プロローグ 危険な善人
初めて会った時からあの男は何かを隠していると思った。
誰にでも分け隔てなく接して常に笑みを浮かべている、善人を装っているあの男が信じられなかった。
「やあ、君は確かブライドだったかな。ゼットの元で稽古を付けてもらってるとか。よくゼットから話は聞いているよ」
妙に馴れ馴れしく話しかけて来る。
まるで敵意は無いと分からせてこちらに懐柔させようとしているようだ。
「そうやって駒を増やしてるのか?」
「ん?何の話だ?」
ガイス、俺はお前が気にくわなかった。
ゼット師匠とは違う、言葉にはいつも裏があった。
こいつが何でゼット師匠の友人を名乗れているのかが疑問だった。
そしてゼット師匠もそれを受け入れている。
「お前の思い通りに何てさせないからな。ゼット師匠は俺が守る」
「あいつは誰かに守ってもらう奴じゃないだろう」
「そういう意味じゃねえよ。お前はいつかゼット師匠の大事な物を奪おうとする。だから俺が守る」
ガイスは数回顎を擦ると心底疑問そうに尋ねて来る。
「俺はお前の敵じゃないが?」
「いや、俺はお前の敵だ。必ずお前は牙をむく。そのにやけ面が剝がれる日を楽しみにしてるぜ」
そう言って俺はその場を立ち去る。
あいつは悪だ、最初からそう言った人間だった。
悪人が半獣になる事は珍しくはない。
この実験の特性上、消えても誰も困らない人間を選別していたからな。
でもあいつは何か違う、あいつは他とは違う。
だからこそ、警戒しなきゃいけない。
ゼット師匠と肩を並べる実力の危険人物、俺が、いや俺達が守らないと!
いつかこの島に不幸を呼び寄せる。
そして現在、巨悪はこの島に大きな傷跡を残そうとしていた。




