はい、それじゃあ私はミノルを見ていますので。では」
私はブライドさんにお辞儀をして部屋へと戻る。
扉を閉めようとした時、最後まで扉が閉まり切らなかった。
不思議に思い後ろを見ると、何故かブライドさんがその扉をせき止めていた。
「ブライドさん?」
「なあお前‥‥‥」
「ん‥‥‥」
その時、ミノルが眠っているカプセルから声が聞こえた。
「ミノル!!」
おもわずミノルの元へと駆け寄ると、一瞬指先が動いた気がした。
「ミノル!ねえ、ミノル聞こえる!返事をしてミノル!」
意識が戻ったの、早くメメ博士に報告しないと。
「ブライドさん!ミノルが——————うぐっ!?」
その時、ブライドさんが何故か私の顔を鷲掴みにする。
「いっ痛い!ブライドさん、何するの!」
「一つ物を訪ねたいんだが、源魔石の石は何処にある?」
「な、何を言って」
「源魔石の石は何処にある?」
そう言うとブライドさんはさらに力を込めて私の頭を握りつぶそうとする。
違う、この人はブライドさんじゃない。
それじゃあ一体誰?駄目、頭が潰れる。
「っ‥‥‥ああ」
「ミノル‥‥‥」
「ん??ああ、そうだな、次はこいつに尋ねてみるか」
そう言うとブライドさんの姿をしたなにかはミノルが眠っているカプセルへと向かう。
「駄目、やめて!」
「なら、早く教えろよ。それともお前の中にあるのか?」
助けを呼ばないと、でももう声を出す気力も。
「まあいいや、とりあえずお前を殺してから考えるか」
「あぐっあああああ!」
頭が割れる‥‥‥!
ああ、駄目だ、ごめんリドル。
せっかく皆に助けてもらったのに、私は‥‥‥私は‥‥‥
「くっ!」
「っあ?何やってるんだ?俺の手を掴んで、まさか抵抗してるのか」
「私は、諦めない‥‥‥こんな所で死なない‥‥‥!」
「ああ?調子に乗りやがって、もういいや死んじゃえよ」
何とか腕を抑えて振り払おうとするが、相手の力が強く振り払えない。
私は、何て無力なの。
せめてここじゃない場所で。
「おい」
「あ?誰――――――」
その瞬間、目の前に居たブライドの偽物の首が一瞬にして吹き飛んだ。
そして体は力を失い、倒れると私も解放される。
だけど私は驚き過ぎてその場から断つことが出来なかった。
「うるせえよ。ラミアが寝てんだ、騒ぐんじゃねえよ」




