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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十二章 取り戻せ!源魔石争奪戦
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その三十八 残る者と残らなかった者の前夜

一週間ずっと騒がしかった工房はこの日寝息だけが響き渡っていた。


「どうやら疲れがたまってたみたいだな」


薬や機械の仕事を頼んでずっと働き詰めだったから無理もないな。

メメの手伝いをしてた二人もすっかり熟睡してるな、休みなく作業をし続けた集中力と技術力は尊敬に値する。

かつに手伝いを探す頼みをしてよかった。


「あら、こんな所に居たんのね」


扉の方からこちらを覗き込んでいるクリシナの姿があった。

ここで会うのは久しぶりのような気がする。


「どうしたんだ、わざわざこっちに来て」

「もう他の人をここに呼ぶことはないと思ってね。久しぶりに来たくなったの、メメはお疲れの様ね」

「ああ、ずっと作業をしてたからな。おかげで現状必要な物はすべて揃えられた、かつの友達にも正式にお礼を言わないとな」


かつの友達はそのまま床に寝たまま毛布をかけた状態で寝ている。

恐らくかけたのはデュラだろう、ここにあんな毛布はなかったし優しいデュラならそのまま寝ているのを見過ごせないだろうしな。


「あらあら天使が寝ているかと思っちゃったわ。それにしてもここの匂い凄いわね。独特な匂いって言うか、服に染み付いちゃったら取れなさそう」

「専門的な機器や薬品を使ってたからな。後で四人で風呂に入ってきたらどうだ」

「わあ、確かにそれもいいわね。かつのお友達とは仲良くしたいと思ってたのよ。話してるだけでも楽しいと思うし」


クリシナは手を合わせると目を輝かせながら笑みを浮かべる。

クリシナのおかげでここの人間関係も良好にはなっている、喋る機会を与えるのもコミュニケーションの一つだ。


「それじゃあ、俺はそろそろ出る。お前はどうするんだ」

「そうね、明日は私たち二人だけが残るのよね。デュラもメメもここに居るんでしょ?」

「ああ、あの2人にはここを任せてるからな。それにここでしか出来ないことも任せてる」


するとクリシナは小さく笑みを浮かべてそうと呟く。


「ねえ、本当に皆が王を倒したとしてガイスの件は事はついてるの?彼らの頑張りを無駄にしたくはないんだけど」

「分かってる。全てが片付いたら正直に言うさ、ガイスを殺す方法について」


その言葉を聞いてクリシナは少しだけ暗い表情をする。

クリシナには事前に話してある、ガイスを殺すことが出来るのは一人しかいないと。

出来ればそれ以外の方法を模索したかったが現状ガイスに対して俺達はあまりにも無力だ。


「ブライド、あなたのやり方を否定するつもりはないわ。よくやってくれてるもの。でも皆は純粋なの、おそらくガイスを倒した未来はきっと素敵な物になると信じて疑わないわ。皆の未来を閉ざすようなことはしたく無いの」


クリシナは本当に悲し気にそんな言葉を漏らす。

同情心から来る願望か。


「随分とあいつらに入れ込んでいるな。そんなに気に入ったのか」

「あら、ブライドも相当入れ込んでると思うけど。まああなたの場合はかつかしらね」

「ふん、今は明日の事に集中しろ。俺達だって油断すべき立場じゃないんだぞ、デビがやられたらここも狙われる順番によっては最初に来るかもな」

「デビはやられないわよ。だってかつの仲間だもの。あの子の仲間は全員強い意思を持ってる、もちろん他の子もね」

「お前も人のこと言えねえじゃねえか。それじゃあ、また明日な」


クリシナよりも先に部屋を出ると思わずため息が漏れる。


「決戦前夜だって言うのに先の事ばかり考えちまう」


あいつらが勝ってその後どうなるかなんて分からない。

ただ一つ分かるのは明日あいつらが勝って来るって事だけだ。

それは絶対に覆る事はないと思う、そう思わなきゃならない。


「すべては明日からだな」


そのまま俺はアジトを離れた。


——————————————————

ウォームウッズ、城の地下、木の幹の修行場


「はああ!」

「そこまで、お疲れ様ですイナミ」


イナミは修行を終えると息を吐きながらそのまま地面に倒れる。

全身から汗をかき、魔力不足からの疲労感からかそのまま指一つ動かせずにいた。

そんなイナミをミュウラは見下ろす。


「本当ですか、それはよかったです」

「魔力レベルも以前と比べて二つも上がっています。限界を超えたのが良かったようですね。これならピンカに後れを取る事はないでしょう」


その名前が出るとイナミは複雑な顔をする。


「ピンカ殺さないといけないのでしょうか?」

「それは、どういう意味ですか?」


シンラは笑みを絶やさずにイナミに問う。


「ピンカも話せば分かってくれると思うんです。この戦いは意味が無い物だと、だってそうでしょ。ガイスが居る以上俺達は負けないって、だったらピンカをこちら側に引き入れた方が良いと思うんです。家族だから!」

「そうですね。家族であるピンカをこちら側に引き入れるのは至極真っ当だと言えます」

「だったら」

「ただし!」


その一言でこれからピンカを引き入れることが否定されることをイナミは理解した。


「家族だったらです。彼女は私達を殺しに来ます。家族を殺そうとする者はもう家族ではありません、むしろ殺さなくてはなりません。私達の手で、それが家族だった物がすべき事です」

「分かってます……分かってますけど、でも俺は……」


イナミは揺らいでいた。

頭では理解しつつも、心ではそれを良しとして居なかった。

そんなイナミの心の揺らぎをミュウラは瞬時に理解した。

そしてミュウラは膝を付くと倒れているイナミをゆっくりと起こす。


「分かりました、イナミは優しい子ですね。そこまで言うのでしたら、少しばかりの猶予をあの子に与えましょう。あなたの問いに対してピンカが良いと答えれば家族に迎え入れましょう」

「本当ですか!ありがとうございます!」


その笑みは純粋な笑顔で先程の迷いは消えていた。

そしてそれは同時にミュウラに対する疑念も消えたことを意味する。

そしてミュウラは優しくイナミを抱きしめる。


「良いんですよ、あなたは私の大事な子ですから」


優しい言葉の裏ではガイスの人格が少しずつ表立っていることをイナミはまだ気づかない。



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