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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その四十九 呼び起こされた記憶

それから数日たったある日、リドルはいつも通り城に修行へと向かう。

私もお手伝いの為に同行するのだけどやっぱり耳を付けてから明らかに周りの人の反応が変わった。

本当に耳と尻尾で判断されてるんだなあ。

私は壁にかかっている時計を確認する。

そろそろお昼頃か、おにぎり作ってリドルの所に持って行こう。


「おい」

「はい!」


高圧的な声が聞こえてきて思わずビクッとしてしまった。

振り返るとそこにはこちらを鋭い視線で射貫くカノエ様の側近が居た。

確か名前はサザミさんだったっけ。


「お前、その耳と尻尾は何だ」

「え?あっこれはリドルから貰って」


どうしていきなりそんな事を聞いて来るの。

今まで話しかけられたことなんて無かったのに。

それに会ったのも初めて城に来た一回きりだし、この人もリドルに修行を付けてるってのは聞いてるけどそれ以外で接点なんて無いはず。


「半獣の真似事でもしてるのか?それだけで自分が半獣になれたと思っているのか?」


なにこの人、何でわざわざそんなこと言うの。

この人、嫌い。


「別に関係ないじゃないですか」


私は目線を逸らして言葉を呟く。


「ふんっまあいい。せいぜい正体がバレない様に気を付けることだな」


そう言ってそのまま厨房を出て行った。


「何しに来たのあの人」


わざわざそれだけ言いに来たの、感じ悪いやっぱり半獣は私の事を毛嫌いしてるのかな。

リドルだけなのかもしれない、半獣の中で私を受け入れてくれるの。


「てっもうこんな時間、早く持って行かないと!」


私は作ったおにぎりをお盆に乗っけてそのままリドルたちが修行している場所へと持って行く。

修行場の扉の前に行き、片手でその扉を開いた。


「リドル、おにぎり持って来たよ。他の人も良かったら」

「お前ら逃げろ!!」


突然そんな怒号が耳に響いてきた。

そして次の瞬間、体が思いっきり引っ張られた。

それにより持っていたお盆を床に落としてしまう。

気が付くと私の手をリドルが引いていた。


「リドル!?どうしていきなり」

「話は後です!とにかくここを離れますよ!」

「離れるって修業は?」

「そんな事やってる状況じゃなくなりました。もう直ここは戦場になりますよ」

「戦場‥‥‥!」


冗談じゃない、今のリドルには余裕がない。

私の事を強引に引っ張って行く、いつもなら私の歩幅に合わせて歩いてくれるのに逃げる事だけを考えてるんだ。

そして宿屋に戻ってきた所でリドルはようやく深呼吸をする。


「はあ、ふう、はあ‥‥‥ここまで来れば恐らく大丈夫でしょう」

「ねえ、何があったの。こんなに焦って逃げて来て、あそこで何が起きたの!」


事情を知りたかった、ここまでの一連の行動の理由を。

するとリドルは息を整えてゆっくりと口を開く。


「正直‥‥‥僕も状況を完全に掴んでいるわけではありません。なんせガルア様が突如現れていきなりあんなことを‥‥‥」

「ガルア様?ガルア様が来たの?それってこの島の王の人でしょ。カノエ様に会いに来たって事」

「会いに来たなんてそんな軽い感じではありませんでした。あの表情は明らかに覚悟を決めた顔でした」


それは何の覚悟?

その言葉でかかったけど私はすぐに引っ込めた。

覚悟を決めたなんて一つしかない、そう言う事なんだ。


「これからどうするの?」

「状況を見てすぐにここから出た方が良いとは思いますが、あの雰囲気では他の街も既にガルア様の手にかけられてるかもしれません。動きがあるまでは大人しく宿屋で過ごしましょう」

「分かった‥‥‥」


それから数日間外に出ずに宿屋で過ごした。

だけどその間大きな出来事は起きておらず町は至っていつも通りだった。


「‥‥‥動きがありませんね。サザミさん達が来る様子もないですか、僕の元に刺客を送り込んでも良いと思うんですが、まさか興味が無いと言う事でしょうか」


リドルは窓から街の様子を眺めながらブツブツと何かを呟いている。


「まだ宿屋に籠ってるの?」

「これ以上動きが無いとするのなら行動に移してもいいかもしれませんね」

「それじゃあもう宿屋に出るの」

「いや、出るのは僕だけです。もしかしたらじれったくなって出て来るのを待っている可能性もありますから。とりあえず僕は食糧を買いに行ってきます。何かあったらすぐにここを離れてください。すぐに戻りますから」


そう言うとリドルは食糧を買いに宿を出て行ってしまった。

一人ぼっちになってしまった、何だか久しぶりのような気がする。

前まではこれが当たり前だったのに、なんだかちょっと‥‥‥


「寂しい、かも‥‥‥っ!私今何て!」


ああ、駄目だ。最近一日中甘やかされたせいで感覚がおかしくなってるんだ。

リドルは家事全般も料理も出来て私なんかよりも全然しっかりしてる。

人並程度しか出来ない私にとってはリドルがやってる事を超えることは出来ない。

結局私はお手伝いしたところで何も返せていないんじゃないだろうか。


「でも私に出来る事なんて何かあるかな‥‥‥」


そう言えば最初に出会ったころ私の事を妹だと勘違いしてたって言ってたけど。今も思ってるのかな。

だとしたらお兄ちゃんて呼ぶとか?


「きゃああああ!そんなの恥ずかしすぎる!」

「叫び声を上げて悶えてどうしたんですか」

「うわー!いつの間に!」

「食料を買いに行っただけですからね。それに何か起きてしまってはいけないので」


そう言うとリドルは食糧が入った袋を床に降ろす。

量的に言えば一日分だろうか、明日も行くってことかな。


「とりあえず明日も僕が行ってみて何もなかったら、魔法協会で依頼を受けましょう。そこまで動いてこちらに対して何かしらのアクションが来なければ、カノエ様は僕達には興味が無いって分かります」

「わかったらどうなるの?」

「しばらくはこの街でお金を稼ぎましょう。このまま一緒に暮らしちゃいますか」

「な!?そ、それってもしかして」

「冗談ですよ。それではご飯作りましょうか」


そう言ってリドルは笑みを浮かべながら食材を取り出していく。

でも、今もリドルと一緒に暮らしちゃってるよね。

そして次の日も何も起きずにそのままリドルは魔法協会で依頼を受けるようになった。

私も普通に買い物に行けるようになり、また普通の日常に戻って行った。

だけど最初に起きた変化から日常はどんどん変わって行く。

次に変化が起きたのは平凡な朝の事だった。

私は何げなく買い物に出かけていた。

リドルはその時はモンスター討伐の依頼に出ていた。


「いらっしゃいお嬢ちゃん。好きに見てきな」


色々なアクセサリーが並べられている。

どれも可愛いな、リドルから何円かお小遣いとかもらってるからお金には余裕があるんだよね。

その時、一つのアクセサリーに目が止まった。

丸っこいスライムが糸目になっている小さな人形だった。

かわいい、リドルに似てるかも。

そう言えばプレゼントとか渡したこと無かったな。

プレゼントにいいかもしれない。


「おじさん、これ頂戴!」


私はお店の人にスライムの人形を買うと伝えたが、何故か店主はその場で棒立ちになっている。


「あの、これ欲しいんですけど」

「ああ、思い出した。思い出した!何やってんだよ俺!こんな事してる場合じゃないだろ!」

「え?急に何?」


突如おじさんが頭を抱えて大声を上げる。

その時周りの人々も同様に混乱するような声が上がる。

状況が分からない、一体何が起きてるの!?


「あ、れ‥‥‥?なにこれ」


頭の中で何かが勢いよく駆け巡って来る。

見知らぬ記憶、でもとても身近な記憶。

ああ、そうだ思い出した。

私はこの島の人間じゃない、私は別の島で生まれてそして両親が事故で死んでしまったんだ。

そう、それで孤児院に行く事になってそこでそこに居ること達と仲良く‥‥‥


「なか、よく?」


違う、流れてくる記憶はそんな物じゃない。

私の物を盗んだり、突き飛ばしたり、罵声を浴びせたり、孤児院の人にバレない様に密かに繰り返されてきた悪行。

そうだ、私はいじめられていた。

孤児院で嫌われていたんだ、でも何でその理由は?


「あ、あああああ、ああああああ!」


思い出した、思い出してしまった。

すべて元凶をそして私がどうしてこんな島に来てしまったのかを。

私は騙されたんだ、ずっと友達だと思ってたのに。

あいつは私の味方をしながら、陰でいじめの指示をしていた首謀者。

そして自分が連れて行かれたくないからと私を研究所に売った裏切り者。

その人の名前は‥‥‥


「ヤナモ‥‥‥!」


その瞬間、私は激しい吐き気に襲われフラフラと壁を伝って歩く。

前から知ってたんだ、前から私とヤナモは知り合いだったんだ。

でもこんなの思い出したくなかった。

だってヤナモは私の大切な親友なのに、こんなこと思い出してしまったら親友何て思えるわけがない!


「はあ、はあ、はあ、はあ」


呼吸が上手くできない足元がふらつく。

何処か休める所をどこか、何処か。

その時、躓いた私はそのまま転んでしまう。

立ち上がろうとしても、力が入らない。

頭の中でヤナモの言葉が何度も思い出される、その全てが偽りだった。

何も信じられない、何を信じていいのか分からない。

もう、これ以上辛い思いをするのは嫌だ!


「お前‥‥‥何でここに居るんだ」

「っ!」


顔を上げて目の前に誰かが居るのに気付く。

そしてそのまま視線を上にあげると、その顔に見覚えがあった。

その人はリドルに追い返された、私を捕まえようとした半獣だった。



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