エピローグ 敗戦の後
ある研究所、主に生物兵器担当
「いやー見事に負けちゃったね」
「負けちゃったねじゃない!だから嫌だったんだよ!」
研究所内で怒鳴り声と緊張感ない声が響き渡る。
先程カノエと対決したカビットとメイは見事な敗北を遂げて、そのまま拘束の後に研究所へと奴隷に連れられていた。
「まあまあ、ガビッちそんなに怒らないでよ。私達死んでないんだから、いつでも再戦が可能だよ!」
「するわけないだろ!手も足も出なかったんだから、今度こそ殺される!」
「あはは、確カニ~」
メイはそう言って笑って見せた。
この状況でまだ笑みを見せることが出来るメイの精神力と間抜けさにカビットは思わずため息を付く。
「そう言えばあの二人どうしてるかなあ。別々に連れてかれちゃったけど」
メイは先程まで一緒に居たザックとニュートの動向を気にする。
カノエと戦いを終えた後、カノエは研究所に待機させていた奴隷を呼び出しメイたちとザック達を別々に連れて行った。
「研究所の中に居るとは思うけど、何で分けたのかな。もしかして仲間だと思われちゃったとか?」
「そりゃあまあ、メイがあいつらを庇うようなことをしたからだろ。仲間だと思われても仕方ないよ」
「うーん、だって可哀そうだったもん。あの人達、殺されそうになってたんだよ」
お人好しな発言にカビットは怒る気力が失せてそれ以上何も言う事が出来なくなった。
だからこそカビットは先程起きた出来事を思い出す。
カノエと戦った時の事を————————————————————
「ガハハハ!中々やるじゃねえか。俺相手にここまで粘るとはな」
カノエの魔法によって周りの木々が吹き飛び地面に大きな凹凸が出来る。
それでもメイとカビットは自身の魔法で上手い事立ち回り命をギリギリ繋ぎとめていた。
「おじさんも中々やるねえ。正直びっくりしたよ」
「め、メイ。滅多なことを言うなよ、相手は王だって言ってるだろ」
「小娘にとっちゃ、俺が何なのか関係ないってことか。だとしたらなぜ逃げねえ、逃げられないと悟り戦う覚悟を決めたか?戦闘好きってわけじゃないだろ?」
「うん、私戦闘は好きじゃないよ。だって痛いし、相手を傷つけることになるから。でも、やらなきゃいけない時はやるよ」
メイはただ真っ直ぐと言葉を告げる。
迷いのない言葉の数々にカノエは興味を示す。
「そこまで言うなら、今がやらなきゃいけない時なのか?」
「うん、私が力を使う時は守る時だから」
メイから発せられた言葉に対してカノエは思わず首をかしげる。
「守るって奴はどいつだ?そのさっきからビクビク怯えてる仲間の事か?」
カノエはカビットの方を指差すとカビットの体がさらに震える。
だがメイは首を縦には降らなかった。
「違うよ、ガビッちは強いもん。私が守らなくても大丈夫」
「ならもしかしなくてもそこのゴミクズの事を言っているのか?」
今度は未だに体を縛られて地面に転がっているザックとニュートの方を指差す。
その言葉に対してメイは不快そうに顔をしかめる。
「ゴミクズじゃないよザッちとニュッちだよ!」
「もしかしなくてもそれって俺達の事か?」
「うん、そうだよ。それ以外居ないでしょ」
「ガハハハ!まさかあいつらを庇うとはな。確かにあいつらを何度も殺そうとしたが、お前等はどうしても俺の攻撃を防ぎに来るよな」
するとカノエが不気味な笑みを浮かべる。
その時メイは直感的に何か良からぬことをしようとしていると思い、瞬時に魔法陣を展開させた。
だがそれは確実に悪手と言わざる負えなかった。
「メイ!!」
「残念だが、お前の負けだ」
その時メイの後ろに魔法陣が展開させる。
今までの戦いではカノエの魔法陣を先に見た後でその魔法陣に適した魔法をぶつける後手に回る戦法だった。
それがかえってメイたちの命を繋ぐことが出来たがそれ立場が逆になったことでメイは自身を守るすべを失った。
「ロッククラッシュ!」
二つの岩がメイの体に直撃しそのままメイは倒れてしまった。
「メイ――――――」
「動くな小僧」
殺気の込めた魔力はカビットの動きを止めるのには十分だった。
「お前らを今すぐに殺すことが出来るが、正直魔力は温存しておきたい。俺にはやる事があるからな。だからお前らを有効活用する事にした。奴隷にして、有効活用してやるよ。おい」
カノエの一言で研究所から二人の奴隷が現れて来る。
すぐさまカビットとメイを拘束するとそのまま無言で二人を連れて行く。
「さて残ったお前らの処分をどうしようか。お前らに仕掛けた奴隷の印で強制的に殺すことも可能だが、今は少なくとも動ける奴が必要だ」
「カノエ様……俺を殺してください」
予想外の発言にカノエも思わず言葉を漏らす。
「ほお、なぜだ」
「もう、戦えません。あいつらは俺達を守ろうとしてくれますか」
「敵とは思えなくなったっす。だからもう戦えないです」
完全に戦意を失った事により2人は死を受け入れる。
その様子を見ていたカノエは呆れたようにため息を付く。
「腑抜けな奴らだ。戦力として数えられねえな」
二人が死を覚悟した時、カノエはゆっくりと二人の頭を掴む。
「意思があるから戦えねえのなら失くしてやるよ。あいつらと同じような奴隷によ。おい、この二人を連れて行け!」
「やめてくれそれだけは!」
「あいつ等みたいになりたくねえよ!!」
だがカノエはその懇願に笑みを持って応えた。
「お前らの言う事なんて聞くかよ、ばーか」
それが最後に見たザックとニュートが慕っていたカノエの姿だった。
カビットはカノエとの戦いを思い返していた時、奴隷が動きを止める。
「入れ」
檻の中に複数人の人が居た。
そのどれもが半獣でそのどれもが憔悴しきっていた。
二人が檻に入った後、それは再びカギがかけられる。
そのまま奴隷は檻の横で立ち監視を続ける。
「潜入成功だね」
「どうしてこう楽観的なんだよ。ただ捕まっただけだろ」
「大丈夫!ぺぷっちがすぐに助けを呼んでくるよ。だからそれまで我慢、我慢」
「助けが来るのか?」
檻の中で威圧的な声が聞こえて来る。
その声を発した人物は声だけでもなく目線だけも威圧的だった。
「それなら俺も連れて行け」
「どうして?」
「俺は、いや俺達はこの研究所を潰しに来た」




