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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その五十三 ヒーローに成れなかった者達

「死ぬか、生きるか。選べよ」


まるでこの状況を楽しんでいるかのように、トガはこちらに選択肢を迫って来る。

どうする!?今の俺達の実力じゃ、原初の半獣には敵わない。

かと言って、薬を渡したところで本当にこいつが戦ってくれるとも限らない。

いや、むしろ逃げる確率の方が高いだろう。

目の前の敵は規格外の強さを持っている。

こいつが素直に真正面から戦ってくれるのか。


「逃げて‥‥‥!」

「っ!?」


いつの間にか原初の半獣は巨大な魔法陣を展開させていた。

しかもあの不気味な模様は何だ。

禍々しい魔力を感じる。

その魔法陣が一際輝いた瞬間、黒い稲妻が次々と降り注いでいく。


「まじか!!」


俺はすぐにその場から離れて別の部屋へと移動する。

だがその一撃の強力さは壁すらも破壊して、部屋が一瞬にして消し飛んだ。

その衝撃に体が吹き飛ばされて俺は地面を転がる。


「何だ今の魔法は!規格外すぎるだろ!」

「こりゃあたまげたな。禁断の魔法まで常駐してんのかよ。始まりの半獣も伊達じゃないな」

「禁断の魔法だと!?悪魔に魂を売る事で強大な力を得ることが出来る禁忌の魔法だろ!何の代償も無く使えるのかよ」

「代償か?それならもう十分払ってるだろ」


そう言ってトガは原初の半獣を指差す。

そう言われればそうなのかもしれない。

あの姿で一生を生きていかなければいけないのなら、十分すぎる程の代償だ。


「ハイト‥‥‥」


するとツキノが頭から血を流しながらふらついた足取りでこちらに向かってくる。


「ツキノ!?逃げ遅れたのか!」

「大丈夫‥‥‥吹っ飛んで‥‥‥頭ぶつけた」

「魔法じゃなくても大丈夫じゃないだろう」


俺はすぐに服の一部を破ると血が流れている箇所に強く当てる。


「これで傷口抑えとけ。マイトを呼んで迎えに来てもらおう」

「駄目‥‥‥戦える‥‥‥」

「だが無理してさらに傷が深くなったらどうするんだよ」

「大丈夫‥‥‥」


ツキノ、まさかここまで強情な奴だとは。


「おい、話をしてる場合じゃないぞ」

「何!?」


するとまたもや巨大な魔法陣が展開されていた。

そしてそれが輝いた瞬間、全てを飲み込むような巨大な炎の渦が一瞬にしてこちらに迫って来た。


「ロックタワー!」


すぐさま岩の塔を出現させて上に行く事で何とか直撃は避けた。

だが過剰な火力により直撃した岩の部分が一気に崩れ始めた。


「クソ、持たないか!」


炎はまだ地面に残ってる。

このまま落ちれば炎の中に生身で飛び込むことになる。


「ウォーターガッチメント‥‥‥」

「ツキノ何を――――――ごぼっ!?」


何でいきなり水の中に閉じ込めたんだ。

するとツキノはもう一度魔法を使った。


「プリズンブレイク‥‥‥」

「っ!?」


その瞬間、俺の体は凍り付いた。

体が動かない、どうしてこんな事をしたんだ。

まずい、意識が遠くなって‥‥‥


「っあつ!!」


意識を失いかけた瞬間、全身に一気に熱に覆われた。

それにより何とか意識を失わずに済んだ。


「あれ?いつの間にか氷から出てる?」


さっきツキノに体を凍らされて閉じ込められたと思ったんだが。

もしかして炎に直接当たらない様にわざわざ凍らせたのか。


「ツキノ、助かった。ありがとう」

「どういたしまして‥‥‥きゅー」


するとツキノが突然その場に倒れた。


「ツキノ!?」


俺はすぐにツキノを抱きかかえると、苦しそうに肩で息をしていた。

まずい、傷口が急激に凍らされたことにより余計に悪化してる。

やっぱりすぐにでもマイトを呼ぶべきだった。


「マイト、直ぐに応援を!マイト?くそ、さっきの氷で壊れたのか」


もしくは熱に耐えられなかったのか、どちらにしろ壊れたらもう応援は呼べない。

するとまたもや原初の半獣は再び魔法を放とうとしてくる。

まずい、もう逃げ場がない。

一発撃つ時のインターバルがあるがそれでも逃げる時間には短すぎる。

どうすれば。


「絶体絶命のピンチだな」

「っトガ‥‥‥」

「あと数分後には死ぬだろうな。今のお前等にもう避ける体力も魔力も残ってねえだろ。かと言って助けを呼ぼうにも通信機は壊れてる。もう俺を助けるしか方法は残ってねえんじゃないのか?」

「お前、わざわざこうなる事を見越して様子を見てたのか」

「さあ、どうだかな」


こいつ、真意は分からないが確かに状況的に助かる方法は一つしかない。

だが、本当にそれで良いのか!?


「時間はもうないぞ。そろそろ魔法を放つ時間だ。それとも仲良く死にてえのか?」


俺は懐から薬を取り出す。

どうやら薬自体はしまってたから無事みたいだ。

これを渡すことで本当に助かるのか。


「迷う時間がもったいねえぞ!どうせ渡すんなら迷った所で意味ねえだろうが!さあ、寄こせ!生きてえんだろ!」

「くそ!!」


俺はトガに向かって薬を放り投げる。

そしてトガはそれを受け取ると、すぐさま首に打ち込んだ。


「へへっようやくこのクソみたいな呪縛から解放されたぜ」

「おい!魔法が来るぞ!」

「だな、お前等も早く逃げた方が良いぞ」

「何!?お前、俺達を見捨てるつもりか!」

「用なしを助けて意味あんのかよ」


こいつ!やっぱり信用すべきじゃなかった!

すると先程まで空中に展開されていた魔法陣が輝きだした。

まずい、来る!

立ち上がろうとしたが、力が入らずにそのまま膝を付いてしまう。

駄目だ、これじゃあ逃げられねえ。

俺は抱きかかえているツキノを抱きしめる。

悪いツキノ、皆。

死を覚悟し、目を瞑った瞬間近くで物凄い衝撃音が響き渡る。

それからなぜか静寂が辺りを包む。

痛みは一向に来ない、それとも俺は痛みすら感じずに死んだのか?

そのまま俺はゆっくりと目を開いた。


「っ!?何だこれ‥‥‥」


目の前に何故かトガが立っており、その横では巨大な岩の剣が壁に深く刺さっていた。

まさか、この一撃を防いだのか。


「まあ、お前等は用はねえが薬を貰った借りぐらいは返して置いてやるよ」


こいつ、こんなに強かったのか。

その時、何処からともなく騒がしい声が聞こえて来る。


「であえであえ!私達が来たぞー!」

「メイ!あんまり前に行きすぎないで、さっきの衝撃と言い何が起きてるか。てっ何あれ!?」

「ぎゃー化け物だー!!」


あいつらは確か元かつの仲間のメイとぺプロとカッビっとか。

というかそれ以外にも大勢来てないか。


「おいおい楽しそうじゃねえか!俺も早く混ぜろ!」

「ちょっと待ってください。状況がまだ掴めていません。ハイトさん達大丈夫ですか!助けに来ましたよ」


そう言うとリドルたちが一斉にこちらに向かってくる。


「リドル、ここがよく分かったな」

「ちょっと黒の魔法使いに協力をしてもらいました」


リドルは後ろに付いて来ている黒の魔法使いを指差す。

やっぱり他の奴らも来ていたのか。

するとトガが嬉しそうに大声でクラガ達の方に行く。


「お前ら遅かったな!先に祭りに参加してたぜ!」

「何が遅かっただ。俺達は自分の役割を全うしてたんだよ。お前の方が何先に戦ってんだよ。早死にしたいのなら、構わないけどな」

「何だとアルバ!俺は負けねえよ!」

「くだらない喧嘩をするな。それよりもあれが原初の半獣か。半獣というよりもモンスターに近い形態をしているな」


黒の魔法使いが合流したのはあまり喜ばしい事じゃないが、状況が状況なだけに少し頼もしいと思ってしまうな。


「リドル、ツキノを早く送ってくれないか。俺の通信機が壊れちまったんだ」

「なるほど、分かりました。それならすぐにマイトさんを呼びましょう」

「そのままお前らは帰れ」


クラガは俺達に向かって言葉を放った。


「目的は達成された。もうここには用はないはずだ。お前らの勝利だ」

「美味しい所だけ持って行くつもり」

「ぺプロ、何でわざわざそんなこと言うんだよ。せっかく帰れるチャンスなのに」

「この状況はお前らには荷が重すぎる。そもそもこの化け物を対処するのが作戦のうちに合ったのか?」

「ここにこの様な税物が居ること自体初めて知ったので、もちろん作戦にはありませんが。この生物が野に放たれた場合の事を考えると放ってはおけませんね」

「それなら安心して帰ろ。奴は俺達で消す」


妙な自信だな、クラガはそもそもこいつが居ることを知っているような口ぶりだがそれでもなお勝てるっていうのか。


「俺達の目的は研究所の破壊ともう一つ、現存する強化生物の排除だ。奴がここを半獣の実験場に選んだのは生物の研究所だからという以外に、まだ眠っているモンスターをのちのちの侵略に奴隷として利用する為だ。こいつらが奴の手に落ちればいよいよ止められなくなる」

「それ本当かよ。ガイスはこんな化け物も従えようとしてるのか」

「これで分かっただろ。俺達がやろうとしていることは貴様らに取ってもプラスに働く。だから黙ってこの場を去れ」


クラガの言う通りならここは大人しく下がった方が良いだろう。

まだこれは序章に過ぎない、これからガイスと直接やり合う事になるならこれ以上は傷を負いたくない。

リドルはどう考えてんだ。

チラリとリドルの方を見ると少し考え込むように、視線を下に向けてからクラガの方へと視線を移す。


「なぜこんな危険なことをわざわざやるんですか?自分の命を危険にさらしてまで、憎かった半獣を助けるような行為をするのですか?」


その問いにクラガは鼻で笑った。


「恩人があいつに殺された。理由はそれで充分だろ」


それだけ言うとクラガ達は化け物の前に立つ。


「状況が変わったんだ。もう俺は貴様らを殺そうとは思わない。貴様らに関わるつもりもない。だからこれからやる事は俺達のささやかな復讐だ。お前らは関係ない」

「そうですか‥‥‥分かりました。あなた達の自由にしてください。その代わり尻拭いをするつもりはありませんよ」

「おいおい、そりゃどういう意味だ!俺達が負けるとでも思ってるのか!」

「どれだけあなた達が変わろうが、時間が経とうがあなた達に対する僕の評価は変わりません。なので感謝をするつもりもありませんよ」

「言っただろ、貴様らに関係が無いと」

「何なのあの言い方。まあリドルさんがそう言うなら私達も身を引くけど」

「ねえ、ねえ、あの人にも牛乳上げたら喜ぶかな?」

「メイ、あんな化け物に牛乳を上げるのはやめてくれよ。俺の心臓が持たない」


どうやら話し合いは終結した様だ。

すると魔法陣が出現し、そこからマイトが出て来る。


「さてと、作戦は終わったみたいだね。ご苦労様、珍しいお客さんもいるみたいだけど‥‥‥それよりも気になる物があるね」


マイトはじっと佇む原初の半獣を見て冷や汗をかく。


「マイトさん、僕達は研究所を出ます。なのでケガをしてる人を優先的にテレポートさせてください。残った物は各々でテレポートするので」

「了解、それじゃあさっさとこの場を離れようか。取り消しの付かない事になる前にね」


そう言ってマイトは重傷者を連れて先にキンメキラタウンに戻って行った。

そして残った俺とリドルとガイもテレポートの準備を進める。


「最後に一つだけ言ってもいいですか?」

「早くしろ。奴もいつまで経っても大人しくしているわけじゃないぞ」

「分かっていますよ。これから言うのはタクトとしてではなく、リドルとしてです」


そうリドルは前置きをして、クラガの方を真っすぐと見る。


「ミノルさんを助けてくださりありがとうございました。それでは」


それだけ伝えるとリドルは魔法陣を展開させる。


「ちぇあいつと戦いたかったのにな」

「やめておけ死ぬだけだ」

「テレポート!」


そして俺達も研究所から脱出する事になる。



―――――――――――――――――――――

そして残された黒の魔法使いたちは原初の半獣と対峙していた。


「まさかお前が人からお礼される何てな。もしかして今日死ぬんじゃねえの」

「こんな状況でそんな縁起の悪いこと言うなよ。現実味がありすぎるだろ」

「命日かも」

「死ぬつもりはない、俺達は生きる。先生の分までな」


クラガは一歩前へと出る。

そこには迷いはなかった。

先程まで沈黙していた原初の半獣が再び敵を補足し攻撃の準備に入る。


「まさか当時はこんな事になる何て思いもしなかったよな。確か俺達はこの島のヒーローに成れるとか言われてたか?」

「ヒーローという割にはチームカラーが悪っぽいけどな」

「でもそれがいい」

「ヒーローなどになるつもりはない。ただ俺達は自分の運命から逃れようとしただけだ。あの日からずっとな」


原初の半獣は再び巨大な魔力を生成する。

それにより繰り出される魔法は今までの物よりもはるかに強力な物だった。


「行くぞ、貴様ら!」

「指図すんじゃねえよ!」

「覚悟はもう決まってる」

「行こう」

「ふん、相変わらず生意気な連中だな。だが、それでいい」


黒の魔法使いは一斉に原初の半獣と戦闘を始めた。

そしてその決着はすぐに付くこととなる。



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