その二十九 怪盗は上手い事使われる
ある朝の事、修行を終えてぐっすりと休んで俺は目覚めるとすぐにある場所を目指した。
ここキンメキラタウンは今や島中の人々を集めた場所となっている。
その為、自然とこの街に逃げて来る人も少なくはない。
だからこそまだ一度も見ていない人物ですらこの街に来ている可能性は十分にあった。
「恐らくあいつらはここに居るだろうな」
俺は酒場の前で立ち尽くしていた。
キンメキラタウンには酒場が少ない。
というかそもそもこの街は富裕層が暮らす街でもあるからこそ、庶民に優しい酒場などなく高い酒が並べられた高級店しかないのだ。
だからそう言った庶民でも気軽に飲める酒場は数が少ない。
「さてと中に入ってみるか」
俺は意を決して酒場へと入って行く。
中は中々の大盛況だった。
それはそうか、今は満足に外に出る事すら出来ないんだ。
酒場で酒を飲む事しか暇をつぶせない人も居るだろう。
俺は酒場で騒いでいる人達の間を通りながらある人物を探すために周りを見渡す。
「あっいた……」
その人物はカウンターの席ですでに空瓶を3本開けていた。
「あーもう駄目。もう駄目だ。もう終わった俺達の怪盗人生お先真っ暗だ」
「何言ってるっしょ。そんな先の事を考えてたってしょうがないっしょ。こういう時は飲むに限るっしょ」
「当たり前だろ!飲んでなきゃやってられねえよ!おい店主!もう一本持ってこい!」
そう言って店主は奥からもう一本の酒瓶を手にする。
俺はその店主の持っている酒瓶を奪い取った。
すると酔っぱらいが俺に向かって睨みを効かせて来る。
「お前それは俺の酒……お、お前は!」
「何でお前がここにいるっしょ!」
「よお、久しぶりだな。ハイ&ロー、どうやら外が大混乱に陥ってるせいで仕事が無くなっちまったみたいだな」
するとハイ&ローが慌てた様子で背中を向ける。
「おい、ロー!話が違うじゃねえか!ここでならバレないって言ったよな!だから俺は泊まり先で飲もうって言ったんだよ!」
「ハイに言われたくないっしょ!今はかつも忙しくて街中を見て周る余裕はないだろうって勝手に納得してたっしょ!」
「それはっ!」
「おい、いつまでそっちで話してるつもりだよ」
するとようやく観念したのかハイ&ローはこちらに向き直る。
「それでお前は何のようで俺達に会いに来たんだ」
「どうやら暇してるみたいだからな。お前らに仕事を持ってきてやったぞ」
「仕事?ろくなことにならない気がするっしょ!」
「さっきまで愚痴ってたじゃねえか。仕事が無くなったってよ。お前らも仕事が欲しいんだろ、怪盗の仕事がよ」
「くっ確かにそう言ったが……」
どうやら余程俺の仕事を受けるのが嫌みたいだな。
仕方ないここは上手く話しを乗せてあげないと駄目だな。
「安心しろ。前みたいな命に関わるような仕事は頼まはない。そうだな難易度は薬草狩り程度だな」
「薬草狩り程度の事を俺達にやらせようとしてるのか?」
しまった、さすがに簡単な言い方をし過ぎたな。
こいつらは怪盗としてプライドも持っているし、あんまり簡単すぎると逆にノリ気じゃなくなるか。
「まあ、そこはちょっと低く言い過ぎたな。実際は手ごろなモンスター討伐レベルだ。比較的簡単だが、油断すると危ないぞくらいだ」
「まあ、ここ最近特に何もしてないからそれ位のレベルの方がやりやすいか」
「しょうがないっしょ。今の状況を考えるとそのレベルの仕事がもらえるだけ奇跡っしょ」
「ああ、分かったよ!それならやってやるよ!その仕事引き受けた!」
「聞いたぜ。今更無しだなんて言うなよ」
「怪盗に二言はないっしょ!」
「分かった、それじゃあ早速仕事の内容を伝えるから付いて来てくれ」
そして時は作戦会議に戻る———————
「入ってきていいぞ!」
俺の言葉を気にハイ&ローの二人が作戦会議にやって来た。
その様子は何処か忙しなくあたりをキョロキョロとしていた。
「久しぶりだな!確かガイスの暗殺計画をしてた時に会ってたよな」
「え?あっお久しぶりです」
何だかハイの様子がおかしいな。
ここに来るまで酒に酔ってたから上機嫌だったのに、突然委縮してしまっている。
「ハイ&ロー……そう言えば確かにあの時いたな。確か城の中に侵入していたんだったな」
「ああ、その節はどうもすみませんでした」
ガルアの言葉にローが語尾を付けずに謝罪をする。
どんだけ怖がっているんだよ。
「とにかくこいつらがガイスの城に潜入してもらう仲間たちだ。知っている人もいると思うが、知らない人の為にも自己紹介をしてくれよ」
「ちょっと待て!聞いてないぞ!ガイスの城に潜入するだと!ガイスってあの超やばい奴の事だろ!」
「ていうかちょっと待つっしょ!この男、たしか半獣を滅亡させるとか言ってなかったっしょ!」
「ああ、あれはやめた」
「やめた!?ちょっと待つっしょ!何がどうなってるのか」
「その話はもういいだろう。つまりこいつらとサラとマイトの四人でガイスの城のある機械と欠片を手に入れるんだろ」
サザミの言葉にハイ&ローは驚きの表情を見せる。
「ガイスの城!?ちょっと待てよ!そんな話聞いてないぞ!」
そう言いながらハイは視線をこちらに向ける。
まずい、バレた。
俺は思わず視線を逸らす。
「まさか、騙したのか?」
「お前らは一度城の中に潜入してるんだし、もう一度入る何てお茶の子さいさいだろ」
「ふざけるな!!全然少し危険な任務じゃないじゃないか!めちゃくちゃ死亡率が高い奴じゃないか!」
「やめるっしょ!そんな事に命をかけられないっしょ!」
「おい、ちょっと待てよ!」
俺は帰ろうとする二人に呼び止めようとする。
このまま帰られては作戦が上手く行かない。
するとブライドがハイ&ローの前に立ちはだかる。
「成功報酬は酒でどうだ。さらにガイスは当日は城にはいない。さらに他にも強力な仲間も同行し、城にも仲間が待っている。これほどの簡単な仕事はないはずだぞ。ノーリスクハイリターンって奴だ」
「な、何だって」
「そ、それは魅力的っしょ!」
「最強の怪盗であるハイ&ローには簡単すぎる仕事だと思わないか?」
「なるほどな。いいだろう、この怪盗ハイ&ローに任せておけ!」
「任せておけっしょ!」
そう言ってハイ&ローはやる気を見せて行く。
どうやらまだ酔っぱらっているようだ。
じゃなければこんなあからさまな嘘に気付かないわけないよな。
「それじゃあ、城の潜入するメンバーはこれで良いと言う事かな」
「いや、マイト。お前は城の潜入メンバーから抜けろ」
「え?どうして、急に」
「実は昨日かつ達と別の話もしててな。作戦が終わった後の事さ」
そう城に潜入するメンバー以外にも作戦が終わった後の皆の状態についても話し合った。
その結果マイトが抜けるべき何じゃないかという結論に至った。
ある役割を任せる為だ。
「今回は誰もが勝てる前提で作戦を決めている。だが現実は紙一重だろうな。勝てたとしてもボロボロで身動き一つとれないだろう。満身創痍って奴だ。そんな状態で帰れると思うか?」
「そう言う事か、つまり俺は戦いに勝利して身動きが取れない仲間たちを保護する役割だと言う事だね」
「そうだ。お前のオリジナル魔法なら安全に助け出すことが出来るだろ?」
「それじゃあ城の潜入チームはあたいとハイ&ローって人達の三人で行くってことかい?」
「そう言う事だ。マイトはサポート役に回ってくれ」
「ちょっと待ちなさいよ。サポート役になること自体は否定はしないけど、戦いが終わった何てどうやって確認するつもり?まさか遠目から私達の戦いを見てるってわけ?」
「そのことについてはかつからある提案を受けた。メイにその製作を手伝ってもらってる。出来次第、お前等にも伝えるよ」
「あっそう、まあ何か案があるのなら別にいいわ。私には関係のない事だし」
「安心して。ピンカが無事に勝利を収めたら俺が迎えに行ってあげるからさ」
「きもい、うざい、近づくな」
「ピンカの愛情表現は中々パンチが聞いてるなあ」
それは愛情表現なのだろうか。
「よし、それじゃあ変更点は以上だ。ハイ&ロー、作戦の決行は一週間後だからその間に潜入の段取りを決めておけよ。仲良くやるんだぞ」
「よろしく、あたいはサラだ。仲良くやっていこうじゃないか」
「俺達が居れば盗んだも同然さ!ちなみに何を盗むんだ」
「確か魔力を吸い取る機械と源魔石って言う欠片だよ」
「え?それってあの巨大な機械!?どうやって盗むって言うっしょ!」
「それじゃあ解散!」
ブライドの一言で周りの人々が一斉にその場から離れていく。
「ちょっと!やっぱり楽勝じゃないっしょ!」
「騙されたー!」
そしてハイ&ローの悲痛な叫び声が響き渡って行く。




