その四十 ぺプロの研究所探索その4
メイのびっくり箱は発動した瞬間、その状況に最も適した魔法が繰り出される。
つまりびっくり箱を使っても対処できない一撃が来た場合、それはメイの魔力では防ぎきれない程の強力な魔法って事。
「はあ、はあ、参ったわね。この状況結構まずいみたい」
「あのゴラッち強すぎるよ~」
「まさかあんなエキサイティングなゴリラが出て来るとはな。面白くなって来たじゃないか」
「楽しんでいる場合か?状況はお前らには劣勢だぞ」
クラガは傍観するかのように腕を組んで見守っている。
こいつさっきの一撃も自分だけ逃げたわね。
「なら手伝いなさい。いつまで静観決めてるつもり」
「言っただろ俺のやり方でやるとは。お前らはもう戦えないようだから、俺がやろう」
そう言うとクラガはついに腕を解き、ゴララの前に立ち塞がる。
まさか本当に戦うつもりなの。
「十秒でケリを付けよう」
「ザック、あいつは周りの奴らとはレベルが違うみたいだぞ」
「ああ、ニュート殺意がにじみ出てるっす。まるで血にまみれた獣見たいっしょ」
「血にまみれるのがどちらかすぐに分かる」
その言葉をキッカケにザックが作り出したゴララが一直線にクラガに向かって行く。
クラガはそれに対して避ける訳でもなく正面から迎え撃つ。
どういうつもり、あのゴララって言う魔法生物はいくら黒の魔法使いのクラガだって、生身で受ければダメージを喰らうはず。
まさか自分の実力を相手に知らしめるためにわざとぶつかるつもり?
理解出来ない行動に私はクラガの一挙手一投足に目が離せなかった。
だが次の瞬間、ゴララの右腕が突如消えた。
「っ!?」
「うそっゴララ!」
「ザック余所見をするな!」
ニュートの警告は最もだった。
瞬きする間もなくクラガはザックの元へと近付いていた。
魔法は間に合わないと思ったのだろう、ザックは咄嗟に右腕を出した瞬間、難なくクラガがそれを受け止めそのまま後ろへと放り投げる。
「なっ!?」
投げ出されると思ってなかったのか、ザックは身を投げ出されながら目を丸くさせる。
次にニュートの元へと向かったクラガだったが、すぐにニュートは魔法陣を展開させて迎撃をしようとする。
するとクラガは左腕を後ろに伸ばす。
「黒い印」
「おわっ!?」
「どよよ!?」
その時信じられない光景が目の前で起きた。
先程投げだされたはずのザックがクラガの元へと一直線に戻って行く。
空中に居ながらまるで吸い込まれるようにクラガの左腕に向かって行くと、クラガはザックの右腕を掴みそのままニュートの方へと投げ飛ばす。
ザックが自身の方へと投げ出されたことで、ニュートは咄嗟に魔法を解除させるとそのままザックと正面からぶつかる。
それによりバランスを崩して倒れたザックとニュートにクラガは覆いかぶさるようにして、二人の両腕を掴む。
「これで終わりだ」
「びっくり箱!」
その時突如クラガ達の真上に岩が出現し、クラガはすぐに避けたがザック達はそのまま潰される。
「あっやっちゃった‥‥‥」
「なにしやがる!」
「いきなり潰す何て卑怯っす!」
「せっかく助けてあげたのに、そんな怒らないでよ」
「どういうつもりだ、牛乳女。なぜ邪魔をした」
その質問にさも当たり前化の様に答える。
「駄目だよクラッち、あの二人は助けるんだよ。殺しちゃ駄目」
「そのぬるい考えの結果がさっきの醜態だろうが、俺は俺のやり方でやると言ったはずだ」
「だったら手を出さないで!私達が二人を助けるから」
メイがここまで譲らない何て。
本気で助けるつもりなんだ、あの二人を。
その覚悟を感じ取ったのかクラガはそのまま壁際まで行くと、寄りかかった。
「好きにしろ」
「ありがとうクラッち!」
「なめているのか。俺達はお前を殺しに来たんだぞ!なのに助けるだと?意味が分からない」
「その通りっしょ。馬鹿にするのもいい加減にしろっす」
「馬鹿に何かしてないもん。だって二人とも私の友達だから、友達は傷つけるものじゃなくて一緒に楽しみ者でしょ」
その言葉を聞いたザック達は口を開いたままポカーンとしていた。
それを見て私は思わず笑みが込み上げてきた。
「あははっはははは!あー面白い。本当にあんたおかしいわ。今殺し合いとしていた相手に対して、真面目に友達って言うなんて」
「フレンドというにはあまりにも過激すぎるけどな」
「えーだって本当にそうなんだもん」
「意味が分からない‥‥‥本気で言っているのか」
「俺達を友達だって?おかしすぎて笑えて来るっしょ」
するとザックとニュートの瞳から涙が零れ落ちる。
それは問う本人でさえ予想外の事だった。
頬に触り濡れた手を呆然と見る。
「何で‥‥‥」
「おかしいっす。何でここでこんな物が」
「あんた達の心がそれを求めてるんじゃないの?」
「そんなわけないっす。友達だって、そんなこと思ってるわけ‥‥‥」
その時、二人がさらに涙を浮かべた。
そしてこちらを真っすぐに見る。
「もうお前らを傷つけたくない」
「戦いたくないっす」
「だけど、俺達は戦わないといけない。もう自分の意思ではどうすることも出来ない」
「だからお願いするっす。俺達を」
「「助けて」」
その言葉と共にニュート達に刻まれて印が赤く輝く。
すると先程まで助けを求めていた二人が一瞬にして表情を変えて、こちらに敵意を向ける。
「お前らを殺す」
「生きては帰さないっしょ」
「分かったよ、二人とも。絶対に助けてあげるね!」
「本当に面倒なことにしてくれたわね。倒すよりも難しい条件にしちゃって」
「へへ、何だかんだ言ってもぺプッちは私と一緒に戦ってくれるもんね」
「レディーたち、この俺も居ることを忘れてもらっちゃ困るな。この俺のマジカルパワーで奴らを正気に戻してやろう」
「えーガビッちはそこまで頑張んなくてもいいよ」
「何でだ!」
「とにかくやるよ。弱体化してるとは言え、それでも強いんだから」
片腕を失ったゴララはそのままゆっくりと立ち上がる。
まだ完全には消えてない、あいつの相手をしながら何とか薬を打ち込めれば。
それにはある程度近付かなければいけない、さっきのクラガみたいにやれば出来るかもしれないけど。
それでもそう上手くは行かない。
「行けゴララ!奴らを捻りつぶすっす!」
ゴララはもう片方の腕でこちらを殴りつけようとしてくる。
私達の火力じゃあのゴララを溶かすことは出来ない。
それなら。
「二人とも!一点集中で行くわよ。両腕を無くせばパワーは格段に落ちる」
「コンセントレイションなんて本当に出来るのか?あの外殻はかなり堅いぞ!」
「大丈夫だよ。私達ならやれるもん。一人じゃ出来ない事も私達三人なら最強だよ!」
「それは飛躍しすぎじゃない。でもそう思わないと戦えないもんね」
「行くぞ!俺のマジカルパワーを見せてやる!」
振り下ろしてくる拳を避けると私達はすぐに魔法陣を展開させる。
「アグレッシブフルート!」
「ライトニングアロ―!」
「ギガロックスピア!」
片腕に一点集中させて魔法を放つがゴララはそれらをすべて振り払う。
「こうなる事は想定通り!諦めずに続けるわよ!」
「オーケー!」
「合点承知!」
「同じ部位を攻撃し続けたとしても、その程度の魔法で本当に壊せると思ってるのか?」
「その通りっしょ!しかもニュートのフルアーマーでさらに防御力も上がって居るっしょ!絶対に壊せないっす!」
「そんなのやってみないと分かんないもん!そうやって戦ってきた人達を私は見て来たから!」
ゴララが反撃の為に拳を何度も振り下ろしていく。
その衝撃で体が吹き飛ばされそうになるけど、踏ん張って何とかとどまり攻撃の終わり際にまた魔法を撃つ。
「その通りだ!俺達は必ずビクトリーする!それが揺るぎないトゥルーだ!」
「諦めの悪い奴が隣に居るんだから、私が先に諦めるわけには行かないでしょ。だから絶対に諦めない!」
何度も、何度も何度も攻撃を放ち続ける。
どれだけ攻撃が来ようとも私達は諦めることなく同じ場所に魔法を放ち続ける。
魔力もだんだんとなくなってきてる。
早く、早く壊れろ!
「これで終わりだよ!びっくり箱!」
その時大量の鋭い岩が現れそれらが一斉にゴララに向かって行く。
「ガビット!合わせるよ!」
「オーケー!」
「ファイヤーバーニング!」
「リフトタイフーン!」
風の魔法ですべての岩をひとまとめにして炎の魔法でさらに火力を高める。
そして巨大な炎の風の刃となり、ずっと当てていた個所にぶつける。
その瞬間、鎧に固く覆われていたその片腕は徐々に小さな亀裂が現れ、その亀裂は段々と大きくなっていく。
「行けーーーーーー!」
そして絶対壊れないと思われていたその腕は見事に砕け散った。
「よし!!やった!」
「かなりのデンジャラスなバトルだったな」
「だけどこれであの二人の元に行くだけで」
「何のことだ?」
その時私達の目の前に二つの化身が現れていた。
それらは固い鎧で覆われていた。
「何で、さっき倒したのに‥‥‥」
「俺達の魔力は常に満たされた状態にある」
「魔力切れになる事はないっしょ。つまり負ける事なんてありないっす」
「ライだろ‥‥‥あれだけやったのに、まだエンドじゃないのか」
「さあ、絶望しろよ。俺達は負けないんだよ」
「だからなに」
私達は目の前の化身と対峙する。
「言ったでしょ。諦めないって」
「そうだよ、諦めないって言ったら諦めないんだから」
「まだ戦うつもりっす?」
「もちろん!」
「ガビッチ!もしかして諦めたの!私は知ってるんだよ、ガビッチは本当はとっても強いのに自信を持ってないこと」
「何を言ってるんだ‥‥‥俺はいつでもコンフィデンスだぞ」
「そうだね、ガビッちはいつでもコンフィデンスだね。だったら、いつもの口調で言ってよ。コンティニューってさ」
そう言ってメイはガビットに手を差し伸べる。
だがガビットはその手を取るのを躊躇っていた。
「俺はガビットだ。ナイスガイの男だ。そのはずだ。だけど‥‥‥」
(俺は一体何者なんだ)




