その四十 崩壊家族
「ガハハハ!大量大量、笑いが止まらねえな!」
ガイスの城の中にテレポートでやって来たカノエは笑い声を上げながら懐に入れていた源魔石を取り出す。
「うるさいですよ。耳障りな笑い声は一人の時にやってください。不快なので」
その横で不機嫌な顔をしているミュウラも同じく源魔石を手に持っていた。
「楽しい時は笑うに決まってんだろ。お前も合ったんだろ?あいつらに」
「私は会ってはいません。送られてきた場所はランダムだったので感でいったのですが、どうやら外れたようです。ですがこれは神の導き、神は言っています。今はまだ会う時期ではないと」
「お二人とも喧嘩はしないでください。仲間なんですから、仲良く行きましょう」
遅れてきたミュウラが二人の間に入り子をなだめるように優しい言葉をかける。
だがミュウラはその言葉遣いを聞いて却ってイラつかせてしまう。
「私はあなたの子ではないですから、言われなくても大丈夫ですよ。というかあなたの駒使いは何処へ行ったの?もしかしてもう使えなくなったですか?」
嫌味を言ったかのようにニヤニヤしながらシンラにその言葉を言う。
だがシンラはあくまで子と接するかのように優しい笑みを見せる。
「彼は大丈夫ですよ。心配しなくても強い子ですから。私の手となり足となり働いてくれています」
「ああ、そう。心配したわけはないですがまあいいでしょう。そんなことよりガイス様は何処にいらっしゃるのですか。源魔石をすぐにでも届けたいのですが」
「ガイス様は現在出かけているためここには居ません」
突然声が聞こえてきたことでそちらの方を振り向く。
そこにはかつてはガルアの護衛として尽力していたが現在はガイスの付き人として城に残っているミレイだった。
「ミレイ、お前なんか知ってるのか?」
「さっきおっしゃっていたじゃないですか。ガイス様は現在出かけていると。そうなりますとこの源魔石をすぐに渡すのは無理そうですね」
「なら出かけて場所が何処か知るべきではないですか?ミレイならその場所を知っているのでしょう」
「それは私には分かります。詳細は特に言われていないので」
「あら役立たずね。まあいいわ、すぐに戻って来るでしょう。それよりも私は少し休ませてもらうわ。ガイス様が来たら教えてちょうだい、ミレイ」
「かしこまりました」
そう言ってからミュウラはすぐに休憩のために部屋へと戻ってしまった。
残されたシンラとカノエは各々のやるべきことを話し合う。
「シンラ、お前は人間の回収の任務をやってたよな。それの進捗はどうなってんだよ。大分面白いことが起きたんだろ?」
「そうですね、多少の邪魔は入りましたがその問題はすでに解決しました。まだ仲間がいる可能性もありますが、人間がいるであろう村の数も残りわずかですのでじきに終わりますよ」
「そうか、てことはその残党が居た場合はそこに来る可能性があるってことだよな」
「居た場合ですけどね。ほとんどいないと思いますよ。集団でこそこそと行動をしていたのでかなり慎重な人たちだと思いますし、まとめて捕まえたので孤立している者はいないかと。居たとしても来ないと思いますよ」
「ちぇそうなのかよ。そいつらは人間と同じ場所に閉じ込めてんだろ?助けに来る可能性もあるし、俺はそっちの方に行ってみるか。ガイス様が来るまで暇だしな」
「暇をつぶせるといいですね」
「おう、とりあえず源魔石は持っておくぜ。じゃあな」
そう言ってカノエは手をひらひらとさせてその場から去っていく。
残ったシンラは先程まで起こった出来事を思い出し、ほくそ笑み。
「もうすぐ家族になれますね、ピンカ」
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人が全く存在しない山奥の地下室で半獣が住み着いていた。
地下室には二人の半獣が居る。
そしてその地下室では今まさに殺伐とした空気が流れている。
「久しぶりだなガイス、私の事を忘れたわけじゃないだろ?わざわざお前の方から出迎えてくれるとはな」
一人の女性は目の前の男を睨みつけていた。
本来なら二人は子供を授かった家族ではあるがこの瞬間ではそんな事は忘れたかのように敵意をむき出している。
ガイスがそれを聞いてゆっくりと目を開けた。
「忘れるわけがないだろ。お前との出会いや戦った日々を昨日の事のように思い出せるぞ」
「へっ相変わらずの減らず口を叩きやがる。そういう所が私は嫌いだ」
「そういうな、むしろお前は俺に感謝をすべきじゃないのか?俺のおかげでお前はこの世に再び蘇ることが出来たんだから」
その瞬間、ガイスの頬を掠って壁に勢いよく魔法が衝突する。
だがそれでもガイスは顔色一つ変えなかった。
「冗談にしては面白くないな。私がお前に感謝をするって?むしろ恨みしかないだろう!お前のせいで私の数年が失われたんだよ!」
「熱くなるな。そこがお前の悪いところだぞ。それに俺はお前と喧嘩をしに来たわけじゃない。お前にもいい話を持って来たんだ」
「いい話?お前が私にそんな事をするとは思えないな。騙そうとしてるんじゃないのか?」
「ハハッ騙そうと思えばこうやって真正面から来ないだろ、むしろ誠意と受け取ってもらいたい。今の現状はお前も理解してるだろ?」
その言葉を聞いて半獣は疑いの目を向けながら頷く。
「俺達の大事な息子であるガルアが少し反抗期なんだ。娘はお前が手塩にかけて育てている、後はガルアさえ戻ってくれば再び家族団らんで過ごすことが出来る。そうだろ、コア?」
コアという半獣はそれを聞いて笑い声を抑えられないでいた。
「ふふっふははは!家族?ガイス居間家族って言ったか?こんな家族がどこに居る?私達は殺し合い、娘はただ魔力を吸い取るだけの物として扱われ、ガルアは強くなるために育てそして最後に殺される。その為に子供を産んだんだ」
「たしかに、愛なんてものは存在しないかもしれないな。だが血が繋がっている事については事実だ?」
「なんだ?もしかして家族にでもなりたいのか?」
「まさか、ここまでやって今更普通の家族に慣れるとは思っていない。そもそもお前の言う通り俺は最強の半獣を作るためにお前と結婚した。ラミアは失敗したがガルアは違う。あいつはいずれ俺すらを超える存在になるだろう」
「ハハッ戦いたくてうずうずするぜ。早く来ねえかな、あいつ」
「ああ、もうすぐ来るさ。あいつは俺達と違って家族想いだからな。だが少々状況が変わった」
ガイスの言い方に含みがあるのを感じてコアは不思議そうな顔をする。
「どういうことだ?あいつはこっちに来ないのか?」
「来るには来るがお友達のつれて来る」
「友達?一緒に私と戦う奴が居るってことか?ガルアが協力するほどだ、強いんだろうな!」
「いや、強さで居ればそれほどでもない。勇敢さだけ併せ持ったただのザコだ。それだけならな」
「おいおい、さっきから何遠回しな言い方してんだよ。さっさと用件を言え」
「そいつはゼットのオリジナル魔法を所持している」
「っ!?ははっ何だって?」
コアは驚きよりも喜びの方が勝っていた。
彼女の緩んだ口元を見ればそれは明白だった。
「あの魔法はゼットがそのまま持って行ったんじゃねえのか?まさかそいつはゼットの何かなのか?」
「俺の予想ではあいつはゼットの子供だと踏んでいる。どうしてこの世界に居るのかは知らないが、何かしらの方法でここに来たか、もしくは子供だけが残されたか。どちらにしろただのネズミがあんな美味しそうな餌をぶら下げているんだ。かぶりつかないわけには行かないだろ」
「あれは私の物だ。そいつをやって私がもらう。ていうか、そんな魔法盛ってんのに弱いのかよ」
「ああ、まだ完璧に使いこなせてはいない。脅威とまでは言えないだろう。だがこれからは分からない?」
「あ?どういう意味だ?」
先程まで立ってはしていたガイスが突然椅子に座り足を組み始めた。
「ここからが本題だ。俺がわざわざここに来た意味は協力をしようという事だ」
「協力、そんなものいらねえよ。二人まとめてぶっ飛ばす。インパクトが欲しいからそう言ってんだろうけどやったもん勝ちさ」
「意味が違うなコア。わざわざ俺が直々に協力しないかと申し出てるんだぞ」
「おいちょっと待て、まさか私がやられるとでも言いたいのか?」
「分かりやすく言うとそうだな」
今度は明確にガイスに向かって魔法を放つ。
それをガイスは身を翻して交わした。
「おい、知ってんだろ。私は情けをかけられるのが一番ムカつくんだよ!私は絶対に負けない、私は最強だからだ!」
「直ぐに頭に血が上るなお前は、だからこうして話し合いも出来なくなる」
「さっさと消えろ!分かってんだろうな、ガルアをやった次はお前だぞ!支配下何かしてるみたいだが、そんな事ばっかりに意識を向けてたら私が全部食い尽くすぞ」
「それは怖いな。今日の所は引き下がるよ。何かあったらすぐに呼べ、飛んできてやるよ——————」
「死ね!!」
再び魔法をガイスに向かって放つ今度はガイスも魔法を放ってそれを防いだ。
熱気が辺りを包み込んでいく。
「さっさと消えろ。魔力補給の時間だ」
コアはそう言うと部屋の隅に目をやる。
それを見てガイスも同じ場所を見ると、そこにはどこを向いてるのかも分からない色が無くなった目と感情が無くなった表情で固められた少女が座っていた。
「まるで人形だな」
そう呟いてガイスはその場を去って行った。




