その三十一 生きてたのか
シアラルス城内
「さてとマイトにはああ言ったけど、どうだい?本当の所、任務を続けられるかい?」
あたいの膝に頭を寝せて寝っ転がっているハイにそう言葉を投げかける。
先程の爆発はガルアの部屋に仕掛けられた罠だった。
その後すぐにあたい達はハイの元に行くとそこには床に伏しているハイの姿があった。
そして現在休ませるためにあたいの膝で寝かせていた。
「うーん、もうちょい。後もう少しで完全に痛みが引くと思うだよね」
「それは何回行ったと思ってる。それに対して爆発のダメージはないだろう。直前で気づいてすぐに受け身の耐性を取ったのだろう?」
「分かってないな、ミレイは。爆発だよ、爆発。熱気で体が焼けて爆風で体を投げ飛ばされたんだぞ。受け身を取っただけで大したダメージが無いってわけじゃないんだ」
「確かにその通りだが、今のお前は邪な思いがある様に見えるのだが」
そう言ってミレイは膝枕されているハイを睨みつけると、バツが悪そうにハイが目を逸らした。
「た、確かにそろそろ仕事しないとガイスが来るかもしれないからな。よし、休憩は終わりにしよう」
わざとらしいくそう言うとハイはあたいの膝から離れてゆっくりと背を伸ばす。
「それで機械の方はどうなんだい?さっきの爆発で壊れたりしなかったのかい?」
「機械は無事だ。入る前の扉が頑丈だったおかげで被害はその扉が吹き飛ぶだけで済んだ。ある意味手間が省けたかもな」
「なら後は回収するだけだね。ローの方はどれくらい進んでるんだろうね」
「それよりも俺はガイスの方が気になる。来たらマジで終わるぞ。言っとくけど俺はすぐに逃げるからな」
ハイはきっぱりと恥ずかしげもなくそう言い切る。
潔しというかなんというか。
「ん?‥‥‥どうやら心配は要らなそうだね」
「みたいだな」
「もしかして通信機に何か言ってたの?」
「ああ、これで問題はローの解析待ちだけになったね。現状を聞いてみるかい?」
あたいは耳に付いている通信機に触れる。
「こちら、サラ。ロー、解析はどれくらい進んでるんだい?」
『こちら、ロー。半分行った所っしょ。ていうかさっきの爆発大丈夫っしょ!?いきなりマイトから激励の通信が聞こえたと思ったらあねごの言葉を聞いて安心したけど』
「あねごはやめな。それとこっちは心配する必要はないよ。そっちに集中しといてくれ」
『分かったっしょ。それじゃあ、また』
そう言ってローの声が聞こえなくなり、あたいも通信を切った。
「それじゃあたい達は先にやることやっちまおうか」
爆破で焦げた床を進んで目的の機会が保管されている場所へとやって来る。
そこで見た物先程ハイが言っていた事とは真逆の物だった。
「なっ壊れてるじゃないか!どういうことだい、きかいはぶじじゃなかったのかい!」
「いや、これは爆発のせいじゃないって。ほら、これ見て見ろよ。ここまでしか床が焦げてない。それに吹っ飛んで来た物に当たったわけじゃないし、これは元々だよ」
たしかに爆発の範囲からはかなり距離がある。
しまったね、なおさら最悪の状況だよ。
「どうやらここに来る前に誰かが破壊した様だな。それも外からではなく内側からだ」
ミレイは機械をまじまじと観察する。
「どうしてそう思ったんだい?」
「おそらく中に何かを入れて蓋をする為のガラスの破片が外に散らばっている。外から壊したのなら中にガラスの破片が散らばるはずだろ?」
「確かにミレイの言う通りだね。てことはこの中に誰かが閉じ込められてて無理矢理ガラスを破壊して出て来たってわけかい。ついでに機械も破壊してる所を見るに相当恨みが溜まっていたんだろうね」
「そういや、ここには誰かが閉じ込められていたな。確か、ミレイの母親だったか」
「何だって、そりゃ厄介な巡り会わせだね」
何にしろ、これだけ大きな機械がこんな破壊されてたとなっちゃ回収する意味があるのかどうか。
「とにかく判断を仰がないとね」
あたいはもう一度通信機を押す。
「こちらサラ、マイト聞こえるかい?ちょっと問題が発生してね、目的の機械が壊れていたようでね。これを求めてたメメ博士にどうすればいいか聞いて欲しいんだよ」
『分かった、ちょっと待っててね』
そう言うとマイトの声が通信機から聞こえなくなる。
そして数秒後再びマイトの声が聞こえて来た。
『確認して来たよ。メメ博士が言うにはその機械には一際特別そうなものが中に入ってないかって言ってたよ』
「特別な物かい?ちょっと待って、確認してみる」
あたいは壊された機械の近くに寄ってみる。
特別な物、どれもこれもただの鉄くずにしか見えないね。
「サラさん、もしかしてこれでは?」
ミレイが指差した方向には原型が留まったままの楕円形の鉄の塊があった。
「確かにこれは他とは違う特別な物の様に見えるね。ん、重いね。これを持って帰るのはちょっと厳しそうだね」
「なるほど、つまりこれにこの機器を使えばいいのか」
「ちょっと待ちな。まだ決まったわけじゃないよ。確認取るから、まだやるんじゃないよ。待たせたね、鉄の塊のような楕円形の物体なら見つけられたよ」
通信機に話しかけると数秒後、マイトの声が聞こえて来る。
『そこにひし形のマークの中央に文字が書かれてないか?』
「文字かい?ああ、確かに書いてあるね。これって、ここの文字じゃないね」
『それがあれば持ってきて欲しいらしいよ。それじゃあ、そう言う事だから』
「分かった。源魔石の欠片を手に入れたらあたいらはすぐに戻るよ」
そう言ってあたいは通信を切った。
「どうやらこれで大丈夫みたいだね。それじゃあ、ハイ。任せたよ」
「ようやくか。それじゃあスイッチオン!」
ハイは早速手にした機械を使ってその物体に向かって引き金を引く。
するとそこから光の線が飛び出し物体に触れるとみるみるうちにそれが小さくなっていく。
すると最終的には手のひらサイズとなりハイはそれを軽々と手に取って見せた。
「うわあ本当に小さくなるなんて、これすごいな。マジで盗みの時に便利だな」
「盗るんじゃないよ。それじゃあ、後は源魔石の欠片だけだね。その前に確認したい事があるんだけど、ミレイ。本当にこのままあたい達と一緒に行くんだね」
あたいは今一度ミレイにここを出る覚悟を確認する。
するとミレイは迷うことなく頷いて見せた。
「もちろんです。この選択肢に後悔はありません」
「その言葉を待ってたよ。それじゃあローの所で待機して」
「ここにおりましたか!」
突如声が聞こえて来てその方向に視線を向けると知らない老紳士が荒い息で部屋の中に入って来ていた。
「貴様はシニア!生きていたのか」
「お久しぶりです。もちろん生きておりましたとも。ここ最近物騒な出来事が起きていたので食糧庫の方で身を隠していたのです」
「そうだったのか、てっきりもう出てこない物だと」
「私はそう簡単にはくたばりはしませんぞ。それよりもミレイ様、先程ここを離れると言っておりましたがそれは本当ですか」
「ああ、サラさんと共にここを離れるつもりだ」
話がこちらに振られたのであたいは口を開く。
「サラだ。あんたはどうやらここの城の関係者のようだけど、何しに来たんだい?まさかあたい達を止めようとしてるのかい」
「滅相もございません。むしろ、私も連れて行って欲しいのです」
「あんたは奴隷じゃないのかい?」
「先程もおっしゃった通り食糧庫に身を隠していたので、城を徘徊していた人たちとは違うのです」
確かにこの老紳士からは奴隷の印を刻まれた痕跡はないね。
喋り方も普通だし、操られている様子もない。
「やめといた方が良いですよ。こいつはかなりの変態ですから」
「なっ変態とは失礼ですよ。それにお役に立つようにとこの城の奴隷化された使用人たちは全員薬で治しましたので」
そう言うとシニアは手に持っていた薬を見せる。
「なっ!何でそんな物持ってんだよ!」
「先程爆発が起きた直後、置いて行かれてたので。少々拝借させてもらいました」
「そう言えばあの時は慌てて部屋に入ったからね。置いてきちまったのか」
「まあ、もうガイスにはバレてるから奴隷化を解除して問題はないか。なら元に戻った人達も一緒に連れて行った方が良いよな」
「そうだね。シニアって言ったかい?ならここに元に戻った人達を連れてきておくれ。ミレイも一緒に同行してもらっていいかい?」
「え?この男と一緒はあまり気乗りはしませんが、分かりました」
「ミレイ様、そう警戒なさらないでください。私はただ善意の名の元に行動をしているだけですから」
「なら善意の名の元に私には近付くなよ」
そう悪態をつきながらもミレイはシニアと共に戻した人々の回収に向かって行った。
「さてとこっちは無事に終わりそうだね。後は他の皆の無事を祈るだけだ」




