プロローグ 始まりの予感
窓が開き風がカーテンをなびかせる。
先程まで誰も居なかった部屋にはガイスが窓から入って来る。
「おかえりなさいませ、ガイス様」
ガイスが戻って来るのを察知していたミレイがガイスを出迎える。
ガイスもそれに対して特に反応を示さずにいつも通りの会話を始める。
「俺が居ない間何か問題は起きたか?」
「いえ、源魔石の回収を終えたミュウラ様たちがお待ちしています」
ミレイは慣れた手つきでガイスの上着を脱がして綺麗に折りたたむ。
「成功したか、成果はどれくらいだ」
「それぞれの一つずつ回収に成功しています。合計で四つの源魔石を入手することが出来ました」
「まあ大方予想通りと言った所か。あの奴隷の情報を聞くにその数位だとは思っていた。それであいつらは今も大人しくここに居るのか?」
「いえ、カノエ様は奴隷の調達に行きました。リストに合った村も残りわずかですから」
ミレイはそれらが書かれたリストを確認する。
「そうか、途中邪魔が入ったが上手く行きそうでよかったぜ。駒は多い方が良い。それと街の復興も順調か」
「はい、この街の約八十パーセントが復旧しつつあります。休まずに働いた結果ですね」
「そりゃそうだろう、疲れ知らずに奴隷共が四六時中働いてるんだ。復興も最速だ。面倒事を全部片づけて本格的な活動をする時はこの島が拠点になる。死体の処理も済ませたし、住み心地よくしなきゃな」
そう言ってガイスは不気味な笑みを浮かべる。
それを見てミレイは続けて業務連絡を始める。
「例の人間を半獣化させる計画については進展が見込めません。以前薬が届けられておりません」
「あーその問題ならもう解決した。というか、あいつの子分どもが喧嘩を売りに来たからな。こちらも少し強引な手段を使った」
「っ!まさか、奴隷の印を」
「もとよりそのつもりだった。あいつ自身が何かしなくても俺の事を目障りだと思う子分が居たからな。それにあの男はあろうことかこの俺に歯向かってみせた。つい頭に血が上ってしまったよ」
「もしや、改良版を使ったのですか?」
その言葉に対してガイスは笑みで応えて見せた。
それを見てミレイの表情が強張る。
「元々俺は研究員が嫌いだ。俺の体をいじくりまわし、苦痛を与えたあいつらを生かしておくわけがないだろう。そういえばミュウラの奴隷も逝ったらしいな。やはりあの程度では複数の奴隷を従えた所で役に立たないか。爆破しても巻き添えを食らわせられなかったんだろ?」
「イナミはもう既に仲間の元を離れたようです。なので相手の状態は確認は取れていません」
「そうか、まあ源魔石の場所を分かった時点であいつらも行かせてある。無傷とまでは行かないだろう。誰か一人でも殺せば御の字だが、あいつが居る以上上手くは行かないだろうな。それでそいつはもうここに戻ってきているのか」
「はい、現在はシンラ様と行動を共にしております」
「そうか、あいつはいい駒になる。不屈の精神を持つものは自分の体が壊れていることに気付きにくいからな」
部屋の中ではガイスの不気味な笑い声が響く。
ミレイは話しを変えるために次の作戦について質問をする。
「それよりこれからはどうしましょうか。源魔石を奪いに行きますか?」
「そうだな、数もちょうどいいし相手も出方を伺っている頃だろう。俺が直接言ってもいいが、厄介な相手が一人居る。それに絶対かつ、奴も必ずやっておきたいしな」
「なら、罠にかけますか?」
「そうだな、こちらから申し出てやろう、あいつらにとっての絶好の機会を。争奪戦と行こうじゃないか」




