その十一 思惑
「リツに呼ばれてきたけど、わざわざここまで来る意味あるのか」
俺はリツに呼ばれて魔道具店に来ていた。
理由はあの一瞬で張り紙をキレイにしたやり方を教えてもらうためだ。
「まあ、魔道具も見てみたかったしちょうどいいか」
そうポジティブに考え俺は中に入って行った。
「お〜い、リツ。約束通り来たぞ」
「あ、いらっしゃい〜。ゆっくりしてって〜」
そう言いながら、リツは机に座りながら何かをイジっていた。
「何やってんだ?」
「ちょっとね〜」
リツは作業の手を止めず黙々と機械をいじっていた。
形は大きな穴に筒状の形をしていて先端から徐々にカタツムリみたいなグルグル巻きがされている。
横にはダイヤルが付けられていてそこで何か切り替えるのだろう。
見た目はユーフォニアムの小さい版みたいな感じだ。
「これはどういう機械なんだ?」
その時さっきまで動かしていた手を止めこちらにその機械を笑顔で突き出してきた。
「よくぞ聞いてくれた〜。これはね〜風を作る機械だよ〜」
「風を作る機械?」
いまいち納得しないままリツは説明を続けた。
「今はまだ寒いけどこれから暖かくなるから涼しくなるもの作ろうと思ってね〜」
「なるほどそれで風を作る機械か。ん?でもなんかそれ見た事あるような……」
そうだ、夏の暑さを乗り越えるための必需品扇風機だ!
でもそれを今作ってるとなるとこの世界は扇風機は無いのか。
「リツそれって扇風機だろ?」
「扇風機って何〜?」
やっぱり無いのか。
「それと同じで風を送り出す機械だよ」
「へぇ〜ぜっちゃんの世界にも同じような物あるんだ〜。じゃあ作り方分かる〜」
するとリツが俺に期待の眼差しを向けてきた。
そんなふうに見られても困るのだが。
「残念だけど俺は作り方知らないんだ」
「そうなんだ〜」
するとあからさまに残念そうな顔をしてくる。
何か悪いことしたな。
「でも、もしかしたら手助けできるかも知れないし今度どこまで行ってるか教えてくれよ」
「うん、分かったよ〜」
俯いていた顔を上げ嬉しそうな顔で返事をした。
「それで、現時点でどの位完成したんだ?」
「う〜んそれがまだ何だよね〜。ちょっと風が強すぎてずっと使えないんだよ〜」
リツも色々大変なんだな。
ん?ちょっと待てもうすぐ暑くなるって言ったか。
それって……
「なあリツ。今日って何月何日だ?」
「4月20日だよ〜。どうしたの急に?」
「いや別に何でもない」
やっぱりこの世界にも日付とかあるのか。
そうだよな、日付が無かったら時間の概念なんて無いしな。
「それじゃあぜっちゃん。無駄話はここらへんにして、本題に移ろうか〜」
するとリツは扇風機を置いて体をこちらに向け話をする体制に入った。
「本題ってさっき一瞬で張り紙をキレイにしたやり方か?」
「そうだよ〜」
するとリツがポケットからペンを取り出した。
「これは?」
「このペンで書き直したんだよ〜。名付けて修正ペン〜」
ペンを高々と上げながら名前を叫んだ。
「そのまんまだな」
「そのまんまがいいんですよ〜」
まあリツがいいのならいいんだろうけど。
「それもお前が作ったのか?」
「そうだよ〜。これを使えば想像したものを勝手に手を動かして書いてくれるの〜」
え?何それ、扇風機より凄いじゃん。
「それ作れるんだったら扇風機なんて余裕で作れるんじゃ……」
「それとこれとは話が別ってやつだよ〜」
そういうもんなのか。
発明家の頭の中はよく分からん。
するとリツがペンをポケットに戻し、俺のおでこに手を置いた。
「え!?ど、どうしたんだいきなり!?」
「う〜ん熱はないか〜」
そう言って自分のおでこにも手を当て熱を測った。
リツは平然としているが俺は急な出来事で動揺している。
「ちょっと待ってね〜」
そう言うとリツはポーションの棚に向かい緑色のポーションを1つ取り戻って来た。
「はい、これ、上げる〜」
「これって回復のポーションだよな。前も貰ったし大丈夫だよ」
流石にそんな貰うわけにはいかないしな。
「遠慮しないで〜。ぜっちゃん顔色悪くて元気なさそうだったから〜」
「え?俺そんな顔色悪いか?」
でもたしかに少し体が疲れてるような気がする。
「リツよく気づいたな。自分でも言われなきゃ気付かなかったのに」
「まあね〜。じゃあ受け取って〜」
「え、いや、でも――――」
俺の返答を聞かず強引に俺の手を掴み渡してきた。
「はい!これでこのポーションはぜっちゃんの物だよ〜」
「まあ、リツがいいんならいいけど」
後で飲んでおくか。
「それじゃあ俺もう行くよ。今日は疲れた」
「じゃあ飲んでから行きなよ〜。そっちの方が手っ取り早いでしょ〜」
何だ?ニヤニヤして気味が悪いな。
「じゃあ、お言葉に甘えて、ゴクゴクゴク―――」
その時急に手の力が抜けて俺は飲んでたポーションを落とした。
「な、何だ……これ……」
「大丈夫だよ〜、明日には治るから〜」
すると俺は急な眠気によってその場で倒れた。
「リツ……お前……騙し……」
「ゆっくり寝てね〜。お、や、す、み」
俺を見下ろし不気味な笑顔を見せながら、俺はそのまま意識を失った。
「……ほら、ミッちゃん入って来ていいよ」
「………バレてたのね」
「気づいてなかったよ〜。ただ居るかな〜っと思ってね〜」
「あんたってたまに何考えてるのか分からないわ」
「ミッちゃんもいつか分かるよ〜。それよりぜっちゃん寝たよ。どうするの?」
「どうするって、てか何で寝かせたのよ」
「そんな事いいからどうするの〜?私は今日忙しいから泊められないよ〜」
「わ、私だって―――」
「泊められるよね〜」
「で、でも私は――――」
「じゃあしょうがないか〜。このまま寒い外で寝かせるしかないか〜。可愛そうだな〜きっと凍えるだろうな〜」
「んっっ〜〜!あーもう分かった!泊めるわよ!泊めればいいんでしょ!言っとくけどリツのお願いだからやるんだからね」
「はいはい、それじゃあよろしくね〜。応援してるよ〜。じゃあね〜」
「……ホントに泊めなきゃ行けないの?」




