その一 元気が出る方法
戦いが終わり皆心身ともにボロボロになっていた。
もちろん俺も、既に満身創痍だった。
街に戻ると皆が忙しなく帰還した仲間たちの介護をしていた。
重症の者も居て町の皆と協力して薬品や治療、その後の食事などを用意したりと全面的に支援してくれた。
王が皆に認められた結果でもあるだろう、結束力が以前よりも強くなった。
それにここまで民が協力してくれるのは俺達の勝利を、今の状況を変えてくれることを信じてくれてるからだろう。
だけど今の状況はいいとは言えないな。
「はあ……」
「ちょっとかつ、手が止まってるわよ」
皿洗いをしている時に思わずため息が出てしまった。
今回治療を手伝ってくれた人達をねぎらうために作った料理の皿が大量に積み重なっている。
俺は怪我はそこまでしてなかったので色々なお手伝いをしている。
「大丈夫?ため息ばっかりついてるけど。もしかしてどこかケガしてるんじゃ!」
「いや、何でもないから気にしないでくれ」
「そうは言っても帰って来てから上の空よ。何も無いってことは無いでしょ。ずっと表情も暗いし」
ミノルは心配そうに俺の顔を覗き込む。
顔に出ていたのか、まあため息もついてるしそりゃ出てもしょうがないか。
「まじかよ、他の人にもバレてたかな?」
「リツとか心配してたわよ。ぜっちゃん何か暗いよ~もしかして喧嘩したの~ってさ」
「あーそりゃ悪いことしたな」
「そうよ、私だって心配したんだから」
そう言われると何だか胸が締め付けられる。
これは本当に申し訳ない事をしたな。
「ごめんミノル」
「で、話くらい聞くわよ。何があったの?」
「いやあ、それは……」
ミノルにさっきの出来事を話すべきなのか。
だけどあまり自分から語るのも辛いんだよな。
「彼女なんだから辛い時くらい頼ってよ」
「っ!ミノル……ありがと、側に居てくれるだけで俺は助けられてるよ」
「何かうまくはぐらかされた気がする。そう言っても表情は相変わらず暗いわよ」
「あー元々こういう顔だったり?」
するとミノルは不服そうにじっとこちらを見て来る。
あからさますぎたかな。
この後どうしようかと考えている時ミノルが突然皿洗いをやめて、こちらに手を広げてきた。
「え?なにそれ」
「言えないんでしょ。なら言わなくてもいいよ。でもかつの辛い顔は見たくないし、か、彼女として受け止めてあげる位は出来ると思って。いやなら別にいいけど」
ミノルは頬を染めながらそんなことを言って来た。
な、何だって!確かにここは俺たち以外は誰も居ない、だとしてもやっぱり恥ずかしさはあるが。
「お言葉に甘えさせてもらいます!!」
俺は目の前の魅力に負けてすがるようにミノルに抱きついた。
「うっそんな勢い良く来ないでよ。子供じゃないんだから」
そう文句は言っているが俺の体をしっかりと抱きとめてくれた。
温かい、心臓の鼓動のリズムが安心感を覚える。
話さなくても良いからか気持ちが楽になる。
それに大好きな人に抱きしめられるという事で幸福感も得られる。
ずっとこうして痛いなあ。
「おーい、追加の皿持って来た……」
「「あっ」」
そこには棒立ちでこちらを見て目を丸くさせているサキトの姿が合った。
それを見て俺達も思考が停止する。
「おいみんなー!かつ達がいちゃついてるぞ!!」
「馬鹿、やめろー!!!」
俺はすぐさまサキトが出て行かないように足止めとし、皆に言いふらさないように口留めをした。
情報屋に情報を握られるのは危険だと改めて実感した。
それから皿洗いを一通り終えてから休憩のためにも部屋に戻っていた。
その時、突然大声が聞こえてきた。
「いいから行かせてよ!」
「おわっと、今の声はピンカか?」
また何か問題でも起きたのか。
あいつもかなり重症で寝込んでたはずなのにもう起きたのか。
俺はこっそりピンカの部屋を覗き込んでみる。
そこにはピンカの他にブライドとクリシナの姿が合った。
「駄目だ、落ち着けピンカ。お前が今向かった所で何も出来ずに死ぬだけだ」
「そんなのやってみないと分かんないでしょ!いいから退きなさいよ、これは私達の問題よ」
「ピンカ、その場の勢いで行ったところで後悔するだけ。先ずは一度冷静にならないと」
「クリシナもうるさいわよ。私が行くって言ってるんだから行かせなさいよ」
ピンカの体も完全には感知してないだろう、それなのに何処に行くって言うんだ。
「駄目だ、お前はもう一人じゃない。分かるだろ、仲間が犬死行くのを黙って見てるわけがない。頼むからわがままを言うな」
「あんたは私の親か何かなの?一時的の協力関係よ。別に死にはしないわよ、ただ馬鹿なあいつを取り戻すだけよ」
「あいつは自分の意思であっち側についた」
「黙れ!!」
あいつ?誰のことを言ってるんだ。
そう言えばこう言う時に止めてくれるイナミの姿がないな。
というか帰って来てからあいつの姿は見かけてないな。
「現実を受け入れろ。既に機械も取られてる。源魔石を安易にアジトに隠せなくなった。それでも十分な痛手だ」
「何が痛手よ。そんなの全然問題じゃない。私はあいつを助けなくちゃいけないの!イナミを救わないと」
「ピンカにイナミは救えない」
するとピンカは怒りのままにベッドから無理矢理起き上がるとブライドを睨みつける。
おいおい、ここで喧嘩でも始めるつもりか。
それに今の会話、イナミのみに何かが起きたのか。
そう言えばまだ情報交換も終えてないからそれぞれの状況もちゃんと把握してないしな。
「ちょっと二人とも頭に血が上った状態じゃ、ちゃんとした会話も出来ないわ。ピンカも落ち着いて、少女の顔つきじゃないわよ」
「お前はイナミにはっきりと言われたはずだぞ。そんなにボロボロにされたまだあいつを信じ続けるのか」
ボロボロにされた、信じる?
「家族を疑う奴なんて居ると思ってるの」
「大した家族愛だな。そこに関しては関心はする。だが、事実は変えられない。イナミは明確な意思を持って、俺達を裏切ったんだ」
「え?」
その時あまりの衝撃にドアを押してしまい、キイっという音が出てその場にいることがバレてしまう。
「かつ、あんたいつからそこに」
「すまん、大声が聞こえたからつい」
「仕方ない。どうせ言わないわけには行かないしな、集まれる状態の人を広間に集めてくれ。情報交換と行こう、話さなきゃいけないことが沢山あるからな」




