表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
691/827

その六十三 好意か愛か

「これで全部か」


周りに居たモンスターを片っ端から倒していくと、いつの間にかモンスターの死体の山が出来上がっていた。

ゼットはそれを満足気に見ていた。


「これだけあれば町の人達の数か月分は持つだろう。ありがとう」

「っ礼なんて要らねえよ。まるで手伝った見てえじゃねえか」

「手伝ってくれたんじゃなかったのか」

「ちげえよ、馬鹿!私は憂さ晴らしをしたかっただけだ!勘違いすんじゃねえ!」

「そうか、悪かった」


そう言うとすぐに興味がモンスターの山の方へと向かう。

こいつ、いつも話をちゃんと聞いてんのか分からねえな。

何考えてるのかも分からねえし、考えが読めねえ。

赤ん坊と話してるみたいだ。


「俺はもう行くぞ。コアはどうする」

「私は狩ったモンスターを食って来る」

「丸焼きかそれじゃあ味気ないだろう」

「うるせえ、それしか出来ねえんだよ」

「外では料理をしなかったのか」

「飯は盗んで食ってた。悪いかよ」

「いや、そういう生き方もある。否定はしない」


まただ、善人ならここでそんなことを言いつつも心のどこかでは蔑んでる。

だけどこいつからは悪意を感じねえ。


「ついてこい、おすすめの店を紹介してやる」

「金ねえよ」

「材料を持って行けばただで食える。行くぞ」


強引に進めやがって。

どうせ嫌だって言っても連れて行くんだろ。

まっ確かに丸焼きも飽きてきた所だしついて行ってやるか。


「まずかったらその店ぶっ壊すからな」

「安心しろ。味は本物だ。リープ」


気が付くとすでに街中に立っており、周りの人々が目を丸くさせてこちらを見ていた。


「あ?何じろじろ見てんだ、殺すぞ」

「ひっ!」

「コア、睨みつけても飯はもらえないぞ。こっちだ」


ゼットは後ろに山積みになっているモンスターを担ぎながら前へと歩いて行く。

相変わらずの怪力だな、しかも先頭を歩かれちゃあまるで私が子分じゃねえか。

気に食わねえ。

私はゼット前を行くとその場で立ち止まる。

それにより、ゼットも不思議そうにその場で立ち止まった。


「それ貸せ。私が持つ」

「重いぞ」

「女だからってなめるな!!」

「女だからというわけじゃない。重いから言ったんだ」

「いいから寄こせ!!」


私はゼットの持っていたモンスターの山を蹴り上げる。

するとモンスターが一斉に空中を飛ぶと、落ちて来るモンスターを私は全て受け取った。


「っ!どうだ、これくらい余裕なんだよ!」

「そうか、それはよかった」

「うぐっこれを持って走る事も出来るぞ!お前よりも私の方がすごいんだよ」


私はそのままモンスターを担いだ状態で街中を走り回った。

だが気が付くとゼットの姿はなくすでに店の中に入っていた。

私は気恥ずかしさと悔しさを覚えながら店のドアを蹴破った。


「テメエ!店がそこなら先に言えや!」

「ごめんなさい!もっと分かりやすい看板とか立てればよかったですね。あっピンク色とか目立ちますかね」


ドアを開けた直後に見知らぬ女がこちらに笑いかけて来た。

誰だこいつ。

思わずそう心の中で思った時、近くから別の声が聞こえて来た。


「コアがいきなり走り出したからな。止めるのも悪いと思ったんだ」

「テメエ‥‥‥!」

「イズナ、例のモンスター狩って来たぞ。店の前に置いてある」


ゼットがそう言うとイズナという女はパッと目を輝かせて、満面の笑みを浮かべる。


「わあ!本当ですか、ありがとうございます!あっちょっと待ってくださいね。すぐに確認――――――きゃああ!!」


すっころんだ。

向かい側からこちらに移動する、ただそれだけの動きで転んだのか。

するとゼットがすぐさまイズナの元に行く。


「大丈夫か」

「えへへ、ごめんなさい」

「気にするな、イズナはよく転ぶからなもう慣れた」

「それはよかったです。あれ?よくないのかな」


こいつ、弱いな。

それがこいつの最初の印象だった。

頑丈な体を持った半獣の中でもかなり弱い部類。

能天気で非力、脆弱な精神力を持ったこいつがあの実験で生き残れるとは到底思えねえ。

恐らく技術が完全に確立した時に半獣化されたんだろうな、あれなら痛みもほとんどねえし。


「そう言えば、お名前聞いてませんでしたね」

「っあ?何でテメエに教えなきゃいけねえんだよ」

「彼女はコアだ。それとあのモンスターを持ってきてくれたのも彼女だ」

「テメエ、何勝手に言って」


その時、イズナが私の手を突然掴んで来た。

しかもしっかりと両手を握りしめて。


「えー!本当ですか!ありがとうございます、それならとびきり美味しい料理を作りますね!どうぞどうぞ、くつろいでてください」


そう言うとイズナはそのまま店を出て行った。

その後も大声で何かを叫んでいた。

うるさい女だ、それにしても初めてあんな両手をしっかり握られたな。

初対面の奴は誰だろうと、触る所か近づくのすら嫌がってたのに。


「分かるだろ」

「あ?何がだよ」

「イズナの純粋さだよ。ああいうタイプはこの島では珍しい」


ああ、分かるよ。

あいつは根っからの善人だ。

だからこそ私と相容れねえ。

それから狩ったモンスターをいくつか調理し、余った食料は別の所で引き取る事になった。

それから一時間後、テーブルに次々と料理が並べられる。


「お待たせしました!腕によりをかけたのでぜひ召し上がってくださいね」

「ありがとう、コアも食べろ。ここの料理は絶品だ」


ゼットはすぐに箸を持つと並べられた料理に手を付ける。

匂いは確かに旨そうだ、だが料理ってのは少し抵抗感がある。

毒は入ってねえだろうが、まっ入ってても効かねえけどな。

私はフォークを手に取ると味付けされたこんがり焼けた肉を、タレと共に口に含んだ。


「どうですかね、私の料理?」

「食えなくはねえ」

「やったー?これは喜んでいいんですかね」

「素直に認めるのが恥ずかしいんだろ。げんにコアの手は止まってないしな」

「う、うるせえな。口に入れば何でもいいんだよ」

「よかった、それじゃあバンバン食べてくださいね。私もジャンジャン作るので!!」


そして私達はイズナの作った料理を完食した。

イズナは洗い場で鼻歌を歌いながら皿洗いをしていた。

それをゼットはじっと見つめていた。


「ここにはよく来んのかよ」

「ここ最近来るようになった。イズナが店を経営したいと言ってな。俺は食糧調達として通う様になった」

「そうかよ。よし、腹も膨れたし勝負しようぜ!」


私が勝負に誘うとゼットはその誘いに乗ることなく興味なさそうな視線を送って来る。


「俺はコアとは戦わない」

「何でだよつまんねえな。お前強いんだろ、なら戦うだろ普通」

「強いから戦うと言う理由が俺には分からないな」

「じゃあ何でそんな強くなったんだよ」

「望んで強くなったわけじゃない」


そう言うとゼットは少し悲し気な目を向けた。


「俺はお前らとは違うんだ。本来こうやって一緒に居る事すらあってはならない」

「何だ、自分だけ特別だと言いてえのか?」

「‥‥‥コアは何でそこまで強くなりたいんだ」


何か話をはぐらかされた気がするな。

まあ、別にいいか。


「私はこの世から一切敵を無くしてえ、そうすれば愛を知る事が出来るからな」

「理屈がよく分からないな。愛を知るのに何で最強にならなくちゃいけないんだ」

「私の人生はそうなんだよ。誰も敵わねえくらい強くなったら、私を殺そうとする奴はいなくなる。そうなれば本当に私を愛してくれる奴が来るってわけだ」

「少し俺の考えては違うな」

「あ?じゃあ、テメエの言う愛ってのは何なんだよ」


するとゼットは一拍置いて口を開いた。


「好きの先に愛があるんじゃないかと俺は思う。ここ最近はそう考えるようになった」


ゼットはそう言いながらイズナの方を見ていた。

イズナは皿洗いで皿を割ったのだろう、破片で手を切ってそれを口でなめとっていた。

ゼットはすぐにイズナの元に駆け付けると傷ついた指に優しく絆創膏を貼っていた。

それを見ていると何だか無性にむかむかしてきて、私はすぐに店を出た。

街中を歩いていても胸の辺りに何かがつっかえたようで気持ちの悪い感じが消えなかった。

その時、先程のゼットの言葉が思い出される。


「好きって何だよ」


その数か月後、ゼットとイズナが結婚した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ