その十三 シンラvsピンカ&イナミその2
「ようやくお出ましね。どうやら本気を出さなきゃ勝てないって気付いたかしら」
「確かに私はあなた達を甘く見ていました。さすが私の子供達ですね」
子供達!?
「今のあんたにそんな呼び方されたくないんだけど。虫唾が走るわ」
「ピンカ落ち着いて、あれも挑発だよ。反応する必要はないって」
「っそんなの分かってるわよ」
そう、あいつの言葉にいちいち左右されてる場合じゃない。
それよりもあのオリジナル魔法を何とかしないと。
「以前にもお見せしたと思いますが、正式に使うのはこれが初めてですね」
そう告げるとクリシナの周りに魔力が集まって行く。
やっぱりあのオリジナル魔法はとんでもない魔力を消費する。
「残念ですけど、こうなってしまっては苦しまずに死ぬことは不可能ですよ。緑王の領域!」
それは瞬く間に広がって行き巨大な魔法陣が地面に展開される。
「な、何今の?」
「種を植え付けました」
「種?それってあの時使ってた花とかの奴か」
種を植えたってことはいつでもあの時みたいな花を咲かせられるって事?
どっちにしろ安易に先手を譲るのはちょっとまずいわね。
「イナミ、先に攻撃を仕掛けるわよ」
「俺もそっちの方が良いと思って」
下の魔法陣も気になるけどわざわざ巨大な魔法陣を展開させるって事、そう簡単に壊されない様になってるはず。
だからまず優先すべきなのはシンラ本人!
「ストーンショット!」
「アグレッシブフルート!」
私達は同時に魔法をシンラに向かって放つ。
だがシンラは避ける素振りを見せずにただその場に突っ立ってるだけだった。
あの余裕は何か仕掛けて来る。
そう思った瞬間、シンラの間の前で魔法陣が光り輝いた。
すると突如下から花が咲き先程放った魔法が飲み込まれる。
「食魔法植物」
「魔法が食われた!」
「ちっ並みの魔法じゃあっさり食われるわね」
「私に危機が生じた時に発動する花です。食った魔法は魔力として返還されます」
「でも何でもかんでも食えるわけじゃないでしょ?」
「その通りです。許容量はもちろんあります。まあそれは私基準ですが」
まあそうよね。
許容量があるって言ってもあいつ基準じゃ大体の魔法は食われちゃう。
レベル魔法はギリギリ大丈夫って言った所か。
後はどれだけの数をさばけるのか。
「次はこちらから行かせてもらいますよ。寄生花!」
するとシンラの後ろに巨大な花が出現する。
だがそれは毒々しく紫色の花びらを広げると、中央が口の様に開きそのまま息を吸い込むかのような動作をしてこちらに何かを吐き出してきた。
「っ!」
咄嗟に体をのけぞらせるが複数放たれた何かは腕と足に直撃してしまう。
「ピンカ!」
「ちっ!何なの一体」
その時何故か上手い事足が動かずに膝を付いてしまう。
何、まさかさっきの一撃のせい。
受けた個所を見て見るとそこには謎の種が体に根を張っていた。
「気持ち悪‥‥‥何よこれ」
「寄生花の種は相手に寄生します。魔力が栄養ですのでほっておくと栄養を求めて心臓まで根を生やしますよ」
「うぐっ!あっああ‥‥‥」
体中に激痛が‥‥‥
「痛いでしょう。その痛みは徐々に増えて行きますよ」
「ご親切にどーも。ならこうすればいいでしょ!」
私は手に魔力を込めるとそのまま炎の魔法を出現させてその種を鷲掴みし引き抜く。
「うっ!大したことないわね。すぐに抜いちゃえば簡単に抜けるわ」
「確かにすぐに対処すれば抜くのは簡単です。ですが抜く痛みはそれなりにあるのですが、あなたは躊躇いがないようですね」
「当たり前でしょ。こんな所で立ち止まっているわけないじゃない」
ていってもやっぱり体の痛みは蓄積されてるわね。
「ピンカ大丈夫?無理はしないで、俺の魔法のダメージも治ってないんだから」
「あんたの魔法なんて大して効いてないって言ってんでしょ。それよりあいつの花が厄介よ。何が出て来るか分からない上に一方的にダメージを与えて来るのもある」
「分かってる。長引かせるのは危険だよね。それなら俺のオリジナル魔法でさっきみたいな攪乱作戦で行こう」
「そうね、その時の鏡世界で私が展開させるのはオリジナル魔法よ」
「オリジナル魔法ってことは大量のゴーレムを出現させてぶつけるんだね」
その言葉を聞いて私は思わず笑みを浮かべる。
「進化してんのよ、私のオリジナル魔法は。思い一撃喰らわしてやるから覚悟しなさいよ」
「ふふふ、いいでしょう。どれだけ強力な一撃を繰り出そうが私には当たりませんので」
「そう余裕ぶってればいいわ。度肝抜くわよ」
互いに睨み合いながら私は早速行動を起こす。
「イナミ!」
「もう一つの鏡世界!」
私の目の前に先程なかった鏡が現れる。
私は躊躇うことなくその中へと入る。
シンラは必ず誘いに乗って来る。
今は自分が有利だから、私達を舐めてるからそのまま受けて立つ。
オリジナル魔法を展開できた安心からなんでも対処できると思ってる。
そしてあいつは気付いてない、私がこの魔法の弱点に気付いてる事に。
続けてシンラの周りにも鏡が現れるがシンラは微動だにせず周りに出現した鏡を見る。
「受けて立ちますよ。私は逃げも隠れもしませんから」
そう言うと思った。
「喰らいなさい!私の強化されたオリジナル魔法を!」
これをぶつけてやる!
「巨兵の楽園!」
「何!?」
「めちゃくちゃいつもの魔法じゃん!」
鏡の中から大量のゴーレムが飛び出してくる。
「ですが、これくらいの量大したことはありません!」
シンラの周りには先程の魔法を食べる鼻が大量に咲く。
すべてのゴーレムを食べるつもりみたいね。
それを狙ってたのよ。
現れたゴーレムを食べた瞬間、そこからいきなり爆発が起こった。
「な!?」
「言ったでしょ。私のオリジナル魔法は強化されたって」
「爆発するゴーレム何て、いつの間に」
爆発が起こったことで先に出現させていた植物が何本か同時に燃えてなくなる。
さっきので炎に弱い事はすでに知ってる。
前に出したバクハ花とは違ってこういった花は耐久力があまり高くない。
「ちっこれ以上は無駄には出来ませんね」
すると先程まで大量に出現していた食魔法植物が一斉に消えたことでそれらの魔法がシンラに直撃する。
「何で急に防ぐのをやめたんだ」
「やっぱりね私の予想通り、あんたが作り出す花には限界があるんでしょ」
「ほう、それはどういう事でしょうか」
「本当の植物だと考えるのよ。魔法陣が土だとして栄養は魔力。種がすでに魔法陣の中に組み込まれているとした魔力を吸って種を開花させて防いでるって考えられるでしょ」
「確かに理屈で言えばそのような考えも出来ますが、自動的に発動させる可能性もあるのでは」
「ならどうして魔法陣を展開した時、種を植え付けたなんて言ったの?それって後からじゃなくて最初から種が入ってるって言ってるような物よね」
「そっか、確かにその言い方なら種を入れた状態で魔力を注いで開花させるって言う方法とも合うね」
「その証拠ね。今のあなたは無防備でゴーレム爆弾を喰らい続けてる。それが何よりの証拠よ」
さあ、認めなさいシンラ。
そして種を使いなさい。
展開中に種を量産できるとしたらこんな理屈言っても仕方ないけど、わざととぼけたふりをしたって事は数に限りはあるはず。
いくらシンラでも無防備な状態で喰らい続けるのはきついはずよ。
「そうですね、確かねあなたの言う通りです。私の種には数が決められています。そして一個の種ではそれ程の力は得られませんですから‥‥‥」
その時魔法陣が光り輝く。
花を開花させる気か。
「マホウソフィルム」
するとツルのように伸びた魔法が鏡に吸い付きそれらを砕いて行く。
さらに出現した小型ゴーレムも絡まれ爆発する事なく消えて行く。
「なっ!?どういう事なんで爆発しないの!」
「もしかして魔法を丸ごと破壊したってこと、だから爆発する事なく消えたとか。ていうか俺のオリジナル魔法も全部食われた」
「今のは種五個分ですよ。それがあなた達の魔法の価値です」
「そうね、今の魔法はその程度よ」
その言葉を聞いてシンラは目つきが鋭くなる。
「どういう意味ですか」
「本命は隠すものでしょ」
その時私達の周りに影が出来る。
それに気づいたシンラはすぐに真上を見ると、そのまま目を丸くさせる。
「なっ!あれは隕石!?」
真上には鏡があり、そこから巨大なゴーレム爆弾が落ちて来た。
「五十体分のゴーレムよ!ファイヤースピリッド!」
そして魔法陣に沿うようにして地面を燃やしていく。
「地を這う炎よ。これで花は出せない!」
勝つのは私達よ!
ぎちぎちに固めたゴーレムたちは魔力で何とか繋ぎ合わせてる最後まで気を抜くわけには行かない。
あいつに落ちるまで絶対に気は抜かない。
その覚悟を決めて私はシンラの方を見る。
するとそこには悲しげな表情でこちらを見つめているシンラの姿があった。
「ピンカ」
「っ!」
その声はいつも私を呼ぶ時の声色でその姿と昔の姿が無意識に重なってしまった。
そんなはずはないと頭では分かっていたけど、自然と口に出してしまっていた。
「ママ‥‥‥」
「ピンカ!!」
一瞬、ほんの一瞬だけ気を抜いてしまった。
それがすべての勝敗を分けた。
「がっ!?」
「アグレッシブフルート」
風の刃が私の体を貫通して、完全に魔力の縛りを解いてしまった。
「マホウソフィルム」
バラバラに散ったゴーレムは一つも爆発することなく、すべて消えてしまった。
血が溢れ出る中、見下す様にしてシンラはこちらを見下ろしていた。
その姿は私が知っているママとはかけ離れていた。
「一つ一つなら大したことはありませんね。そしてピンカ、あなたはどうしようもないくらいの馬鹿な子ですね」




