その二十六 リドルとハイトの魔法強化週間
「あら、こんな所でどうしたのかしら?」
クリシナは食堂に顔を出すとそこにはリドルとハイトが椅子に座りゆったりとくつろいでいた。
「おっ来た来た。リドルの言う通り、本当に来たな」
「お待ちしていましたよ。そろそろクリシナさんもお腹が空いてくるころだなと思っていたので」
「どうやら待ち伏せされていたみたいね。それで、私を待っていてくれたお二人は一体何を求めているのかしら」
微かに微笑みクリシナに向かってハイトは鼻で笑った。
「もう分かってるだろ。お前の元に訪れた奴らの目的は一致してるはずだ」
「そうね、でも二人には関係のない事だと思うけど」
「そうだとは言い切れませんよ。僕達も作戦当日には敵の拠点に攻め込むつもりなんですから」
そう言ってリドルはボロボロの体を起こして、椅子から立ち上がる。
それを見たクリシナは不思議そうな顔をする。
「でも、怪我はまだ治ってないでしょう?ブライドには絶対安静だって言われてるはずよ」
「それは分かってる。だがここでじっとしてられるほど俺達は大人しい性格じゃないんだ」
「男の子ね。そう言う頑張り屋さんな所は素敵だと思うけど自分をおろそかにするのはよくないわ」
「自分の事は自分が一番よく分かっています。皆さんが行っている修業はオリジナル魔法の強化ですよね?」
するとクリシナが薄く笑みを浮かべる。
「あら、バレちゃった?」
「さっきミズトとナズミが気合入れてオリジナル魔法の特訓をする所を見たんだ。わざわざ自分包囲な奴らが帰って来て早々オリジナル魔法の特訓を始めるって所を見るにそこを強化されたんじゃないかって、リドルが予測したんだよ」
「なるほどね。大正解、皆が鍛えた物はオリジナル魔法よ」
「ブライドさんレベルの仲間ともなるとオリジナル魔法の強化も短時間で行うことが出来るんですね」
「そうなのよ、デュラはすごいの。彼は強くて優しいだけじゃなくて常に他人を思いやる愛に溢れた人なの。だからいきなりやって来てもすぐに対応してくれるのよ」
「それじゃ俺達が言っても大丈夫だってことか。ツキノだってもう既に行ったしな」
するとクリシナが顎に人差し指を付けて難しそうな顔をする。
「そうねえ、ハイトならいいかもだけど……」
チラリとクリシナはリドルの方を見る。
その視線を感じ取ったリドルはすぐに反応を示す。
「確かにお二人よりも怪我の度合いはひどいですが、動けない程ではありません。それにオリジナル魔法を強化してもらうだけなのだとしたら体を激しく動かすこともありませんし」
「それもそうね。それに私の事を待っててくれたんだもの。その行為に応えないと、可憐な少女はいつでもみんなの期待を裏切らないんだから」
そう言うとクリシナは地面に魔法陣を展開する。
その上にリドルたちは乗った。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
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「どうやら無事についたようですね」
リドルとハイトはクリシナのテレポートによりアジトへとやって来た。
そしてすぐ近くに大柄な男が二人を待ち構えていた。
「お前らが最後のようだな」
「あなたは……デュラさんですか?」
「俺の事を知っているようだな」
「愛の深い男だと聞かされたぞ」
するとデュラが顔を抑えて項垂れ始める。
「クリシナか。そう言う表現は誤解をされるからやめてくれと言っているのに」
「本当は愛の深い男じゃないってことか?」
「俺は俺だ。そう言う表現は先入観を生む。俺が愛の深い男だと思って来たとしたら、ガッカリさせてしまうだろ」
「そう言う心配ですか。どうやら優しいという部分は合っている様ですね」
「やめてくれ、そんな話をする為に来たわけじゃないだろう」
その言葉をキッカケにリドルたちは本題へと戻る。
「それでお前たちはオリジナル魔法を強化しに来たんだろ」
「はい、今は怪我で体が動きませんがそれぐらいなら出来ると思いまして」
「なるほど、それで誰から先にやる」
その言葉にリドルはハイトの方を指差す。
「ハイトさんお先にどうぞ」
「そうか、なら俺がやるよ」
デュラは頷くと近くに合った紙とペンを取り出す。
「それにオリジナル魔法を書くんですか」
「そうだ、土台を知らなければ改良は出来ないからな。それじゃあ、オリジナル魔法の性質と改良したい部分を教えてくれ」
「俺のオリジナル魔法は正直言うとあまり出来は良くない。名前はやられたらやりかえす、この魔法が発動している時は俺は無防備になる。そしてその間に受けた魔力分を相手に返す技だ。正直俺はこの魔法をどう改良すればいいか分からない。得られる恩恵よりも格上に対してのデメリットが大きすぎるからな。恐らく無防備な状態で王レベルの魔法を喰らえば即死だろうし、生きていたとしても魔力が大きすぎて放てないだろう」
「なるほど、つまり一撃を喰らっても生きている状態でなおかつそれらを返せるようにしたいのか」
「ハイトさんのオリジナル魔法はかつさんのカウンターと似てますよね。返し方は違いますけど」
その言葉にハイトは頷く。
「ああ、正直言うと使い勝手はあっちの方が良いだろうな。まあ魔力が多く無ければ使えない魔法なのは変わりはないが」
「カウンタ―か、懐かしいな。ゼットさんが作った魔法の一つだ」
「え!?カウンターはオリジナル魔法ではなくレベル魔法ですよ!皆が共通して覚えられる魔法のはずですが」
「それらの基礎やレベル魔法やすべてゼットさんとガイスによって作られている」
「何だって!!あれは全て作られた物だったのか!」
ハイトはあまりの衝撃に目を見開く。
リドルも動揺を隠せずに真剣な表情をする。
「なるほど、確かに疑問には思っていました。基礎魔法はどうやって生み出されたのか。末恐ろしいですね」
「とにかくカウンターは皆が覚えられる魔法だ。それを応用すれば行ける可能性はある。魔法陣はかけたか」
「え?あ、ああ……」
デュラはハイトからオリジナル魔法陣が書かれた紙を受け取る。
そしてもう一つの紙を取り出すとそこに魔法陣を書き始める。
その様子をリドルたちは興味深そうに眺めていた。
そして物の数分後、紙に何かを書き終えたデュラがそれをハイトに渡す。
「これでどうだろうか」
「え?これは……」
「元のオリジナル魔法を元に俺なりに改良をしてみた。要望通りの物は出来ているはずだ」
「出来ているはずだって、今の本当に居間の短時間で作ったのか?」
「ちょっと見せてください……本当に出来ていますね。かなり複雑な物にはなっていますが」
「それでこれはどう変わったんだ?」
その質問にデュラは躊躇うことなく答えた。
「カウンタ―という魔法の上位版だと思ってもらって構わない。魔法を発動した瞬間、魔法陣が地面に展開されている。その中に居る間は空中にある魔力を溜め続ける。そしてその間に攻撃をうたれた場合その魔力も取り入れる。その間、身動きを取れないがある程度の魔法には耐えることが出来る。一定のエネルギーが溜まった時、それらを全てぶつける」
「なるほど、だがその間俺の魔力レベルで耐えることは出来るのか」
「この魔法陣は魔力レベル十三を想定している」
「じゅ、十三!?」
ハイトは突如告げられた数値に驚きを隠せずにいた。
「ですがこれほどの魔法ですと、それくらいは必要なんじゃないですか」
「確かにそうか。よし分かった、作ってもらったんだ。必ずそこまで行かせて見せる」
「そうか、頑張れよ」
そう言ってデュラは笑みを見せた。




