その十五 旅立ちの日
「えっと……水は持っただろ、あとちょっとした金と地図も持った」
俺は長旅に備えてバックに荷物を入れていた。
その時俺が出かける支度をしているとケインが後ろから話しかけてきた。
「どうしたそんな準備をして、どこか出かけるのか?」
ケインが不思議そうにこちらを見つめる。
「ああ、ちょっと出かけてくる。長旅になるからしばらく帰ってこれない」
「そうか……」
するとケインが暗い顔で俯いている。
どうしたんだ?
「それはもしかして昨日の裁判と関係があるのか?」
「………!?」
なるほど知ってたのか。
「お前もあの場所にいたんだな」
「すまない」
「別に謝ることじゃないだろ。あんだけ騒げば嫌でも目に入るだろうし」
あそこで裁判させたのも多分そういうことだろうし。
「俺も一緒に行ってやりたいが魔法の使えない俺が行っても足手まといになるだけだしな」
「大丈夫、気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうか……」
するとまたケインは暗い顔を見せる。
どうしたんだ?今日のケインはいつもと違うような気がする。
こんな深刻そうなケインは初めてだ。
もしかして……
「心配してくれてるのか」
「……多少はな」
まじかよ。
あのケインが俺を心配してくれるなんて。
たしかに最近は最初にあった時より話しかけてくれるし、顔は今も少し硬いが前よりは表情が柔らかくなっている。
でもほんとにそうなのか?
「何でそんなに心配してくれるんだ?」
「何で……とはどういう事だ?」
ケインは少し困った表情をしている。
そりゃそうだ心配してくれる人に聞く質問じゃない。
だけど気になってしまった。
「半獣と人間は敵同士なんだろ?しかも戦争が始まったのは1万年前だ。それに終戦したのも10年前で最近だし、まだ半獣に対しての殺意とか憎悪とかあるんじゃないのか」
1万年も続いたんだそう簡単に仲直りなんてなれるわけ無い。
もしこれが俺を油断させて後で殺すための罠だとしたら、俺は………
「俺も人間と半獣がすぐに仲直りになるとは思っていない。だから俺も半獣とはあまり関わりたくないのが本心だ」
「そうなのか……」
やっぱりケインは……
「だが、それは俺達をよく思っていない半獣の話だ。半獣の中にも人間を助けたいと思うやつがいるなら俺はそいつと仲良くなりたい。少なくともお前はそういうやつだと思った。それだけだ」
「ケイン……買いかぶり過ぎたよ。ケインが思っている程、俺はそんなに良いやつじゃない」
するとケインがフッと笑った。
「それは俺が決めることだろ」
その言葉を聞いて俺もつい頬が緩む。
この世界の人はほんとに優しい人ばかりだな。
「ありがとう、それじゃあ俺もう行くよ」
「ああ、頑張ってこい!」
俺はケインの声を背に受けて、魔法協会に向かった。
――――――――――
「ごめん!待ったか!?」
「遅い!5分遅刻よ!何してたの!?」
「ちょっと色々あって……」
するとリドルが清々しい顔で挨拶をしてきた。
「おはようございます。かつさん」
「おはよう。何かお前今日妙に嬉しそうだな。そんなに楽しみだったのか」
「まあ確かに楽しみでしたね」
結構喋り方からしてあまり旅は好きじゃないと思ったんだけど意外と子供みたいなところあるんだな。
「あれ?そう言えばデビは」
妙に静かだと思ったらあいつが居ないのか。
「デビならここで寝てるわ。かつが遅いから来るまで寝るって言ってね」
「面目ない……」
とりあえずデビを起こさなくちゃ。
俺は気持ちよさそうに寝ているデビの鼻をつまんだ。
「ん、んんん……うんが!ゲホゲホ!な、何するのじゃ!」
「おはようデビ。もう出かけるぞ」
デビは寝起きでまだ状況が理解できてないのかキョロキョロ辺りを見渡す。
「あれ?なぜお主がここにいるのじゃ」
「さっき来たんだよ。お前が寝てる間に」
デビは再びフリーズしたがやっと現状を理解したのか、ハッとした顔を見せる。
「そうじゃ、そうじゃ、思い出したぞ。お主が遅いから、退屈で寝てたんだったのう。ならばお主は妾に言わなければいけない言葉があるだろ?」
うっ!こいつ口元をニヤニヤさせて、ムカつく顔しやがって。
でも確かに今回は俺が悪いし謝るか。
「わかったよ。ごめんなさい」
「何じゃ!その棒読みのごめんなさいは!もっとちゃんと気持ちを込めて言え!」
「うるせー!俺はちゃんと言ったぞ!これ以上はしない!」
俺はそのままそっぽを向いた。
「何じゃ!ちゃんと謝れ!まるで子供みたいでかっこ悪いのう」
「あーあー何も聞こえません〜」
「子供かお主は!?耳を塞ぐでない!」
「あんた達……いい加減にしなさい!」
ミノルは俺達の間に入り頭を思いっきりぶん殴った。
「「いってぇーー!!」」
俺達は痛む頭を抑えながらうずくまった。
「もう時間が無いのよ!これ以上くだらないケンカで時間を潰さないで!分かったら返事!」
「は、はい……」
この時ミノルに恐怖を覚えたのは言うまでもない。
「それでは早速行きますか」
「そうね。ほら2人共、もう行くわよ」
「痛い……頭が痛い」
「デビ大丈夫か?」
未だに頭を抑えているデビを心配しながら俺達はコウバ乗り場に向かった。




