その十 コロット村に行くよ
時間はリドルたちが出発する時までさかのぼる。
「それでは早速行きましょうか」
僕の近くにはミノルさんとアイラとハイトとツキノが居た。
共に今回の旅に同行するメンバーだ。
一緒に付いて来てくれたのはとてもうれしく思う。
「それでこれからどうするんだ。人間を助けるって言っても何か策があるのか?」
「もちろん考えていますよ。村に行きます。人間の避難所としてはそこが一番ですからね」
「だけどリドル、村は今ガイス達によって襲われてるんでしょ。それはかつのせいにされてるけど、あの奴隷の数を見ればもうすべての村が襲われてても可笑しくないわよ」
「ミノルさんの言う通りです。その可能性の方が高いと思います。ですがそれしか方法がないのも事実です。だからこそ無駄な時間を使わずに最短で行きましょう」
僕はすぐに魔法陣を展開をさせる。
「どこ……行くの……」
「ミノルさんなら知っていると思います。かつてドラゴンをめぐって色々と騒動を起こした村ですよ」
「え?あそこに行くの!?」
「何かよく分からないが、当てがあるのならすぐに行こう。こうしてる間にもあいつらは人間や奴隷を量産しているだろうぜ」
「分かってます。それでは皆さんテレポートするのでその場に止まっていてください。テレポート!」
世界が真っ白になる。
だがそれは一瞬で気が付けば村の中心に僕達は立っていた。
「着いたのか。見た感じ普通の村って感じだな」
「村にはそれぞれ独自の文化があります。この村ではドラゴンが主な主食です。それで生計を立てています」
「知ってるよ。俺らも村で過ごしただろ。だが噂では知ってたがまさか本当にあるとわな。にしても……」
「静か……」
ツキノさんの言う通りこの村の周りに人の姿が見られない。
閑散とした村に一瞬だけ悪い予感がしてしまう。
「もしかしてもう連れ攫われちゃったの?」
アイラが不安げに呟く。
アイラ自身が決めたことがなるべく良い方向に進ませてあげたい。
僕はアイラの手を優しく握る。
「大丈夫です。村の人達は狩りに出かけているのかもしれません。こんな状況になっても生きる為には必要ですから」
遠い場所から微かにモンスターの方向が聞こえる。
それがドラゴンかどうかは判別がつかないが、戦っているというのは何となく分かった。
「とにかく他に人が居ないか、周囲を見——————」
「かかれー!!!」
「っ!ちょっ何々!?」
大きな声と共に大勢の人々が僕達の方に押し掛ける。
木で作られた槍の様な武器に先端が変色している。
まさかあれは毒のヌマク!
「みなさん落ち着いてください!僕達です、リドルです!」
「ん?おい皆止まれ!絶対かつの仲間だぞ!!」
その声と共に勢いよく来ていた村の人々の勢いが収まる。
そして奥からよく知っている人物が現れる。
「来てくれると思っていましたよ」
「村長さん、どうやら村の人々は無事の様ですね」
「ええ、あの新聞を見て以来不安な夜を幾度も過ごしてきました。ですが私達は信じていましたよ。この村を救ってくれた皆さんがそんな事をするはずがないと」
「村長さん、私達はあなた達を助けに来たの。それと後ここに人間はいるかしら。その救出を兼ねて私達は村にやって来たの」
「そうですか。その前にかつさんの姿が見当たりませんが、お仲間も少し変わっている様ですし」
「この方たちは僕達の仲間なので安心してください。かつさんは別件で忙しいので僕達が代わりに来ました」
「そうですか……」
僕達が来たことで村長さんたちはいくらか安心はしていますが、まだ完全に警戒は解けていないようですね。
かつさんが居ないことが逆に不安をかきたててしまっているのでしょうか。
ですが僕はまかされました、リーダーとして必ず成功に導かなければ。
「僕達は必ず皆さんを守って見せます。今回の首謀者はガイスです。現在、この島はその人によって支配されています。ここにいつ刺客が来てもおかしくありません。ですので、どうか僕達を信じてください」
僕は深く頭を下げる。
人間、誠意を伝えるのはこれが一番だ。
「頭上げてください。私達は最初からあなた方を信じていますよ。ミノルさん、貴方が言っていた人間についてですが、確かに我々の村で数人匿っています。モンスターに傷つけられており治療を行っています。この新聞については彼らには見せてはいませんが、疑心暗鬼に陥っている為村の者以外は警戒をしてしまいます」
「それなら説得は村長さんに任せます。僕達は他の村にも行かなければいけないので、近くの村が何処にあるか分かっていますか?」
「ああ、それならリドルさんたちと同じことをしている人達が居るのでその方と一緒に行った方が良いと思いますよ」
「一緒ってどういう事?」
「今私達の食料を取りに行ってくれています。この村にも何度か我々を連れて行こうとした者たちが居ましたが、彼らが守ってくれたんです」
守ってくれた?
先程のモンスターの唸り声はその者たちが戦って聞こえた声ですか。
となると味方と考えてよさそうですね。
「ねえリドル、その人達が誰か心当たりある?」
「いえ、分かりません。島は今混沌としていますし、正義感を持った方が行動をしているのかもしれません」
「だとしたら協力するのが妥当だろう。人数は多い方が良い。俺達と目的は一緒だし、敵対しないだろうしな」
「ん?そう言えば、ミノルさん。耳はどうしたんですか」
村長さんはミノルさんの異変に気付いたのかそのことを指摘する。
するとミノルさんは少し困ったような顔をする。
「ちょっと色々あってね。半獣じゃなくなったの、だから今の私は人間よ」
「そうでしたか、だからそちらのお嬢さんも連れているのですね」
そう言って村長さんはアイラの方を指摘する。
アイラは指摘されたことで一瞬体をびくつかせる。
「あ、あの私はただ皆さんに協力をしているだけなので。お気になさらないでください」
「もしかして困らせてしまったかな」
「それより村長さん、その人達って一体誰なの?」
「ああ、その方たちはな。確か名前は……何だったかな」
「村長!?ちょっと忘れないでよ!重要な事なんだから」
「村長はここ最近物忘れが激しいからな」
「そうそう、外は危ないって言ってるのにそんなこと忘れているいつも通りに過ごしてるし」
村の人々は納得したように頷く。
それはそれで心配になりますね。
「おー思い出した!確か名前は」
「名前は!」
「名前はめ——————」
「っ!?」
その時近くで大きな爆発音が響く。
炎が近くの森を焼きその熱がここまで来ていた。
「な、何だ!?」
「どうして爆発したの……」
「来る……気を付けて……」
「皆さん、戦闘の準備をしてください。どうやら僕達は最悪のタイミングで来てしまったようですね」
燃え盛る炎の中一人の男が現れる。
その男は僕達が今最も会いたくない人物。
「カノエ、どうしてここに居るんですか」
「ガハハハっ!まさか奴らの仲間がここに来ているとはな。もう邪魔は入らないと思っていたが、まだ邪魔が入るとは思っても見なかったぞ」
殺気が全身を襲う。
この状況で生きて帰る確率はかなり低い。
それでもあきらめるわけには行きません。
「さてとお前ら、ここで死んでいくか!」
僕はこのパーティーのリーダーですから!




