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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その六十 寵愛

「来たか」


ケイレンは私が来るのを待っていたかのように最後に話した場所で待っていた。

パパの返り血が付いた姿を見てもケイレンは臆することなくいつも通り私に話しかけて来る。


「窮屈な檻からようやく出られたようだね。どう?晴れて自由の身になった気分は」

「別に。ただ私には家族が居なかったって事が分かっただけだ」

「そう、でも僕には今の君が晴れ晴れしく見えるよ。会うたびに君の目は死んでいた。今の君は輝いて見えるよ」


そう言うとケイレンは私の顎を上げて目をじっと見つめて来る。


「ケイレン、私に家族に愛されていなかった」

「可哀そうにね」

「愛って何だ、何をもって愛っていうんだ。お前は私に愛を教えてくれるのか」

「もちろん、隅から隅まで教えてあげるよ」


するとケイレンは私の額にキスをする。

そしてゆっくりと私の側から離れる。


「さてと、ここにはもう用はない。すぐにでも引き上げよう。でもその前に僕の正体を教えないとね」

「正体?」


彼はただの旅の人だと思っていた。

確かにわざわざこんな所に寄るなんて物珍しいとは思ったが、さほど気にしてはいなかった。

その時、今まで見たことがない程ケイレンが邪悪な笑みを浮かべる。


「僕はね、ただの旅の者じゃない。ここにも目的が合って立ち寄ったんだ。実は僕裏社会の人間でね。ある依頼を受けてここに来たの」

「あっそう。私には関係ねえから」

「確かにもうここを立ち去る君には関係がないか。ついて来て近くにボートを止めてある。そこから島を出よう」


私はケイレンの言う通り後を付いてくる。

今は真夜中でほとんどの人が就寝している。

仕事で疲れた為夜はイカれた人間以外往来する事はない。

そして一度眠れば起きることはまずない。

貧民街を出て少し歩いたところの海沿いに小さな船があった。


「あっお疲れ様っす。あれ、その女誰っすか」

「僕の新しいパートナーだ。丁重に扱えよ」

「またっすか。今度はいつまで使い続けるつもりっすか」

「今回は本気だよ。僕は彼女を一生愛すと決めたからね」


あれを使ってここから脱出するんだ。

あの男はケイレンの仲間、他にも人が居たんだ。

ケイレンは先に船に乗ると私の方に手を差し伸べて来る。

正直こういう扱いをされるのはあまり気分はよくないけど今は何でも試してみようという気分だった。

その手を取って船に乗った瞬間、動き出した。

そしてしばらく進んだ後で、突如後ろから大きな爆発音が聞こえた。

すぐに後ろを振り返ると何故か星空の下で次々と何かが爆発して色鮮やかな丸い形を形成していた。


「綺麗だね。今日は記念日みたいだよ。僕達と同じさ」


そう言ってケイレンは上ではなく島の方を見る。

島の一部では赤い揺らぎが見えてそれが徐々に広がって行く。

花火の爆発に合わせてそれがひときわ大きくなる。


「新しいリゾート地を作るようだ。観光地として島外の人を呼びよせるみたいだよ。でもあんな場所が合ったら誰も寄り付かないし、観光客何て来ないだろ。だからこそすべてを白紙にする。ショックだったか?故郷が無くなるのは」

「別に、あっても無くても変わらないから興味がない」

「君はサイコーだ」

「たはー大分頭のねじぶっ飛んでますね。その年でそれは中々っすよ」

「じゃなきゃ僕の側には居られない」


そう言うとケイレンは島を見るのをやめるとそのままボートの席に座り込む。

私はただ呆然と燃え盛る島を見ていた。

あの街の構造からして誰一人生き残らないだろう。

生き残ったとしても殺処分されるはずだ。

でも悲しくも何ともない、何も感じない何も分からない。


「ほら、こっちおいでよ。僕の隣に座りな」


ケイレンは自分の隣の席を叩く。

そのまま隣に座るとケイレンが私の肩に腕を回してきた。


「そう言えばまだ名前を聞いてなかったね。いつまでも君っていうわけには行かないだろ」

「知らない、名前何か言われたことねえ」

「なるほど、それじゃ僕達の出会いを記念して最初のプレゼントを上げよう。そうだな、コア何てどうだ?」

「コア?」

「そう全ての中心、コアが居なければ何も出来ない。全ての基礎と言える。コアはそういう存在になるんだ」

「私が世界の中心、私は何でも出来る」

「その意気だ。さっ依頼主の元に早く行こう。貰った金で今日はパーティーだ」

「了解っす!」


するとさらにボートは速度を上げて目的地へと向かって行く。



――――――――――――――――――――

「お支払いは出来ません」


誰も居ない無人の島でそこに会った地下に通じる扉を潜った先に、依頼主と名乗る人物が居た。

そしてその人は開口一番そんなことを言って来た。


「今回使用した爆弾とその位置関係の調査や渡航費とか諸々こっちで用意したんだけど。そっちがその分も合わせて払うからって言ったから了承したんだよ」

「ええ、そのつもりでした。ですが規約違反を犯しています」

「規約違反?屁理屈でも言って金を誤魔化すつもり?」


すると依頼主は私の方を鋭い目つきで見て来る。

その視線が気に食わず思わず私も眉間にしわが寄る。


「あの街の住人は例外なく抹消する約束だったはずです。彼女が生きている以上、依頼を果たしたとは言えません。ゆえに金は払えません」

「なるほどね、そう言う事か」


するとケイレンは懐から手に収まる位のナイフを取り出す。


「その通りです。この場で処分すると言うのなら金は手筈通りにお渡ししましょう」

「殺せば貰えるのね。分かった」


それだけ言うとケイレンは二度ナイフを振った。


「あ―――――」


そしてその直後目の前の依頼主の首が床に落ち、体は力なく地面に倒れた。


「誰に命令してんだ、くそが。テメエ何ていつでも殺せるんだよ、立場をわきまえろ」


そして思いっきり落ちた頭を蹴飛ばすと、そのまま奥に行き依頼主が用意したであろう金の入った黒いカバンのような物を見つける。

そしてその金具を外すと中には大金が隙間なく入っていた。


「金は問題なく入ってる。これで金すら持ってきてなかったら、さらに細切れにする所だったよ」

「いいのか、あいつ殺して」

「ん?ああ、構わない。僕はどんな依頼でもこなすけど別に命令されて動くわけじゃない。依頼は完ぺきにこなすけど、多少のわがままは聞いてもらわないと。こいつは自分が上の立場だと思ってた、それが死因」


それだけで人って殺せるんだ。

私は死んだ依頼主をもう一度見る。

ほとんど血が出ていない、私とは違う。

これがプロの技なんだ。


「それじゃあ美味しいご飯でも食べに行こうか」


ケイレンは笑みを浮かべて機嫌よく金の入ったカバンを持っていく。

後々分かった事だけど、ケイレンはいわゆる裏社会のボスだった。

子分を何百人と従え、裏社会で暗躍している人物は大体彼の名前を聞けば震えあがる。

彼を敵にするという事は文字通り裏社会を敵にすると同義だった。


「いいんだね」

「構わない、愛を知れるなら」

「大丈夫いっぱい愛してあげるから」


そして私がケイレンに抱かれた。

それが愛を知る事に近づけると言われたからだ。

体を許すことは別に嫌じゃなかった、最初は痛かったけど回数を重ねるにつれて痛みは減り気持ちよさが増えて行った。

それから私はケイレンの仕事を手伝う事は多くなった。

技術を学び、殺しという物を基礎からしっかりと教わった。

いつしか私とケイレンのコンビが裏社会に広まって行き、私の事を恐れる人も増えて行った。

でもそれはバックにケイレンが居ると言う事もあった。


「ふう、今日はやけに積極的だったね。何か合ったの?」


ケイレンは行為を終えるといつもタバコを吸う。

私はベッドに横たわりその姿をじっと見ていた。


「分からない事がある」

「何?」

「私は今愛を知れているの?行為をすることが愛の証明になるの」

「うーん、僕はコアを愛しているよ。コアは僕を愛していないの」

「分からない、何が愛か分からない。行為自体は不満はない、むしろ気持ちいい。だけど終わった後にいつも虚しさを覚える。これは何?これは愛?」


ケイレンはタバコを灰皿に置くとベッドに横渡り、私を抱きしめる。


「愛は目に見えない。だから定義化するのも難しい。何を持って愛と呼ぶのか、どうしたら愛が伝わるのか。その一つが僕は性行為だと思う、僕はコアとすると満たされる。だから僕はコアを愛してる。難しく考える必要はないんじゃないかな」


愛、それは行為をすることで得られる充実感の事。

行為をしなければそれを得られないの。

満たされた気持ち、それを愛と呼ぶのなら。


「それじゃあ他の人とやっても変わらないんじゃないの」


その言葉は誰にも届いていないのか、静寂が訪れる。

いつもなら私の言葉に対して素早くレスポンスが入るはずだ。

でも何故か黙ったままでいる。

するとケイレンは私から離れると服に着替え始める。


「他人とやってもこの充実感は得られないよ」


やっと振り絞った答えがそれだった。

いつものケイレンらしくない、自分の願望のような答え。


「どこ行くの」

「仕事、コアは来なくていい。疲れてるみたいだから、大人しくここに居てくれ」


それだけ言うと、ケイレンは部屋を出て行った。

他人とやっても充実感は得られない、それは本当なのだろうか。

行為の経験は私はケイレンしか知らない、だからその確証も得られない。


「愛を知る為には、何でも試さなきゃ駄目だ」


私はまだ何も知らないだから知るべきだ、愛とは何かを。

私はそのまま部屋を出るとある場所へと向かった。

路地裏だ、どうしようもない奴らの溜まり場、ここなたすぐにでも見つかる。

案の定、ふらついた足取りで歩いてる奴を見つけた。


「うぃーあーもうのめませぇんよーふえ?」

「おい、テメエ私を抱け」


――――――――――――――――――――

「ただいま‥‥‥コア?」


ケイレンが帰って来た。

ケイレンの方を振り向くと、いつもとは違くイラついた様子で居た。


「外に出たのか、それはともかくとして誰かと会っていたな。わざと臭いを残して、僕への当てつけとか」

「愛を知る為に他の人と行為した」

「っ!はは、まさかコアの貞操観念がそこまで緩いとわね‥‥‥それでどうだった?」


ケイレンは恐る恐る私に尋ねて来た。

いつもとは違い、その表情は曇っていた。


「分かったことがある。他人とやっても気持ちよくなかった」

「っそうか。まあ、そうだろうね。なんせ僕とコアは愛し合って」

「でも、行為をした後のあの虚しさは変わらなかった」


瞬間ケイレンの目つきが鋭くなる。

だが私は気にせず続きを話す。


「他人とケイレンの違いは気持ちいいか、気持ちよくないかそれだけ。それが愛って言うのならやっぱり私は他人でも別に変らないと思う」

「何が言いたいんだ」


私はゆっくりと立ち上がる。

いつも愛用しているナイフを取り出す、これはケイレンがくれたもう一つの贈り物だ。


「私は愛を知りたい。愛を教えてくれるって言ったよね。ケイレン、私に愛を教えてよ」

「サディスティックな愛は僕の主義じゃないんだけどな」


ケイレンもすぐに二本の長包丁と小型のナイフを取り出す。

ケイレンが本気で仕事をする時はいつもそれらの元を使う。

先に私が動くと、それに反撃するように長包丁をこちらへと振り下ろす。

リーチの差はあれど、機動力では劣る。

一番近くで見て来たからこそ、ケイレンの動きはすぐに分かる。

ナイフで長包丁を弾くと続けて小型ナイフが私の顔面目掛けて飛んでくる。

それを首をひねって交わすとそのままケイレンの懐に入る。

心臓へとナイフを突き立てようとした時、ケイレンは地面の板を思いっきり踏んで外してきた。

飛び上って来た板を後ろに飛んで回避すると、再度小型ナイフがこちらに飛んでくる。

私は全てナイフで弾くとケイレンが一気に間を詰めて来た。

私は瞬時に先程手に入れた小型ナイフを天井へと投げると、上につり下がっていたシャンデリアを落下させる。

ケイレンは咄嗟に床を転がり回避すると、私はもう一個の小型ナイフを投げて床と服の裾を引っ掻ける。

一瞬動きが遅れた隙を突いて、私はナイフを投げるとケイレンはそれを長包丁で弾くと同時にシャンデリアの破片を使って右手の筋を切る。

それにより長包丁が手から離れるとそれを手に取り心臓を刺した。


「うぐっ!」


ケイレンの口から血が噴き出る。

私の体を掴んで引き剥がそうとするが、さらに奥へと食い込ませてそのまま勢いよく引き抜く。

それにより、血が噴き出しケイレンは倒れる。


「ごぼっ!まさか、コアに殺される何てな」

「お前が悪いんだよ。私に嘘を付いたから、もうお前は要らない」

「ハハッ要らないか、だがコアよ。こうなったらもうお前は愛を知る事なんて一生無理だ。俺が何者かは、お前が一番知ってるだろう。俺を殺せば可愛い部下や裏社会の連中がお前を殺そうとするだろう。これから先は殺意に晒され続ける。愛なんてものとは無縁の生活だ」

「ペラペラと良くしゃべるな。まだ死なねえのか」

「これから先お前の人生は地獄だ」

「地獄?そんな物、もう焼き尽くしただろ。それに、上等だよ。全員殺せば私に歯向かう奴が居なくなれば、今度こそ愛を知ることが出来る」


私は長包丁を振り上げるとそのままケイレンの頭を狙う。


「私は世界の中心だ、私は最強なんだよ」

「そうか、なら最後にこれだけ言わせてくれ」


ケイレンはいつもの笑みを浮かべると、血だらけの顔を私に向けて。


「愛しているよ、コア」

「あっそう」


そして頭に付きつけた。

ナイフと辞書を置いて行こう。

これからは私の武器で殺せばいい。

本当の愛を知る為に。



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