表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
674/827

その四十六 アイラの過去

私の人生は常に誰かの選択によって動かされてきた。

あれはまだこの島に来たばかりの時だった。

人間が虐げられて半獣が町を練り歩く時代、私は路地裏で密かに生きていくことしか出来なかった。


「おらっ!こっち来い!」

「やめてくれ!俺はまだ死にたくねえよ!」

「死なねえよ。だが死ぬよりも辛いかもしれねえな」


路地裏ではいつも誰かの叫び声や苦しむ声が響き渡っていた。

いわゆる裏の市場に私達を売り出すためだ。

私達には人権が存在しない、どういう扱いをされようがそれを咎める人は誰も居ない。

過去の歴史が今の私達に罰をあたえるように、苦しみの日々が続いていった。


「どうしよう、助けないと」


今怖い人に連れていかれようとしてるのは私をかわいがってくれたお兄ちゃんだ。

お世話になったのにこのまま見て見ぬふり何て出来ない。

私が一歩を踏み出した瞬間、突如誰かに手を引かれた。


「っ!ヤナモ?」


ヤナモはそのまま私の手を引いてその場から離れて行く。

その表情はとても怖い顔をしていた。

そしてお兄ちゃんの声が聞こえなくなった来たところでヤナモは足を止めた。


「ヤナモ?」


ずっと黙ったままのヤナモに言葉を投げかける。

するとヤナモはようやくこちらに振り返る。


「何で行こうとしたの」


怒りが込められた言葉だった。

ヤナモは怒ってるみたいだ。


「ごめんなさい、あの人が酷い目に合ってるのを見てられなくて」

「アイラが行った所で助けられるわけがないでしょ、むしろアイラまで連れ攫われちゃう所だったんだから」

「でも、見捨てるのは嫌だから」

「綺麗ごと言ったって結局自分が大切なんだよ。ここに居る人達だって表面上は協力的だけど、いざああなったら見て見ぬふりをするんだから。あのお兄ちゃんだってアイラを見捨てて自分だけ逃げたかもしれないよ」

「そんなこと、ないよ‥‥‥」


分かってた。

皆生きるので精一杯で他人何かを気にしてる余裕はないって。

結局自分の身に危機が迫れば最優先で自分の命を繋ぎとめようとする。


「あんな事が合ったのにまだそんな風に思ってるの?」

「ジキルおばさんの事は確かにショックだった。私を売って、自分だけ助かろうとしてたしそれでも私は優しくしてくれたあの時を嘘だとは思いたくないの」

「優しいんだね。でもそれって結局は自分の理想を他人に押し付けてるだけでしょ。アイラが思ってるよりも人は薄情だよ」


冷たい言葉、こう言う時いつもヤナモは突き放し様な言い方をする。


「ヤナモもそうなの?」

「‥‥‥さあ、どうだろうね」


曖昧な言い方、あんなにはっきり言ったのに教えてくれないんだ。


「ほら、早く行くわよ。お腹空いたわ」

「うん」


私達は手を握っていつも通り残飯を漁りに行った。

ヤナモは私の唯一の親友だ。

このいつまで続くかも分からない地獄の日々にヤナモは手を差し伸べてくれた。

一人じゃないって言うだけで私は十分助かった。

横を見れば誰かが居ると言う事、同じ苦しみを共有できるという事、何より人のぬくもりが私の気持ちを落ち着かせてくれた。

私達は路地裏から夜空を見上げる。


「最近は人攫いも多くなって来たわね。ここも安全じゃなくなって来たかも、まっそもそも安全な場所なんて無いんだけどね」

「私達捕まっちゃうの?」


あっしまった、つい言葉が漏れちゃった。

またヤナモに怒られちゃう。

その時ヤナモが私の肩に頭を置いた。


「私さ、自分が何処から来たのかも両親が誰なのかも思い出せないの。気付いたら一人ぼっちで、何でか周りの人達に冷たく扱われて。怖い人達に追いかけられてた」


私と一緒だ。

気付いたらこんな日々になっていた。


「もう死のうかな何てことも考えたけど、それでも私は生きていたかった。だってさ、こんな訳分かんないまま死ねないじゃん。これは私の人生だから、私が幸せになる為の人生にしたいの。世の中の不条理に押しつぶされたくなかった」

「ヤナモ‥‥‥」

「そしたらさ、アイラと出会ったんだよね。怖い人に追いかけられてるボロボロの女の子、一目見た時私は思ったの。助けたいって、他の何を差し置いてもあなたを助けたいって」


そんな風に思ってたんだ。


「不思議だよね。初めて会ったのにこんな風に思うなんて、でもやっぱり助けてよかったよ。だって私今が一番幸せだもん」


ヤナモはそう言ってこちらに笑顔を見せる。

多分ヤナモは正直な性格なんだと思う、だから真剣に私の事を怒ってくれたり、自分の気持ちを正面から伝えてくれる。

それがたまにこっぱずかしいけど、でもとても嬉しかった。

だからこそ私も正直な気持ちで向き合いたいと思った。


「私ね、夢があるんだ」

「夢?」

「うん、一軒家に住んでそこで美味しいご飯を作ったり、椅子に座ってのんびりくつろいだりして、何の不安も考えずに一日が終わる。そんな日々を送るのが私の夢」

「ふふっいい夢ね。まさに理想の人生って感じ」

「そこにはヤナモが居てくれなきゃ駄目だから。私達はずーっと一緒だよ」

「っま、まあそこまで言うなら一緒に居てあげてもいいわよ」


ヤナモは何故か目線を逸らし小さな声で何かを呟いた。


「ん?今何て言ったの?」

「何でもないわよ!そんな夢、簡単に叶えられる物じゃないからね」

「分かってるよ。だから夢だもん」

「ああそっか、なら叶えられるように頑張らないとね」

「うん!」


この日は夜が明けるまで互いの夢の話をした。

いつ死ぬかも分からない過酷なこの世界でこうして親友と夢を語り合える時間が、私にとってはとても大事な時間だった。

夢を語れば未来に希望を持てる、こんな世の中でもそんな微かな希望を持っていた。

だけど希望はいつか打ち砕かれる。

いつも通りゴミ捨て場に行って私達は必要な物がないか、漁っていた。


「ちょっとアイラこれ見てよ!」


ヤナモはゴミ捨て場で見つけた棒状の機械を嬉しそうにこちらに見せて来る。


「何それどうやって使うの?」

「分かんない。でもスイッチがあるから、押したら分かるんじゃない」

「えー危なくない?捨てた物ってことは壊れてるんじゃないかな」

「ちょっと使ってみる」


そういうとヤナモはじっとこちらを見て来る。


「私で溜めそうとしてるでしょ」

「駄目かーまあ護身用に持っておくのはいいかもね」

「おっマジでいたな」


その時、ゴミ捨て場に見知らぬ男がやって来た。

だけどその顔を見れば明らかに善人ではなかった。

何度も目撃してるから分かる、あの人は危ない人だ!


「ゴミ捨て場を漁りに来てる奴が居るってあの気味の悪いおっさんに言われてきたが、まさか子供だとはな。しかも人間か、あのおっさんが人間なら買い取るって言ってたし、悪いな嬢ちゃん。お兄さんと一緒に楽しい所に行かないか?」

「アイラ逃げるよ!」


ヤナモはいち早く私の手を取って駆け出す。


「うーん、やっぱ愛想笑いってのは苦手だな」


私達はそのまま必死に走り続けた。


「ねえ、あの人何者なの」

「分かんないけど、多分人攫いよ。捕まったらどんな目に合うか分からない!だから全力で逃げて——————」


その時目の前に巨大な岩が立ち塞がる。

これってもしかして魔法!?


「そんな逃げる事ないだろ。悪い話じゃないはずだぞ、どうせここで生きた所で待ってるのは地獄だろ?」

「アイラ、こっちよ!」

「うん!」

「まだ逃げるかい、路地裏は狭くてじめじめしてるからやなんだけどな」


ヤナモが私を握る手が強くなる。

やっぱりさっきのあれを見てヤナモも危機感を覚えたんだ。

始めて見た、半獣が使う魔法。


「ねえ、ヤナモ!あれ魔法だよね。私達本当に逃げられるの!」

「分かんない!でも逃げなきゃ駄目でしょ!」


焦ってる、こんなヤナモ始めて見た。

どうしよう、何か私に出来る事は。

すると突然ヤナモが足を止める。


「ヤナモ?」

「あの人足が速すぎる。ずっと私達の後ろを付いて来てる、わざと入り組んだ道を進んでるのに」

「どうするの?このままじゃ追いつかれちゃうよ」


ヤナモは少し考えると言いにくそうにしながらも口を開く。


「二手に分かれよう、危険はあるけど逃げ切れるかもしれない。私達の方がここには詳しいし、逃げ切れたらいつもの場所で落ち合おう」

「分かった」


その時男の声がだんだんと近付いて来る。


「それじゃあまた後で」


そういうとヤナモはすぐに別の道へと走って行った。

私も早く行かないと。

ヤナモとは違う道を使ってそのまま男から逃げる。

ここの路地裏はかなり入り組んでいる、ヤナモがそう言う場所を好んで住んでるからだ。

こういう時の為に逃げ切れるようにだ。


「はあ、はあ、ここまでくれば大丈夫かな」


なるべく分かれ道を選んで逃げたはずだけど、振り切れたかな?


「鬼ごっこはもう終わりかな?」

「っ――――――きゃあっ!」


首を掴まれた、苦しい‥‥‥


「正直あまり気が進まないんだけどね。金貰っちゃってるから、やるしかないんだよ」

「や、やめて‥‥‥離して」

「まだ子供なのにこんな事になって同情するよ。人間じゃなければマシな生き方が出来ただろうに。こういう事をやり始めてから人間の末路を何回も見て来た。どれも見るに堪えない気色の悪い物だった、人の醜悪を集めたような掃きだめさ。正直嬢ちゃんのような心の脆い物は耐えられないだろうね」


怖い、怖い怖い怖い!

助けて、助けてよ、誰か助けて。

ヤナモ助けて!


「助かりたいか?」

「っ!?」


その男はこちらの心を見透かしたように言ってくる。


「正直言うと、ゴミ捨て場に居る奴を見つけて連れて来いとだけ言われてるんだ。人数は指定されてない。お前のような脆弱な奴は商品としての価値が低いんだ。あっちの嬢ちゃんは中々肝っ玉が据わってるだろ。中々追いつけないからお前の元にも来たんだ。ああいう奴の方がコレクターに好まれる。壊れて行く様をまじかで見たいからな」

「ひっく、ぐすっ」

「彼女を連れて来い。どうせ集合場所でも決めてたんだろ?案内しろ、そうしたらお前の命は助けてやる」


何言ってるの、この人。

分からない、分からないよ。

私はどうすれば、どうすればいいの。

選べない選べないよ。

そっか、今まで捕まった人はこんな気持ちだったんだ。

助かりたい、死にたくない、まだ死ねないよ。


「いやっ!!」


私は思いっきり体を振って男の手から逃れようとする。

すると突然首から男の手が逃れて私はそのまま尻もちを付く。

離れた、今なら逃げれる。

ヤナモの元に行かないと!

私は無我夢中で走って行った。


「やっぱ馬鹿だな」


ヤナモに会えば何とかなるはず。

ヤナモが助けてくれるはず、今までだって助けてくれたんだから。


「ヤナモ!!」

「アイラ!よかった、逃げ切れたのね」


ヤナモは安心した様な表情をするとすぐに私の手を握る。


「ごめんなさい、ごめんなさい!私、怖くて何も出来なくてそれで」

「っ‥‥‥そっか。分かった、もう分かったから」

「ヤナモ、私どうしたっ!?」


その時お腹かから電気が走ったような衝撃が体全体に広がって行く。

そこには先程拾っていた機械が押し当てられていた。


「な、んで‥‥‥」

「ごめん、もうこれしかないから」


体に力が入らなくなってヤナモに縋り付く。

でもヤナモは私の体を支えることなくそのまま呆然とこちらを見ていた。

どうして、どうしてなの、約束したじゃん。

夢を叶えるんじゃなかったの?


「アイラ――――――」


ヤナモの口が動く。

でも私はその言葉が分からなくて、そのまま意識を失った。


――――――――――――――――――


「‥‥‥っ!はあ、はあ、はあ」


あれ、私どうなったの?

真っ暗だ何も見えない、もしかして連れてかれた。

ここは何処なの、誰か居ないの。


「誰——————っいったー」


体を起こした瞬間、何かに頭が直撃する。

すると目の前に光が漏れたと思ったらそのままぱたんと倒れた。


「ここって‥‥‥」


私は四つん這いでその中から出て来た。

ここは知ってる、秘密の隠れ場所だ。

壁に似せた木の板をかぶせて身を隠すことが出来る。


「私、連れていかれたんじゃない?」


夜が明けて周りに光が指す場所でその日差しに晒された物を私は目撃した。


「や‥‥‥なも?」


ヤナモなのだろうか、いやヤナモじゃない。

でもヤナモなんだろうな。

ヤナモヤナモヤナモヤナモヤナモヤナモ。


「ヤナモ」


近付く、ゆっくりと。

壁に背を付けているヤナモに向かって私は手を伸ばす。


「おはようヤナモ、朝だよ。早く起きてよ。あの男居なくなったんだね、ヤナモが守ってくれたんでしょ。ありがとう、だから早く起きてよ」


温もりが感じられない、目も合わせてくれない、口が動かない。

抱き締めても鼓動を感じられない、抱きつき返してくれない。

もう居ない。


「ううううっうわあああああああん!!」


ヤナモはもう居ない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ