その十五 もう一つの罠
「機械の場所は確かハイが知ってるんだろ?」
地下室から出た後あたい達は次に機械を手に入れる為に話し合いをしていた。
「ああ、あそこはかなり痛い思い出があるから鮮明に覚えてるぜ」
「なら道案内は任せたよ。ミレイはこのまま着いて行くんだろ?」
「もちろんです。道中の見張りのルートを熟知しているのでハイを先頭にその都度私が指示をします」
「了解、それで行こうかね」
あたい達は進み方を決めて早速王の間から出て来る。
「場所はガルアの部屋だ。本の仕掛けを解いて中に入って行ったんだがまた解かないといけないかもしれないぞ」
「面倒だね。何とか破壊して突破出来ないのかい?」
「やり方はかつから教えてもらってるから大丈夫だ。それよりも問題なのは機械があるかどうかだろ。あの時は確かガルアの妹が居たはずなんだけどあっちの街では見かけてないんだよな。居たら聞こうと思ってたんだが」
「ラミア様の事かい?それなら今は居ないよ。捕まっちまってるようでね、何なら今かつ達はその救出に向かってるよ」
あっちはあっちでかなりやばそうみたいだね。
全員無事に帰って来る事が一番だけどそう上手くは行かなそうだね。
「とにかく向かうしかないよ。ほら、次は何処に行けばいいんだい」
「分かってるよ。次はその角を曲が——————ぐえ!?」
「ちょっと待て、その先は危険だ」
角を曲がろうとした時ミレイがハイの襟を掴んで制止させる。
それにより一時的にハイの首元が締まり、うめき声を漏らす。
「何すんだよ!急に首を絞めるな!」
「その先は見張りが居る。このまま出て行けば見つかるぞ」
「え?見張り?」
あたいは気配を殺して曲がり角からこっそりと様子を伺う。
すると少し離れた所の廊下の角で一人の半獣が立っていた。
なるほど、見晴らしの良い廊下をこのまま進むのはあまりよくはないね。
「あの見張りは動かないのかい?」
「動き回っている人もいますが、あいつはその場から動かないタイプでしょう。迂回するのが賢明です」
「なるほどね。確かにその方がよさそうだな。じゃあ、別の道から行こう」
このまま進むのは無理と判断したあたい達は迂回するルートでその場を離れる。
それから別の道を進んでいる時再びミレイがあたい達に止まる様にジェスチャーする。
「今度は何だい?」
「この先に巡回している見張りが居ます。それも二人」
「二人?避けられるのかよ」
「いや、非常にまずいな。ルート的に必ず鉢合わせてしまう。この先がガルア様の部屋だと言うのに」
ミレイは悔しそうに拳を握りしめる。
見つかればすぐにガイスがこちらに来るかもしれないね。
デビが全力で戦ってくれているのにあたい達がそんなミスをするわけには行かないね。
「一つ聞くが見張りは何をもって相手を侵入者だと思うんだ?」
「基本的には姿かたちだ。見知った人物なら反応はしないだろう。私は大丈夫なのだが」
「なら俺が行こう」
ハイは自信ありげに名乗りを上げる。
「どうするつもりだい」
「俺の怪盗技能の一つ、変装で潜入して来るよ」
「技能というよりオリジナル魔法だろう」
「こういうのは雰囲気を持たせるものなんだよ!とにかく俺のモノマネでミレイに変装する。そしてミレイに変装したまま素通りしてガルアの部屋に行けば完璧だろ?」
「なら私がそのままガルア様の部屋に行けばいいんじゃないか?」
確かに順当な疑問だね。
だけどそれには一つの問題がある。
「盗む時にある物を使うんだよ。このミニミニチビちゃん二号をな」
ハイはそう言うと自慢げに懐から銃の形をした物を取り出した。
「そんな名前だったかい?」
「ああ、多分」
「何かよく分からないがその機械を使わなければ行けないのだな。なら私には扱いきれないだろう」
「だろ?だから俺が行くしかないんだよ」
ハイは再び銃を懐に仕舞うと早速魔法を放つ準備をする。
「私は何をすればいい」
「何も、魔法は俺が勝手に使うから。それじゃあ行くぞ、モノマネ!」
ハイの足元に魔法陣が展開されるとそれは輝き体を包み込んでいく。
物の数秒でハイの姿は目の前にいるミレイと瓜二つになった。
「へえ、よく出来てるじゃないかい。そっくりそのままだよ」
「何か、複雑な気分だな。私が目の前に居ると言うのは」
「偽物だと思うか?それならこの胸の感触も——————」
その瞬間、殺気に満ちた拳がハイの頬を掠める。
どうやら修羅場みたいだね。
「それ以上下手な真似をすれば二度と変身できなくしてやろう」
「す、すみません」
「全く、馬鹿やってないで早く行きな」
「分かったって、それじゃあ華麗に盗んでいくぞ」
そう言うとハイはすぐにガルアの部屋へと向かって行く。
そのまま見張りの人とも接触をするが特に疑った様子を見せずに見張りは再び巡回を始める。
どうやら心配は要らなさそうだね。
「それにしてもなぜ機械なんかを欲しているんですか?」
「ガイスを殺すのに必要なんだよ。この島の魔力を全て吸いつくすらしい」
「すべての魔力を吸うってそんな事可能なんですか?」
「可能だからやるんだろ?出来なきゃやらないさ。それでも成功するかどうかは分からないけどね」
それを提案したのもブライドみたいだし、本当に成功するかは疑問な所だね。
でも現状、あの男の知識に頼るしかなさそうだしあたいはあたいで決められた役割を全うするしかないね。
「ここで盗む物は源魔石と例の機械だけでいいのですか?」
「ああ、あまり長居するつもりもないからね。ガイスが帰ってくるかもしれないだろ?」
「ガイスを足止めしているのもあなた達の仲間なんですよね」
「あたい達というかかつの仲間だね。彼女もここに何回か来てるんだね?デビって言う子なんだけど知らないかい?」
「デビ‥‥‥ああ、彼女とも何度か会った事がありますね。この城で好き放題してくれましたよ」
「ははっかつ達の仲間は全員愉快だからね。話題は尽きないだろうさ。まさかこんな事になるとは夢にも思わなかったけどね」
「ガイスに盾突くことがですか?」
「全員が手を取り合って戦うって事さ。そう言う事とは縁のない人達だったからね」
島王選でそう言う場面はいくつかあったけどやっぱり一つの目標の為に全員が動くってのは無かったからね。
それもこれもあのかつの坊やが来てからかもしれないね。
あの結婚式の騒動から何かと物事の渦中にいる存在、不思議な運命を背負った子なのかもしれないね。
「そうですか‥‥‥それにしても遅いですね」
ミレイはちらりとハイが向かって行った場所を見る。
確かにハイが居なくなってから数十分は経過してるね。
盗みごとには慣れているだろうし、すぐに取ってきそうなものだろうね。
「もしかして何かあったの——————」
それは突如起きた。
「っ!!?」
最初に衝撃音が響き渡り、次に熱が一気に全身に浴びて、最後に風圧で風がなびく。
突然の事であたいは状況を理解する事で頭がいっぱいだった。
それによって導き出された目の前の起きた現象を自然を口に出した。
「爆発?」
――――――――――――――――――――――――――
「デビルオンインパクト!」
「ボルトブレイク!」
二つの魔法がぶつかり合い、弾けてはまた魔法を繰り出す。
それが休む暇もなく続いて行く。
じゃが少しじつあやつの魔法の威力が落ちて行っておる。
もしや他の場所で魔力を大量に消費し続けているのかもしれぬ。
「っ!」
「何じゃ?」
今一瞬、微かに爆発したような音が聞こえたのじゃ。
誰かが近くで魔法を繰り出したのか?
いや、この音の先は。
「どうやらネズミが罠にかかったみたいだ」
「シアラルス!」




