その七 妹
「王の領域!?」
オリジナル魔法だろうが性質が全く分からない。
というかなんかすごく嫌な予感がする。
「残念だけどかつ、この修行俺が先に上がらせてもらうぞ」
「もう勝った気でいるのかよ。何かよく分からないけど、勝負はまだ終わってないぞ」
今の所は体に何も以上は起きてないような気がする。
気付いてないだけかもしれないけど、俺が認識している限りでは真下に魔法陣が展開されているだけだ。
でもあの自信満々な態度を見るからに普通の魔法なわけがないよな。
「かつ、この修行で俺ははっきりさせようと思っているんだ」
「何だよ改まって」
「時間はもうない。俺から誘って悪いがこれ以上成長を待っていることは出来ない。俺はこの修行を経てより強くなる。だけどお前がもしあいつと戦えるレベルに達せなかったら着いてこなくていい。死ぬだけだからな」
「っそれはちょっと傷つくな。てっきり俺の事を認めてくれたと思ったんだけど」
「認めてるさ。俺はお前に感謝すらしてる。だけど状況はそんなに甘くない。俺は妹を助けることでいっぱいいっぱいだ。気を使ってる余裕はない」
突き放すような発言、一見冷たくもあるがもしかしたらガルアなりに俺を気遣ってくれてるかもしれない。
死ぬ可能性だってある、だからこそ強くならなければならない。
あいつが安心できるようになるほどに。
「どうやらガルアは俺の事をまだよく分かってないみたいだな。諦めの悪い男だってことがよ」
「ああ、そうだな。だからこそここで終わらせる」
その瞬間、ガルアの右手に高密度な魔力を感じる。
何かを放つ気だ。
「こっちだって切り替えは出来るぞ!!」
俺は寝っ転がった体勢で右手に魔力を集中させる。
だがその時ある違和感を覚える。
魔力が集まらない!?
「俺のオリジナル魔法は状況に応じて様々な効果を発動させる。魔法の発動無効もその一つだ」
「魔法発動無効!?そんなのありかよ!」
「残念だがこれで終わりだ」
ガルアは魔法で空中に浮かぶ。
どうやら空から攻撃をするらしい。
このままでは直撃するのは明らかだ。
「くそ!この氷柱さえ取れれば……うぐっ!?」
触れた瞬間強烈な痛みが走る。
冷たいと言うよりも痛い。
「やめた方が良いよ。魔力を込めて放ったから触れたら凍り付くぞ。残念だけど、この修行はこれで終わりだ」
その瞬間、ガルアの周りに高密度の魔力が集まって行く。
あれは相当やばい魔法を放とうとしてるんじゃないのか。
「雷撃!!」
「くそおおおおお!」
俺は肘で地面を思いっきり打った。
その衝撃により地面にヒビが入り、氷柱が刺さっていた個所が緩む。
そのチャンスを見逃さずに地面を蹴ってその場から何とか離れる。
それと同時に目が眩むほどの光が室内に広がると雷の音が響き渡った。
「お、お前俺を殺すつもりかよ」
「本気で来いってお前が言ったんだろ。そうか、かつには身体能力でカバーが出来るのか。少し油断しちまったな。だが、次は当てるぞ」
「こっちだって外さねえぞ。次は当ててやる。俺はまだまだ強くなるぜ」
そして俺達は再び戦いを再開させる。
それからしばらく戦いは続いた。
魔石を使って魔力を回復させてから戦い、ボロボロになっても戦い、地面がボロボロになった為新しく地面を作り直してから戦いを繰り返した。
何時間経ったのかも分からず何回戦目かも分からなくなって来た頃、それは突然決まった。
「はあ、はあ、はあ」
「はあ、はあ……そろそろ限界じゃねえのか?」
「馬鹿言うなよ。俺はまだまだ戦えるぜ。そっちこそへばってるんじゃないのか?」
魔力を回復しても体力は回復しない。
既に互いに限界に達していた。
まだまだと言い切ったが結構きつくなって来たな。
「これで終わりにするぞ!」
「当たり前だ!!ロックシャワー!!」
先に仕掛けて来たのはガルアだった。
大量の岩が降り注いで来る。
今の状態でこれを全部避けるのは無理だ。
跳ね返しつつ距離を詰める!
「カウンタ―!!」
俺は魔法を跳ね返しつつガルアの元に近づく。
ただやみくもに跳ね返すだけではない、ガルアに近づけるルートで邪魔な岩を吹き飛ばす様に跳ね返す。
ガルアはこれ以上は意味無いと感じたのか魔法を撃つのをやめた。
そして二つの魔法陣を展開させる。
「アグレッシブブラストフルート!!」
炎を浴びた巨大な風の槍が真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。
近くに居るだけで焼け焦げそうな火力だ。
直撃するわけにもいかない。
「ワープ!!」
すぐにその場から離れる。
だがワープした先にすでに魔法陣が張られていた。
「ウォーターガッチメント!!」
「ウォーター、アイス!!」
自分の周りを魔法陣で取り囲み先に水を張って氷で凍らせることで水に閉じ込められる時間が少しだけ遅れる。
その隙に俺はすぐさま空中を蹴ってその場を離れる。
水が空中で目的を見失いそのまま落ちて行く。
一撃には大量の魔力を消費する、これ以上は無駄に使えない。
だからこそシンプルに行こう。
「ワープ!」
先ずは場所の移動、俺はガルアの目の前に移動する。
ガルアはすでに予想をしていたそれを見越して俺はガルアの後ろに魔法陣を展開する。
「ワープ!」
再びのワープ、ガルアもそれを予測していたのか背後に顔を回す。
だがそれは罠だ。
「ソイル!!」
「うっ!目がっ」
ワープと言った魔法は砂の魔法だ。
それに気づかなかったガルアはもろに目に砂が入る。
シンプルだが、コンマ一秒を要するこの状況では絶大な効力を発揮する。
この隙なら入る。
何度も打って感覚はほとんど理解した、あのインパクトを撃つまでの時間もかなり短くなった。
「王の領域」
その時背後に魔法陣が出現した。
その魔法陣、地面だけじゃないのかよ!
今まで地面にしか展開してなかったから気付かなかった。
目が見えてないガルアはほとんど感覚で反撃しようとしている。
だが打つ速さはこちらの方が早い!
「ブレイクインパクト!!」
「炎撃!!」
俺がガルアの体に触れるその瞬間、ガルアの手が俺に触れた。
魔法を放とうとしたその手は突如弾かれるようにして体が吹き飛んだ。
それにより互いに壁に激突する。
「あーいてて……くそ、あと少しだったのに」
「いや、お前の勝ちだよ。俺は偶然魔法にそれが発動されていき残っただけだ。かつの手は確かに俺に触れてた」
壁にもたれかかったままガルアはそう言った。
認めてくれたのか?
ガルアに力を認めてもらったんだ。
「足手まといなんか言って悪かったな。お前にはこう言う風に言った方がやる気が出ると思ってな」
「分かってるよそんなの。お前は優しいからな」
「少し話をしてもいいか?」
突然も申し出に驚くが体も動けないし断る理由も無いので頷いた。
「さっきはああは言ったが俺1人で行こうと思っていたのは本当だ。それはかつが足手まといになると言う意味じゃなくて、単純にお前を巻き込んでしまった罪悪感からだ。かつには大切な仲間がいる、お前等を見ていればかつがどれだけ必要とされているかが分かる。だからこそ俺のわがままでかつの命を危険にさらしても良いかと、思うんだ」
「そんなこと考えてたのかよ。気にするなよ、頼ってくれた方が俺は嬉しい」
「本当はかつは仲間の方に行きたかったんじゃないのか?俺のせいで修業に付き合わされて、迷惑じゃないのか?」
「あいつらの事は心配してねえよ。それに俺が言った所で逆に迷惑になるだけだ。後悔はしてない」
するとガルアは一拍間が開いた後で口を開く。
「分からないんだ。かつはそこまでしてなぜ協力してくれるんだ?言っちゃえばお前はこの世界の住人じゃない。見捨てることも出来るはずだ。命を懸ける義理なんてないだろ」
日本のことを言われて少し考え込んでしまう。
そして頭の中で整理がついてから口を開いた。
「これは他の人に話したことはないんだけどさ、俺の家族の話だ。うちはさ四人家族で父さんと母さんと妹が居てさ。結構仲良くて俺にとって家は唯一安心が出来る場所だった。日本だと俺は結構ダメダメな奴でさ、学校っていう勉強する場所みたいなところがあるんだけど、そこで上手くなじめなくてよくいじめられてた。自分でも情けねえよ」
話したくもない程の辛い日々。
だけど今のガルアには話すべきことだから俺はそのまま話を続けた。
「次第に学校にも行きたくなくなってさ。ついサボっちゃって、父さんと母さんにそのことがバレるかなと思ったけどバレてなかったんだよ。後から聞いたら妹が学校に事前に休むことを言っててくれてさ、頼んでも無かったのに気を使ってくれたんだよ。それから俺は妹に甘えるようになっちまった。学校を行かない理由を考えて妹にそれを伝えさせて父さんと母さんにバレない様にする。それが日常になってた」
「いい妹さんだな」
「ああ、自慢の妹だよ。だけど本当は俺に何て構ってほしくなかったんだ。だって俺なんかに構ってたらあいつまでいじめられるかもしれないだろ。それは絶対に嫌だった。だからある日言ったんだよ、もう俺に構うなってさ。そしたら妹がめちゃくちゃ怒って『何でそんなこと言われなきゃいけないの!私はお兄ちゃんの妹だよ!家族の絆は他人に言われたくらいじゃ切れないんだから!』ってさ。あの時は正直ビビったよ」
「大切にされてたんだな」
「ああ、その時俺誓ったんだ。妹を必ず守るって、妹が幸せになれるようになんでもやって見せるってさ。様は恩返しだな。だからさ、俺はこの世界の妹も救いたいんだ。あいつは俺の事を慕ってくれた、お兄ちゃんて呼んでくれた。だったら兄として助けないわけには行かないだろ?」
「それがお前の理由か?」
「おう」
するとガルアが大きく笑い声をあげる。
それに釣られて俺も笑ってしまう。
「いつもならお前の妹じゃないと言いたいところだが、今回は特別に許してやろう。助けよう、俺達の妹を」
「ああ、もちろんだ!」
覚悟は決まった、これでもう俺達を縛り付けるものは何もない。
ここからは何があっても一緒に戦う。
大切な妹を助ける為に。




