その五十六 絶対かつのターン
「ガルア、トドメはお前に任せたぞ。サポートは俺に任せておけ」
「ああ、恩に着る」
「さてとお手並み拝見と行こうか」
コアは余裕たっぷりで俺達の動向を伺う。
むやみに魔法を放つことは出来ない、魔力も大切に使わないとな。
そう思った時、足元に魔法陣が出現する。
いきなり――――――
「かつ!」
「もう終わりか、呆気ねえな」
「誰がだよ」
俺は瞬時に移動してコアの背後にまわる。
俺が居た場所は既に黒ずんでおり、もし逃げ遅れれば一瞬で体が灰になっていただろう。
範囲は最小限なのに威力は絶大だ。
魔力コントロールが繊細なんだ。
だからこそ決着は早めにつけたい。
俺は右手を突き出してインパクトを放つ構えをする。
「遅い」
だがすでに予想していたのか、コアは同じように手を突き出してくる。
切り替えか!
まずい、コアの方が魔力の集まりが早い先に打たれる。
そう思った時、コアの足元に突然魔法陣が発動される。
するとコアの手が一瞬止まりすぐさまその場から離れる。
これは王の領域。
「様子見するんじゃなかったのかよ」
「中々動きを見せないからな、つい手を出しちまったよ。足手まといが居て大変だな。先に消した方が戦いやすいんじゃねえか」
「あいつの強さはこんなもんじゃない。油断してると足元掬われるぞ」
「なら、見せてくれよ!」
今度は最初に放った魔法陣よりも大きな魔法陣を展開させる。
あの魔力量はやばい!
「ディザスターウォーターストーム!!」
すると魔法陣から巨大な水の渦巻きが出現し、地面を抉りながらこちらに向かって来た。
直ぐにその場を離れると俺は木に飛び移りながら、攪乱させる。
「スピード自慢か!全部ふっ飛ばせば意味ないだろ——————」
「よそ見するな。グランドロック!!」
ガルアがコアに向かって魔法を放つ。
地面から巨大な岩が出現しコアを押しつぶそうとする。
「ディザスタートルネード!」
だがすべてを飲み込む荒々しい竜巻により岩がすべて吹き飛ばされる。
あの質量を吹き飛ばすなんてどんな風の強さだよ。
まずい、近くの木々も一緒に持ってかれる。
「そう寂しがるなよ。後でちゃんと相手してやるからさ、先ずは邪魔者を排除してからだ」
「それって俺の事か!」
「それしかねえだろ!ディザスターベッドロック!」
すると山の地面が突如盛り上がり崩れていく。
それにより木々が地面の中に飲み込まれていく。
足場が消えて行く!
「何でもありだな!」
「地面が無ければスピードは半減、次こそは当てる。ディザスターウォーターストーム!」
地面が揺れて足場が崩壊する事で一時的に動きが止まってしまった。
そこを狙い撃つかのようにコアが魔法を放って来る。
「ディスペーションウィンド!」
だがそこにかぶせるように鋭い風の魔法がこちらに向かってくる。
そして俺に向かって放たれた水の魔法がそれによりかき分けられ、何とか直撃は避けることが出来た。
地面が崩壊したことで一部が切り取られたような形になっている。
丁度コアが乗っている部分だ、端っこに強い衝撃を与えればシーソーの様に勢い良く上に上がるはず。
威力は最小限に魔力消費をなるべく抑えて。
「インパクト!」
地面が勢い良く盛り上がりそこに立っていたコアが空へと飛んで行く。
「っへえ、空中に飛ばせば身動きが取れないと思ってたのか。だけど魔法使いにとってそれは意味ないぞ」
「それはどうかな」
俺はすぐさま空中に居るコアの元までひとっとびまで辿り着く。
「っ!?いつの間に」
「喰らえよ、俺の一撃を!」
「扱え切れてない癖にいっちょ前にゼットの魔法を使ってんじゃねえよ!」
コアが対抗するかのように魔法を放とうとした瞬間、俺は空中で身を翻す。
「言っただろ、トドメは任せたって」
「何!?」
俺がコアから離れた瞬間、俺の後ろに隠れていた魔法陣が姿を現す。
「喰らえよ、コア」
「っ魔法が放てない‥‥‥!」
コアは知らない、ガルアのオリジナル魔法が体に触れていなくてもその魔法陣の範囲の中に入っていれば効果を発動する事を。
「これで終わりだ!」
「馬鹿だね、それは私とあいつが作ったオリジナル魔法だよ。お前よりもその魔法には詳しいんだよ!」
その時コアの肩腕に大量の魔力が集まって行く。
コアは知らない、すでにそれが俺達が知っていることを。
「風槍!」
「何!?」
ガルアが放った魔法は強烈な風を纏った巨大な槍だった。
だがそれはコアの横を通り抜ける。
それはコアが魔力暴走の爆発の勢いで逃げることを想定していたからだ。
その二つがぶつかり合う事により相殺され、コアはその場に止まる事になった。
「くっだが忘れたか!その魔法はもう一度打つには数秒のインターバルを要する!私の動きを想定して魔法を撃ったのは褒めてやるが、もう一度打つ時には私は地面に付いてるぞ」
「だから俺が居るんだよ!」
コアは知らない、俺の魔法がすでに完成されていることを。
最初にコアにガルアが止めを刺すことを教えることで警戒をそちらにだけ集中させる。
実際コアは俺の事を全く警戒してなかった。
むしろバンバン魔法を出して俺を早々に倒そうとしていた。
だからこそこれにも全く警戒を示さないはずだ。
「また来たのか、お前如きの魔法なんて当たった所で痛くないんだよ」
やはりコアは避けることを諦めてそのまま魔法を受け入れる姿勢だ。
コアは魔法陣の中にまだ入っている、効果発動中ガルアよりも魔力抵抗が落ちている。
魔力レベル十八のガルアよりしたと言う事は魔力レベル十七、これで対等。
ただでさえ魔力抵抗を貫通する俺のオリジナル魔法で上下がない状態なら、百パーセント以上をぶつけられる。
そして俺は魔力レベルがガルアよりも下だからコア様に発動させたオリジナル魔法の効果範囲外。
魔法も打つことが出来る。
これは俺とガルアが作り出した、絶好の機会絶対外さない。
コアは知らない、もう既にお前は負けていることを!
「ブレイクインパクト!」
「——————っ!!!?」
コアの体に触れた放った一撃はそのままコアを真下の地面に叩き付けた。
「うぐっ!」
そして俺もそのまま真っ逆さまに落ちて行く。
一撃はいれた、いれたんだが。
「失敗した‥‥‥」
「かつ大丈夫か!!」
ガルアが慌ててこちらに駆け寄って来る。
俺は痛み右腕を抑えながらゆっくりと立ち上がった。
「すまん、ガルア。力み過ぎた。最初は成功したんだが、それ以降は魔力が外に漏れた。決定打にはなってない」
その時、コアが落ちた場所で物音が聞こえた。
大きな穴が出来ておりそこからコアの腕が出て来た。
「やってれくたな、ガキ共。それ以上にガイスの野郎私に嘘つきやがったな!!」
コアは怒り狂った様子で空に響き渡るほどの大声を出す。
やっぱり倒せてはない。
でもダメージは入ってるはずだ。
「がはっ!ああ、畜生。体の芯に響き渡るこの感じ、懐かしさと腹立たしさが蘇って来る。なるほど、本当にゼットのオリジナル魔法と息子か」
コアは口元の血を拭きとるとゆっくりと体を起こす。
いくら少ししか入ってないとはいえ、ガルアのオリジナル魔法を受けた状態での一撃だぞ。
もう少しダメージがあってもいいだろ。
「認めてやるよ、お前は今から私の敵だ!」
そう言ってコアはこちらを見据える。
前とは違う、しっかりと警戒されたうえでの敵意。
もうさっきまでの油断した上での一撃は入れられない。
そう簡単に当てることは出来なくなった。
俺のミスだ、あんな絶好の機会でミスをするなんて。
「かつ、落ち込んでいる暇はないぞ。切り替えろ、まだ戦いは終わってないぞ」
「そうだな、悪い。こっからだよな」
くよくよ考えても意味がない。
失敗したなら次だ、次こそ決めてやる。
「立ち直ったか、だがもう先程の様な一撃は入れられないぞ!」
その時二つの魔法陣が瞬時に展開された。
しかもどれも強力な一撃だ!
「ディザスターブリザード!ディザスターウォーターストーム!」
氷と水が混ざり合い周りが一瞬で凍り付く。
まずい、このままだと氷漬けにさせられる。
「ロックタワー!」
ガルアが咄嗟に岩の塔を形成し、より高く行く事で回避しようとする。
だが岩の塔すら瞬時に凍り付いて行く。
この場に留まって居たらやられる。
「ガルア、飛べ!」
俺はガルアと共に岩の塔から飛び降りる。
それを待っていたかのようにコアが魔法陣を展開させる。
「空中じゃ、私の魔法の速さには対応できないぞ!ディザスターディザスターエレプション!」
「これはまずい!」
「かつ、後ろに飛べ!」
「え?分かった」
俺はすぐに後ろに飛ぶと、コアの魔法陣から勢いよくドロドロに溶けた炎の塊が向かって来た。
だがガルアはすぐに魔法陣を展開させる。
「アイスバーグ!!」
巨大な氷の山が現れるとコアの放った魔法に触れた瞬間、大きく弾かれた。
それにより軌道がそれて何とか外すことが出来た。
まるで火山噴火だ、あいつの魔法はどれも災害レベルの威力だな。
降り注いだ炎の塊と熱さで先程凍り付いた地面が解けていく。
何とか体勢を立て直そうとした瞬間、目の前に魔法陣が出現した。
「っ!ウィンド!」
「ファイヤーウィップ!」
炎の鞭のような物が逃げた俺の足に絡みついて来る。
「あつ!?」
「これで自慢の脚力で逃げることは出来ない」
「かつを離せ!ウォーター――――――」
「邪魔をするなよ、ライトブレイブ!」
無数の光の剣がガルアの元へと飛んで行き、ガルアの足止めをする。
俺は風の魔法を使って何とか吹き飛ばせないかと試みるが、がっちり絡みついていて逃げることが出来た。
その瞬間、新たな魔法陣が展開される。
「死ね、モメントインセネレーション!」
爆発的な炎は一瞬でこちらに迫って来た。
この速さ、この状況、避けられない。
直撃する!
そう悟った瞬間、俺は死ぬことを決めた。




