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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その四十一 俺の名はカビット

俺の名前はガビットだ。

品行方正で人望が厚く、仲間は必ず守る強い男。

俺の生まれ故郷は大きな島国で俺が産声を上げるとその町総出で俺の誕生を祝福した。

沢山の愛情を注いでもらい、俺はすくすくと成長しその町で一番の魔法使いとなった。

その町の王は俺の活躍を称え、旅に出る俺に潤沢な資金と街の皆が祭りを開いてくれた。

沢山の見送りと共に旅に出た俺はそこで大切な仲間と出会い、活躍の場を広げていった。

どんなピンチも乗り越え、危機に陥っている人の前に颯爽と現れる。

人々はそんな俺を尊敬し、皆からも信頼され俺もみんなを大切な仲間だと思っている。

それが俺、ガビットだ。


「違う、それは俺じゃないんだ」


気が付くと目の前にもう一人の自分が映っている。

それがガビットだ、でもそれは本当の俺じゃない。

ガビットは俺の理想の姿だ、だけどそれはガビットで会って俺じゃない。

俺の名前はカビット、小さな村出身の‥‥‥違うなそれは改善された記憶だ。

本当は小さな島国出身でその中でも一番小さな村で細々と生まれた。

母は生まれた直後に無くなってしまい、男で一つで育てられた。

人望はなく、俺はいつも一人ぼっちだった。

父は強い男になる事を俺に求めた、それが嫌で娯楽に逃げてあっという間に真逆の人間となった。

気弱な性格で意志の弱い俺は唯一の友人にお金を貸してしまい、それがかなりやばい事に使われたようでしかもその責任を全部俺に背負わされ、気が付けば見知らぬ島の片道切符を掴まされていた。


「君のライフはとても刺激的な物みたいだね。順風満帆とはいかないとってミスラブルなストーリーだ」

「お前に同情なんてされたくない。お前は俺の理想の姿だ」

「そうだろうね。ユーがマイをゲイブバースさせたんだから」


化け物に変えられて変化していく世界に流されて、気付けばまた危険なことに巻き込まれていた。

それを回避する為に俺はガビットを生んだんだ。

ガビットは俺とは真逆の性格、自身に満ち溢れどんな困難にも笑って立ち向かう。

父が理想とした姿だ。


「あっそうか‥‥‥俺は父親が求めていた姿をそのままガビットに当てはめてたんだ」


俺が慣れなかった、理想の自分に。


「そしてユーはまた逃げ続けている。今も俺と姿をチェンジさせた、新しいフレンドを得たのに」

「そうだよ、ガビットの言う通りだ。今もこうして現実逃避する為にお前と話してるしね」

「姿をチェンジしてる時、ユーはこの暗闇の中で俺との対話をしている。そしていつもハートを傷つけている」

「さすが俺の分身だね。何でも分かるんだ」

「分かるとも、俺とお前は表裏一体、同じボディーを共有している物なんだからさ」


そう言うとガビットは歯を輝かせる。

ああいった事も俺には出来ない。

戦いが終わるまでまたこうして暗闇に閉じこもっているんだ。

それでいいんだ、全部もう一人の俺がやってくれるんだから。

でも時々思うガビットが居るのに俺は必要なのかって。

こんな俺を誰も求めていない。


『ガビッち、何へこたれてるの!ほらシャキっとして!』


これはメイの声?

そう言えば、メイと再会した時もこんな風に言われたな。

目的を達成して、殺される恐怖から色々な場所を転々としていた時モンスターに襲われてもう駄目だと思った瞬間、メイがモンスターを倒してくれたんだ。


「あれれ?見たことある人が居るって思ったらガビッちじゃん!こんな所で何してるの?もしかして一人ボードゲームしてたの」

「そんなむなしいことしないよ。てっお前はあの時の。何でこんな所に居るんだよ」

「今仲間探ししてるの。私もパーティーを作りたいから」

「パーティー?仲間なら居たじゃん。あいつらは違うのかよ」

「自分だけの仲間が欲しいの!そうだ、ガビッち私の仲間になってよ!」

「ガビッチじゃないって。俺の名前はカビットだから!」

「あれ?でも前会った時がガビッちって名乗ってたよ。何で名前を変えてるの?」

「それは色々あって、とにかく仲間探しなら他を当たってくれよ」

「えー待ってよガビッち」


それから妙にしつこく勧誘されたっけ、ここでも俺は押しに弱くて結局引き受けてしまった。

そう言えば、メイには一度もカビットって呼ばれた事なかったな。

やっぱりあいつらが必要なのはカビットじゃなくてガビットなんだな。


「いい加減に立ち直ってよ!ガビッちが無理なら、早くカビッちと変わってよ。カビッちを出して!」


え?今俺の名前を呼んだ?

何で、今まで呼んだこと無かったのに。

急にどうして。


「カビッちいつまでふてくされてるの?カビッちはガビッちなのどっちなの?私があの時仲間にしたのは、仲間になってくれるって言ったのはどっちなの?私が私と仲間になるって言ってくれた方と一緒に戦いたいよ」


仲間になろうと頷いたのは、ガビット?

いや違う、あの時仲間になると言ったのはカビットだ。

そして今もこいつらと一緒に冒険を続けたいと思うようになったのも、カビットだ。

カビットが、俺があいつらを守りたいんだ。


「だからガビット!俺と変われ!」

「ふっいいだろう。その熱いソウルをぶつけて来い、カビット!」


――――――――――――――――――

「ちょっとメイ!これ以上はもう無理よ!ガビットを放っておいて、戦いに集中して!」

「でもでもう一緒に戦うって約束したもん」

「俺はカビットだ!!」


その時目の前がパッと明るくなった。

戻ったのか、ていうか何か偉い場面に戻ってきちゃったような。


「カビッち!ようやく出て来てくれたんだね。このこの、待たせやがって」


そう言ってメイが肘で俺の脇腹を突いて来る。

暑苦しいからやめて欲しいんだけど。


「いきなりどうしたの。あんた、戦えないんじゃないの」

「戦うのはまだ怖いよ。でも、仲間と呼んでくれるみんなの期待を裏切りたくないんだ」

「良く言ったわね。見直したわ。それじゃあ、やりましょうか」

「一人やる気を呼び起こしたところで意味はない」

「俺の化身には誰も敵わないっす」


あれがあいつらのオリジナル魔法か。

滅茶苦茶やばいってのは凄い伝わって来る。

この状況を一気に逆転させるのはこれしか方法はない。

俺は懐から魔法陣が描かれた紙を取り出す。

それは危険な仕事を任された時、自衛のためにと渡されたものだ。

結局難しすぎて魔法陣を覚えられなかったし、どうせ俺じゃあ使いこなせないと思ってずっとしまい込んでたけど、使うなら今しかない。

何の効果を発揮するか分からないけど、何かきっかけをつかめればそれでいい。

俺は魔法陣が描かれた紙を見る。

すると驚くことにその魔法陣の模様がすっと頭の中に入って来た。


「え?何で覚えてるんだ。そんな見てないはずなのに」


待てよ、もしかしてガビットが覚えてたのか。

いつかこの魔法を使う日が来ると思って、覚えてて使ってなかったのか。

ありがとうガビット、全部分かるよ。

魔法陣もこのオリジナル魔法の効果も。


「押しつぶされろ!」


すると一斉に化身がこちらへと向かってくる。

メイたちが身構える中俺は前へと出る。


「カビット何をするつもり!」

「二人は下がってて!俺が止める!」


頼む、成功してくれ!


小心者の心(ハートブレイク)!」


魔法陣から飛び出た謎のエネルギー波が二体の化身に当たった時、先程の勢いは無くなって行きその場でいじけるように肩を落としていた。


「なっ!?何が起きたんだ!」

「俺の化身が弱気になってるっす!」

「やった!成功した!」

「すごいよカビッち!やれば出来る子、素敵な子!」

「そこまで褒められると、何か恥ずかしいな」

「今の内に畳みかけるわよ!」


ぺプロの号令と共に俺達はその場でとどまっている化身に魔法陣を向ける。


「今までの動きを見ると、背中を特に庇っていたみたいね!それはそこに弱点があるって言ってるような物でしょ!バーニングスコール!」


瞬間的な炎の渦が鎧の隙間に入ると、爆発を起こす。

それにより二体の化身の姿が消えた。


「またやられたっしょ!」

「うろたえるな!もう一度、オリジナル魔法を展開させれば――――――」

「させるわけないだろう!小心者の心(ハートブレイク)!」

「しまっ!」


オリジナル魔法から放出させるエネルギー波に二人が直撃する。

その瞬間、二人の様子が一気に変わった。


「ああ、殻に閉じこもりたい」

「駄目駄目な俺が頑張ってもどうせ駄目なんだよ」

「やったー!完全に無力化したよ!」

「はあ‥‥‥ようやく勝ったのね」

「俺も役に立てたかな」


ようやく勝利できた、その喜びが俺達の気を抜けさせていた。

その時、ザックとニュートに刻まれた印が赤く光り始める。


「あれ?何か光ってない」

「何だろう、もしかしてそう言うおしゃれ機能とか?」

「違う。あれは自爆よ!殺す気だわ」


自爆!?このまま爆発するのか!

まずい、完全に油断してたから反応できない。

そう思った時、メイが誰よりも早く魔法陣を展開させる。


「誰も死なせない!土壇場のびっくり箱(マジックボックス)!」


その時ザックとニュートへと続く氷の道が出現する。

それを見た時俺とぺプロは同時に魔法陣を発動していた。


「「行ってこい!メイ!!」」

「任せろり!」


炎と風の魔法をメイにぶつけると爆発的な推進力と共に氷の道を勢いよく滑って行く。

そして一際奴隷の印が輝いた時、持っていた薬の注射器を二人の首元に押し当てた。

そのまま勢いよく、壁にぶつかる。


「二人は!」

「あっああああ!」

「ぐっうううう!」


二人は突如苦しみだし、その場にうずくまる。

するとその声がだんだんと小さくなっていき、その後寝息を立て始めた。


「防げたの?」

「そうっぽい?」

「やったー!助けたんだー!」


防げたんだ、命を救ったんだ。

この俺がそこに関わることが出来たんだ、自分の意思で。


「メイ、やった――――――うぐっ!?」

「ちょっやめ――――――もごっ!」

「私達がやったんだよ!やっぱり私達は最強だ!」


突如メイに抱きしめられたことで完全に息が出来なくなる。

や、やばい、これで死んじゃいそう。

必死にもがいている時、冷たい声色が聞こえて来る。


「気は済んだか」


その声に反応したメイがようやく俺達を解放してくれた。


「ぷはっ!はあ、はあ、死ぬかと思った」

「本当に無駄な戦いだった。奴らがわざわざ自爆をしてくれているのにも関わらず、それを止めて。無駄な魔力と無駄な量力を消費した結果がお荷物二人だ。全てにおいて無駄だった」

「あんたねえ‥‥‥」

「間違った事は言っていないぞ。貴様らがやった事はただの自己満足だ。後先を考えない、ただの自分の欲を見たしたいだけの行為、それで満足したのか」

「うん大満足だよ」

「え?メイ、今のは煽られたんだよ」

「え、そうなの?全然気づかなかった」


今のは明らかにそう言うことだろ。

また怒らせるぞ。


「でも印が輝きだした瞬間、魔法を使おうとしてたよね。それてクラッちも二人を助けたいと思ったんじゃないの。このこの」

「っ!」

(あの一瞬の魔力を感じ取ったのか。メイ、掴み所のない奴だがもしかすると‥‥‥)


「爆発により副次的災害を防ごうとしただけだ。とにかくお前らが好きにやった事だ。そいつらの御守りはお前らがやれよ」


そう言うとクラガはそのまま奥の部屋に行こうとする。


「クラッちってさ。私達の仲間になったら楽しそうじゃない」

「「嫌だ」」

「えー面白そうなのになあ」


ブーブーと文句を垂れながらザックを背中に運ぶ。

ようやく一歩を踏み込めたけど、さすがにその一歩は踏み込みたくはないな。



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