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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その五十 信じたい言葉

どうして、何でこの人がここに居るの。

街が違うはずなのに。

するとその男は唸り声を上げながら頭をかきむしる。


「ああ、今日は本当に最悪の日だ。嫌な記憶を思い出しただけじゃなく、俺の人生を狂わせた奴と会うなんてな」


逃げないと、直ぐにここから逃げないと。


『逃げられないよ、あんたは売られたの。私の代わりにね』


「っ!逃げ、ないと‥‥‥!」


立ち上がろうとしても力が入らない。

駄目だ、気分が悪い。

するとその男はゆっくりとこちらに迫って来る。


「俺は実はこの島の人間じゃなかったみたいだ。この島のはるか遠い島で俺は生まれたようだ。そうならなぜ俺がここに居るのか?その答えもすぐに分かった。売られたんだよ、親に。出来損ないの息子は金の足しにでもなってくれって言われてな。笑っちまうだろ!ほら、笑えよ」

「っ!」


地面を張ってその場から遠ざかろうとするが、その時私の足が掴まれる。


「俺の人生は今も昔もくそだった。だけどな、仕事をしている間は自分で居られたんだよ。仕事終わりのいっぱいは格別だったなあ」

「やめっ離して!」

「それをお前のせいで奪われた!!」

「あがっ!うっうえ!」


首が、締まる‥‥‥!

苦しい、助けて。


「俺の幸せをお前が奪ったんだ!仕事に失敗したせいで終われる身になった!町を出て一からやり直そうともしたが、裏の仕事しかしてこなかった俺にはそんなも無理だった。そこにこんなクソみたいな記憶が蘇って来やがった。もううんざりなんだよ!」

「うっがっ‥‥‥あっ!」


意識が遠のく、早く首から手を引きはがさないと。

掴んでいる手を引きはがそうとするがさらに強く首を絞められ、苦しみが強くなる。


「死ねよ、お前が死んだら少しはこの苦しみもマシになるだろう」


ああ、駄目だ。

私ここで死ぬんだ。

殺意に満ちた男の顔、それが真っ赤に塗りつぶされてそして色が黒くなり何も見えなくなった。

すると何故か今までの思い出が一気に駆け巡って来た。


『初めまして、私はヤナモよろしくね』

『可哀そうにいじめられたんだね。私が守ってあげる』

『私の事は信じてよ』

『おまぬけさん、ずっと騙されてたことにやっと気づいたんだ』

『まだ居たんだ、早く孤児院から出て行けよ』

『本当に出て行ったところ悪いんだけどさ、私の代わりに売られてよ』

『何で私がお前と同じ目に合わなきゃいけないんだよ!』

『私の身代わりになれ』

『私の言う事だけ聞いてればいいんだよ』

『ねえ、あんた大丈夫。私ヤナモ、あんたの名前は?』


ああ、そうだ、

私の人生はヤナモに決められてきたんだ。

自分の意思なんて無い、ヤナモの言葉に従って生きて来た。

昔も今も、何も変わってない。

これって私の人生だって言えるのかな。

でも結局その人生も今、終わろうとしてる。

私の夢、結局叶わなかったな。


『アイラ』


最後の記憶、ヤナモが生きてた頃の最後の記憶だ。

あの時何かを言った気がするけどそれが分からなかった。

でも何でだろう、まるでその時に戻ってきたように今は鮮明にその言葉が蘇る。


『夢を叶えてね』

「っ!」


私は男の腕を思いっきり掴んだ。


「っ!?テメエ‥‥‥」

「しね、ない‥‥‥死にたくない!私はまだ自分の夢を叶えてない!」

「何言ってんだよ。さっさと死ねよ!」

「わたしの人生は‥‥‥ここからなんだ!」

「アイラーーーーーーー!」

「っ!りど、る?」

「テメっなんでここうごっ!?」


その時リドルが思いっきり男に殴りかかった。

思わぬ一撃だったのか男は大きくのけ反ると、私の首から手が離れてそのまま転げまわる。


「ごほっがはっがはっ!おえっはあ、はあ、リドルありが――――――っ!」


すごい剣幕、こんな顔のリドル始めて見た。

怖い、始めてリドルをそんな風に思ったかも。


「うぐっこ、こいつうご!」


男が立ち上がろうとした瞬間、リドルは顔面を思いっきり殴る。

そして馬乗りのなると何度も何度も拳を振り下ろしていく。

拳に血が付着しても気にすることなく、躊躇わずに何度も何度も殴って行く。

駄目、このままじゃあの人が死んじゃう。

でも、目がかすんで体が思い通りに動かない。

咳が止まらない。

でも、そんなの関係ない!

私は無理矢理体を叩き起こしてリドルの背中に抱きついた。


「ごほっごほっ!もう、やめて」

「っアイラ‥‥‥」


リドルの振り上げた拳が止まった。

そしてゆっくりと男から離れる。

男の顔は血まみれで腫れあがっているが、息は合った。

死んではなかった、よかった。


「すみませんアイラ、アイラが首を絞められているのを見て周りが見えなくなっていました」

「ありがと、でもリドルがわざわざ犯罪者になる必要はないから、ごほっ!」

「アイラ、無理をしないでください。呼吸を整えて、ゆっくり休みましょう。おんぶしますので、アイラは眠ってていいですよ」


リドルはハンカチで血の付いた手を拭く。

それから私を背中に回すとそのままおんぶしてくれた。

おんぶされるのは恥ずかしいけど、正直歩けるほどの体力も残ってなかったから助かった。


「リドル、私思い出したの。ここに来る前の事」

「やっぱりそうだったんですね。街中記憶を取り戻したことで混乱していました」

「私が親友だと思ってた子は親友じゃなかった。ずっと親友だと思ってたのに、そうじゃなかった。もう、何も信じられない。信じられないよ」


ずっとヤナモは大切な人だと思ってたのに、本当は私にひどい事をするような悪人だった。

この島で出会ったヤナモは記憶が無くなってて、だからこそ私に優しくしてくれた。

でもそれは本当のヤナモじゃなかった、記憶を失ってたから私に優しくしてくれた。

もう、友達とは思えない。


「この島の人達は一様に何かを抱えて生きています。信じていた物に裏切られることも多いでしょう。何も信じられないのなら、アイラの信じたい物を信じてください」

「信じたい物?」

「そうです、人でも物でも言葉でも、何でもいいんです。それはアイラを決して裏切ったりはしません」


信じたい物、私の信じたい物って何だろう。

ヤナモを信じたい?いや、もう分からない。

ヤナモを信じたいのかどうかすら分からない。


『アイラ、夢を叶えてね』


そうだ、最後の最後にヤナモが言ってくれた言葉。

死ぬことを覚悟したあの言葉、ヤナモがどんな人間で本性がどっちなのかも分からない。

でもあの言葉だけは嘘じゃないって信じたい、信じていたい。


「リドル、ありがとう。信じたい物がようやく分かったよ」

「そうですか、僕はアイラの事を裏切ったりはしませんよ」

「え?」

「え?」


リドルは立ち止まるとおんぶしている私の方に顔を向ける。


「もしかして、違いましたか?」

「うん、ごめん」

「あははっこれは恥ずかしいですね。でもアイラが信じたい物を見つけられたのならよかったです」

「もちろん、リドル事は信じたいじゃなくて信じてるよ」


するとリドルが突然私を下ろす。

そして私の手をリドルが手に取った。


「リドル?」

「アイラ、僕はアイラの事が好きです」

「へ!?ちょっといきなり何」

「僕があなたを必ず幸せにします、だから僕とこれからも一緒に居てくれますか?」

「なっ!きゅ、急にそんなことを言われても困るから!」

「つまりオーケーってことですか」

「何でそうなるのよ!ごほっごほっ!」


咳き込むとリドルが優しく私の背中をさすってくれた。


「すみません、突然でしたね。でも、僕は本気ですから」

「っありがとう。でも、今はまだそう言うのは」


何か恥ずかしくなって来た。

リドルって結構ストレートに気持ちを伝えるんだな。

でも嫌では無かったかも。


「それじゃあ、帰りましょうか」

「うん」


これからは夢を叶える為に頑張ろう。

もう逃げたりしない。


――――――――――――――――

「アイラ!!」


そうだ、私はもう逃げない。

逃げ続けた所で何も変わらない、結局誰かに助けてもらったばっかりだ。

今度は私が皆を助けるんだ。

注射器を手にとってそれを首に当てる。


「やめなさいーーーーー!」


その時捕まっていたはずのミノルがその縄を引きちぎってそのまま下に落ちて来た。


「うわっ!ミノル!?大丈夫!」


真っ逆さまに落ちてきたミノルはぶつけた頭を擦りながら立ち上がる。


「いててて、人間の姿だとやっぱり痛いわね」

「何でそんな無茶したの。体中も縄が食い込んで血が滲んでるし、直ぐに治療しないと」

「大丈夫よ。それ貸して」


そう言うと、私の手からミノルが注射器を奪い取った。


「あっ!ミノル駄目!」


するとミノルは一切躊躇うことなく自分の首にその注射器を当てて、体にその液体を流す。


「ミノルさん!」

「おおっ!これは予想外!面白くなってきましたな!」

「ううっあああああ!」


擦るとその変化はすぐに訪れた。

頭からは耳が生え、そして後ろにはしっぱも生えて来た。

苦しみながらもミノルは倒れないように必死に踏ん張っている。

そしてようやく落ち着いたのか、ゆっくりと顔を上げた。


「はあ、この魔力が全身を巡る感じ久しぶりね。さあ、あんた達覚悟は良いかしら」

「は、半獣になったからって何なんだよ!」

「俺達は自由になるんだ!」

「負けるわけには行かないんだよ!」


三人の半獣は尚こちらに向かってくる。

だがミノルはそんな三人を見てゆっくりとその人達の方を向く。


「プリズンブレイク!」

「「「っ!?」」」


それは一瞬の出来事だった。

魔法陣から巨大な氷が飛び出して一気に三人を氷漬けにした。

そして三人はそのまま身動きが取れなくなった。


「これで私達の勝ちね」

「ミノルさん‥‥‥」


勝ち、私達が勝ったの?

でも、それでも。


「何で、どうしてそんなことしたの!私はもうこれで終わっても良いと思ってたのに。リドルに出会えて、皆に出会えてもう十分幸せだったのに。私が、今度は守りたかったのに。何でミノルが‥‥‥」

「アイラ‥‥‥」

「あんな地獄の日々と比べたら、夢も私の人生ももう十分叶ったし満足だったのに。また、私は守ってもらってそればっかりだ」

「アイラ、それは違うわ」

「え?」


嘆く私をミノルは優しく言葉を投げかける。


「私も地獄のような日々を送って来た。でもそれでも生きて行けばこんな素敵な毎日が送れるようになった。好きな人が出来て、その人とようやく結ばれた。だからアイラ、あなたの幸せはこんな物じゃないわ。あなたはもっと幸せになるべきよ」

「ミノル‥‥‥」

「だから、これでよかった‥‥‥」


するとミノルは体をふらつかせてその場に倒れてしまった。



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