その三十四 戦いの代償
「ふう、ここもすごい荒れてるね」
この城の破壊具合を見ればどれだけの激闘が繰り広げられたか、想像したくもないな。
「あっここだよ!」
するとこちらに手を振るイナミの姿が見えた。
ボロボロではあるが思った以上に元気そうだ。
俺はすぐにイナミ達の元に向かう。
するとイナミの背中に乗っていたピンカが不服そうに目を細める。
「何で来たわけ、別にわざわざマイトが来なくても帰れたんだけど」
「勘弁してよ、俺だってもう魔力が無いんだから」
「お疲れ様、二人なら必ず勝ってくれると思ってたよ」
「当たり前でしょ。あんたに言われなくても当然勝ってたから」
「ピンカ!」
そうだね、俺の声何て必要なかったろうね。
それでもそれが必要だろうがなかろうが、俺はあの言葉を言いたかった。
だからやらないよりもやって後悔したかったのさ。
「でも‥‥‥」
するとピンカは一つ言葉を零すとそのまま一拍間を開けて恥ずかしそうに目線を逸らしながら。
「ありがと」
そのほんの四つの文字が俺の心を激しく動かした。
今、ピンカが俺にお礼の言葉を言った。
あのピンカが。
「ふふ、ふはははははは!」
「ちょっ!何笑ってんのよ、ぶっ殺すぞ!」
「いやごめんごめん、まさかピンカにお礼を言われる日が来るなんて思わなくてさ。嬉しすぎて思わず笑っちゃって」
「っ何が笑っちゃったよ。私のこと馬鹿にしてんでしょ。もう絶対に言わないから」
「ええ、そんな悲しい事言わないでよ。ほら、もう一度言ってよ」
「死ね!」
そう言ってピンカは近づいた俺の顔面に向かって蹴りを入れて来る。
「ピンカ、やめなよ。体だって動いていい状態じゃないんだからさ」
ピンカの足を見て見ると片方の足だけ血が垂れており、まるで引き裂いた後のような痛々しい傷が残っている。
だからピンカはわざわざイナミにおぶってもらってるのか。
「ピンカ、足は大丈夫なの?動かすと痛む?」
「心配されなくてもこれいくらい余裕よ。っ!」
そう言ってピンカが死を動かそうとした瞬間、目を瞑り唇を噛みしめる。
「ちょっだめだよピンカ!無理したら一生足が使えなくなるかもしれないんだよ」
「分かってるわよ」
「大丈夫、メメ博士が瞬時に体の治療を行なえる機械を用意してくれてるから、その中に入ればその傷も良くなると思うよ」
「ならすぐに行きましょう。足が痛んでさっきからイライラしてるの」
「そうか、ごめんごめん。そう言えば例の源魔石は入手できたの?」
「もちろんだよ」
そう言うと背中に背負っていたピンカがポケットから源魔石の欠片を見せて来る。
「これで任務完了だね。それなら早く帰ろうか」
「その前に他の人は一体どうなったの?まだ戦いは終わってないの」
イナミの質問に俺は首を横に振る。
「もう既に王の戦いは終わったよ。二人で最後だ」
「ちょっ嘘でしょ!もう終わったの、私達が一番だと思ったのに」
「それで他の人は勝ったの!」
イナミはすぐにでも結果を知りたいのかこちらに詰め寄って来る。
「そうだね。俺にはその結果を伝える責任がある」
俺は覚悟を決めて二人に向かって言葉を放つ。
「驚かないで聞いて欲しい。ある、二人の魔法使いについてだ——————」
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キンメキラタウン
「これで最後だ!」
俺は最後の一人の奴隷に薬を打ち込みそしてそのまま打ち込まれた奴は倒れる。
そして汗を拭きとると共に戦ってくれた奴らの方を向く。
「ふう、久しぶりに全力出したぜ。お前等!俺達がこの街を守り切ったぞ!!」
その言葉に町の人々が大歓声で応える。
思ったよりも収束は早かった、街の人達が手伝ってくれた功績が大きいだろう。
ひとまずこの街の安全は確保できた、直に帰って来るあいつらを迎え入れる準備をしないとな。
「ブライドー!」
声がする方を振り向くとそこにはクリシナの姿があった。
「お前も終わったか。すぐに奴隷化を解除させた人達を運び出すぞ。お前も手伝え」
「それより、ちょっと大変なことになったの」
「大変なことだと?」
「さっき帰って来たばっかりのエングとサザミの二人なんだけどね。サザミの容態がかなり悪いらしいの」
容態が悪い、てことは命の危険が出てきているのか。
「分かった俺はすぐに向かう。お前らはクリシナの指示に従ってくれ!」
「分かりました!!!」
その返事を聞いて俺はすぐにメメの研究所へと急いだ。
メメの研究所の中に入ると巨大な液体が入った機械にサザミが眠っていた。
それをじっと見つめているメメに俺は言葉を投げかける。
「それでサザミの状態はどうなってるんだ?」
「かなり危険な状態だね。エングの火傷と魔力酷使による魂の傷もかなり深い物だけどこの機械の中であと数日入れば完治は可能だよ。でもサザミの方がより深い傷を持ってるね。魔力酷使も相当酷いけどそれ以上に半身の火傷がひど過ぎる。皮膚は完全に剥がれ落ちて肉の深くまで丸焦げだよ。焼き加減で行けばウェルダムだね」
「そう言う事はめったに言うもんじゃないよ」
「分かってるよ。でも冗談の一つでもう言わなきゃこのひっ迫した空気に押しつぶされちゃうと思ってね。とにかく博士の見解から考えると今夜が山だね」
俺は機械の中で眠りサザミをじっと見る。
それ程の激闘を繰り広げたという事でもあるが、それは生きて帰って来なければ意味がないだろう。
「右目は元に戻るか?」
「私の超治療液加速器は身体の治癒を爆発的に高めることで傷や病気を治すことに特化してるんだよ。だから無い物を元に戻すことは出来ないのだよ」
「そうか、サザミはお前に任せた。俺に出来る気事はないだろうがな。また新しく帰ってきた奴らが居たら報告してくれ。マイトと連絡は取ってるのか?」
「必要な時以外は連絡はしないのだよ。だから何か問題が起きない限り来ることはないだろうね」
「分かった、俺は街の様子を見て来る」
俺は今一度二人の姿を見て研究所を後にした。
すると研究所の外にはクリシナの姿があった。
「どうだったの?二人のヒーローの容態は」
「その言い方はやめてやれ。あいつらは自分の過去にけじめをつけただけだ。島を救う事も確かに大切だが、ヒーローになる為にやった事じゃない」
「確かにその通りだわ。それで二人はどうだったの?」
「正直容体はあまりよくないな。分かっていた事だが、やっぱり目の前にすると心が痛む」
俺は思わず自身の心臓を服の上から掴んでいた。
それを見ていたクリシナが遠い目をしながら空を見上げる。
「命をかけて戦うってことはそう言う事でしょ。昔もそう言う思いで一緒に戦って来たんでしょ」
「一緒には戦えてねえよ。俺はただ師匠には幸せになって欲しかったんだ」
「あら十分幸せなんじゃないの。その為にこの島を離れたんでしょう」
「違う、俺はこの島で幸せになって欲しかったんだ。もっとたくさん話がしたかった。結局俺達は足手まといになっちまったけどな」
「なら今度は守らないとね。未来のこの島には彼らが必要、そうでしょ?」
「ああ、だな」
この島の将来の為にあいつらは確かに必要だ。
でも最も必要な奴がいる。
この未来あるやつらを引っ張っていく王が。




