その二十九 カノエvsサザミ&エングその4
ネッパニンス
「何だいきなり?耳を抑えたと思ったら必ず勝つなど叫びやがって。誰かと話でもしてたのか?」
先程の俺達の行為に疑問を抱いたカノエが質問を投げかける。
もちろんそんな物に応える義理は無いので無視をする。
「まだ戦いは終わっていない。俺達はまだ負けていない」
「ガハハハハハハ!まだ負けてないだと?この状況を見てよくそんな事が言えたな。得意の切り札はすべて失った。魔力もほとんど残っていない上に体もボロボロ。そんな状態で誰が勝つだって?」
カノエの言う事は概ね正しい。
この状況からの逆転はかなり厳しい物となるだろう。
もう万全の状態でオリジナル魔法を互いに放つことは出来ない。
「確かに体はもうボロボロだし、魔力もそこを尽きかけてる。だけどよ、お前もかなりダメージが効いてるだろうが。俺のオリジナル魔法を後一撃でも浴びれば倒れるはずだ」
「放てればの話だろ?ただのやせ我慢にしか聞こえないぞ。出来もしないことを喋るなよ。さてと、そろそろ決着を付けるか」
そう言うとカノエは再び巨大な魔法陣を展開させる。
あれは炎王の領域だな。
「もうこれでお前等は近づけられねえ。得意の炎の魔法も俺には届かねえ。さてこの状況でお前等はどうやって勝つのか、見させてもらうぞ」
カノエは余裕からか魔法陣の中で悠然と待ち構える。
俺は隣に立つエングの方を見る。
「どうやら街には帰れないかもしれないな」
「がっはっはっは!帰るさ、じゃなきゃ勝つ意味ないだろ?」
「ふっそうだな。勝って帰るか」
「死ぬ覚悟は決まったか?」
俺達は互いにカノエの方を見据える。
「それはお前だろ?」
その瞬間俺達は一気にカノエの元へと突っ込む。
魔法陣に入った瞬間、燃えるような激痛が体中を駆け巡る。
「馬鹿が!魔力が少ないのに領域に入れば命を失うぞ!」
「近づけなきゃお前に触れられないだろうが!!」
魔力が無くなって行くのが分かる。
魔力を使ってオリジナル魔法を撃つのはもう無理だ。
それならもっと深くにある純粋な魔力。
魂を使って発動させる!
俺は一度も止まることなくカノエの元へと駆けて行く。
そして後もう少しという所で手を伸ばした瞬間、カノエはひらりと俺の手から体をねじって逃れる。
「領域内であれば俺は逃げ回るぞ。お前が死ぬまで鬼ごっこを続けるか!」
「ファイヤーバインツ!!」
カノエに向かって放たれた魔法は直前で渦に巻かれて止まる。
「グランドファイヤー!ファイヤーブライト!ツインファイヤークロス!バーニングクロスファイヤー!!」
エングは後方から絶えず炎の魔法をカノエに向かって放ち続けている。
その度に渦が段々と大きくなっていく。
「何やってるんだあいつは?血反吐を吐きながら炎の魔法を放ち続ける何て。まさかおかしくなったか?」
「あれがおかしく見えるのなら、お前の頭はその程度だと言う事だ」
「何だと——————っ!」
くそ、今のは惜しかった。
ちょこまかと逃げやがって。
エングは絶えず魔法を放ち続けその渦は段々と大きくなる。
そして俺は逃げ回っているカノエを必死に追いかける。
魔力がそろそろそこを尽きる。
魂が削られ始める。
「うざってえなあ!いい加減諦めやがれ!ビラーオブファイヤ!」
足元から火柱が出現する。
だがそんな物を避けている暇はない。
俺は半身を犠牲にしてそのままカノエに突っ込んでいく。
「なっ!?正気か!」
「お前を倒せるなら何を失ったってかまわない!!」
もう右腕は上がらない、左腕でカノエの体へと手を伸ばす。
するとカノエはその手を振り払おうとしたが寸前の所でそれをやめて上半身を逸らす。
そして低い姿勢のまま右手に魔力を込める。
「ファイヤーアロー!」
炎の矢が右目に直撃する。
痛みが走るが魔力が燃える痛みの方がずっと痛い。
引き下がるわけには行かない、そのまま俺は腕を伸ばす。
「くそがあああ!」
後もう少しで触れられる!
「っ!がっああああああ!」
先程とは比べ物にならないほどの痛みが走る。
これは‥‥‥体の奥底をやすりで削られるようなっ意識を失う程の痛み。
これが魂を燃やされるってことか。
エングはまだ魔法を放ち続けている、目からも血が零れ落ちる。
あいつがここまでやったのに俺が失敗するのか。
「どうやらここまでのようだな」
体を逸らしていたカノエが笑みを浮かべ体勢を立て直しその場から離れようとする。
駄目だ、体が言う事を聞かない。
意識が途絶える――――――
『負けるな、必ず勝て。諦める何て絶対に許さない。元十二魔導士として、そしてこの島の運命を背負う者として誇りをかけて最後まで戦い抜け!』
「っ!がああああああああ!」
「何——————っ!?」
最後の最後、俺は体を叩き起こして指先をカノエの頬に触れさせる。
その瞬間、腹を蹴り上げられて俺は魔法陣から出て壁に激突する。
「くそ!やられた!‥‥‥ん?おいおいおい、魔法が消えないぞ。だが体は動けねえ」
するとカノエの高笑いが耳に響いて来る。
視界はもう真っ暗だこの笑い声は恐らく魔法が消えない事の歓喜だろう。
「そうだよな。そりゃそうだ。あんな魔力がそこを尽きた奴のオリジナル魔法が完全に発動するわけがない。体が動かなくなる効果だけは辛うじて発動した様だが、この状況でそれは一切意味をなさな——————」
「よくやったサザミ」
そうだ、笑えばいいさ。
何も気づかずに笑えばいい、カノエが命懸けで準備したこの瞬間繋いだものを何一つ気付かずに笑えばいいさ。
「全身血まみれの奴が何を言ってるんだ?お前ももう限界だろ。何を絶え間なく魔法を発動していたのかは知らないが、おかけで渦がどえらいデカさになってるぞ。お前、死ぬな」
「死ぬのはテメエだ。最後に笑うのがどっちか見せてやるよ。俺の一世一代の一撃を喰らえや!」
エングは右手に魔力を込めてカノエの元へと走り出す。
そうだ、何も気付かなくていい。
お前がこの意図を気付く時は身をもって知る時だ。
「絞るカスで出来た一撃何て渦に巻き込まれてしまいだぞ!」
「カスじゃねえよ。俺とあいつの魂を込めた一撃だ!フレイムキャノン!」
渾身の一撃がカノエに向かって放たれる。
だがその直前で巨大になった渦に取り込まれようとしていた。
「だから言ったろうが!お前の一撃は折れには届かないと!」
「うおおおおおおおおお!!」
腹の底から出た咆哮と共にさらに一撃の威力が増す。
その瞬間、渦が膨張を始めて弾け飛んだ。
それにより地面に展開されていた魔法陣も破壊される。
「なっ!?———————っ!!」
「うおおおおおおおお!!」
魔法陣が壊されたことでカノエの魔法が無防備のカノエに直撃する。
そしてそのまま勢いよく吹き飛ばされた。
エングはその場で立ち尽くし、肩で息をする。
「はあ、はあ、はあ‥‥‥上手く行って良かったぜ‥‥‥」
カノエの声が聞こえなくなった。
終わったのだろうか、確かめたいが視界が真っ暗で居場所を掴めない。
その時何かが崩れる音が聞こえて来た。
「おいおい、勘弁してくれよ」
ガラガラと崩れ落ちる壁の残骸からカノエがゆっくりと這い出て来る。
「ごほっ!ああぁ‥‥‥ぺっ!やってくれたなあ」
フラフラとした足取りでカノエはエングの元へと歩いて行く。
それを見ていたエングが思わず苦笑いを浮かべる。
「化け物かよ、あれ受けてまだ動けるのか」
『いや、途中渦に巻き込まれたせいで威力落ちしたか。どちらにしろ、これで仕留められなかったのは痛い』
「死ぬかと思ったぜ。まだ体中が燃え上がるように熱い。全身の感覚はもうないな」
カノエの皮膚は真っ赤になっておりとても痛々しい傷を残していた。
「だがまだ俺は一発撃つ力は残ってるぞ。最後の最後で魔力レベルの差が命運を分けたな」
「がっはっは!おい、誰が残ってないって言った。俺は一発位なら撃てるぞ」
「ガハハハハ、その状態で一発でも撃てば死ぬのは確実だろう」
「死なない。俺はサザミと一緒に帰る」
「あの世に一緒に行けよ!レベル魔法ファイヤーバーニング!」
「この魔法をあんたに返すぜ。インフェルノキャノン!!」
二つの魔法陣が同時にぶつかり合う。
だがエングは既に魔力が尽きている為、次第に押されていく。
「ぐっぐふっ!」
「もう限界だろう!ここまでよくよくやったが所詮は王の右腕、本物には一生勝てない!それに二人でようやくここまで辿り着いたのに一人で俺に勝てるわけがないだろう!俺こそが最強だ!」
「確かに、俺一人じゃ勝てねえな。そもそも一人で勝つ気もない」
「何だと?」
「ずっとそうやって来たんだ。あの人が俺達にも求める最強の理想像に近づける為に、その為に俺達はここまで来た!」
エングが少しずつ後方に下がって行く。
カノエの勢いに負けそうになっている。
「一人で最強になるんじゃねえ」
聞こえる、あいつの声が。
まだ終わってないのなら、まだ倒れるわけには行かない。
体を叩き起こして一直線に進む。
「「俺達は二人で最強だ!!」」
「何だと!?なぜその体で動ける」
「がっはっは!待ってたぜ!随分とボロボロだな」
「クフフフ、お前の方こそ足腰がしっかりしてないぞ。俺が支えてやるから、思いっきりやれ!」
エングの背中を後ろから支える。
ほんの少しだけ開けた視界にはエングが満面の笑みをこちらに向けていた。
「任せろよ!」
「この死にぞこないが!俺が負けるわけがないだろうが!」
「お前は負ける。俺達は知ってる、あの人の強さはこんな物じゃない。お前はただの偽物だ!」
エングは更に勢いを増してカノエの魔法を押し返していく。
その一撃がついにカノエの魔法を飲み込み、直撃した。
「くそおおおおおおおおお!!!!」
そしてカノエは悲痛な叫び声を上げながらその場で倒れた。
そしてそのまま動けなくなる。
するとエングは何とか体を動かしてカノエの体をまさぐる。
そして中から源魔石の欠片を手に取った。
「へへっこれで任務成功だな‥‥‥」
そう笑い声をあげるとそのまま倒れる。
救援を出さなければじゃないと、ここに助けが‥‥‥
通信機を使おうとした瞬間、俺の意識はそこで途絶えた。
カノエvsサザミ&エング 勝者サザミ&エング




