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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十四章 半分獣と呼ばれた者達
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その七 壁から失礼します

自分の選択を後悔しているわけじゃない。

自分は島の為に命を落とす、その結末を今更覆そうとは思わない。

ブライドはやめても良いと言ってくれたけど、本当はやらなければいけないのは言われなくても分かってる。

現状この作戦でしかガイスを殺す方法は存在しない。

ブライドの言う通りガイスが目覚めた直後、もしくはその前に対策を打てなかった時点でほぼ結果は決まっていた。


「やるしかないんだ、俺が‥‥‥」


意味もなく廊下を歩いていたがその足が不意に止まる。

やるしかない、やるしかないんだ。

泣き言何か言ってられない、俺がやらなければいけないんだ。

やらなければ、いけないんだ‥‥‥


「死にたくねえな」


壁にもたれかかり思わず地面に座り込んでしまった。

口に出した本音は誰にも届くことなく解けていく。


「死ぬのは怖いかな、絶対かつ君」

「っ!?」


この声ってまさか。

背後から聞こえてきた声に聞き覚えがあり、咄嗟に後ろを振り返る。


「アキサ!!」


だが後ろを振り返るもそこにはただの壁があるだけだった。

気のせいか、ナーバスになって幻聴が聞こえて来てるのかもしれない。

そもそもアキサは直接干渉することはめったにない。

前までは会っていたりもしたが、最近は全く会えてないし会う気もないんだろうな。


「自分が思ってる以上にショックだったのかな」

「ならどうしてその選択肢を選んだの?」

「っ!やっぱり――――――」

「振り返らないで、そのまま壁に背を付けてて」


アキサに言われるがまま後ろを振り返る事なく壁に背を付ける。

どういうことだ、後ろはただの壁でその向こう側には通路も部屋も無かったはずなのに、声が聞こえる何て。


「話を戻すけど、死ぬのは怖いか。君自身が決めた事だよね」

「ああ、アキサさんの言う通りだよ。自分で決めた結果だ、別に死ぬこと自体は怖くはない。黒の魔法使いと戦うと決めた時からそういう覚悟はしていた」

「なら今になってどうして怖気づいた」

「死ぬ気で戦うのは命を捨てる行為じゃないから良いけど、死ぬつもりで戦うは死ぬことが前提だからかな。だから怖いと言うより嫌なんだ」

「でも絶対かつ君の体は本物じゃない。死ぬことになったとしてもガワだけが朽ちるだけで君の魂は消えはしないよ。それでも恐怖が勝つの?」


アキサは俺に純粋な疑問をぶつける。

確かにアキサの言う通りだ。

だがそれは今の俺の考えとは違う。


「この体はアキサさんの言う通り借りものだ。本物じゃないから死ぬことはない。でも確かにこの世界で生きているのはこの体なんだ。この体で居るからこそ俺はこの世界の絶対かつとして存在しているんだ」

「つまりその体が終わった時、この世界の絶対かつ君は死ぬって意味であってる?」

「まあそうだな。この体も何だかんだ言って思い出があるし、本物と偽物の括りではないような気がして来たんだ。どっちも俺でどっちも本物なんだ」

「ふふっ君は面白い考えをするな。そこまで気に入ってもらえたのなら私も作ったかいがあるよ」


そう言うと一拍置いてからアキサは言葉を続ける。


「君は本当にすごい子だよ」

「っいきなり何だよ。気を使ってるのか」

「本心に決まってるじゃないか。私は心の底から君を尊敬するよ。何者でもなかった君は今では島を代表するような人達に頼られる存在となった。君を選んだ私の目には狂いはなかったと言っておこうかな」

「何かこっぱずかしいな。俺だってこんな事になるなんて思いもしなかったよ。仲間たちとのんびりゆったり過ごして行くのかと思ったら、島の運命を決める戦いに参加してるなんて。学校を不登校してた頃には考えもつかなかったよ」


あの頃は何もなくて自分の人生が無意味な物だと痛感させられていた。

誰からも必要とされず何者にも成れずにいた。

そんな俺が今こうして誰かにとっての何かになれたような気がする。

少なくとも大切な人たちが出来たんだから。


「アキサさん」

「何?」

「やっぱり俺、皆が居なくなるのは嫌だ。皆が住むこの島を守りたい」

「もう弱音は吐かないの?」

「ああ、大丈夫。もう覚悟は決まったよ。自分がどうなろうがこの島を守れるなら本望だ。それにすべてが終わったらアキサさんに話すよ。俺の願いを」

「てことは願い事が決まったって事か」

「うん、ガイスから島を守ったら目的は達成だろ?」

「その通りだ。君は使命を全うしたことになる。何でも願いを叶えよう。でもその前に目の前の問題を終わらせないとね」


段々とアキサさんが遠くに行っているような感じが居た。

思わず振り返ろうとしたがそれは無駄だと悟りぐっと我慢する。

もう居なくなったのかと思った時、耳元で声が聞こえた。


「頑張ってね絶対かつ君、運命を乗り越えるんだ」

「アキサさん!‥‥‥居ない」


背を付けていた壁を何度か触ってみる。

やはりただの壁で叩いて見ても空洞があるようには見えなかった。


「まっあの人なら不可能ではないか」


あの人の事を考えてても仕方ないな。


「さて、それじゃあ早速行くか」


死にたくないとかうだうだ言っててもしょうがない。

思い返して見ればさっきの俺の行動はまるで子供みたいだった。

皆に気を遣わせて大丈夫だって言ったのに結局あの場から逃げてしまった。

俺も当事者のはずなのに作戦もまともに聞かずに逃げ出すなんて、無責任だよな。

責任はしっかりと果さないと、それが俺のやるべきことだから。

俺はすぐに皆のいる場所へと戻って行った。

作戦会議はもう終わっているだろうか、とにかくちゃんと話を聞こう。

今は一刻を争う事態だ、明日聞くなんて遅すぎる今からでもちゃんと話を聞こう。

そう思い、俺は皆が集まっているであろう部屋の扉を開けた。

その時、皆の視線が一気にこちらに集まる。


「え?作戦会議は」

「おかえり、覚悟は決まったか」

「っブライド」

「待ってましたよ、かつさん。帰って来てくれると信じてました」

「たく、いつまで待たせんのよ。このまま夜が明けるかと思ったよ」


どういうことだ、おかえりとか待ったとか。

皆は俺が来るのを待っていたような様子だ。


「まさか待ってのか、俺が来るまで」

「そのまさか何だよね。かつが来るまで待って用って話になってね。それでそれまで暫し談笑してたってわけ」

「何でわざわざ」

「もちろん、かつさんも俺達の仲間だから、作戦は仲間で聞かないと意味ないですから」

「かつっちが居ないとしまらないからね」

「かつさん、僕はかつさんの選択を最大限尊重します。それは僕達を想っての事ですから」

「皆‥‥‥本当に」


この世界に来てよかった。


「それじゃあ早速始めるか。島を救うための作戦会議を!」



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