その二十二 ミズトとナズミの魔法強化週間
そして次にクリシナが見つかった相手はミズトとナズミだった。
「見つけた」
冷たい声が廊下に響く。
それを聞いたクリシナがゆっくりと振り返る。
「見つかっちゃった」
快活な笑みを浮かべながらそう言うクリシナに対してミズトは無表情で近づいて行く。
「早く私達をあなたの仲間の所に連れて行って」
「ふふっそんなに焦らないの。そんなこわーい顔してたらせっかくの可愛らしい顔が台無しよ」
クリシナは不愛想な顔をしているミズトに対して自身の口元を指で上げて笑みを見せる。
だがミズトは一切表情を変えることなく再度同じことを言う。
「そう言うの良いから。早く連れて行って」
「むう、そんな言い方されると私としても行かせたくなくなっちゃうわよ」
「行かせないのなら無理やりにでも連れて行ってもらうわ」
ミズトは胸元にある剣の柄を取ろうとした時、後ろで黙っていたナズミが慌てて止めに入る。
「ちょっと待って!お姉さま、喧嘩は駄目ですよ。ここはちゃんと話し合いましょう」
「この頭お花畑の女の人とまともに会話できると思ってるの?」
「ひどい、ミズトがこんな意地悪な女の子だとは思わなかったわ。でも私は許してあげる。可愛い女の子とは仲良くしたいもの」
まともに話が進まないクリシナに対してさらにミズトは怒りを見せる。
「どうでもいいから早くしてくれる。私達には時間がない、こんな無駄なことをしてる間にもあの人は成長し続けてるかもしれない。あの人と肩を並べる為にも、私は一分一秒が惜しいのよ!」
「お姉さま……私からもお願いします。いじわるをせずにお姉さまを連れて行ってください」
ナズミは真剣な表情でクリシナに訴えかけると頭を下げる。
それを見たクリシナが薄く笑みを浮かべる。
「いい姉妹ね。羨ましいわ」
思わぬ発言にミズトは目を丸くさせる。
「突然何よ」
「ふふっ私は別にあなた達に意地悪をしている訳じゃないのよ。こうやってじらしてるのも理由があるの。それは私の仲間が他の子に構っているから、一斉に来られると困っちゃうのよ。今、絶賛作業中だしね」
「つまり、今はいけないってことですか?」
「定員オーバーって言う所かしら。それと、焦る必要はないってことを知って欲しいの」
クリシナの発言にミズトの目元が吊り上がる。
だがクリシナは気にすることなく話を続ける。
「あなた達が相手にしようとしている敵は圧倒的な格上、焦った所で結果は目に見えている」
「私達じゃ勝てないって言いたいの?」
明らかに怒りが込められた言葉にナズミはハラハラとするが、クリシナは首を振る。
「勝ち負けとかじゃないの。ただ、結果は変わらないという事だけは覚えて欲しい。あなた達が最終的に手にしたものが何であれがそれが結果よ」
その言葉を受けてミズトはようやく好戦的な視線をやめて、一息ため息を付く。
「クリシナと会話をしてると戦意が削がれるわ。馬鹿らしくなってくる」
「それなら女子トークをしましょうか。誰か気になる男の子とかいないの?」
「ふえ!?男の子ですか!そう言うのはよく分からないです……」
「クリシナ、ナズミをいじめないで」
恥ずかしがるナズミを庇うようにしてミズトはぎろりと睨みつける。
「あーん、せっかく優しい目で見てくれるようになったのにまたそう言う目で見られちゃった」
「あなたねえ」
「冗談よ。それじゃあそろそろ行きましょうか。応援してるわ、頑張ってねー」
そう言ってクリシナは魔法陣を展開させるとミズト達はその光に包み込まれていった。
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次の瞬間、ミズトの目の前には小さな女の子が見えた。
その子と目が合い、ミズトは数回瞬きをする。
無言の時間が続く中、最初に口を開いたのはその女の子事、メメだった。
「ようこそ博士のラボへ!早速君達に博士の実験に付き合って……何だよ、デュラ。博士の邪魔をしないでくれたまえ」
メメがまだ困惑しているミズトとナズミを無理矢理実験に付き合わせようとした時、デュラがメメの手を掴んでそれを止めさせる。
メメはわずらわしそうにその手を振り払う。
「こいつらは俺の客だ。メメは開発に集中して」
「ふん、そう言いながら次々と人を呼ぶせいで集中が出来ないのだよ。それと博士の体を気安く触るなよ、変態」
「えーっとこれはどういう状況なんですかね」
ようやく口を開いたナズミは戸惑いを隠せずに二人を交互に見る。
するとミズトも口を開く。
「それで強くしてくれる人は誰なの?」
その言葉にデュラが反応して手を上げる。
「それは俺だ。メメがすまなかったな。初めて会った人を実験に参加するのが癖なんだ」
「何か言ったかな、デュラ」
「何でもない作業に戻ってくれ」
「なぜ博士が変態に指示されないといけないんだ。言われなくても博士は作業に戻るよ。それじゃあ、また会える機会があれば博士の実験に参加させてあげよう」
メメはそう言い残すと実験室に閉じこもってしまう。
ようやく静かになったことでデュラは改めてミズトに向き直る。
「さてと、ブライドから話は聞いてる。強くなりたいんだったな」
「ええ、あなたは私達をどんなふうに強くしてくれるの?」
「主にオリジナル魔法の強化だ。他の奴らのも既に終わらせてる」
デュラの発言にミズトは反応する。
「私達の他にすでに終わってる人が居るのね」
「ていうかオリジナル魔法の強化ってそんなこと出来るんですか」
「可能だ。既に終わらせてるしな。早速始めよう。二人のオリジナル魔法の性質と改善点を教えてくれ」
デュラはすでに紙とペンを取り出して二人に渡そうとするがミズトはそれを拒否する。
「私には必要はないわ。ナズミがやりなさい」
「え?お姉さま良いんですか。お姉さまが一番強くなりたいんじゃ」
「オリジナル魔法をこれ以上改善する必要はない。これが私のオリジナル魔法だから、変えるつもりはない」
ミズトは確固たる意志を持って告げる。
「見せて見ろ」
デュラはそれだけ言うと腕を組んでじっとミズトを見る。
デュラの考えが読めないが、ミズトはゆっくりと剣の柄を取り出してそこに魔力を集中させる。
「魔剣水式。これが私のオリジナル魔法。その他にも魔法の系統別に剣の性質を切り替えることが出来る。例えば水だと切れ味が良くて、炎は相手を燃やすことも可能。形が固定されてないから伸ばすことも出来るし曲がることも出来る」
「何で剣にこだわる」
「え?」
突然のデュラの言葉にミズトは声を漏らす。
デュラはじっと剣の柄から出ている水の刀身をじっと見つめる。
「魔力を抽出する柄、それを魔法として放出する道具自体がそう言った形をしているから、剣にこだわっているのだとしたらもっと想像力を働かせた方が良い。この島は武器が流通してないが、剣以外の武器が他にもあるはずだ」
「剣以外に変化させるつもりはない」
「それは何故だ。確かにオリジナル魔法としての完成度は素晴らしい。余程の腕がある物が作ったのだろう、弄る必要はないが俺はブライドに強くしてくれて任されている。それはオリジナル魔法の強化以外でもだ。今の戦いでは格上には対抗出来ない」
デュラの真っ当な意見がミズトの心に突き刺さる。
形を成していないからこそ型にはまらずに魔法を繰り出した方が相手の意表を付ける。
だがミズトはその言葉を受け入れられなかった。
「私はこの形にこだわる。剣じゃなきゃだめだから」
ミズトは俯き魔剣を強く握りしめる。
その様子を見てナズミはフォローに入る。
「お姉さまが初めてこの魔法を受け取った時に初めて形にしたのが刀なんです。ですからお姉さまとしてはこの形が一番馴染むんだと思います」
「なるほど、その想いは尊重する。相手の要望には最大限には応えるのが俺の役目だ。その魔剣は貸してもらえるか」
「予備のを貸すわ」
ミズトはもう一つの剣の柄を取り出すと魔力を込めてそれを渡す。
そしてデュラは魔剣を受け取ると水の刀身を出現させて構える。
「切り合いの勝負をしよう。俺も刀を基本とした形で戦う」
「いいわよ。あなたの実力もこれで知れるだろうし」
ミズトは本気の構えでデュラと対峙する。
その決着はあっという間に決められた。
剣が振り下ろされると同時に二人の入りが入れ替わる。
そして先に倒れたのはミズトだった。
「お姉さま!」
ナズミは倒れたミズトの元へと駆け寄り、優しき抱き起す。
ミズトは何が起きたのか分からないという様子でデュラを見る。
「どうして……私の方が慣れてるはずなのに」
「確かに俺はこれを使うのは初めてだ。だが刀の形に囚われようとも工夫をすればわずかにスピードを速めることが出来る。それを今から教えよう」




