その五十二 口喧嘩はほどほどに
「原初の半獣‥‥‥」
不穏な言葉に僕は思わず息をのむ。
「何々?願書の半熟?」
「メイ違う、原初の半獣、つまり始まりの半獣って事でしょ」
「何かすごそうな肩書だな。そいつがこの研究所に今いるのか」
「そう言う事だ。だからお前らはすぐにここを出ろ。この研究所は後に破壊させる」
「なるほど、この研究所に侵入した目的は研究所の破壊ですか」
僕の言葉にクラガは威圧的な視線を向ける。
するとアルバさんが喧嘩腰にこちらに絡んでくる。
「俺達の作戦内容をそう簡単に言う訳がないだろう」
「うん、研究所の破壊が目的」
「サキ!?何で言うんだよ!計画外の行動をするなよ!」
「どうせバレてるから、黙ってても意味ない」
まさかこうも簡単に喋るとは、僕も予想外でしたね。
「はあ、まあいいだろう。どうせ研究所を壊すことを明かしたとしても貴様らが俺達を止める理由にはならないだろう」
「それは他の理由にもよるけどね。私達を巻き込もうとしてるなら、見過ごせない」
「だから立ち去れって言ってるだろう。お前らの仲間もその通信機器で応援を呼べるんだろ。なら先に戦線を離脱しても何の問題もない」
クラガの言っている事は概ね正しいでしょう。
通信機がある限り、僕達が研究所を離れても後ほどマイトさんに任せれば二人を脱出させることが出来ます。
ですがそれはあくまでツキノさん達が素直に認めたらの話です。
おそらく、残りの黒の魔法使いの方が一緒に居るはずです。
居ない人を見ると若干の不安を感じますが。
「どうするリドッち?このまま帰っちゃう?それとも一緒に行く」
「選択肢など初めから無い。帰れと言っている」
「因みに研究所内にまだ助け出せていない人が居たとしても、爆破するつもりですか?」
「はあ、サキ」
クラガはしん底めんどくさそうにサキの名前を呼んだ。
すると先は手に持っていた薄型のモニターや大量のボタンが付いた機器を取り出す。
いや、あれはたしかパソコンだった気がしますね。
「ここの監視カメラをハッキングして調べたけど、もうすでに生存している捕まった人はいない」
「だっそうだ。これで心置きなくこの研究所をされるだろう」
「ハッキングですか。なるほど、つまりこの研究所の自爆プログラムを発動させて消し飛ばすつもり何ですね」
「研究所内は不測の事態に備えて、貴重な実験成果や記録を外部に漏らさないようにそう言ったプログラムが組まれていることが多い。本来なら、それによって研究所内で未だに発見されていないモンスターもろとも消し飛ばすつもりだったが、馬鹿な研究者が場所も知らずに秘密の通路を使ったせいで目覚めたようだな」
「もしかして、倒しに行くんですか?」
恐る恐る僕はその質問を投げかける。
するとクラガは端的に答える。
「相手の様子次第だな」
それはつまり戦うと言う事ではないでしょうか。
「結局どっち?行くの?行かないの?」
「もちろん行きますよ。仲間が戦っているのなら助けに行かないわけには行きませんので」
「よっしゃ!それじゃあそのモンスターをぶっ飛ばしに行くか」
「おい、勝手に話しを進めるな!そいつらは俺達がやると言ってるだろ」
「さあ、新メンバーを加えたメイと愉快な仲間達団しゅっぱーつ!」
メイさんは快活な笑みを浮かべると意気揚々と先頭を歩いて行く。
「おい!待て!そんなへんてこな名前のチームに入った覚えはないぞ!」
「諦めな、クラガ。あいつら全く人の話聞かないもん」
「一緒に行くしかない」
「ちっ面倒なことになった」
軽く舌打ちをしつつもクラガは僕達の後について来る。
正直クラガの言葉を百パーセント信じるわけには行きません。
もしかするとまとめて僕達をやる可能性もありますからね。
その為にもツキノさん達を取り残すわけには行きません。
「なあなあ、わざわざそんな危険に首を突っ込む必要あるのか?大人しく通信機で迎えを呼んだ方が良いんじゃ」
「駄目だよ。ハイっちとツキッちは私の友達だもん。だから会いに行かないと」
「いや、どういう理由よ。ていうか、前歩いてるけど場所分かるの?」
「‥‥‥分かんない!ガイッちは?」
「俺も知らねえ、お前も知らないのかよ」
その言葉を聞いたぺプロさんが深いため息を付く。
「馬鹿どもは下がっていろ。サキ、道案内を頼む」
「分かった」
研究所内の監視カメラを使ってルートを構築してるんでしょうか。
何にせよ、正確な道案内が出来るのは便利ですね。
「じゃあ、改めてメイと愉快な仲間達団出発!」
「誰かこいつの口を閉じさせろ。うるさくてしょうがない」
「それを言うならあんたのその口の悪さをどうにかしてくれない。気分が悪くてしょうがない」
「俺はただ事実を述べているだけだ。貴様こそ、静かにしたらどうだ。口答えはするくせに何も出来ないのだから」
「あんたねえ!」
「おいおい、何喧嘩してんだよ。子供じゃあるめえし。ほら、早く行くぞ、ちんたらしてたらあいつらやられちまうぞ」
「急ごう」
そう言いながら何故かサキさんをお姫様抱っこしていることに関しては一旦放置しておきますか。
「ガイさん達の言う通りです。口を動かすよりも足を動かしていきましょう」
「貴様も俺をイラつかせていることに気付くべきだな」
「それは失礼いたしました。さあ、行きましょう」
一部でいざこざがありつつも、メイさんが積極的に周りと関わりガイさんのやる気がみんなの気持ちを高めることにより何とか、崩壊せずにツキノさん達が居る場所へと向かうことが出来た。




