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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十三章 奪われた者達の決戦
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その七 家族か敵か

ウォームウッズ

「どうして、どうしてだよピンカ!何で反撃してこないんだよ!」


目の前のピンカは俺の一撃に反応をすることなく、ただ前に進んで行くだけだった。


「アグレッシブフルート!ファイヤーバインツ!ロックガン!」


いずれも強力な一撃だが、ピンカは魔法を出すことなくそのまま突き進む。

どうつもりなんだ!

さっきまでの気合は何だったんだ。


「目を覚まさせるんじゃなかったのかよ!何で戦おうとしない、ピンカは諦めたのか!だったらさっさと源魔石の欠片を渡せよ!」


以前貰った機械から源魔石がこちらに来ていることは把握済みだ。

他の人達も同様に源魔石を戦っているはずだ。

なのに、どうして。


「俺に説教垂れた癖に何てざまだよ!やる気がないのなら帰れよ、皆の事を一番馬鹿にしてるのはピンカじゃないか!!」


巨岩をピンカへとぶつける。

ピンカはそのまま吹き飛ばされ地面を転がる。

ピンカも修行をして魔力レベルを上げたのだろう。

じゃなきゃ今の僕の魔法をあんなに喰らって立ち上がれるわけがない。


「あんたの一撃はそんなもんなの?やっぱりあんたは駄目ね」

「くっ俺だって強くなったんだ。もう昔のままじゃないんだよ!」


俺はそのままレベル魔法の魔法陣を展開させる。

今の魔力レベルでは放つレベル魔法ならさすがのピンカも魔法を出さざる負えないはずだ。


「ピンカ、俺は本気だよ」

「……やって見なさいよ。あんたみたいな腑抜けに出来るのならね」

「くっだから俺を馬鹿にするなあああ!レベル魔法ウィグザードウルフ!!」


全てをねじ切る狼の形をした風がピンカへと迫って行く。

その時、ピンカは一瞬腕を上げる。

そうだ、魔法を撃つんだ。

何に対して意地を張っているのかは知らないけど、自分が死ぬ瞬間までその意地を突き通す必要なんてない。

魔法がピンカの眼前まで迫った時、ピンカはゆっくりと腕を下げた。


「なっ!?」


当たり前の様に生身の状態でレベル魔法を受けたことでピンカの体は鮮血をまき散らして宙を舞う。


「な、何で……何やってんだよ。本当に何やってんだよ。何しに来たんだよ。死にに来たのか、答えてよ。答えろよピンカ!」

「はあ、はあ、はあ……何勘違いしてんのよ。さっきからピーちくぱーちく騒いで私がここに来た理由なんてはじめっから言ってんじゃない」


フラフラと立ち上がりながらそれでもその瞳はこちらを見据えて。


「家族を取り戻す、その為にここに居んのよ」

「な……!」


家族を取り戻す、それは俺だって同じだよ。

昔みたいに家族三人にで過ごすために俺は今ここに立っているんだよ。

なのにどうして、どうして、俺の言う事を聞いてくれないんだよ。


「それにね、イナミ。あんたの攻撃なんて全然痛くないのよ。あんたが私を倒すなんて百億年早いのよ!」


何言ってんだ、すでにボロボロじゃないか。

魔力抵抗もそこまで差がない癖に生身で受け続ける何て。

後二発、いや一発でもう死んじゃうぞ。


「何をしたいのか、よく分かりませんでしたが自滅とは呆気ないですね。イナミ、止めを刺してあげなさい」

「シンラ様……待ってください。こんな結末俺は納得いきません。こんなの戦いにすらなっていない。ピンカが何かしら譲れない物を持っているから俺も自分の譲れない物の為に戦おうと思ったのに。こんなの納得できるわけがない!」

「イナミ、感情に流されてはいけません。どうやらあの女の影響を受けてしまったようね。これ以上私たち家族をたぶらかすと言うのなら、仕方ありません。私自ら終わらせてあげましょうか」


シンラ様はそう言うと和やかな笑みで魔法を放とうとする。


「ちょっと待ってください!ピンカは俺がやります!俺がやらなきゃいけないんです!」

「なら早くしなさい。あまり長引かせると私が終わらせますからね」


そう言うとシンラ様はゆっくりと後ろに下がる。

ピンカはすでに体がふらついていて立っているのもやっとだ。

何がしたいのか分からない、いつもそうだ自分勝手で俺の言う事を聞きやしない。

最近は絆も深まって一緒に生きて行けると思ったのにまたバラバラになってしまった。


「ピンカ、もう一度言うよ。ピンカもこっちに来るんだ。他の皆は傷つけさせない。それどころか皆が会いたがっている人達に会えるんだ。これ以上何を望むって言うんだよ」

「そもそもそいつらは元の王じゃない。もう死んでるのに会えるも何もないのよ」

「っだったら戦えよ!そっちの言い分があるのなら真正面からぶつかって来てよ!何で、何で戦おうとしないんだよ!」


そうだ、戦えピンカ。

戦って証明して見せてよ、その意思を俺にぶつけて来てよ。

そうやって俺を認めさせてよ。

じゃないと納得なんてできない!


「だから何勘違いしてんのよ」

「は?何がだよ」

「私はあんたと戦うためにここに来たんじゃない」

「は、はあ?何言ってんだよ。だって言ってたじゃないか俺の目を覚まさせるって。その為に戦いに来たんじゃないのかよ!」

「ええ、あんたは何も見えてないから目を覚まさせてやるわ。でもそれは戦うって意味じゃない」


ピンカは息を整えるとそのまま体をまっすぐ伸ばす。


「私が倒すのは後ろに居るシンラだけ、あんたは敵じゃない」

「な、何だって……」

「家族を傷つける訳ないでしょ」

「っ!?」


家族……そうだ俺達は家族だ。

家族だから傷つけ合う必要なんてない。

家族なのにどうして敵対しているんだ。

そうだ、そうだよ初めから戦う必要なんて無かったんだ。


「シンラさ――――――」

「何を言おうとしているの、イナミ」

「っ!」


殺気、朗らかな笑みの裏に隠れたその殺気が俺の言葉を止めさせた。


「彼女は家族ではありません。自らそれを拒んだのです。ならば殺すしかありません。でなければ私達の絆を引き裂こうとしているのですから」


引き裂く、家族の絆を引き裂く。

それは駄目だ、俺達は三人で家族なんだ。

三人居なきゃ家族じゃないんだ。

でもピンカを殺したら三人じゃなくなる、あれ?それってシンラ様と一緒に居ても家族じゃないって事?

家族って一体……


「イナミ!」

「っ!」

「何絶望した顔してんのよ」

「ピンカ……」

「シャキッとしなさいよ、私の弟でしょうが!!」


そう……だ、俺はピンカの弟だ。


「違いますよ。イナミ、彼女は赤の他人です。殺さなければいけない害悪です」

「害悪……」

「さあ、魔法を放ちなさい。あなたはママの言う事を聞いてくれるわよね」

「ママの言う事を聞く……」


そうだ、言う事を聞かなきゃ。

じゃないと捨てられる、家族じゃなくなる。

やだ、一人ぼっちになるのは嫌だ。

空中に魔法陣を展開させる。

俺がやらなきゃいけないんだ。

シンラ様の腕が首元に絡みついて来る。


「さあ、私の声だけを聞くのです」


シンラ様の声だけを聞く。


「あの女を殺せ、私達の敵を」


敵……敵!!

魔力を魔法陣に溜めてそれを放とうとした瞬間、俺は無意識のうちにある事を思い出していた。


――――――――――――――――――

「ごめんね、イナミ、ピンカ。母さん、どうやら捨てられちゃったみたい」


うちは裕福とは言えなかった。

父親はまだ俺達が子供の頃に事故で死んで、それ以来母親が一人で俺達を養ってくれている。

学校にも通わせてもらい母親には感謝しかなかった、そして最近新しい恋人が出来て母親は幸せそうだった。

ピンカのその人を怪しいと疑って気に入らない様子だったけど俺は母さんが幸せならそれでよかった。

だけど両親が事故に合ってその手術費が必要だと言い、母さんから金を受け取ってからその男は帰って来なくなった。

学校から帰って来ると涙を流して男から貰った指輪を握りしめていた。

それもただの偽物だと言うのに。


「やっぱり……!」


そう言うとピンカは駆け出していった。

俺は突然の事で訳が分からず反射的にピンカの方へと駆け出していた。


「姉ちゃん、どこ行くの!」

「あの男に会いに行く」

「会いに行くって、会いに行ってどうすんの」

「ぶっ飛ばす。私は前から胡散臭いと思ってたの。やっぱり他人は信用できない」


そう言うとピンカは憎悪に満ちた瞳で振り返った。


「イナミはママの元に居てあげなさい。家族を傷つける奴は誰であろうと許さない」


その後、成人男性が路地裏でボロボロになって倒れているのが発見された。

ピンカはその後頭に血を流して帰って来た。


「どうしたの姉ちゃんその傷!」

「ママ……」

「ピンカ、あなた……!」


ピンカの手には複数枚のお札が握りしめられていた。


「これだけしか取り戻せなかった」

「ピンカ、あなたって子は」

「ママ、大丈夫だよ。他の人なんて要らないから。三人が一緒に入れれば何も望まないから。だから三人で幸せになろう?」

「うっううう……そうね、ありがとう、ありがとね」


母さんは泣き崩れながら俺達を抱きしめた。

俺達の中では家族を傷つける人を許さないことが暗黙のルールとなった。

ピンカはそれを率先としてやっていた、だからいじめられても黙っていることにして居たけどピンカはす愚にそれを嗅ぎ付けていじめっ子をボコボコにした。

ピンカは本当に他人を信用しなくなった。

家に居る時以外で笑みを見せることは無くなった。

外は敵だらけだとそう思っていたから。


―――――――――――――――――

敵……敵?

ピンカは敵なのか?


『家族を傷つけるわけがないでしょ』


違う、ピンカは敵じゃない!

直前で放とうとした魔法は一瞬にしてかき消えた。


「イナミ……何をしているの?」

「シンラ様、俺」

「彼女は敵です。殺さなければいけない。私達が家族になる為に!」

「違う、ピンカは敵じゃないよ」


そうだ、この戦いは家族を取り戻す戦いじゃない。


「お前は家族じゃない」


奪われた者を取り戻す戦いだ!


「お前は敵だ!」

「残念です。あなたはもう少し賢い子だと思ったのですが」


するとシンラはゆっくりと腕を上げる。


「忘れたのですか。あなたは私の奴隷なのですよ。主を裏切った奴隷はもう用済みです。さようなら」

「イナミ!!」


そのままシンラは親指と中指を重ねると。


「いっ!」


そのまま指を鳴らした。


「‥‥‥?」


シンラは何度も指を鳴らしているが指を弾く音が響き渡るだけで何も起こらない。


「なぜ死なない」

「間に合ったみたいね」


そう言ってピンカは薄く笑みを見せる。

間に合った何にだ?

そう言えば、さっき首筋にチクリと痛みが走ったような。

首元を触ると何かがポロリと落ちて地面を転がる。

これは‥‥‥注射器?


「奴隷化を解除する薬が入っているのよ。あんた達は自ら使役する奴らには自爆させる機能が組み込まれてるんでしょ」

「え?てことはまさか俺死ぬところだったの?」

「‥‥‥」


舌の紋章は消えてるのか。

自分じゃ見えないんだよな。


「イナミ、こっちに来なさい。紋章が消えてるか見てあげる」

「分かった」


チラリとシンラの方を見る。

その目はもう俺の知っている人じゃなかった。

後悔はない、そのままピンカの元へと急ぐ。


「ピンカ、これみ——————」

「おりゃーーー!!」

「へぶ!?」


舌を出そうとした瞬間、ピンカに思いっきり殴られた。

思わぬ一撃に尻もちを付いてしまう。


「な、何するんだよピンカ!家族は傷つけないんじゃなかったのか!」

「目覚めのグーよ。姉として腑抜けた弟を正してやったのよ」


それはただの暴力ではないのか。

するとピンカがこちらに手を差し伸べる。


「おかえり、イナミ」

「っただいま姉ちゃん」


ピンカの手を取りそのまま立ち上がる。

その手は温かく、遠い日の思い出がよみがえる。


「姉ちゃんて呼ぶなって言ってるでしょ。それよりやれるでしょうね」

「もちろんだよ!」

「数が増えようが意味のない事、私を裏切ったことを後悔しなさい」


その瞬間、周りを取り囲むように魔法陣が展開される。

この数はかなりまずい。

その時背中に何かが当たる。


「私の背中、預けたわよ」

「っ任せて。姉ちゃんの背中を守れるのは俺だけだからね」

「だから姉ちゃんて呼ぶなっての!」


今度こそ家族としてシンラ様を救って見せる!



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