プロローグ 夜明けの決戦
決行の日、早朝
日が昇る前に俺達はいつもの宿の広間へと集まっていた。
いよいよ決行の日、皆顔が少しばかり引きつっている。
空気からも緊張感が伝わって来るな。
そりゃそうだろうな、いよいよ決戦の日なんだ。
皆、緊張しないはずないよな、俺だって緊張してるんだもん。
そんな時ブライドとクリシナが姿を現す。
「全員揃っているな」
ブライドは一通り周りを見てからそう呟く。
するとクリシナがバックから瓶を取り出すとそこには緑色の液体が入っていた。
「みんなー今からお薬を配るわね。それはかつのお友達とメイが頑張って作った物だから、大切に使うのよ」
「これって何薬よ」
受け取ったピンカが怪しむようにしてその瓶を受け取る。
確かこの薬は……
「それは奴隷を元に戻す薬よ。飲んだ人は奴隷の印の効果を受け付けなくさせるの。印も自然と消えるわ」
「つまり道中現れる奴隷たちはこの薬を使って対処しろってことか」
サザミの言う通りその為に俺達に薬を渡したのだろう。
だけどクリシナは少し考えるように顎に指を添える。
「ちょっと意味が違うかもしれないわね。念の為のお薬だと思ってくれればいいわ。研究所に潜入するチームは多めに薬を渡して置くわね。無くしちゃ駄目よ」
リドルたちは小瓶ではなくバケツほどの大きさの入れ物を渡される。
確かに研究所は奴隷が見張りをしている可能性があるし、王たちと戦う人達とは違って薬も多めに持った方が良いだろう。
だけど先程のクリシナの言い方は少し引っかかったな。
あれじゃあまるで薬を使う機会がない可能性がある言い方だ。
「それと後もう一つ、研究所チームにはこのお薬も渡しておくわね」
今度は黄色の薬をリドルたちに渡した。
それも中々の大きさだ。
「これは何ですか?」
「半獣にされてしまった人間を元に戻す薬よ。その研究所ではそう言った実験が行われてるっていうし、必要でしょ」
「なるほどな、人間を元に戻す薬か。にしてもそんな薬を作るってすごいな。もしかしてこれを飲めば俺達も人間に戻れるのか」
ハイトは感心しながらもそんな純粋な疑問を口にする。
たしかに半獣を人間に戻せる薬なら俺達も適用されるのかは気になる所だよな。
その疑問に答えたのはブライドだった。
「残念だが、それは無理だ。それは薬で無理矢理半獣化された人間を戻すための薬だ。身体改造によって半獣化された俺達では元に戻ることは出来ない」
「まあ別に俺は半獣のままで全然いいけどな。でもよ、何で元に戻さなくちゃいけないんだ?半獣になった方が体も強くなるし、長生きできるじゃん。もう半獣になっちまったんなら戻る必要ないだろ」
「確かに人間の頃よりも半獣の方が身体能力は向上し、寿命も延びる。それならなった方が得だ、だがそれは適切な変貌を遂げた場合だ?」
ブライドの言葉にガイスが首をかしげる。
「適切な変貌?」
「ああ、用はあの薬は未完成品だ。半獣化され奴隷化された奴を偶然捕まえて調べた結果、体中の組織がぐちゃぐちゃになっていた。無理矢理人体を弄られたような跡があるんだよ。あの薬は一時的に半獣化させるための薬だった」
「よく分かんねえよ!つまりどういう事なんだよ」
「つまり、半獣化された人間は長くても一週間しか生きられない」
一週間、あまりにも短い時間だ。
無理矢理半獣化された挙句にそんな短い期間しか生きられないなんて、それでも人間を捕まえて半獣化させようとする何て。
「任せてください。僕達はそんな事絶対にさせません。研究所にいる人達は全員救って見せます」
「リドル……任せたぞ」
「はい、取られた仲間を取りもどすのが僕達ですから」
そう言ってリドルは笑みを見せる。
「それとお前らにはこれも渡しておくぞ」
ブライドは小さなイヤホンを取り出した。
それらを一つずつみんなに配って行く。
「何だあこれは?」
「通信機だ。かつの提案でな、お互いの状況を把握できる手段があった方が連携を取りやすいという意見を元にメメに作ってもらった。耳に付けて縁を一回触ると通信が出来、もう一回触ると通信を切ることが出来る」
皆は片耳にその通信機を入れて行く。
形は本当に丸形で耳にフィットしやすい形状になっている。
確か縁を押せば通信が出来るんだよな。
試しに縁を押してみるか。
俺は一回通信機の縁をタップする。
「あーあーこちら絶対かつ聞こえてるか?」
『聞こえてるわ。へえーこんな風に通信が出来るのね』
『一斉通信てことは個別には送れないのかな?』
『ああ、そこまでの作業時間は確保できなかったらしい。まあ、そこまで混濁する事はないだろう。とりあえず通信を切るぞ』
もう一回タップをすると自分の声が通信されることは無くなった。
シンプルだけど音声もクリアだし、この短い期間でこんな高性能の通信機を作るのは大変だっだろう。
「戦いが終わった後はこの通信機を使ってくれ。ちなみに互いの位置情報を知る為にマイトには通信機のGPSが見える端末を渡しておく。上手く利用してくれよ」
「分かった、なるほどこれがあれば確かに皆の居場所を常に知ることが出来るね」
「通信機に異常が発生した場合に救難信号が出るようになってるから、ハイトはそれを確認しつつ自身の任務を果たしてくれ。そして次はこれだ」
次にブライドが取り出したのは謎の拳銃のような形をした機械だ。
それは城潜入組のサラ達に渡す。
「何だいこれは?」
「メメの名前の通りに言うのならばミニミニちゃん三号らしい。仕組みは何言ってるか分からなかったから詳しくは言えないが、要は対象物を小さくできるらしい」
「ちょちょ!何だそれ、めちゃくちゃ凄い機械じゃん。そんな技術どこで手に入るんだよ!」
「研究所にあった設計図を参考にメメ独自の設計で作ったらしい。ちなみに持続時間は三分だ。気を付けろよ」
「何かよく分からないけど、これであれを盗めるっしょ」
小さくなる装置か、名前のネーミングセンスはともかくとして本当にそんな物が作れる何て、しかも他の作業をしながらだもんな。
本当にメメは天才なんだな。
それとリツとマキノもかなり頑張ったんだろうな。
あいつらにはあとでお礼を言わないとな。
するとクリシナが一つ手を叩きみんなの注目を集める。
「私から皆にエールを送るわね。この一週間で皆とっても素敵になったわ。本当に見違えちゃった。最初に出会った頃の皆は個性的で一人一人が大事な物を持っていた。それを失って悲しみにくれたとも思う。それでもあなた達は立ち向かおうとしている。その想いはとても美しく、力強いものよ。でも心は変わってしまうから、再び悲しい気持ちが心を満たすかもしれない。そんな時は思い出して、隣にいる人を何のために戦うのかを。そうすればまた立ち上がれるはずよ。あなた達は私が知るなかでとっても美しい心を持ってるんだから、これは本心よ。だから、頑張ってね」
「ありがとう、クリシナ」
クリシナの励ましの言葉に俺は心の底から感謝を言う。
「ふふっ頑張ってね。それじゃあ、最後にブライドに締めてもらいましょうか」
そう言うとクリシナはブライドの背中を押す。
「まあ、言いたい事は全部クリシナに言われたし俺から伝えることは一つだ」
ブライドは腕を組むと俺達の事を真っすぐ見る。
「必ず帰って来い」
その一言を受けた俺達は同じように一言で答えた。
「「「「「「「「「「はい!!!!!!!」」」」」」」」」」
こうしてついに始まった。
俺達の奪われた者を取り戻す戦いが。
夜はすでに明けていた。




