その十八 休息のコロット村
先程まで揺れていたコ車がピタリと止まった。
「着きましたよ。お客さん。コロット村です」
「へ?コロット村?カルシナシティじゃないのか」
そこは小さな建物が沢山並んでいて規模はほんとに村くらいの大きさだった。
「そういえば着くのに1日掛かるの忘れてたわね。カルシナシティに着くまでここで休むわよ」
そう言ってミノルはコ車から降りた。
俺もそれに続いてコ車から降りる。
「ここで休むのか。ん?あそこに止まってるのはデビたちが乗ってるコ車か?」
俺達は別の場所で止まってるコ車に向かった。
「あっかつさん、さっきぶりですね」
「ああリドルか。あれ?何か妙に顔がキレイになってないか」
「そうですか?」
まるでストレス解消したあとの顔のようだな。
そういえばうるさいやつが見当たらないな。
「デビはどこ行ったんだ?」
「ああ、それならこの奥にいますよ」
リドルは扉の奥を指さした。
そこには体を震わせながら身を縮ませるデビの姿があった。
「何やってんだデビ」
「あく、悪魔……悪魔が居る……」
「どうしちゃったのデビちゃん」
「さあよく分からん。悪魔とか何とか言ってるが」
もしかしてこいつもミノルと同じように何かコウバを喜ばせる行為をしたのか?
なるほどだからそんな震えてるのか。
「ミノル、お前なら分かるだろ」
「あ、そういうことね」
何かを察したミノルはそれ以上何も語らなかった。
「デビ、俺達は宿屋を探してくる、お前は立ち直ってからでいいからな」
「…………」
こりゃ当分立ち直れないかもな。
俺達はデビをコ車に留めておき宿屋を探した。
「何でデビちゃんはあんなに怖がってたの?」
「コウバにやられたんだろ。他人事みたいになるがあんなこと自分からやるのはかなり苦痛のはずだしな」
「それあなたが言う?でも気になるわね。リドルは何か知らないの?」
俺とミノルは同時にリドルの方を振り向く。
「え?何ですか?もしかしてデビさんが何したか知りたいんですか?」
何かを知っているかのように不敵に笑う。
「聞くのは私だけ。かつはあっち行ってて」
「分かってるよ」
俺はミノルに言われた通りそっぽを向き、話を聞かないように少し遠くに離れた。
「実はこれをやったんですよね」
「え!?これって……」
あっちではデビの恥ずかしい話をしてるしどうするか。
にしても……
「人が少ないな。村だから仕方ないのかもしれないけど……しかもあまり村に活気がないような」
こんなもんなのか村ってのは。
俺はこの島の普通とかよくわかってないから、これが普通なのかも分からん。
「お!店がやってるな。どれどれ」
「いらっしゃい……」
「え?」
あまりのテンションの低さに流石に動揺した。
「あ、えっと、これって何売ってんですか?」
「ドラゴンの肉です」
「へぇ〜ドラゴンか………え!?ドラゴン!?」
言葉と声のテンションが比例してなさ過ぎて反応出来なかったぞ。
「にしてもドラゴンか……食べてみたいな」
ドラゴンの肉なんてこの先お目にかかれるか分からないしな。
「よし、決めた!ドラゴンの肉4つください!」
あいつらの分も買ってきてやろう。
「無いですよ」
「ん?なんて言った」
声が小さくて聞こえにくい。
「ドラゴンの肉無いです」
「え?ないのドラゴンの肉」
ていうかもっと声張れよ。
「じゃあ無いのに何でドラゴンの肉あるって言ったんだよ」
「それはこの村の名物だからよ!」
店員の声とは真逆の声量でミノルが乱入して来た。
「いつの間に。もう聞いたのか」
「ええ想像以上にやばいことしてたわ……」
俺は実際に聞いてないからわからないがミノルのあの顔を見ればヤバさがだいたい分かる。
「と、とりあえずそれは一旦置いといて、この村の名物だったら尚更なきゃ駄目なんじゃないのか」
「外来モンスターですよね」
これはまた違ったタイプの声のやつがきたな。
「リドル急に話に入ってきたな」
「すみません。ここしか無いなと思って」
まあ確かにリドルの存在、ちょっと忘れてた。
「それで外来モンスターってなんだ?」
「外来モンスターというのは本来居るはずのないモンスターがそこに留まることによって生体環境を変えてしまうモンスターのことを言います」
日本で言う外来種みたいなやつか。
「なるほど。もしかしてこの村に外来モンスターがいるってことか」
「それはここの村の人に聞いてみましょう」
たしかにそれもそうだな。
「あのうもしかしてこの村って何かあったりしました」
「え?ああ、たしかにここの村に危険なモンスターが来たせいでドラゴンがたくさん食われてますね」
相変わらず声のテンションと言葉が合ってないんだよな。
「もしかしてそれのせいでドラゴンの肉が取れないのか?」
「そうですね、はい」
もしかしてこいつが元気無いのはこれのせいなのか。
「そういえば魔法協会でも言ってましたね。かなり強いモンスターが出たって」
「そういえば俺も聞いたなそれ」
「助けましょう!この村を!」
「どぅわ!びっくりした……いきなり大声出すなよ」
未だに心臓がバクバクいってる。
「私達でそのモンスターを倒すのよ!」
「2回も言うな。ミノル残念だけどそんな時間はないぞ。しかも強いんだろ」
「そうですね。あのドラゴンを主食にする程ですからかなり強いと思いますよ」
そうだよな、あの俺でも強いと分かるドラゴンを食べてしまうモンスターだもんな。
「ミノル、無理!諦めろ」
「そうですね。流石にこれは無理ですね」
「そ、そんなぁ〜」
そんなやつ相手にしてたら命がいくつあっても足りない。
俺達が今すべきことは明日到着するカルシナシティまでに休むことだしな。
「よし!取り敢えず宿屋に行ってご飯食べよう!行くぞ!」
「ちょ!かつ、引っ張らないでよ!」
俺はまだ抵抗するミノルを引っ張りながら店を出た。




