その二 カノエvsサザミ&エング
ウォータープラメント
ミズト(魔力レベル13)ナズミ(魔力レベル12)チーム
「ウォータープラメント、この街は代わり映えしないわね」
お姉さまは懐かしむように周りの景色を眺める。
この街にはミュウラ様が居るはず、源魔石を持った状態で。
私は渡された源魔石をポケットの中から握りしめる。
「行くわよ、ナズミ」
「はい、お姉さま」
お姉さまはただ何も言わずにミュウラ様が居るであろう、城へと歩き出す。
先程ブライドさんからの通信で街には誰も居ないと報告をした、やっぱりどれだけ奥に入っても人がいる気配が見られない。
まるで丸ごと消されてしまったの様。
「随分と静かな街になったわね。ここは観光客が多くて人が賑わっていたのに」
「そうですね。少し、寂しいです」
「でも却ってよかったのかもしれない。巻き込む心配をする必要はないから」
戦いの場所は恐らくあの城になる、ミュウラ様との戦いだ城で留まるとは思えない。
確かに人はいなくてよかったかもしれない。
城の前に立つと思わず緊張してしまう。
あの中にミュウラ様が……
「大丈夫、私が居るわ」
「お姉さま……」
「あの城には沢山の思い出がある。ミュウラ様と過ごした沢山の思い出が、この島で出会って私達を救ってくれた。地獄のようなこの場所を私達の帰る場所にしてくれた。それを壊すのは少し寂しいけど、終わりにはちょうどいいのかもしれない」
そう言うお姉さまの横顔は悲しそうで何処か儚げそうだった。
「終わらせましょうナズミ、すべてを」
「はい!」
やらなければいけない、どんなに苦しい戦いだろうとお姉さまが居てくれるのなら乗り越えられるはずだから。
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ウォームウッズ
ピンカ(魔力レベル13)
ここに来ると昔の事を思い出してしまう。
初めてこの島に来た時の事を。
体中をいじくりまわされて日々他人の悲鳴を聞く毎日、精神なんて壊れてもおかしくなかった。
唯一の救いだったのが半獣になれる方法が出来た時に改造された事。
もし、まだ完全に半獣になれない時にそんな実験に参加されたらまず間違いなく死んでいたでしょうね。
誰かも分からない、無残な肉の塊に。
「静かね、もしかしてもうこの島には私一人しかいなかったりして」
冗談何て言っていられる状況じゃないけど、それでも無意識に独り言を呟いてしまう。
思えばこうやって一人ぼっちになるのは久しぶりね。
いつもはあいつが居たし、記憶を失っていた時もママが引き寄せてくれたし。
ていうか、ここ最近は何か色んな奴らと関わるようになったし。
でもそれでも、側に居て欲しい人はもう居なくなってて戦わなくちゃいけなくなった。
「はあ、考えた所で意味ない何て分かり切っているのよ。でも、それでも……」
気持ちが乗らない、目を覚まさせてやると意気込んだもののここに来ると気持ちがぶれてしまう。
城を目にすると今までの日々がまるで走馬灯のように駆け巡って行く。
死んでないのに、どうしてかしら。
それとも私はもう死んでいる?
何て、馬鹿なこと考える何て私もいよいよね。
一歩、一歩、城へと近付いて行くたびに心臓の鼓動が早くなる。
確実にあそこに居る、それは分かってる。
いや、それが分かってるからこそ足が遅くなっていってる。
「ああ、もう!何でこうなっちゃうわけ!それもこれもあいつが居なくなるせいよ!」
あいつの間抜け面でもみれば少しは気分も晴れたはず。
いや、会話するだけでこんな思いになる必要も無かった。
「違う違う!そんなわけない!私は一人でも大丈夫、そう大丈夫」
だからこそ誰も誘わなかったんだ。
私一人で決着を付けるために。
「やってやるわよ。私は出来る子、一人でだって出来るんだから」
そう、昔からそうだった。
一人で守って来たんだから。
「行くわよ」
そして城へと歩み進んで行く。
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ネッパニンス
城の中に入るとまたもや静けさが辺りを支配していた。
「待ち構えている奴はいないのか?」
エングの放った言葉が城の中に響いて行く。
それに反応を示すことも無かった。
「王の間に行こう。そこに居るかもしれない」
見知った階段を上り、何度も扉を開いた王の間へと到着する。
微かに気配が感じ取れる、誰かが居る。
俺はエングと視線を交わす。
先陣してドアノブに手をかけてそれを捻る。
何かが起きる気配はない、そのままゆっくりとドアを開けるとその隙間から眩い光が漏れ出た。
「っ!!」
衝撃音と爆発音がこだまする、扉は吹き飛ばされ魔法陣が浮かび上がる。
「やれ」
微かに聞き取れる声が聞こえた瞬間、大量の魔法陣が周りに展開されていく。
そしてそれが一斉に放たれた時、目の前が真っ暗となった。
「ガハハハ、こんな物か」
「それはこっちのセリフだ」
俺は最後の一人に奴隷から解放される薬を打ち込んだ。
「それは……なるほどな。おまえらそんな物持ってたのかよ」
「以前の奇襲から俺達は学んだ。身体能力の訓練も積んでいる。もう小細工は通じないぞ」
やはり奴隷は隠していたか。
だがそれでも数が少ないな、王の間に収まるほどの数ではなかったはずだ。
「軽い挨拶だ。それにこれくらいで死んでしまったら、やりがいがないだろ?」
「がっはっは!やりがいだと?ただ俺達とやり合いたくないだけじゃねえのか?ビビってるからわざわざこんな事してんだよ」
エングの挑発にカノエは眉間にしわを寄せる。
「お前の仲間から聞いてねえのか?村を襲った奴だよ」
「ああ、あいつは俺の仲間じゃない。ただ自分でやらかしたことを自分で正そうとしただけだ。それにそいつからも卑怯な手を使われたと聞いてるぞ」
追撃を加えるとさらにカノエは眉間にしわを寄せる。
「まあいい、源魔石は持っているだろうな。じゃなきゃ俺達が殺し合う意味がない」
カノエは懐から源魔石の欠片を見せる。
どうやら本当に勝った物の総取りのようだな。
「ああ、持ってきてるぜ。だが一つ訂正してくれ、俺達は殺し合いに来たわけじゃない」
「何だと?」
「俺達は取り戻しに来ただけだ。これはそう言う戦いだ」
「ガハハハ!お前らがどういう想いで挑みに来たか何てどうでもいい」
するとカノエは不気味な笑みを浮かべてこちらを見据える。
「お前らと殺れるならな」
威圧感、姿、声、どれもカノエ様で本当に生きているかのように思ってしまう。
だがあれはもうカノエ様ではない、だからこそやらなければならない。
本物のカノエ様を取り戻すために。
「行くぞ、エング」
「ああ、サザミ」
「来いよ、お前等。格の違いを見せてやるぜ」
その言葉と共に俺達は魔法陣を展開した。
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キンメキラタウン
メメの工房
「ふんふん、どうやら先に動き始めたのはサザミチームみたいだね」
メメは専用の通信機から聞こえて来る音声を聞いて状況を予想する。
メメの専用通信機から常時、皆に渡した通信機からの音声を拾い上げる。
その為通信機をオフの状態でもメメの通信機からは音声が聞き取れる。
メメはもう一つの通信機を使って、マイトと繋げる。
「こちら博士、サザミチームが動き始めたから一応言っておくよ。こっちで何か分かったら情報を伝えていくから、そのつもりでねー」
メメは必要なことを言い終えるとそのまま通信を切る。
これは一方的な通信の為、会話する事は不可能なのだ。
さらにその通信はマイトにしか繋がらない。
メメは再び音声に耳を傾ける。
「次に動き出したのは……ミズト達かな?」




