その四十三 グフフの復讐
「それから監禁生活が始まったの。ミノルは自分の言葉を証明するかのように、何度も連れて行こうとした人に逆らって、誰一人連れて行かせなかった。でもそれは自分を犠牲にした無謀な作戦だった。ミノルは全ての実験に自分の体を差し出したの」
「ミノルさんが、自分を犠牲に‥‥‥」
途中まで話を聞いただけでもミノルさんならやりかねない事だとすぐに分かりました。
あの人は誰かの為なら平気で自分を犠牲に出来る、自己犠牲の塊のような人ですから。
やはり、そう言う事でしたか。
「続きを教えてください」
「うん、何度も言っていく内のミノルの体はボロボロになって行ったの。その姿を私は見ていられなかった。でもミノルは頑なに他の人が行くのを止めたの。そんな時、研究所内でアラームが鳴り響いて大慌てで研究所の研究者がやって来たの」
「研究者ですが、その人があなた達をここまで連れて来たんですね」
「うん、でもその途中でその行き先が研究室だと知ったミノルはすぐに皆を解放するように説得してくれたの。だけどその条件としてミノルはその実験の実験台になれって」
「もしかして、ミノルさんはそれを受けたんですか」
その言葉にアイラは頷いた。
あの人は本当に、僕達の気持ちも考えてくださいよ。
「ミノルさんは今は人間です。何か起きた時対処できる力がありません」
「私の必死に止めたんだけど、ミノルの意思は固くててこでも譲らなかった。私どうしよう、ミノルを見殺しにしてしまったかも」
「落ち着いてください。ミノルさんは強い人です、それに何か考えがあっての行動でしょう」
昔みたいに勝手に居なくなるようなことはしないはずです。
それでもかなりのピンチには変わりはないでしょう。
もしかすると助けを待っての行動かもしれません。
ならすぐにでも向かわなければいけませんね。
「アイラさん、大丈夫です。ミノルさんはすぐに助けません。これからマイトさんに迎えに来てもらいます。それでここから脱出してください。皆さんもそれでここから出られますから」
その言葉を聞いて安心した様に声を漏らす。
これで何とか人実の人は無事に避難は出来るでしょう。
その時、アイラが僕の手を握りしめた。
「アイラ?急にどうしたんですか?」
「私も行く。絶対に行く、私もみんなの仲間だから」
ここまで力強い言葉を放つアイラは珍しいですね。
それほどミノルさんを助けたいと言う事でしょう。
「分かりましたよ。ですからそろそろ手を握りつぶすのはやめてくれませんか?」
「へ?あっごめんなさい!つい、力が入っちゃって」
「気にしてませんよ。むしろアイラのぬくもりを感じられてよかったです」
「こんな時にそんなこと言わないでよ」
「すみません、冗談はこのくらいにして行きましょうか。皆さんはここで待機しててくださいね」
僕とアイラはすぐにミノルさんの元へと急いだ。
「それでミノルさんは何処に行ったんですか?」
「さらに地下へと向かって行ったところは見えたんだけど、それ以上は見えなくて。確かこの部屋を通って行ったと思う」
そう言うとアイラは一つの扉を指差す。
そこは他の扉と少し作りが異なっていた。
特別な部屋という事でしょうか、確か実験に付き合ってもらうと言っていたようですしもしかして大掛かりな実験をするつもりでしょうか。
「言って見ない事には分かりませんね。それでは行きましょうか」
僕は迷うことなくその扉を開き中を潜り抜ける。
すると中は暗く、自分がどこに居るのか分からない程だった。
「アイラ、離れ離れにならない様に手を繋いでいきましょう」
「うん、えっきゃあああああ———————————」
「っ!?アイラ!アイラどうしたんですか!どこに居るんですか、返事をしてください!」
アイラの声が聞こえない。
何が起きてるんですか。
そう思った時、突如周りが一気に明るくなる。
それにより一瞬目がやられるが、光に目が慣れてきたことで周りが見えるようになった。
「こ、これは‥‥‥!」
そこは研究所とはかけ離れた闘技場のような場所だった。
一体どういう事でしょう、まさかこの研究所にこんな場所が存在していたんですか。
それよりもアイラの姿が見えないのはなぜでしょう。
「ようこそ、お客人!よくぞいらっしゃいました!あなたが来るのを心待ちしていましたよ!」
突如その声が聞こえてきた方向を振り向くとそこには、ある人物が高所からこちらを見下ろしていた。
突然何なんですか。
「あなたは何者ですか。何のためにこんな事をしているんですか」
「グフフフっあなたとは直接会うのは初めましてですね。ですがあなた方のお仲間には何かと計画を潰されているんですよ」
不気味に笑うその男はどうやら僕達に恨みを持っているようですね。
ですが僕はこの男に全く身に覚えがないんですが。
「僕は急いでるんです。残念ですけどあなたのお遊びに付き合っている暇はありません」
「遊びではありませんよ。ショーですよ、せっかく楽しい人体実験を無償で鑑賞できる機会を手に入れたというのに、またもやあなた方は私の邪魔をする。グフフフっこれはもうお仕置きが必要ではないでしょうか」
「知りませんよ。恨むのは構いませんが、勝手にその恨みを晴らそうとするのはやめてください。僕は急いでいるので」
アイラの姿が見えませんね。
もしかするとあの暗がりではぐれてしまった可能性があります。
直ぐにでも見つけなければ。
そう思った時、またもや不気味な笑い声が聞こえて来る。
「グフフフっ探し物はこちらですかな」
そう言うと奥から木の棒に縛り付けられたミノルさんが奥から出て来た。
「ミノルさん!?」
「リドル駄目よ!これは罠よ!」
罠、一体どういうことですか?
状況が飲み込めないなか、反対の方向の扉が開くとそこからアイラが出て来た。
「アイラ!?どうしてそこに」
「リドル!分からない、気付いたらここに連れてこられてて」
「さあ、役者は揃いましたよ。本当ならあの男とふざけたことを言う女にも来てもらいたかったのですが、まあいいでしょう。私もそろそろ待ちくたびれましたから」
「どういうことですか!一体何をしようとしてるんですか!」
「グフフフっ楽しいショーだと言ったはずですよ」
その時ミノルさんが居る方向の扉が開かれると、そこから大量の半獣が現れる。
いや、あれは半獣なんでしょうか。
耳や尻尾が少し歪な形をしています。
「彼らは実験のなれの果てです。中途半端に成功してしまい、楽に死ぬことが出来ません」
「元人間ですか‥‥‥!彼らの体をいじくりまわして弄んだ挙句、まだ何かするつもり何ですか」
ですがこちらには元に戻せる薬があります。
それを使えば彼らも救うことが出来るでしょう。
ですがその前にミノルさんとアイラを何とか助けなくては。
「今から彼女と彼らで戦いを行なってもらいます。彼らには彼女らを殺した場合、元に戻す薬を授ける約束をしています」
「元に戻せる薬?なぜあなたがそんな物を」
「あなたがくれたではありませんか」
そう言うとその男は薬をこちらに見せびらかす。
あの薬が僕が持って来たもの、あの暗闇に乗じて盗まれたんですか。
アイラの事を心配し過ぎて近くの警戒を怠っていました。
「そして彼女らが彼らを倒すことでが出来れば、人実は解放しましょう」
「アイラは人間です!戦えるわけがありません」
「分かっていますとも。私も鬼ではありません、これをプレゼントしましょう」
そう言うとその男はアイラの方に何かを投げ渡す。
それは地面に転がると透明な容器に液体が入っていた。
あれは、もしかして。
「半獣になる薬‥‥‥!」
「その通りです。ですがまだ試作段階で使えば力を得ることが出来ますが、体が耐え切れず命の保証が出来ません。使うかどうかはあなたにお任せします」
「アイラ駄目よ!そんなもの使っちゃ!」
「そうです!すぐに僕が助けに――――――っ!?」
アイラの元に向かおうとした時、突然顔が何かに思いっきりぶつかった。
これは透明なガラス。
「あなたは観客何ですよ。ともに楽しみましょう、彼らの命がけの実験を!」




