その十四 新しい仲間たち
そこには牛乳を片手に持った天真爛漫な少女が立っていた。
忘れるはずがない、僕達の大切な仲間でもあるあの少女を。
「メイさん、どうしてここに居るんですか?」
不意にそんな言葉が漏れてしまう。
こんな所で再会するなんて思っても見ませんでした。
メイさんならどこかで無事だろうと思っていましたが、まさかこんな所で会う事になるとわ。
「それはこっちのセリフだよ!ていうかリドッちどうして私の手紙返事くれなかったの!ずっと楽しみにして楽しみにしてたのに」
「ああ、それはすみません。色々あってほとんど家に帰れなくて、その家もガイスによって跡形もなく消された可能性もありますが」
「そんなー!近々寄ろうと思ってたのに……でもでもリドッちが無事で一安心だよ。所々傷だらけだね、牛乳塗っとく?」
「拷問か何かでしょうか」
メイさんが牛乳を取り出して傷口に塗ろうとしてくるのを僕は全力で抵抗する。
「無視してんじゃねえっす!!」
その時、ザックさんの雄叫びが聞こえて来る。
その声にメイさんは能天気に反応する。
「およ?急に叫んでどうしたの?もしかしてカルシウム不足かな?やっぱり一本行っとく?」
「そんな物は要らん!お前何処の誰だ?そいつと仲良さそうな所を見るに俺達の敵のようだな」
「そっかそっか、君達が私の大事な仲間のリドッちを傷つけたんだね。許せないなー怒っちゃうなー怒っちゃってもいいよね!リドッち!」
「何で怒るのに僕の許可が必要なんですか?」
「ふざけた野郎っす。能天気にへらへらと間抜け面しやがって、俺達の邪魔をするのならぶっ殺してやるっしょ!」
「村長っち大丈夫?怪我とかしてないかな、さっきの危なかったもんね」
「おい!人の話を聞け!」
村長さんの安否を確認した後にメイさんは二人の方に向き直る。
「さっきからうるさいなー私だって怒る時は怒るんだよ。私達がモンスター討伐をしに行った隙にこんな事になってるなんて。本当に許せないなあ」
その時、メイさんから笑みが消えて怒りを含んだ瞳を二人に向ける。
メイさんが怒っている、あんなメイさんを見るのは初めてかもしれませんね。
「怒っているか。怒っているのはこっちの方だ。何度も何度も邪魔に入りやがって、これ以上面倒事を増やさせないでくれよ!奴隷共!こいつ殺せ!!」
だがニュートさんの言葉が響き渡るだけで魔法陣が展開されることはなかった。
その時メイさんが笑い声をあげた。
「ふっふっふっ!私は一人で来たわけでは無いのだ!」
「何!?あれは……奴隷が浮かんでいる!」
その言葉が聞こえて来て咄嗟に周りを見渡して見ると奴隷の人々がなぜか空を舞っていた。
その時奥から誰かが出て来る。
「暴れてる人達制圧完了。こっちはもう大丈夫だよ、メイ」
そこに現れたのは以前ミノルさんの結婚を阻止する時に協力してもらった方だった。
確か名前は……
「ぺプロさん!?」
「あっリドルさん。こんちわーす、お久しぶりですね。元気そうではなさそうですけど」
「どうだ見たか!私のペプッちの実力を!」
「いや、別に私はメイの物じゃないけど」
「妙に静かだと思ったらこんな奴が奴隷共を止めてたっすか」
ザックさんは悔しそうに唇を噛みしめる。
そう言えばぺプロさんは無重力魔法が得意でしたね。
この人数を同時に飛ばすのはそれなりの技術と魔力が必要ですが、見えない場所まで届かせるほどの実力があるぺプロさんなら納得ですね。
「ていうかお二人は仲間だったんですね」
「そうだよー!私とペプロッちは切っても切れない糸で結ばれてるのだー!」
「メイ、うざい。くっ付いてこないで。私は別に何でもよかったんですけどね、誘われたんでま~良いかっていう感じで着いて行っただけです」
「ていうかその事も手紙に書いてたんだよ」
メイさんは引き剥がされることに抵抗しながらそんな事を告げて来る。
「くそ、こうなったら村の人々を先に始末してやる!」
「まずいです!メイさん!」
隙を突いたかのようにニュートが村の人々に向かって魔法陣を展開する。
完全に油断していた、このままでは村の人々が犠牲になってしまう。
「大丈夫だよ、リドッち。私の仲間は一人じゃないからさ」
「え?」
その時ニュートが放っ達魔法が突然別の魔法によって弾かれた。
それに一番驚いたのは最初に魔法を放ったニュート本人だった。
「誰だ!」
「こ、これでいいのメイちゃん」
「バッチグーだよガビッち!」
「いや、だから僕の名前はカビット何だけど」
村の人々の近くに居た男は何故かゴニョニョと口元を動かしながら、視線を彷徨わせていた。
ちょっと待ってください、あの方僕は見た事がありますね。
「あなたは以前、共闘したガビットさん!?あなたもメイさんの仲間だったんですね」
「そうだよー!森でうずくまってたところを見つけて仲間にしたんだ!そうだよねガビッち!」
「あんまり僕の名前を呼ばないでくれよ。あのおっかない奴らに覚えられちゃうだろ。とにかく僕は計画通りに怪我人を連れて逃げるからね。テレポート!」
そう言ってガビットさんは村の人々とハイトさん達を連れてその場から逃げた。
「ガビットさんは何処に飛んだんですか」
「キンメキラタウンだよ。あそこにリドッち達は住んでるんでしょ。だってそれ以外の街ほとんどいけないんだもん。おっかない人がいっぱいいるし」
「無駄話してる暇ないよ、メイ。一番厄介そうなお二人がすっごい形相でこっち睨んでるし」
「うん、分かってる分かってる。ぺプッちはリドッちをここから避難させて」
「っ!メイさん一人でやるつもりですか!?」
「一人じゃないよ。私には素敵な仲間たちが居るもん。ぺプッち達を私は信じてるんだ」
その時、ミノルさんの言葉を思い出す。
「メイさん、ミノルさんを連れ攫われてしまいました」
「え?ミノッちが!」
「もう一人僕にとって大切な人も連れ攫われてしまったんです。待っているとミノルさんに言われました。おそらく人間達が連れ攫われた場所に向かったと思います。だけどその場所は知らなくて……」
「大丈夫だよ、リドッち。私に任せて、今度は私が皆を守る番だから!」
その笑みは以前の無邪気な少女の笑みとは違い、頼りがいのある立派な魔法使いになっていた。
ああ、そうだったんですね。
もう僕の知っているメイさんではないのですね。
「それじゃあ、行きますよ。メイも負けないでね」
「任せセロリ!」
「ふっ相変わらずだね。テレポート!」
そしてメイさんを置いて、僕はその場を離れた。




