その三十三 メメの助手審査
「おーい、クリシナ!2人を連れて来たぞー」
俺は食堂に居るであろうクリシナに呼びかける。
案の定クリシナは食堂で唐揚げを丁寧に食べていた。
「あっこんにちは。あら、そこに居るのは天使かしら」
クリシナは俺の後ろに居るリツ達を見つけると微笑みながらそんな事を口にする。
相変わらず女の人に対しての評価がすごいな。
するとマキノは警戒するようにリツの後ろに隠れる。
「何ですかあの人。何か関わったらめんどくさそうな人ですね」
「まあ普通の人ではないな。クリシナ、この二人をメメの元まで送って欲しいんだけど」
「もちろんよ。その前にこの唐揚げはどうかしら。ここのおばあちゃんが作ってくれたのよ。とっても美味しくてつい食べ過ぎちゃうの」
「本当だ~すごく美味しいね~」
するといつの間にかリツが皿に乗っていた唐揚げを食べていた。
ていうかはしどっから取り出したんだ。
「そっちの子もどうかしら。とっても美味しいわよ」
「わ、私はいい。朝っぱらからそんなもの食べられないので」
そう言いながら俺の背後にマキノは隠れる。
というかなんか盾にされているような気がする。
するとクリシナは残念そうに肩を落とす。
「そう、あなたにも食べてもらいたかったのに。仕方ないわね、それじゃあリツ一緒に食べましょうか」
「そうだね~本当に美味しくて~食べ過ぎちゃうよ」
「うふふ、でも食べ過ぎはよくないわよ。女の子は自身の体系にも気を配らないとね。リツはとっても健康的なスタイルをしてるんだから」
「ありがとう~でもクっちゃんも~すっごく素敵だよ~」
「あら、クっちゃんて私の事かしらとっても素敵なニックネームね」
「そうでしょ~これからよろしくね~」
何かもう仲良くなってるな。
クリシナとリツの周りは何か男には近寄りがたい雰囲気を感じる。
あれが女子会という奴なのか。
いや、唐揚げを食いながらの女子会はあまりないか?
「上手そうですね……」
後ろに隠れていたマキノがそんな事を呟いた。
「そんなに食べたいなら一緒に食べたらいいじゃねえか」
「一度断ったのに美味しそうだからやっぱりくれだなんて図々しいでしょう。私は絶対さんとは違うんですよ」
「その言い方だとまるで俺が図々しい奴みたいだな」
「あれ、そう言ったつもりですけどね」
「お前なあ……あっ」
俺はある事に気付きそのままマキノから目線を逸らす。
「どうしたんですか、急に目線を逸らしふにゃ!?」
「あらあら、マキノ。もしかして唐揚げが食べたかったの?ごめんなさいね気付いてあげられなくて、さっきの言葉はマキノなりの了承だったのね」
いつの間にか背後に居たクリシナによってマキノの体は抱きしめられる。
「別にそう言う意味じゃないですから!ていうか離してください!」
「それも嬉しい、一緒に食べましょうって意味なのかしら。もうマキノったら可愛いわね」
「だからー!違うって言ってますよね!!ちょっ連れてくなあ!」
マキノの抵抗もむなしくクリシナに抱きかかえながら唐揚げが待つテーブルへと連行される。
マキノ、頑張れ。
「て、頑張れじゃなかった。クリシナ、はやく俺達を連れて行ってくれよ」
「あっそうだったわね。新しい友人と出会って喜びですっかり忘れちゃってたわ」
そう言いながらクリシナはマキノの口に唐揚げを押し込む。
マキノ、何かすまんな。
気を取り直して俺達はメメの元に行くために魔法陣の上に立つ。
「それじゃあ、メメによろしくね。あの子夢中になると視野が狭まっちゃうから、サポートしてあげて」
「まあ、唐揚げ貰ったんでやれることはしますよ」
「それじゃあ~またね~クっちゃん~」
「じゃっ頼む」
「テレポート!!」
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周りの景色が一変し気が付けば工房に来ていた。
相変わらずの機械音と振動を感じる。
今はいつもの席にデュラの姿が見られなかった。
「へえ~何だか~面白い所だね~」
「というか、何かうるさくないですか。何か地震みたいな衝撃と揺れが起きてますし」
「ここで修業している人が居るんだよ。最近はもっぱら揺れを感じるな。まっ奥に入ればそれも感じなくなるよ。付いて来てくれ」
俺は事前に教えてもらったメメの工房へと向かう。
段々と金属を叩く音と工具を扱う音が大きくなってくる。
どうやら工房には血が付いているようだ。
俺はいくつかのセキュリティを教えてもらった通りに解いてから、メメが作業中である部屋の扉の前に立つ。
そしてその扉を数回叩いた。
「メメ、例の手伝える人を連れて来たぞ!」
だが不規則な金属を叩く音と工具の音だけしか返って来なかった。
俺は再び扉を叩く、今度は強めに叩くが先程と変わらず作業音しか聞こえてこない。
「中に入るぞ!」
俺はそう言うと勢いよく扉を開ける。
そこには一際広い部屋となっており、さらに三体のロボットが忙しなく動き回っていた。
そして台の上に置かれている大きな機械をメメが弄っていた。
あれはたしか……魔力吸収装置だったよな。
「あの人が手伝ってほしい人なんですか?」
「わあ~何かすごい所だね~」
「メメ、聞いてるのか。手伝いに来たぞ」
駄目だ、全くこちらに気付いていない。
夢中になると視野が狭くなるのは本当の様だ、目の前の機械にしか見えてないのだろう。
仕方ない、直接肩を叩いていることを知らせるか。
そう思い、近づこうとした瞬間忙しなく動いていた機械が突如停止してこちらを一斉に見始めた。
『侵入者発見!侵入者発見!パイ地獄の機能発動』
その瞬間、三体の機械から無数の手が現れてそこにはパイが握られていた。
「まずい!!お前ら逃げろ!!」
「へっいきなりなっうわあ!」
「パイが~!」
三体の機械が一斉にこちらにパイを投げて来た。
その圧倒的な数になすすべなく体中がパイまみれになる。
「ん?どうした、万能お手伝いロボット達。何だか騒がしいような……あれ、君はゼットさんのご子息じゃないか。もしかして博士の実験に参加したくなったのかな。だが残念、あいにくだが今は忙しくてね。構ってやれないんだよ」
「いや、そうじゃなくて手伝いだよ。ブライドから聞いてないのか?」
俺は体中のパイを取りながらメイの元へと行く。
するとメメは腕を組んで考えこむと、思い出したのか顔がパッと明るくなる。
「あーそんなことを言っていたような気がするよ。なるほど、君達が博士の助手になる人達か……うんうん、いいねいいね」
メメはパイまみれになったリツたちの顔をまじまじと見る。
「合格だ!博士の助手になる事を許そう!」
「え!?そんなんでいいんですか!何か技術的なテストとかした方が良いんじゃ」
「技術何て博士がいくらでも教えてあげよう!博士の助手になる為に必要なことはただ一つ、面白そうな人か否かなのだよ!」
メメは二人に向かって自信満々に指を指す。
それに対してマキノは困惑の表情を浮かべているが、リツは相変わらず微笑んでいた。
「そっか~私面白そうなんだ~面白そうな人でよかった~」
「ちょっとリツさん!?そう言う訳じゃないですよ、何か私達なめられていません」
「さあさあ、話してる暇はないのだよ。やることは沢山あるよ、さあレッツ発明だ!」
メメは早速二人に仕事を振り分けようとした時、工房の扉が開いた。
「よお、どうやらそっちの問題は解決した様だな」
工房に現れたのはブライドだ。
中に入るなり一直線に俺の元に向かってくる。
「修行のために呼びに来たんだろ。すぐに向かう」
「ああ、別に急かしてるわけじゃない。ただちょっと様子を見にな。ていうか、今はどちらかというと急ぐとまずいしな」
「急ぐとまずい?どうしてだよ、ガルアは待たせてるだろ」
「あいつは今体を休めさせている。いつも使ってる修行場は今はサザミとエングとデュラに貸してるんだよ」
「サザミとエングとデュラに?」
面子自体は珍しい物ではない。
ここ自体いくつか修行場はあるのでそこで修業をしているという話は何度か聞いている。
だが俺達が使っている修行場で何でわざわざやってるんだ。
「どうやら限界を超えるのに相当苦労してるらしいな。それもほとんどの奴らがそうだ。まあ一度超えちまえば後はどうってことないんだが、それまでが難しくてな。ほとんどの奴らが修行場を使ってるせいで始まるまで譲る事になったんだよ」
「なるほど、そう言う事か」
王たちと戦うためには魔力レベルを少しでも近づけなければならない。
その為の修行となれば休んでる暇はないよな。
「何か力になってあげたいけど、俺も自分で低一杯だしな」
「まっお前のやり方はアドバイスにはならないよな。インパクトで強制的に拡張させたなんて、荒業すぎるし」
「た、たしかに。一気に魔力量を上げる方法があればいいけど」
「へえ、なるほど!これが魔力を倍にさせるポーションか!」
その声が聞こえてきた方向に振り向くと、メメが青色の液体が入った瓶をまじまじと見ていた。
ん、魔力を倍にさせるポーション?
何か聞いた事がある名前だな、たしかあの効果は。
「凄いでしょう。それは私のとっておき何ですよ」
「よし、分かった。それなら君にポーション開発の任を任せよう。励んでくれ給えよ」
マキノのとっておきのポーション。
そうだ思い出した!
「それだ!!」
「ふわっ!ちょっといきなり大声出さないでよ」
「どうしたの~ぜっちゃん~」
「ブライドこれがあれば限界を超えられるぞ!」




