その十七 疑惑
「イテテテ……たく、冗談で言ったのに殴ることないだろ」
「うっさい!黙れ!」
うわぁ……めっちゃ怒ってるよ。
こういう時はあまり刺激しない方がいいんだろうけどこれ俺悪くないよな。
あいつが勝手に色々見せたんだし俺悪くないはずだぞ。
にしてもまさかあいつがおじさんに下着を見せる変態だとは思はなかったな。
「ん?何、ジロジロ見て。殴られたいの」
するとミノルが再び拳を握る。
「ちょ、ちょっと待て!何もしてないのに殴ろうとするな!」
「っ……分かってるわよ。ごめんね、ちょっとイライラしてた」
まああんな姿見られたらイライラもするか。
「はあ……コウバなんか乗るんじゃなかった」
凄い落ち込んでるな。
なんかブツブツ言ってるしここは励ましの言葉をとか必要だよな。
「まあ……ミノルなんだ……趣味ってのは人それぞれだしな。俺は別にいいと思うぞ」
「は?」
「だから別に恥ずかしい事じゃないってこと。俺だって昔は人に言えない趣味とかあったしな。だから気にするな」
「あんた……何言っての?」
「へ?いや、だから慰めようと……」
するとミノルの威圧感が先程よりも大きなものとなっている。
あれ?もしかして怒ってる?
「あんた……そんなに殴られたいの?」
笑顔で言われると余計怖いんだけど!
「ちょ、ちょっと待て!あれが趣味じゃないんだったら何であんなことしたんだよ」
「あれはコウバを動かすために必要なことなの!」
「は!?下着を見せるのが必要なことなのか!?」
「声が大きい!聞こえたらどうするの!?」
「公衆の面前で下着見せるようなやつが今更恥ずかしがってんじゃねえよ!」
「―――なぁ〜んだぁって〜!」
「ヒッ!」
やばい殴られる!
俺は身を守るため丸くなり頭を手で守った。
するとミノルが強く握られている拳を緩めため息をついた。
「コウバは、興奮することで動くようになるのよ」
「へ?」
いきなり真顔でコウバの説明をし始めた為変な声を出してしまった。
だが急に冷静になって説明を始めるミノルに萎縮してしまい、気付いたら正座して話を聞いていた。
「コウバは好みがそれぞれあって私の時みたいに下着を見せると興奮する奴もいれば、特殊な服で興奮する奴もいるの。コウバの好みはコ車を動かしているあのおじさんが通訳してくれることによって分かるの。これで分かった」
説明し終わるとミノルは笑顔を見せた。
たが顔が全く笑っていない。
「は、はい……」
俺はあまりの恐怖に声を振り絞っても返事をする事しかできなかった。
「誰が趣味だって?」
「そ、それは……」
俺は目を反らす。
あのまるで蔑むような冷たい視線を直視できない。
「私のさっきの行為は趣味だって言ったわよね?」
「そ、そんなことは」
「は?」
「言いました。すみません」
怖い怖い怖い!
誰かこの状況をどうにかしてくれぇー!
そんな心の叫びを嘲笑うかのように、ミノルは拳を上げる。
ああ俺ここで死ぬのか、お父さんお母さん、ごめん、先に言ってるね。
そしてその拳が勢い良く振り下ろされてガツン!という音がなった。
「――――っっ!……?あれ?」
痛みが来ない?
俺は振り下ろされた拳の行き場所を見るため頭を上げた。
「な、何やってんだ!?ミノル!」
そこには俺の頭ではなくコ車の床を殴っているミノルの姿があった。
「今回はこれで我慢してあげる!これに懲りたら勝手な推測はしないことね!」
「は……はい、すいません。ていうか手、大丈夫なのか?」
俺は殴った方のミノルの手を見る。
赤くなっているだけで大した傷は見えなかった。
「よし、大丈夫そうだな」
「かつ……さっきまで怒られたって事理解してる?」
「分かってるよ。でもこうなったのも俺のせいだしケガが無いか見るのは当然だろ」
「――っっ!あ、そう!」
何だ?いきなりそっぽ向いて。
もしかしてまだ怒ってるのか?
女心はよく分からん。
「あ、そういえば私に何か用があるんでしょう?」
ミノルが思い出したように俺に聞く。
そういえばすっかり忘れてたな。
「そうそう、ミノルに聞きたいことがあったんだ」
「それ結構真面目な話?」
「まあ真面目だな」
「そう……」
するとさっきまで窓を見ていたが体をこっちに向け面と向かって話し合う格好になった。
「それで話って?」
真面目な話と言ってしまったせいでもあるが空気が重たい。
「色々あって聞きそびれちゃったんだけど、ミノルって黒の魔法使いとどういう関係なんだ」
「…………」
俺はそのまま話を続けた。
「あの時、トガと戦っていた時、二人共お互いを知ってるような様子だったから。もしかしたらお前は――――」
「かつ!!」
「―――!?」
ミノルは俺の話を遮った。
でも良かったのかもしれない。
俺は今言ってはいけない事を言ってしまうところだった。
「私は……」
苦しそうな顔をしている。
ミノルの額から一滴の汗が流れる。
すると苦しそうな顔で無理に笑顔を作る。
「私は……あいつらの仲間じゃないよ」
「―――――っ!ほ、ほんと?」
その言葉で緊張が解ける。
「あいつとは昔因縁があってね。クエスト絡みの喧嘩よ。あいつ私の欲しいクエストを無理やり奪おうとしてそれで喧嘩になったの。ただそれだけ」
「そ、そうか……良かった……」
何故か俺は素直には喜べなかった。
この返事は俺が望んでいた答えだった。
だけど……何ですぐに答えなかったんだ。
そのせいでまだほんの少し心の何処かで疑っている俺がいた。
「じゃあもうこの話はやめにしようぜ!」
「そうね!あんな奴等の話なんてしてもつまんないしね!」
「……………今日は天気がいいな!」
「そ、そうね!」
「……………」
「…………………」
気まずい!
くそぅ俺あんまり話題出すのとか苦手なんだよな。
自分から話すことなんてそんな無いし。
そんな気まずい空気を断ち切るように、おじさんが運転席から呼びかけて来た。
「もうすぐ着きますから、準備しといてくださいよ」
「あ、は、はい!」
ナイスおじさん!
正直この空気もう耐えられなかったんだ。
「かつ、降りる準備しなさいよ。ここからが本番なんだから」
「分かってるよ。俺達の命がかかってるしな」
俺たちは再び決意を固めた。




