その六 島を救うと言う事
「島の平和を守る為に命を捧げてくれねえか」
ブライドはこちらをしっかりと見ながらそんなことを言って来た。
突然名前を呼ばれたことで俺は一瞬何が起きたのか理解できずにいた。
自分が何に選ばれたのか、そしてどんな責任を果たさなければいけないのか。
その事に対してブライドに聞こうと口を開こうとした時、それよりも先に声が響き渡る。
「ちょっと待ちなさいよ!あんた、自分が何を言ってるのか分かってんのか?」
ピンカが興奮気味にブライドに詰め寄る。
だがブライドはあくまで冷静にピンカに対応する。
「ああ、分かってる」
「あんたが言ってるのはね。島を守る為に死んでくれないかって言ってんのよ。そんな事誰かに頼む前に自分で考えた作戦なら自分で果たしなさいよ!!」
「ピンカ‥‥‥」
「言い返す言葉もねえな。至極真っ当な意見だ。自分で考えておいてその責任を誰かに押し付けるのはお門違いだ」
「ピンカ、でもねブライドは」
「いい、クリシナ。俺が説明する」
クリシナの言葉を止めさせるとブライドは俺の方を向き直る。
「お前にこんな責任を押し付けて申し訳なく思っている。恨むなり、怒るなりしてもらっても構わない」
「いや、別に俺は‥‥‥」
「だがこれはお前にしか出来ない事なんだ。だから頼む、この作戦を引き受けてくれねえか」
そう言うとブライドは深く頭を下げる。
その行動に皆驚いた表情をしていたが俺は複雑な気持ちを拭えずにいた。
「ブライド頭を上げてくれ。俺は謝罪をして欲しいんじゃない、説明が欲しいんだ」
「そうだな、きちんと説明すべきだな。まず、今回立てた作戦には島中の魔力を使わなければならない。その為に魔力吸収装置を修理した。これに源魔石をセットすれば島中の魔力を集めることが出来る」
「そこまでは分かってるけどよ。何でかつじゃなくちゃ駄目なんだよ。俺じゃ駄目なのか」
「これはかつにしか出来ない事だ。集めた魔力を全てが椅子にぶつける為にそれに耐えうる魔法が必要だ。しかも中途半端ではなく、全ての魔力をぶつけられる魔法だ」
ああ、何となく話が見えて来た。
そういう事か、だから俺にしか出来ないって言ったんだな。
「インパクトを使えって事だろ」
「ああ、そういう事だ。ゼット師匠のオリジナル魔法はその特性上、オーバーな魔力に耐えられるようになっている。そしてそれを全てぶつけることが出来る。こんな魔法陣、デュラですら作るのは不可能だ」
「それはかつにしか出来ないってことか。確かにその魔法陣が必要なら替えは利かないな」
「でも、本当にそれしか方法はないんですか。だってこんなのあんまりだよ」
「ここまで共に戦ってきた仲間が死ぬための戦いに行くのはあまり気分が良くないね」
「そ、そうだぞ!かつが死なねえ方法が他にもあるはずだ!」
「皆‥‥‥」
「それはねえ、断言する」
だが皆の声もむなしくブライドははっきりとした口調で言い切った。
それにより皆の声が消えていく。
「ガイスが現れた直後、もしくはその前に対策を立てられればもしかしたら他の方法でも通じたかもしれねえ。だが今のガイスはもう誰にも止められねえ。魔力は俺達の想像をはるかに超える程膨れ上がり、今もなお上昇し続けている。いつか自身が耐えられない程の魔力に到達したとしても、制御すればいいだけで自滅する事もない。もう正攻法じゃ敵わねえ」
「だとしても僕は容認できませんね」
すると皆が黙り込む中リドルだけが声を上げた。
「リドル‥‥‥」
「かつさんが島の平和のための犠牲になれと言いましたか、そんな事認められるわけがありません。かつさんが自ら命を落とすような真似を僕が、いや僕達が許すわけがないじゃないですか」
「仲間だからか」
「もちろんです」
「そうだよ!かつっちが死ぬなんて絶対やだもん!全力はんたーい!!」
「デビさんもミノルさんもアイラも認めるはずがありません」
「私達だってそんなも認められないっしょ!」
すると皆が一斉に声を上げ始めた。
皆、俺の為に‥‥‥
「ははっいいチームだな」
「そうね、皆とっても美しいわ」
「いやあ、青春なのだよ」
するとブライドは一歩前に踏み出し俺の肩に手を置く。
「こうはいったが結局はお前次第だ。俺はかつの意思を尊重する。だからお前が選べ、なあに心配するな。やりたくないならそれでいい、後の事は俺に任せろ。だから余計な事なんて気にせずに選ぶんだ。島か仲間か」
選択肢を迫られている。
だけどそれはさっきまでの一択じゃなくて、俺の考えを最大限尊重してくれた選択肢。
島所か世界の運命すらかかってるこの状況はブライドはやめても良いと言ってくれてるんだ。
本当にお人好しだなこの人は。
皆も俺の為に抗議してくれて、こんな人たちを出会えて俺は幸せだ。
「ブライド、皆ありがとう。皆の想いはよく分かった。だから俺は選ぶよ。ブライド」
「ああ」
「俺は島の為ならこの命、捧げても構わねえ」
「っ!!?」
「かつさん!」
「悪い、リドル。皆もごめん。だけど、この島を見捨てる事なんて出来ない。俺にとってこの島は皆との思い出が詰まった大切な居場所だからな。だから守りたいんだ」
「後悔はないんだな?」
ブライドが最後の確認を俺に問う。
俺は迷うことなくその質問に答えた。
「ああ、ないよ」
「ミノルさんはどうするんですか!一人にさせるつもりですか」
「お前らが居るだろ」
「かつさんが居なければ意味がないんですよ!」
「俺も認めねえぞ!!」
その時、ガイが怒鳴り声を上げながらこちらに近づいて来る。
「ガイっ」
「お前がガイスと戦うだと!それってつもりお前が最強になるって事だろ!そんなの認められるわけないだろうが、最強は俺だ!行くなら俺を倒していけ!」
「ガイ、ありがとな」
「なっ!?話聞いてたか、何でお礼を言われなきゃいけないんだよ!」
「悪いなガイ、これだけは譲れないんだ。リドルもごめん、こんな無責任なリーダーで。もし、ミノルが目覚めたら俺からちゃんと話すよ。でも決行の日が来てもまだ目覚めないのなら、俺の代わりに謝ってくれないか」
「お断りします」
「リーダーの命令でもか?」
「‥‥‥っどうして、ですか。ここまで来たのに、どうして」
リドルは声を振り絞る様に肩を震わせる。
ミノルやデビが居たらもしかしたらこの答えを変えていたかもしれない。
だってリドルが泣いてる姿を見るだけでも辛い。
「本当に後悔はないんだな?」
「何でもう一度聞くんだよ。さっき答えただろ」
皆の視線が一気に集まって来る。
これ以上はここに居るだけで辛い。
「悪い、今日はもう休む。明日改めて作戦を聞くよ。ごめん」
「絶対さん‥‥‥」
俺はその場の空気に耐えかねてその場から逃げてしまった。
 




