その五十八 コアのターン
山崩れが起きたことで空中を投げ出されたが、オリジナル魔法がタイミングよく発動されたことで傷一つなく受け身を取って地面に付く。
「さてと、少しやりすぎたかもな。山が半分削れちまったぜ。まだ研究所にはラミアが居るっていうのに」
削れた部分をちらりと見る。
「まあ、数年分の魔力を解放して山が削れる程度で済んでるんだから、死んではないだろうな」
その予想通り奥から人影が現れる。
だがその足取りは重く地面には赤い液体が痕跡の様に染み込んでいく。
「オリジナル魔法をぶつけて直撃は避けたみてえだが、それでもかなりのダメージが入ったはずだ。決死の一撃、勝利を確信しただろ。だが残念、私は死なねえ最強だからな」
ガルアはその場で立ち止まると肩で息をする。
喋るのも出来ないほどの重傷か、いやたしかに出血はしているがそこまでではねえはずだ。
それとも私と会話する事も嫌になったかな。
「俺は‥‥‥」
「ん?何だ喋れるじゃねえか」
「お前に勝つ」
絞り出した声でこちらを睨みつけるその瞳はまだ死んではいなかった。
覚悟は決まってる、まだやるつもりか。
「ははっ!いいねえ、やっぱり戦いはこうでなくっちゃ。だが、どれだけ虚勢を吐こうが限界だってのはとっくに分かってんだよ。魔力ももうほとんどないんじゃないのか?」
「だから何だよ。お前を殺せるなら、どうだっていい。魔力が無くなってもこの命を懸けてお前を殺す」
凶器的な執念、自分の子供が殺意を持って親に歯向かうってのはこういう気持ちか。
そうそう体験できない経験だな。
「なら死んでも勝ってみろよ」
「ティックアイスドーム!」
私の周りを囲むように氷のドームが形成される。
前回みたいにオリジナル魔法との併用じゃないか。
いや、そもそもオリジナル魔法を撃つ魔力も残ってねえんじゃねえか。
これまであいつは三回のオリジナル魔法を撃って来た。
作ったからこそあの魔法の燃費の悪さは分かる。
熟練度を上げても、その少量の膨大さは変わらないはず。
他の魔力消費の高い魔法と併用して使えばすぐに無くなる。
命を削れば一発分くらいは打てるかもしれねえな。
「閉じ込めたまま反応はなしか、私の動向を伺ってやがるな。ならその誘いに乗ってやるよ。モメントインセネレーション」
瞬間火力で周りの氷を溶かした瞬間、狙ったかのように二つの巨大な光の矢が飛んできた。
やっぱりな。
「フロウウィンド」
風の魔法で軌道を逸らして、光の矢の射線を外す。
その時空がいきなり曇り初め、上を向くと巨大な岩がこちらに落ちて来ていた。
光の魔法を使ってそれを真っ二つにすると、今度は炎が私の周りを取り囲む。
この程度の熱、熱くもなんともないがそれだけじゃないはず。
その時、突如炎を纏った風の刃がこちらに迫って来た。
「周りの炎を纏っての一撃、弱いな!」
この程度、わざわざ魔法陣を展開させる必要も無い。
切り替えで逆にその風を利用してぶつけてやる。
切り替えの構えを取って瞬間、周りが急激に暗くなる。
岩か!
瞬時にそう判断上を向いた瞬間、そこには巨大な拳があった。
「ゴーレム!!」
そのままゴーレムの拳が直撃し体が吹き飛ばされる。
そして何本かの木がへし折れてようやく止まった。
「っやられたぜ」
炎の檻は視覚を遮る事が本命、魔力を気取らせないように生成させたゴーレムを攻撃に使うのも中々考えてる。
「逃がすな、追撃しろ!」
「だが、この程度痛くもかゆくもねえぞ!ディザスタートルネード!!」
ゴーレムを吹き飛ばす程の風力で周りの全てを巻き込んでいく。
今度は制限もなく全てを吹き飛ばす程の力だ。
土、岩、木、ここにあるすべてを吹き飛ばし飲み込んでいく。
さあ、飲み込まれろガルア!
「逃げるわけには行かねえんだよ!」
その時、ガルア派の逃げる訳もなくそのまま真っ直ぐ竜巻へと向かって行く。
正気か!?一度でも入れば体がバラバラになるぞ、死ぬつもりじゃないだろうな。
だが次の瞬間、私が作り出した竜巻が一瞬にして消し飛んだ。
「な!?私の魔法を撃ち消したのか」
よく見ると爆発のような物が起きたと同時に大量の岩が降り注いだ。
あれはまさかゴーレムの残骸、それを使って私の魔法を消し飛ばしたのか。
そうだとしても自殺行為には変わりねえぞ。
全身きり傷だらけなのに、あいつまだやる気だ。
竜巻が消えたことで宙に浮かんでいた木々や土などが地面に勢いよく落下していく。
「っ!?」
いつの間にか魔法陣が二つ展開されている。
私は咄嗟にその場から逃げると、その後に魔法が発動され辺りを包み込み光が視界を覆う。
また、視界を遮るのが目的か、いやそれよりもどうして私は魔法を避けたんだ。
ガルアの魔法なんて喰らった所で効かないはずだ、まさか私があいつの魔法に対して身の危険を感じた。
あの執念に私が気圧された。
「最強だぞ、私はコアだ。そんな私が負ける何てことありえないんだよ!」
その時頭上から岩が降り注ぐ。
くそ、こいつが厄介だ、足場をどんどん奪われる。
そして逃げまどっている内に。
「っ!」
魔法の追撃が来る。
あいつは今空中に居る、無防備な状態魔法を撃てば余裕で殺せるが。
「ちっ上手く展開できねえ」
ただの雨だったら何てことねえ、だが土砂物や大小さまざまな岩、それに木々の葉や幹が降り注ぐ空中に魔法を展開させるのは容易じゃねえ。
更に魔法の追撃が加われば集中が出来ねえ。
「また岩か!」
転がって来る岩や木を避けて移動する。
問題なのは木々や岩に直撃する事じゃねえ、当たる事で生まれる隙を突かれることだ。
ていうか、この状況今地面に居るよりも空中に居る方が戦いやすいんじゃねえか。
まさかそれを分かったうえで、あいつは自ら竜巻に飛び込んだのか。
「ははっディザスターウォーターストーム!」
「っモメントウィンド」
風の魔法で移動したか、だが切り替えれば魔法は難なく打てる。
距離が空いてる分、威力や制度は落ちるがそれでも十分だ。
ガルアはこちらに絶え間なく魔法を放ち続けるが、私は切り替えや移動を駆使してそれらを防いでいく。
そしてガルアが地面に付いたところで、降り注いでいた木々や岩も落ち着いて行きまたゼロに戻った。
「がはっ!はあ、はあ」
「よくやった、魔力レベルの差がありながらよくここまで戦ったな。私は嬉しいよ、ガルアが立派に育ってくれて。だがここまでだ、分かってんだろ。もう魔力はねえ、傷も癒えずに広がるばかり、対して私はほとんど無傷。もう勝ち目はない」
「嘘つくな。体の奥に響いてるはずだぞ、かつの一撃が。それにスタミナも切れて来たんじゃねえか、いくらモンスター並みの体力があろうが柔らかくなった地面の上で岩や木々を避ける為に動き回ってたら、体力も落ちて行く」
見抜いていたか、上手く隠していたつもりだったが。
「だとしても何になる、魔力があればスタミナが無くなろうが関係ねえ」
そう、もう決着はついてる。
オリジナル魔法を撃つ魔力も残ってないだろう。
対して私はまだオリジナル魔法の発動魔力を残してる。
発動出来たとしても対処出来る。
「それともまだ無駄に戦い続けるのか?このままだとこの山が崩壊するぞ、ラミアも生き埋めになるかもな」
「研究所は並みのシェルターよりも強固だ。上からの圧力で潰れるわけがない」
「だとしてももう勝てる見込みはないぞ」
「諦める何て選択肢はねえ」
そう言ってガルアはこちらを睨みつける。
まだ死なねえか。
「はあ、強情な奴だ、そう言う所は変わってねえな。分かった分かった、ガルアとの戦いも思った以上に楽しめた。だからお前とラミアの命は取らないでおいてやるよ」
「何?」
「私だって鬼じゃない。一応お前らは私の子供だからな、殺すのは心が痛むんだ。だから見逃してやる。お前はラミアが助かればそれでいいんだろ。私も結果が決まった戦いにこれ以上付き合うつもりもねえ。それよりも今はガイスの方に興味があるからな」
さっきからこの島を包み込むような巨大な魔力を感じる。
何かデカい奴と戦ってるな。
あいつと合流すればその戦いに参加できるかもしれねえ。
「意味ねえんだよ」
「あ?何がだ」
「それじゃあ意味がねえんだ。俺がお前に勝たなきゃ、お前らが生きてちゃ駄目なんだよ!俺は沢山の間違いを犯した、その結果が今の現状だ。だからこそ、償わなきゃいけねえ」
「償いが私を殺す事なのか?それに何の意味がある、私はお前らのごたごたに何て興味ねえよ」
「やり直すんだ、最初から。一からラミアとやり直すんだ。本当の家族になる為に、二人で幸せになる為にはお前らが生きてちゃ駄目なんだよ!俺達はトラウマを乗り越えてやり直さなくちゃ駄目なんだよ!」
ガルアの激情は遮蔽物が無くなった山によく響き渡った。
家族をやり直す、つまり両親が居なくなった状態でようやく本当の家族に慣れるってことか。
「はは‥‥‥いいぜ、最初から私に家族なんてものはいない。そんな物はこの世で最も必要のない物だ。そんな物の為に命を落とすなんてお前にはぴったりだよ!」
その時、足元に魔法陣が展開される。
オリジナル魔法!?
咄嗟にその場から離れた瞬間、一瞬風が吹き土を宙にバラまいた。
「っぺっぺっ!土埃で視界を防いだところで意味なんて——————」
「王の領域!」
このタイミング!
私の移動先を狙っての展開。
魔法陣に足が付いた瞬間、直ぐに移動しようとして足に力を入れた時地面が滑った。
っ何度も土を巻き起こしたせいで柔らかくなっている。
これを狙っていたのか、ちっここに来てスタミナの低下が響く。
だがこの程度、地面に足が付いてればすぐに移動出来る。
私は無理な体勢からその場を離れる事のみに集中して地面を蹴る。
そして足元の魔法陣から離れることに成功する。
やった、これで本当に終わりだ。
もうオリジナル魔法は打てない、私の勝ちだ。
勝利を確信した時、違和感を感じ取った。
体が魔法陣から離れていない。
確実に地面を蹴り上げて体を動かしたはずだ、なのになぜ――――――
「ブレイクインパクト」
「——————っ!!!?」
瞬間、体の内側から爆発したような感覚に陥る。
全身から血が噴き出し、意識と気力が一気に削がれていく。
な、なにがおきたんだ。
とっさに後ろを向く、そして私は思わず目を見開いた。
そこには居るはずの無い者が私の背中に触れていた。
「ぜっ、たいかつ‥‥‥!」
なぜ生きている、お前は殺したはずだろ。
隠れるのだって不可能だ、魔法の連発により周りの木々は全て吹き飛び広範囲にも及ぶ一撃で近くに居れば確実に巻き込まれていた。
こいつに逃げる魔法なんて持っているはずがない。
「がふっ!」
足元がふらつく。
まずい、意識がおちていく‥‥‥
「っがああああああああああああ!!!」
私はその瞬間、大量の魔法を展開していく。
魔力を使う事により意識を繋ぎとめる為だ。
絶対に負けない、絶対に負けられない。
こんな一撃ですべてをひっくり返されるわけには行かない!
「ガルア!止めを刺せ!」
「おう!」
トドメ‥‥‥させるか!
「チャージキャノン!」
「王の領域!」
すべての魔力をかけたオリジナル魔法。
だがガルアはそれに目もくれることなく、私に向かって魔法を向けて来る。
死、直感的にそう察した。
ガルアは差し違える覚悟で私に一撃を浴びせようとしている。
ここで死ぬのか私は、これが私の人生の終わり?
そう思った時、かつての記憶が蘇って行く。
自分の人生のアルバムを見ているような、そんな感覚が私を襲った。




