その五十七 ガルアのターン
「かつーーーー!!」
コアの魔法が邪魔でここからではよく見えなかった。
直撃したのか、いや範囲が広い魔法だ。
上手い事逃げた可能性もある、とにかく早く行って確かめないと。
俺はすぐにコアの魔法を全て撃ち落としてかつが居た場所へと向かう。
「健気だね」
かつは今までいろんな強敵と戦って来た。
島王選でもそうだ、黒の魔法使いと戦い生き残った。
俺の知らない所で戦い続けてそしてここまで生きて来たんだ。
だからこそ俺はお前を認めていた、どんな逆境でも諦めないかつの姿を見てお前と一緒ならコアに勝てると本気で思っていたんだ。
だから、大丈夫、大丈夫だ。
かつはそんな簡単にはくたばらない。
「かつ!かつ!何処だ返事をしろ!」
辺り一面遮蔽物無し。
すべてが燃やされ灰すら残されていない。
地面にはまだ熱を帯びた石や草木が転がっている。
ほんの少し触れただけでボロボロと崩れていく。
まるで溶岩地帯だ、熱気が辺りを包んでいる。
近くには居ない、恐らく山の木々の中に隠れて気を伺って――――――
「死んだよ」
俺の思考を遮るようにコアの残酷な言葉が頭に入り込んで来た。
死んだ、あいつが死んだだって。
違う、そんなわけがない。
「認めるよ、あいつは強かった。だが圧倒的に足りない物があった。どれだけ強力な魔法を持とうが、身体を鍛えようが、魔力を持ってようが結局は魔力レベルがすべてを制する。絶対かつの魔力レベルはそれほど高くねえだろ?あの時、足に絡めた魔法を何とかしようとした使った魔法は明らかに低レベルの物だった。あの状況であんな魔法は使わない、それならそれしか使えないってことだ。特異体質で魔力と魔力レベルが一致しないようだけどそれも――――――」
「うるせえ、ペラペラペラペラと戦いはまだ終わってねえだろ」
その言葉を受けたコアは一瞬驚いたように目を丸くさせると、その直後に笑みを浮かべる。
「何だ、意外と平気そうだな。涙の一つでも出ると思ったが。所詮は一時的な協力者ってわけか」
「涙何て出るわけないだろう。お前が生きてる限り怒りの感情しか湧き上がって来ないんだからよ」
俺は行った、誰が死のうが最後まで戦い続けると。
かつ、俺は戦うぞ。
俺の家族を取り戻す為に。
「ようやく家族水入らずになったって言うのに、殺し合いは避けられないか。でも、それがいい!」
その瞬間、コアは二つの魔法陣を展開させる。
炎と風、爆発的な風圧と熱気が辺りを包むが決して山火事になる事はない。
魔力の操作により余計な被害を出さない為だ。
あいつにとってもこの山は戦場の舞台だ、むやみに破壊すれば動きにくくなる。
「ティックアイスドーム!」
自分の身を守る為に強固な氷のドームを形成する。
冷静になろう、コアが使用する魔法はどれも基礎魔法とは違い、自分で考えて自由に作り出すことが出来るフリーの魔法。
オリジナル魔法とはまた別の他の人にも覚えられる魔法だ。
だがその魔法は現在では使える物は少ない。
過去の記憶を失わずにいた奴は覚えているだろうが、現在記憶を取り戻した奴は再び魔法陣を見なければ思い出すことも出来ないだろう。
そしてコアが使う物はその中でも強力な物、何大抵の魔法じゃ太刀打ちできない。
でも、勝てないわけじゃない。
「そろそろ耐久力も限界だな。氷が開いた瞬間が勝負だ」
氷を削るような音が聞こえて来る。
熱と削りでここを破壊するつもりだ。
あの嵐の中に入れば火傷では済まない程の熱と体が細切れになるほどの嵐が吹き荒れている。
なら、最初にすべきことは。
「いつまで籠ってるつもりだ!せっかくタイマンしてんだ。もっとやり合うじゃねえか!」
「アイアンギガゴーレム!!」
俺は氷が破壊される瞬間、魔法陣から最高高度のゴーレムを出現させる。
鉱石を纏ったゴーレムはちょっとやそっとじゃ破壊されることはない。
「へえ、そんなもんも出せるのか。面白いね、現代の魔法ってのは!ディザスターウォーターストーム!」
ものすごい勢いで高水圧の水の大砲がアイアンギガゴーレムに直撃する。
すると最高高度のゴーレムの体を貫通して見せた。
「嘘だろ!最高高度だぞ!」
「こんなもんじゃないだろ!久しぶりの戦いでようやく体が暖まって来たんだ、失望させるなよ!」
本当の化け物だ、やっぱりあの時あいつが言っていた通りだ。
こいつはただ強くなることを求めている怪物だって。
「ツインフルライトニングアロー!!」
「おっと中々のスピードだが、魔法を使うまでも」
「ソードロックマウンテン!」
光の二つの矢を回避した状態でさらにコアの地面に剣山を展開させる。
あの態勢では避けることは出来ないだろう。
だがコアは右手を突き出した瞬間、一瞬にして俺が出現させた剣山が凍り付いた。
「なっ!?」
「だから言っただろ、このレベルの魔法じゃ私は倒せない。はあ、つまらないな。お前の実力はその程度なのかよ。何のためにお前を産んだと思ってんだ」
「何だと」
「お前は私を超える最強の敵として立ちはだかって欲しかったんだ。そうする事でお前を殺した私が最強だとようやく認められる。その為に手塩に育ててやったのに、何も変わってねえなお前は!」
その瞬間、空中に巨大な魔法陣が出現する。
そしてそこから巨大な岩石が現れる。
いや、あの大きさと形は隕石!
「ディザスターミーティアライト!」
「くそ!!アイアンギガゴーレム!」
落ちて来る巨大な隕石に向かってゴーレムが拳をぶつける。
一瞬、空中で隕石は停止するがすぐにゴーレムの腕を潰してその勢いを衰えさせることはなかった。
直撃はまずい。
直ぐにその場を撤退したその直後、大きな衝撃音と地響きが山全体を揺らした。
おまわぬ衝撃に体が吹き飛ばされるも、何とか木にぶつかる事で山から転がり落ちることはなかった。
それでもかなり吹き飛ばされた、全身が痛む。
「っ!」
直後、直ぐに体を叩き起こして風の魔法でその場から離れると一瞬にして木が焼け焦げた。
「もう諦めろよ。ガルア一人じゃ私に勝つことなんて不可能。魔力の差も性質も段違いなんだよ」
「はあ、はあ、はあ‥‥‥」
「もう気付いてるだろ。私の魔力レベルは二十五だ。せいぜい十八から十九くらいはだろ?その時点で勝敗は決まってる。絶対かつを連れてきたのがその証拠だ」
「一人でも勝つ、ラミアを助ける為に」
そうだ、俺は絶対に勝たなきゃいけないんだ。
こんな所で負けるわけには行かない。
「お前が居るだけで、ラミアは幸せになれない。俺達は自由になれないんだよ!」
「人のせいにするなよ、自分の力不足なだけだろ。弱い奴はただ蹂躙されるだけだぞ!」
「だからお前を殺すんだろうが!アイスドーム!」
俺はコアを氷の檻に閉じ込める。
「いまさらこの程度の氷魔法、どうってこと‥‥‥魔法が使えない」
「お前を閉じ込めると同時に地面に魔法陣を張った。氷の中じゃ魔法を使わないと出られないだろう」
コアはまだ病み上がりだ、数年間ずっと眠り続けていれば筋力も落ちる。
魔力の補給は出来ても体力の回復や筋力の回復は出来てないはずだ。
これなら確実に入る!
ドームが緩衝材になるだろうが、それでも十分な威力だ。
「炎撃!!」
俺が渾身の一撃を放つと同時に突然氷の檻が砕かれた、その後魔法をぶつけるがもうすでにそこにはコアの姿はなかった。
そしてすでに離れた場所にコアが立っていた。
「何で、お前の何処にそんな力が」
「筋力が衰えてると思ったか?確かに鍛えることは出来なかったが、それでもこの程度なら容易だ」
半獣は確かに人間よりは筋力がある。
だが俺の魔法で作り出した氷の壁だぞ。
いくら何でもそんなこと出来るのか。
「研究者が半獣の実験を行った時最終的にモンスターと半獣の組み合わせが最適解だと編み出した。そしてその結果、人間の部分とモンスターの部分、どちらをどのくらい締めれば生態として成立するのかの実験に入った」
「まさかお前」
するとコアは自身の口を引っ張り鋭い奥歯を見せて来た。
「私はモンスターの部分を多く残してる。だから他の奴よりも筋力があるんだよ」
「モンスター寄りの半獣、なるほどなだからそんな力が残ってたのか」
「そういうこと、さてこれで肉弾戦でも勝ち目が無くなったわけだがガルア私にどう勝つつもりだ?」
「身をもって味わえよ、メガロックスタンプ!」
コアの真上に巨大な岩を落とすが次に瞬間、真っ二つに切られる。
だが俺は休むことなく魔法を放ち続けた、そしてコアの元へと近付いて行く。
遠くから魔法を放つのは駄目だ、完全に動きを封じて撃たないと逃げられる。
オリジナル魔法を撃つ魔力も少なくなって来た、次で決める!
「近づいてきて何するつもりだ。接近戦はお前の方が不利だろうが!」
「ヘルファイヤーバインツ!」
炎獄の一撃がコアの元へと向かって行く。
それをコアは氷の魔法で防ぐとわずかにその場を離れた。
チャンスは一度きり、絶対に外さない。
コアの後ろに魔法陣を展開させる。
「フルライトニングアロー!」
「くっ!」
切り替えでそれを弾いた瞬間、その先に透き通った氷を張る。
それにぶつかる事でより多くの光の矢がコアの元へと向かう。
「有象無象が!」
今だ、この隙にもう一度魔法陣を展開させる。
そう思った時、コアがこちらを見た。
その時背後に魔法陣が出現した。
しまった!先に魔法を展開させられた!
俺はすぐに足を止めて後ろに切り替えて魔法をぶつける。
コアはその無数の矢に直撃する。
「この程度の魔法、いくら喰らった所で意味がない。無駄に終わったな」
「いや、無駄じゃないぞ」
あと、もう一撃!
俺は地面に向かって岩をぶつけた。
その瞬間、山が大きく揺れ始めると立っている地面に亀裂が入る。
「何!」
そして立っていた地面が一気に崩れ落ちて行く、俺達は一緒に落ちて行った。
「ここまで魔法を山に向かって打ったんだ。そりゃあ山崩れも起きるさ」
「これを狙ってたのか!」
「空中じゃ身動きは取れないだろ!王の領域!」
俺はコアの真下の空中に魔法陣を展開させる。
今度こそ入る、これで決める。
死ぬかもしれない状況でコアは何故か笑みを浮かべた。
「何で笑ってんだよ‥‥‥」
「さすが私の息子だと思ってね、ここまで追い詰めて来るとは思わなかったよ。でもさ、私達が作った魔法に対して何も対策している訳ないだろ?」
そんな意味深な言葉を言った時、何かが俺の目の端に入った。
咄嗟にその方向を見て見ると、そこには見た事のない魔法陣が展開されていた。
「な、何だよこれ‥‥‥」
「私のオリジナル魔法、チャージキャノン。このオリジナル魔法は作られた瞬間に常時発動している。魔力を溜め続け私の命が危機に瀕した時発動される。強制発動魔法さ」
巨大な魔力の塊がその瞬間、俺に向かって振り注がれた。




