その四十四 サキのナビゲート
「なあ本当にそれであいつらに会えるのかよ」
俺は背中に乗せていた女をマイトに連れて行ってもらい、サキと一緒に研究所を走り回っていた。
サキは手元に大きな薄い板みたいな物を持っている。
さっきからそれを弄りながら先頭を走っている。
「研究所にあるカメラをハッキングしておいた。だからみんなの場所はすぐに分かる。この研究所は全ての部屋にカメラがある」
「へえ、ハイキング?っての早く分からねえけど、何かすごそうだな。それで今誰の所に向かってるんだ?」
「近場の人から順番に向かってる。最終的に向かう場所は決めてあるから、そこにたどり着くまでの効率的なルートはすでに作ってある」
「効率的なルートねえ、でもこのスピードじゃいくら効率的な道作っても遅いだろ」
サキは先頭を走っているが正直足は遅い。
俺が走った方がより効率的ってもんだ。
「でも私の指示が無いと場所分からない」
「ならこうすればいいだろ!」
「きゃっ!」
俺はすぐにサキを担いで一気にスピードを速める。
「案内は任せたぜ!一気に行くからよ!」
「‥‥‥不本意だけど確かに効率は上がった。分かった、案内する」
「よっしゃ!さっさと全員と合流して皆で帰るぞ!」
サキの案内で進んで行くと突き当りに誰かの影が見えた。
「その先に居る」
「分かった!おい、そこのお前!ちょっと止まれ!」
その声が聞こえたのか影はその場で停止する。
そしてゆっくりとこちらに近づいてきた。
「今度は一体なんだ‥‥‥あれ?サキ?」
「アルバ、迎えに来た」
「ん?お前確か黒の魔法使いの奴か。てことはサキの仲間かよ」
どうやら一緒に来た奴らは近くにはいなさそうだな。
こいつしかいないのか。
「いや、迎えに来たって何でそいつにお姫様抱っこされてるんだ。ていうか、どうしてここに居るんだよ。お前は外でサポートにまわる計画だったろ」
「当初の計画はそうだったけど、色々イレギュラーなことが起きたから来た。他の皆もそれぞれ別の人と行動してる」
「なるほどな、計画にはない事をするのは俺のポリシーには反するがここは臨機応変に行こう。それは分かったが、何でお前はサキを抱っこしてるんだよ」
「そりゃこっちの方が効率ってのがいいからだよ。だろ?」
「そう、効率重視」
「ああ、そう。お前がそれで良いなら良いわ」
アルバという奴は諦めたように頭をかく。
「それでクラガを迎えに行くんだろ?」
「うん、そのつもり」
「おいおい、俺の仲間の方はどうなってんだよ。平等に助けろよ」
「あなたの仲間も一緒に居る」
「おっそうなのか。ならいいぞ」
「ちょっと待って、まさかこいつみたいな奴らとクラガが一緒に居るのか?」
そう言ってアルバは何故か俺の方を指差す。
「おい、俺見たいってどういうことだよ」
「そのまんまの意味だ。とにかくクラガが大人しく一緒に居るとは思えない」
「でも奴隷の印がある」
「っ!なるほどな‥‥‥」
奴隷の印か、そう言えばよく見るとあいつにもその印があるな。
サキには付いてないのに、あいつには何で付いてるんだ。
まっ別にどうでもいいか。
「何だお前奴隷の印があるのか。じゃあ、これやるよ」
俺はポケットから奴隷の印を消す薬を投げつける。
アルバはそれを受け取ると疑う様にその薬をじっと見る。
「一体どういうマネかな?俺を騙して毒殺する作戦か?」
「何でそんなことすんだよ」
「何でってもちろん俺とお前が敵だからだよ」
「敵?何だお前、サキの仲間なんだろ?何で敵対するんだよ」
「サキもお前と敵対しているからだ!そもそも俺達は黒の魔法使いだぞ!」
何か妙に熱くなってんな。
何か怒らせるようなこと言ったか俺。
「黒の魔法使いだろうが何だろうが、困ってる奴が居たら助けるだろ。それに今はサキとは協力関係を結んでるしな」
「なっこいつ、まっすぐ馬鹿だな。張り合いのない奴だ」
「おい、馬鹿って言うんじゃねえよ」
「まあいい。貰えるもんは貰おう」
そう言うとアルバは手に入れた薬を自分に注射する。
するとみるみるうちに印が消えて行く。
「おお、よかったな元に戻っ――――――」
その瞬間、こちらに光の矢が放たれる。
俺はそれを反射的に避ける。
「急に何すんだよ。サキに当たったらどうすんだ」
「安心しろ、お前しか狙ってない。言っただろ俺とお前は敵だ。サキ、直ぐにそいつから離れろ。俺が居るんだ、もうそいつに付く必要はないだろ」
「まあ別に俺はどっちでもいいけどよ。元気になったみたいだし、それなら全力でやれるだろ。その前にサキ、お前はどっちなんだよ。もう用なしってんなら俺は降りるけど」
ここまで無言を貫いているサキに話しをする。
サキは無表情で俺とアルバを交互に見るとそのままパソコンに視線を向ける。
「このままでいい」
「え!?」
「だってよ。これじゃあ戦えないよな」
「おいサキ!何でそいつの言う事を聞く。そいつの協力が無くても俺達だけで迎えに行けるだろ」
「でもガイの方が足が速いから」
「なっ!それだけ‥‥‥」
「効率的に考えて、こっちの方が良い」
「済まねえな、アルバ。いやあ、あんなに意気揚々と戦う感じ出してた所悪いけどそれはまた今度な」
「何でこんな上手く行かないんだ」
アルバはぶつぶつと何かを呟くとそのまま項垂れる。
まあ正直あいつとは戦って見たかったが、こっちも戦いが終わったばかりだからな。
やるなら全力の状態がイイ。
「じゃあ、早く行こうぜ。もう場所は分かってんだろ。アルバ、ちゃんと俺に着いてこいよ」
「指図するな!サキ、後で怒られても知らないからな!俺はちゃんと忠告したぞ」
「アルバ、早く来て」
「何で俺が怒られてるんだよ‥‥‥ああ、ちくしょう!」
またなんかイラついてんのか。
あいつって結構短気なのか。
「よっしゃあ、それじゃあ次の場所に行くぞ!」
―――――――――――――――――
「みんなー!大丈夫だよ!私達が助けに来たから」
「慌てずに私達に付いて来て、直ぐに外に連れて行ってあげるから」
ん?何だあっちの方が騒がしいな。
もしかして誰かいるのか。
「おーい!迎えに来たぞー!」
サキの道案内で向かった先には大勢の人が一塊となっていた。
そしてそこで俺は見知った奴にようやく出会う。
「うわあ、何かいっぱい人が増えた」
「あっガイさん!よかった、無事みたいで安心しました」
「おう、ぺプロも元気そうだな。ていうか、何かここいっぱい居るな」
「っクラガ!本当にここに居たのか!」
するとアルバが誰かを発見したのか一目散に駆け出していく。
そしてサキも俺の腕から降りるとそのまま走り出して行った。
その向かった先には腕を組んで静観していた男が居た。
いや、あいつは。
「サキ、アルバ。どうやら無事に出られたようだな。サキ、お前もケガはしていないようだな」
「セキュリティーの掌握は出来た。いつでも出来る」
「そうか、だが状況が少し変わってな。こいつらの手伝いをさせられている」
そう言って嫌そうに周りを見渡す。
そうか、黒の魔法使いだからもちろんこいつも居るよな。
俺はすぐにクラガの前に立つ。
「おいクラガ久しぶりだな。あの日の出来事、まだ俺は覚えてるぜ」
「貴様は誰だったか?」
「へ、忘れたなら思い出させてやるよ!」
俺はその瞬間、魔力を込めて放とうとしたが誰かが俺の前に立ち塞がる。
それにより勢いが削がれてしまった。
「おい、何すんだ!」
「駄目だよガイッち、クラッちは私の仲間なの。だから傷つけるのは駄目」
「誰が仲間だ」
「何だよ、仲間なのかよ。仕方ねえ、今回は大人しくしてるぜ」
「だから誰が仲間だと言った」
「クラガ、何でこいつらに従ってるんだ。こんな奴ら大したことないだろ」
アルバはヒソヒソとクラガに話しかけている。
何だ、あいつら何の話してるんだ。
「本来ならな、だが止むにやまれない事情という奴だ。奴らには借りがある、それを解消するまでの協定だ」
「なるほど、つまり奴隷の印を消してもらったのか」
「ていうか、こんな大勢の奴らどうするんだ?」
俺は近くに居る人間を見渡す。
そして近くで倒れている研究者を見つけた。
どうやらこいつに色々とさせられたみたいだな。
「マイト呼べばすぐにこいつらを運んでやれるけど、どうする?」
「それが一番だと思います。頼めますか」
「おう、任せろ。それと今皆を迎えに行ってんだけどお前らも来るか?」
「皆に会えるの!行く行く、もちろん行くよ」
「えー俺はもう疲れたから帰りたいんだけど」
「文句言わないの。まだ全員を助けたわけじゃないし、最後まで確認しないと」
「よし、それじゃあお前らも付いて行くってことで。サキ、案内任せたぞ」
「分かった」
するとサキがゆっくりとこちらに近づいて来る。
「ん?どうした?」
「効率的な運搬しないの?」
「え?いや、もうこんなに居るんだし必要ねえだろ」
あれをやったのは少ない人数だったからであってこんなにいる状況じゃ、やる必要も無いだろう。
するとサキが少しだけ顔を俯く。
「確かにそうだね」
「ああ、そうだろ」
何かよく分からんが、納得してもらったのかな。
「それじゃあ、マイトさんが避難者を外に出してくれたらすぐにでも出発しましょう!」
「やったー!仲間が増えてすっごく嬉しいよ!」
「ああ、どんどん居づらくなる」
「それじゃあマイトを呼んでからすぐにでも行くぞ!」
俺はマイトを呼んで避難者をキンメキラタウンに送ったのを見送ってから、次の場所へと皆で移動した。




