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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その四十八 夢へと近付く日々

リドルという人は武者修行のために各地を転々としていて、私はそれに同行する事となった。そして現在はモンスターから私達を守ってくれた、カノエ様の元で直接指導を受けているようだ。

そして何故か私はその間その人の世話係を任されている。


「ふう、相変わらず今日もハードでしたね」


全身汗だくでリドルは修練上から出て来る。

私はすぐにタオルと水をリドルに手渡す。


「ありがとうございます、アイラ」

「‥‥‥」


私、一体何をしてるんだろう。

助けてもらったのはありがたいけど何でこの人のお世話をしてるんだろう。

あの時、リドルは私に一緒に暮らさないかと提案してきた。

そんな突然の申し出、もちろん断ったけどでもリドルは諦めることなく私の元に毎日来て、結局私が折れる形で一緒に行く事になったけど、今はその場の流れでこんな事をしてしまっている。

そう、納得はしたはずなんだけど。


「あのう、リドルさん」

「リドルで良いって言ったじゃないですか」

「えっと、リドル。私こんな所に居ていいの?」


カノエ様に修行を付けてもらっているという事は、その修行場も当然城の中であってたかが人間の私が来ていい場所ではなかった。


「僕が紹介したんですから気にしなくても大丈夫ですよ」

「でも‥‥‥私人間だから。街の中ですら出歩くことが出来ないのに城何て入って日には即刻処刑何じゃ」


正直周りの人達の視線が痛い。

場違い感を感じてしまう。


「死刑何てさせませんよ」

「え?」

「アイラに何かが起きたら僕が全力で守ります。そもそもカノエ様がこの城に入る事を許してくれているのでそんな事は起きませんが」

「何で私人間だよ?人間の私にどうしてそんな良くしてくれるの?」

「人間って言うのは僕にとっては同じ物だと考えています。歴史に何が起きようと今の人達は無実ですから。それにアイラは放っておけないんです」

「放っておけないってどういう意味?」


するとリドルは少し言いにくそうに言葉を告げる。


「そうですね‥‥‥似てるんですよ、アイラが僕の大切な人に」


この人の大切な人に私が似てる?

それってもしかして初めて会った時に私の事をメラって呼んでたけど、その人の事。


「だからアイラには笑ってて欲しいんです。あのままではアイラが一生笑えないような気がして」

「それが理由なの。そんな事であの時私を助けたの」

「私的な理由ですみません。アイラからしたら傍迷惑ですよね。ですがあのままではアイラの身に危険が及んでいたかもしれませんよ。ですから身の安全を確保する為にも僕の側を離れない方が良いですよ」


一緒に居て分かったけど悪い人ではないのかもしれない。

半獣は今まで私達に対して敵意しか向けて来なかった。

人として扱われなかった、物の様に私達の命はぞんさいに扱われてきた。

でもリドルからは敵意を感じないし、むしろ好意を感じる。


「それじゃあ宿屋に戻りましょうか。ご飯作りますよ、何が食べたいですか?」


人は薄情、他人を信用するな。

それは分かってるけど、この人は他の人とは違うのかもしれない。

少なくとも今は信じてもいいかもしれない。

一歩、リドルの元に歩み寄ろうとした時記憶の中でヤナモの最後の姿が蘇る。

その時私は咄嗟に身を引いてしまった。


「‥‥‥僕の後ろに付いて来てください」


そういうとリドルは先に進んで行ってしまった。

駄目だ、やっぱりまだ信じられないよ。

だって半獣は私の大切な友人を奪ったんだから。

私はそのままリドルの後ろをついて行った。

その後も私はリドルのお世話になった。

ご飯を作ってくれたり、一緒にお出かけをしてくれたり、プレゼントをくれたりした。


「アイラ、これ上げますよ」

「え?なにこれ?」


丁寧に包装された包みをリドルが渡してくれた。

誕生日、じゃないよね、そもそも教えてないし。


「今日はアイラと出会って十四日記念日ですからそのお祝いのプレゼントです」

「昨日は私がリドルの名前を十回呼んだ記念日じゃなかった」

「記念日は多いに越したことはないじゃないですか。しかも今回はプレゼントつきですから、ほら受け取ってください」


プレゼント、受け取ってもいいのかな?

貰いっぱなしはなんだか気が引けるな、お手伝いはしてるけどでもそれって所詮はお手伝いだし。

この人にあげられる物なんて私何も持ってないのに。


「警戒してます?」

「え?いや、そうじゃなくてただ‥‥‥」


私はどうしてここに居るんだろう。


「外に行きませんか?おすすめのスポットがあるんです」

「外か‥‥‥私は良いかな。あの一回で十分って言うか」

「ずっと宿屋と城の往復じゃつまらないでしょう。ほら、このプレゼントを付けて外に出ますよ」


そう言ってリドルは強引に私にプレゼントを握らせる。

付けるってことは中は装飾品なのかな。

とりあえず開けるだけ開けてみよう。

私は丁寧に包装を剥がしてその中身を目にする。


「っ!これって」


中には半獣の耳を模したカチューシャとズボンにくっつけるようになっている半獣の尻尾が入っていた。


「ネッパニンスへと向かう旅の道中で手に入れた材料で作った僕のお手製ですが、それを付けて町へと繰り出しましょうか」


私は多少の不安を抱えながらそれらの物を付けてリドルと一緒に宿屋を出た。

怖い、皆に見られていないだろうか。

いつも深くフードを被って顔も見えない様に下を向いていたから、こんな素顔を晒して前を見るのが怖い。


「アイラ、大丈夫ですよ」


優しい声が私の不安をかき消してくれた。

その言葉を信じて私はゆっくりと正面を見る。

そこには多くの半獣がいつも通りの日常を過ごしていた。

私の事を誰も見ていない、私も同じ半獣なんだ。


「だから言ったじゃないですか、大丈夫だって」

「うん!本当、すごいよ!」

「それじゃあ行きましょう。まだちゃんとこの街を一緒に歩いていませんから」


リドルがこちらに手を差し出してくれた。

私はその手を迷いなく掴むと一緒に駆け出していく。

街の中を歩いても誰も気にも留めない、挨拶をしても罵倒ではなく挨拶が帰って来る。

普通に買い物も出来て、普通に話すことも出来る。

私は今、普通の日常を過ごしている!

しばらく街を散策した後、リドルのおすすめのスポットへとやって来た。


「ネッパニンスは火口の近くにある町です。ですからその近くにある植物も高い耐熱性能を持っています。ここの特産品ですよ」


そう言ってリドルは一面真っ赤に燃える花畑を指差した。

花弁の一枚一枚が熱を持っている。


「すごい、これ燃えないんだ」

「触れても熱くはありませんよ。ですが多少の熱は感じるかもしれません。それにここからが本番ですよ。リフトタイフーン!」


リドルが風の魔法を放つとその風に乗って真っ赤に燃える花弁が舞い上がって行く。

そしてそれが集まって行くとあたりが一瞬で光り輝き、そのまま空中に散って行った。


「綺麗‥‥‥まるで空中で咲く花みたい」

「こちらの風炎花は風に舞って花弁が舞うと一際輝き散るんです。それによって種を辺りにバラまいて行くんです。さらに花弁が抜けた花の茎は素材として大変優秀なので、それらを回収して魔法協会で売りましょう。アイラも手伝ってください」


リドルは茎だけ残った風炎花を回収していく。

私もそれにならって茎を回収していく。

それらを魔法協会という場所まで持って行き、窓口で取って来た風炎花の茎を渡す。


「はい、どれもこれも状態が良好ですね。これなら色を付けてざっと五万ガルアで買い取らせていただきます」

「それでお願いします。ほら、アイラが受け取ってください」

「私でいいの!?リドルがやったのに」

「アイラの方が多く取ってくれたので、ほらお願いします」


リドルに背中を押されることで私は仕方なく窓口へと立つ。

そして私は置かれたお金を受け取った。

初めて自分で働いて手に入れたお金はとても重たく、とても嬉しかった。


「お疲れさまでした、アイラ。初給料はどうですか?」

「私、仕事なんて出来ないと思ってた。でもこんな私でも働けるんだね」

「せっかく貰ったんですし、好きな物を買ってください。買い物には付き合いますよ」


だけど私はその言葉に対して首を振った。


「このお金はリドルと一緒に使いたい。一緒にご飯食べに行こっ!」

「っアイラの笑顔はとっても素敵ですね」

「っ!なっいきなり何言ってるの!」

「すみません、最初よりも笑顔を見せてくれるようになったのが嬉しくて」


あっそう言えば私普通に笑えてた。

ヤナモが居なくなってから笑うことなんて出来ないと思ってたのに。

いつの間にか私、この人に笑顔を見せるようになってたんだ。


「ご飯ですね、ならちょうどいいのでここで食べましょうか。意外といけるんですよ」

「っうん!」


普通に買い物をして、普通に仕事をして、普通に食事をする。

もしかしたらいつの間にか夢だった普通の日常を送れるようになっているのかもしれない。

一軒家はまだだけど、でも少しずつ夢に近づいている。

願わくばこの日々が続きますように。

そう思っていたのに、現実は容赦なく私から夢を奪って行く。



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